今年で10周年を迎えた人気ファンタジーRPG 『グランブルーファンタジー(以下、グラブル)』を原作とするアクションRPG『グランブルーファンタジー リリンク(以下、リリンク)』。『グラブル』の繊細なイラスト表現の世界を 3DCGのハイエンドグラフィックで細部まで再現し、 空の冒険への圧倒的没入感を生み出した開発陣のこだわりと工夫を、4回に分けて紹介する。

第3回はモーションにおける挑戦をみていこう。アクションRPGである本作は、体格も武器も様々な20人以上にもおよぶキャラクターに対して、それぞれに原作の個性を活かしつつも爽快感のあるアクションを実現する必要があった。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 309(2024年5月号)からの一部転載です。

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    モーション

    チーム横断のコンボ制作で最適なプレイフィールを確立

    本作のモーションは大別すると「基本行動/ダメージ」「攻撃」「奥義」「エモート」「クエスト開始/終了の演出」に分けられる。歩き・走り・ジャンプ等の基本行動は、ポーズではキャラクターの個性を出しつつもシステム上の差異はほぼなく、攻撃モーションがプレイフィールの重要部分を占める。キャラクターモーション制作はチーム横断で集まってのコンボ表づくりから始まり、早ければその日のうちに仮モーションを作成し、プレイ可能な状態へもっていく。

    基本行動およびエモートは流動的に担当者をアサインするのに対し、攻撃モーションは特にキャラクターの個性が重要になるため、担当者を固定して作業が進められた。一方、「奥義」「クエスト開始/終了の演出」はボイスやライティングの作業に大きく影響するため、専属スタッフを設けて全キャラクター横断で制作された。

    『グランブルーファンタジー リリンク』
    発売・開発:Cygames
    リリース:発売中
    価格:8,778円(通常版)ほか
    Platform:PS5/PS4(パッケージ版/ダウンロード版)、 Steam(ダウンロード版のみ)
    ジャンル:アクションRPG
    relink.granbluefantasy.jp
    © Cygames, Inc.

    攻撃モーション制作では、まずディレクターとプランナー・エンジニア・モーションの各担当者でキャラクターのコンセプトを話し合い、イメージがまとまり始めたら仮モーションを制作、仮組みしプレイしながらさらに担当者間で意見交換を重ねるというイテレーションを可能な限り早く回していく(仮制作)。これには概ね2ヶ月程度から長くて半年が費やされた。その後、5~7ヶ月程度のモーション担当によるブラッシュアップ作業を経て仕上げられる(本制作)。

    本作は軽快なキャラクターから重厚なキャラクターまでそのキャラクターらしい爽快感を感じさせるつくり込みが随所にみられるが、基本行動の中のジャンプは特にレスポンスの良さが際立っている。以前はもう少し予兆動作のあるジャンプだったが、「走り状態からジャンプを入力すると一瞬止まって見える」という問題が提起され、ジャンプの開始ポーズを屈んだポーズに変更しつつ、移動値の慣性を調整してストップ感の軽減を図った。

    モーション制作のポイント

    モーション設計フロー

    本作のキャラクターモーション制作フローは、ディレクターやプランナーからの指示書によって各担当者が動くかたちではなく、まずはじめにディレクターと一緒にプランナー、エンジニア、モーションの各担当がミーティングルームに集まり、コンボ表を書きながらどんなキャラクターに仕上げるかを相談して決めていくというながれ。

    「キャラクターの見た目や性格、武器を考慮しつつ、初心者向けか上級者向けかなどの方針をまず相談して決めていきます」(リードキャラクターアニメーター/以下、LCA)。

    製品版のキャラクター数は20人前後、そのうち11人が剣・斧・鎌など斬撃主体のキャラクターとなっているが、同じようなコンボ構成にはせず、グラン/ジータであれば派生を多くして初心者でもいろいろな遊びができるように、ジークフリートではジャスト入力からの派生を用意してテクニカルに、と趣向を凝らしている。

    ▲制作フロー図
    ▲コンボ表
    ▲グランのコンボの例
    ▲バサラガのコンボ。重いキャラらしくボタン長押しによるチャージでコンボをつないでいく

    キャラクターの体格に応じた調整

    攻撃モーションだけでなく、歩き・走り・ジャンプといった「基本行動」も、それぞれのキャラクター性が感じられるポージングとなっている。一方で、ジャンプの高さ、走りの速度、コンボ1撃目の踏み込み距離、ノックバック距離などゲーム性に関わる部分については、キャラクターごとにあまり差が出ないようにつくられている。

    例えば走りを揃える際には、基準となるグランと、小柄なヨダルラーハ、大柄なガンダゴウザでまずそれぞれ自然な歩幅でユニークに作成。その後に中間点・基準点を取って大きいキャラクター、小さいキャラクターを調整し問題がないかを確認、以降はそれらを基準値としてモーション制作を進めていった。

    ▲ジャンプ。身長の分だけガンダゴウザが大きくジャンプしているように見えるが、ジャンプの高さはシステム側で揃えてあり、ゲーム中にキャラクターによって飛び越えられる場所が異なるといったことが起きないようになっている
    ▲攻撃モーション。体格的にはガンダゴウザが一度の踏み込みで遠くまで攻撃できるが、当たり判定としてはあまり距離の差がないようにしている。小柄なシャルロッテやヨダルラーハは、1撃目の移動値を大きくし突進させ、グランやガンダゴウザと同様の距離感で敵に当たるように調整されている
    ▲走り。移動速度は揃えてあり、小さなキャラクターだからといって移動に時間がかかることはない

    各キャラクターの例

    【イド】
    特別なキャラクターであるイドは、ボスとしてのイドからのフィードバックや形態変化の追加などの変遷があり、2・3度ほどコンボ表から仕切り直しが行われたという。

    「当初は竜人化のみを想定したアクション構成になっていましたが、途中から神威一体が追加されました。両者の棲み分けを模索しながら、竜人化と神威一体のコンボを整えて現在のかたちに落ち着きました」(LCA)

    ▲メインストーリークリア後にプレイアブルとなるキャラクター・イド。重量級武器によるパワフルなアクションが魅力だ
    ▲竜人化
    ▲竜人化後の形態変化「神威一体」

    【フェリ】

    ▲鞭での攻撃がフェリの大きな特徴。長く柔軟に振り回される鞭は、モーション制作時には回転値を綺麗に入れておかないと、状態異常のスロウを受けた際などに本来想定していないフレーム間の形状が表示されてしまい鞭の形状が歪になってしまう
    ▲特定条件で幽霊のペットたちを召喚。バトル中は各種アビリティの使用時など、最大5体のペットと一緒に戦う。ペットたちのモーションはデータ容量など限られた条件の中でもこだわったとのこと

    【ナルメア】
    2つの構えを切り替えて戦うナルメアは、攻撃モーション数は作中最多の47となっている。神楽と源氏をどのようなプレイフィールとしてまとめるか、エンジニアとモーション担当者の間で試行錯誤が重ねられたほか、源氏では納刀→斬撃→納刀と著しくポーズ変化が限られる点が難度を引き上げた。

    「ディレクターから『コンボの何段目かわかりにくいので、同じに見えないように変化をつけたい』というフィードバックがあったので、担当者はどう差別化するか頭を悩ませていました」(LCA)

    ▲「神楽の構え」の攻撃
    ▲「源氏の構え」の攻撃
    ▲それぞれに異なる源氏の構え。斬撃自体は一瞬かつ「左から右に斬る」と固定されているため、最終的には、納刀時の鞘の角度、体の向きを入念に調整、また斬撃自体の角度も変えて差別化した

    【カリオストロ】
    カリオストロのモーションは、そのキャラクター性からいわゆる「あざとい」可愛らしさが感じられるものが多く、基本行動の中でもキャラクターの特色が出づらいダメージリアクションなどにおいても、個性がわかりやすい。

    様々な資料を参考に「可愛い」を研究し、ポーズのバリエーションは限られるが、組み合わせによって引き出しを増やしつつモーションキャプチャもフルに活用してカリオストロらしいポーズを模索した。

    ▲錬成武器は、フェリの幽霊、ロゼッタの茨と並んで、モデル数増加による描画負荷の高まりが懸念された。後述するロゼッタの茨同様の対応で軽量化している

    【ロゼッタ】
    茨を用いた各種アクションが特徴的なロゼッタ。カリオストロの錬成武器と同じように描画負荷が高まる懸念があり、負荷を下げるべく対応が行われた。モデルパート、エフェクトパートの各担当へ相談、見た目を維持しつつモデルを軽量化したり、エフェクトで表現できる要素はエフェクトへ移行。

    また、当初は形状違いの茨モデルを何本か用意してもらい、モーション側で組み合わせてひとつの演出をつくっていたが、最終的には形が決まったところで、組み合わせた結果を1つのモデルにまとめてもらって利用している。

    【四騎士】
    グランと共に本作のモーションの基準となる手触りを確立した四騎士。ランスロットが素早いキャラクター、ジークフリートが重めのキャラクターの具体例となった。なお、1段目のヒットまでのフレーム数はグランが17フレームのところ、ランスロットが12、ジークフリートが27で、ヴェインが25となっている。

    • ▲ランスロット
    • ▲ヴェイン
    • ▲パーシヴァル
    • ▲ジークフリート

    奥義における自動リップシンク

    奥義カットイン

    奥義発動時にはキャラクターごとにカットイン演出がながれる。このとき、ボイスパターンは自身が奥義発動する場合のものが3種、直前に奥義を撃ったキャラクターがいる場合のかけ合いボイスがキャラクター数分用意され、通常のカットシーンのような決め打ちの口パクでは対応困難な物量となっている。

    そこで自動リップシンクを奥義カットインでも使用しつつ、後述のようなしくみを構築して必要な演技を実現する対応を行うこととなった。また、奥義カットイン演出の制作フローとしては、モーションパートが主導してキャラクターモーションとカメラを付け、そこからエフェクトなど他パートと連携して仕上げていくながれとなっている。

    自動リップシンクのしくみ

    奥義のフェイシャルは、ベースの表情アニメーション、母音の音素形状、後述する余韻口、といった複数のデータをランタイムで処理して形づくられる。

    ▲シエテの奥義カットイン
    ▲ベースとなる表情。カットシーンと同様に輪郭や口の位置の調整を行なっているため、上書きではなくベース表情へ加算する対応をしている
    ▲母音の音素形状。奥義カットイン用のカメラに合わせて最適な形状になる奥義専用の口を母音数分用意し、リップシンクの解析に合わせて流し込む

    ベースの閉じ口から母音の口へ移行する際、リニアな頂点移動では機械的な印象を与えてしまう。そこで、変形の途中に別の形状「経由口」を挟むことで、デザインされた、より複雑かつ引き締まった印象を引き出している。中間の形状が多すぎても口が暴れてしまうため、経由口は「あ」「い」の2形状のみ用意し、「う」「え」「お」は、「あ」の経由口を挟んで移行する。

    ▲経由口

    自動リップシンクの仕様上、セリフ末尾の音声がない箇所は閉じ口になるが、演出として閉じずに何らかの演技をさせたいこともある。これを解決するのが「余韻口」で、話し終わった後に決めの形状を流し込むことが可能となっている。

    ただし、ボイスパターンによってはすぐに話し終わる場合もあれば演出中話し続けている可能性もあり、余韻の開始タイミングをアーティスト側で決め打ちすることは難しい。そこで、リップシンク解析データを事前に取得し、適切なタイミングで余韻口が加算開始されるようシステム側で調整している。

    ▲ベース表情
    ▲余韻口

    (4)カットシーン編に続く(近日公開予定)。

    CGWORLD vol.309(2024年5月号)の特集では、本記事で紹介した内容に加えて、エネミーのモーションや多彩なエフェクトについても解説! ぜひ本誌もチェックしてください!

    CGWORLD 2024年5月号 vol.309

    特集:『グランブルーファンタジー リリンク』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年4月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT _岸本ひろゆき
    EDIT _小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada