今年で10周年を迎えた人気ファンタジーRPG 『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』を原作とするアクションRPG『グランブルーファンタジー リリンク(以下、リリンク)』。『グラブル』の繊細なイラスト表現の世界を 3DCGのハイエンドグラフィックで細部まで再現し、 空の冒険への圧倒的没入感を生み出した開発陣のこだわりと工夫を、4回に分けて紹介する。

『リリンク』の大きな魅力のひとつである壮大なストーリー。その物語へユーザーを誘う役割を果たしているのがカットシーンだ。コンシューマならではのリッチな画づくりのポイントを紹介する。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 309(2024年5月号)からの一部転載です。

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    カットシーン

    リッチなグラフィックでストーリーの魅力を引き出す

    サービス開始当初からモバイルゲームでは類をみない圧倒的な世界観を感じさせるビジュアルと、壮大なストーリーを魅力としている『グラブル』。コンシューマでリッチな3DグラフィックによるアクションRPGをつくる以上、原作がもつビジュアルとストーリーの魅力を最大限に引き出すことは必須だった。そのため、カットシーンパートは「原作を再現する画づくり」を目指した。

    『グランブルーファンタジー リリンク』
    発売・開発:Cygames
    リリース:発売中
    価格:8,778円(通常版)ほか
    Platform:PS5/PS4(パッケージ版/ダウンロード版)、 Steam(ダウンロード版のみ)
    ジャンル:アクションRPG
    relink.granbluefantasy.jp
    © Cygames, Inc.

    今回、リードシネマティクスアーティスト(以下、LCA)とシネマティクスアーティスト(以下、CA)、そしてリードフェイシャルアニメーションアーティスト(以下、LFAA)から、いかに『グラブル』世界の物語体験をカットシーンに落とし込んだかを聞いた。

    「カットシーンというのは、物語にフォーカスされるものです。インゲームでは引き気味のカメラで少し離れたところからキャラクターを映しますが、カットシーンではキャラクターにクローズアップして、ユーザーに『グラブル』の世界観にどっぷり没入してもらう必要があります。そのために、よりディテールを増やす方向で設計していきました」(LCA)。

    原作を再現するために、まず改めて原作のイラストがどのような要素で構成されているのかを解析するところから着手した。「『グラブル』の絵をよく見ていくと、一般的なセル調ではなく、肌はマットでアニメっぽいものの、他の要素は塗りが厚いんです。鎧には照り返しがありますし、髪の毛にも細かく照りがあります」(LCA)。

    こうして細かく分解した要素を基に、全カット手作業で調整を加え質感を再現している。こうして最後のひとさじまで妥協せずにつくり上げられたカットシーンはインゲームとも原作とも地続きに感じられ、ユーザーからは「カットシーンとプレイアブルなシーンの転換がとてもスムーズ」と好評を博している。

    『リリンク』のカットシーン

    ボリュームに対応した3種類の演出

    本作のカットシーンは、圧倒的なボリュームに対応するために3種類の演出が用意された。

    まず「カットシーン」は物語中、特にドラマや見映えのあるシーン。『グラブル』のキャラクターたちがイラストそのままに動いているような印象を大事にしながら、ストーリーに没入できるよう自然なカメラワークを心がけた。

    続いて、ゲーム中、カットシーンからインゲームへの移行をシームレスに行う「シームレス演出」。バトル中に敵が襲いかかるシーンなどに使われる。「シームレス演出」に登場するキャラクターはそのときのパーティ編成メンバーが反映され、ゲームの没入度を高めている。

    3つめは、画面下部にメッセージボックスが表示され、キャラクターのセリフが表示される「ダイアログ演出」。主に長い会話や物語に関わる情報を多く含むシーンを演出する際に使われる。

    制作フロー

    原作イラストの要素を徹底分析した画づくり

    ▲インゲームの設定でシーンを構築した状態
    ▲カットシーンとしての調整後。キャラクターの顔が明るくなり、カタリナの瞳の質感や鎧のスペキュラ、マントの照り返し、髪の色味などそれぞれにライトを配置して調整することで原作イラストの質感に近づけている。これを全ショット、ショット内の全キャラクターに対して行うことで、より精密な原作再現を実現。なお、背景にもキャラクターのテイストに合わせるようライトを追加しており、背景の雲もショットごとに全て異なる。「ファンの皆さんの作品に対する思い入れを知っているからこそ、半端なものはつくれませんでした」(LCA)
    • ▲シエテのキャラクター解放演出の例。インゲームの設定でシーンを構築した状態
    • ▲まずキャラクターにライトを追加。原作のイラストの雰囲気に近づけるために、細かいライティングの調整がなされた
    • ▲さらに背景ライトを追加し、画面のポストエフェクトを調整。落ち影の色味などの、細かい部分も調整。原作の絵には「セレストブルー」と呼ばれる、空の反射による青色が影の部分に入っており、『リリンク』の画づくりにも反映されている
    • ▲最後は背景に雲を追加し、完成。これらの作業は全て自社エンジン上の専用ツールで行う

    動きの演出

    カットシーンの揺れもの制御

    カットシーンでの揺れものアニメーションは、通常であればDCCツール上でシミュレーション等の結果をベイクしブラッシュアップしたものを実装するといったフローを思い浮かべるが、本作ではゲーム内でシミュレーションしたものを使用している。

    リアルタイム描画の利点を活かし、風による揺れものの多い本作でカットごとに最適な揺れ方を追求、その上でモーションデータをエクスポートしてアーティストによる最終調整を加えている。書き出したものをライブラリ化してチーム内で共有している。

    ▲揺れ方のライブラリ
    ▲LiveLinkを通してゲームでの結果を見ながら、伝声機の地面へのめり込みを修正している様子。ゲームに調整が入って背景の起伏に変化があった場合などにも、即座に適したアニメーションに調整するといった対応が可能となっている
    ▲ルリアの揺れもの調整の例
    • ▲調整前
    • ▲調整後
    ▲リリス(左)とローラン(右)の揺れもの調整の例
    • ▲調整前
    • ▲調整後

    いずれもシミュレーションだけでは得られない印象的なシルエットになるよう調整されている。

    「一見すると手間なように見えるフローですが、これにより『プライマリ』『セカンダリ』という工程分けではなく、早い段階で揺れものによる感情表現を含むトータルなクオリティチェックを重ねることができ、非常に効果的でした」(CA)。

    “線を描く”フェイシャル

    カットシーンのフェイシャルアニメーションも、『グラブル』らしさの表現を目指して制作された。当初は手付けのリミテッドアニメーションも選択肢としてあったが、微妙な表情の変化や緩急などの情報量を表現すること、モーションキャプチャを使用しているボディアニメーションとのテイストを合わせることも考慮し、フェイシャルキャプチャを採用した。

    ▲Mayaでのフェイシャル調整画面。リグはインゲームと共通しており、輪郭も調整できるようになっている
    ▲LiveLink機能による調整の様子。調整結果をリアルタイムにプレビューできる
    ▲実際のゲーム画面

    2Dイラストなどを参考にキャラクター性への理解を深め、アニメーターが原画を描くような感覚で制作した。ときにはイラストチームのレタッチを受けて制作することもあった。

    「本作で扱うのは3Dのモデルなので、レタッチを見ながら形をつくると、似ているようでちがうものができるんです。モデルで線を描くイメージを常にもってリグを動かしていきました」(LFAA)。

    特に難しかったのはルリアだという。「顔の造形のデフォルメが強いので、ちょっとした角度の変化で印象が変わってしまう。ルリアはヒロインですから、可愛くない瞬間があってはならない、という意識で制作しました」(LFAA)。

    ▲グランの表情差分イラストの例
    • ▲グランのフェイシャル調整前
    • ▲イラストレーターによるレタッチ
    ▲レタッチを基にした調整後。手描きイラスト特有の口角のラインや、表情筋など線で描かれない部分をモデルでどう表現するか、意識して調整している

    CGWORLD 2024年5月号 vol.309

    特集:『グランブルーファンタジー リリンク』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年4月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT _葛西 祝 / Hajime Kasai
    EDIT _小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada