3月4日(月)から4月19日(金)までの7週間、全14回にわたって、京都工芸繊維大学 KYOTO Design Labが主催する「パラメトリック・ワールド / Parametric World」(以下、パラメトリック・ワールド)がFabCafe Kyotoとオンラインで開催された。
パラメトリック・ワールドは、ノードベースのプロシージャル3DCG制作ツール「Houdini」と、制作したワールドをEpic Gamesの人気オンラインゲーム『フォートナイト』に公開するためのツール「Unreal Editor for Fortnite」(以下、UEFN)の使い方を学び、メタバース空間にオリジナルの世界を創り出すワークショップだ。
本記事では、4月19日(金)に行われた最終プレゼンテーションの様子をレポートする。
イベント概要
講師・運営
Houdiniを用いてパラメトリックな世界を制作・表現する
パラメトリック・ワールドは、2023年7月に京都工芸繊維大学 KYOTO Design Labで実施された学生向けのワークショップ「Houdini & UEFN Extended Workshop」をベースに、より多くの人々にHoudiniを用いた制作・表現の機会を得てもらうことを目的として開催された。
独自の世界観で仮想世界をつくり、遊びを創生することを目指して、コンセプトづくりからHoudiniを使ったプロシージャルなワールド制作、UEFNを使ったインタラクション制作までを行う。
7週間のプログラム内容は、1〜2週目がHoudiniのレクチャーと制作、3〜4週目がUEFNのレクチャーと制作だ。以降は本格的なメタバース制作に加えて、5週目に中間プレゼンテーション、7週目に最終プレゼンテーションがあり、各参加チームが制作したワールドについて発表した。
最終プレゼンテーションではレビュアーとして、津田和俊氏(京都工芸繊維大学 准教授)、木内俊克氏(京都工芸繊維大学 特任准教授/SUNAKI Inc. 共同代表)、佐野虎太郎(スペキュラティヴ・ファッションデザイナー/Synflux 取締役CDO)、室 諭志氏(ロフトワーク バイスMVMNTマネージャー)、戸村 陽氏(京都工芸繊維大学 特任研究員/ALTEMY デジタルデザイナー)の5名も参加した。
各チームによる発表の後には、講師・レビュアー陣も参加して完成したワールドを実際に体験。総合して講評を行い、受賞チームを決定した。本記事では、受賞チームへのインタビューもお届けする。
本ワークショップでは参加者に対してPCの無償貸与も行われた。PCはサードウェーブが協力し機材提供したもので、HoudiniとUEFNでの制作に適したスペックをもつ「raytrek 4CZZ」だ。
メイン講師を務める堀川氏は、世界観をつくるにあたって「論理」、「五感・体験」、「時間」、「相互作用」について考えてほしいと参加者に伝えた。7週間にわたるワークショップを通して、それぞれ異なる世界観をもつ13のワールドが完成している。
続いては、最終プレゼンテーションでの各参加チームによる発表の内容と、講師・レビュアー陣からのアドバイスのコメントを紹介しよう。
各参加チームのワールド紹介
1.「Project Loop -自然の強制力と人の選択による環境構築と物語-」(チームF)
自然に人間の手が加わることにより、変化・発展していく様を体験できるゲーム。「自然」、「村」、「都市」、「廃墟」の4つの時代にステージが分かれており、都市で発生するインタラクションでのプレイによって、廃墟の姿が変わっていく。
ワールド制作では、ラフな平面図を基にHoudiniで地形を作成し、その上にデフォルトのオブジェクトなどを配置した。都市のモンスタービルディングのみ、Houdiniを用いてプロシージャルに形状を作成している。
「ゲームとしてだけでなく、ストーリーもしっかりしています。メッセージはちゃんと伝わりますが、ユーザーに委ねられる選択肢がもっとあっても良いかもしれないですね」(戸村氏)
2.「Les Hommes du Desert -荒野の人々」(吉積英子)
古代より様々な文明の神話において、共通して「牛」が神として描かれていたことから、世界は同じものを信じてつながっていたのではと考えて、それをテーマに制作した。プレイヤーは2人1組の鳳凰となり、ワールド内にある牛を探す。片方は全方位、もう片方は上空からの視界に固定されているので、2人の協力が重要だ。
ワールドにある「砂上の楼閣」はHoudiniで制作しており、コントローラーを使って階層や幅を増設したり、飾りの数や大きさを調整したりできるようにしている。アセットとして作成し、FBXで取り込んでワールドに配置した。
「現在パートナーの2人は視点だけが分担されていますが、牛を獲得できる人と見るだけの人など、能力の分担があっても面白いと思いました」(木内氏)
3.「ワイヤーフレーム化された世界」(チームD)
ワイヤーフレーム化されてしまった島で、まだワイヤーフレーム化されていない実体の動物たちを自然の島へ誘導し、世界を実体のある世界に戻すことを目指す。「美しく面白い」、「ワイヤフレーム」、「生き物との共生」という3つのイメージから世界観をつくっており、マップはワイヤーフレーム化された「塔の街」、「都市の街」、「壺の街」と、目標地点である中央の自然の島の4エリアに分かれている。
島や各街の建築物はHoudiniを使い、プロシージャルで作成した。自然の地形はUEFNで作成しており、美しく、癒しを与える落ち着く雰囲気を目指している。
「コンセプト自体も面白く、普通は見えない裏側が見えて活用できるのも良いですね。つくったものをそのままワイヤーフレームで表示するのではなく、三角分割が秀逸なものなど、ワイヤーフレームのあり方からデザインがなされると、より美しさというコンセプトにつながっていくと思いました」(戸村氏)
4.「廃集落」(白井雅也)
廃墟独特の美しさと不気味さを再現し、メタバース内で廃集落探索を体験するワールドだ。ゲームというよりも世界観を楽しむワールドとして、現実とバーチャル上での体験のちがいに注意しながら制作した。
地形の制作には、スイスの地理情報センターswisstopoが公開している地形データをHoudiniで編集して活用した。またUEFNで作成した、建物が自然に飲み込まれていく部分がこだわりポイントである。
「説得力をもたせるためには、廃墟に設定や背景情報をつくって表現することが大事だと思います。またマップがかなり広いので、空間をコンパクトにしてより濃密なマップにするのも良いでしょう」(佐野氏)
5. 「海上に浮かぶユートピア」(チームC)
海の上に浮かぶ奇妙なユートピアを目指して、海賊たちと戦いながら進み、ユートピアへと続く不安定な階段を上って秘宝を探しに行くゲーム。
山など連続性の強い自然物はHoudiniで作成している。ユートピアへと続く塔の階段は、幾何学要素が強いため、RhinocerusとGrasshopperで形状を作成し、最終的にUEFNでこれらをマージした。形状が複雑なアセットはBlenderで作成しており、その他やギミック付きのものはUEFNのアセットで対応している。
「螺旋のような階段は操作していて気持ち良かったです。現状は階段全体が視認できるので、一部見えない部分があったり、進んでいく階層ごとに世界が変わって新しいものに出会えたりなどの工夫があれば、ダイナミックな印象を与えられるかもしれません」(室氏)
6.「Cosmos of Parametric Forms パラメトリック形態の宇宙」(岡村美紀)
コンセプトは「宇宙の始まり×形態の進化」。何もないところから素粒子ができ、素粒子が集まって原子が生まれ、原子同士が結合し化学反応を起こして、われわれの体まで形成されるという、宇宙の始まりからの変化の過程を表現している。周遊しながら、その形態の変容を楽しむワールドだ。
形態の変化を表現するオブジェクトはHoudiniで作成した。それらをUEFNで中央から広がるように円形に配置してある。
「全然ちがうスケールの幾何学立体が配置されているのが面白いポイントでした。外殻の部分にも部分的にフラクタルを展開していけると、空間がもつ面白さがさらに加速するのではないでしょうか」(木内氏)
7.「Invisible Symbiosis 人新世における人間以外のものたちとの共生のあり方とは?」(チームH)
「人新世における非人間との共生」について考えるべく、様々な取り組みの中から人間以外のものを演じる「LARP(Live Action Role Playing)」を行うワールドを制作した。プレイヤーは人間とネズミに分かれてプレイし、演じる体験を共にすることで、他者の視点への解像度を高め、創発的・生成的な共有知を生み出すことを目標としている。
「ネズミは人間と視野の高さが異なるので、世界の認識の仕方がちがっていて面白かったです。五感という意味では、ネズミは暗くても良く見えるけど色はあまり見えないと言われているので、そのように人間と異なる感覚の表現もあると面白いかもしれません」(津田氏)
8.「Collect KYOTO material」(チームG)
「地域に根差したマテリアル×メタバース」をコンセプトに、京都を題材としているワールドだ。京都ミニマップから行きたい地域にワープして、様々な交通手段を使って移動しながらマテリアルを集める。地域は京都の15市で作成しており、各市の特徴からそれぞれのマップの遊び方や体験・鑑賞の仕方に変化を与えている。
「今はワールドに配置されている地域名の文字にテクスチャを貼っていますが、せっかくHoudiniを使っているのでもっと攻めて、文字の形状自体を各地域の特徴となるマテリアル感に合わせて変形させたりすると、もっと面白いかなと思います」(堀川氏)
9.「未知の洞窟を探索する」(平舘 陽)
「未知の洞窟を探索する」をコンセプトに、毎回変わる洞窟構造と幻想的な洞窟環境、未発見の巨大生物をつくることを目指した。あらゆるところに巨大生物の痕跡が散りばめられている洞窟を進んでいくと、最後に奥底にある巨大生物と遭遇する予定となっている。
洞窟の構造は、ポイントを散らばらせてY軸だけをいじり、それをつないでノイズをかけるかたちで制作した。
「全体をプロシージャルでつくって、ワールド自体がパラメトリックに生成されているところが他のチームとちがって面白いと思いました。中間プレゼン時のワールドでは、洞窟に広い部分、狭い部分の緩急があったのが、自然の洞窟と近いように感じて良かったです」(戸村氏)
10.「ARIFUJI IN WONDERLAND」(チームB)
インタラクティブに楽しめるミュージックフェスワールドを構築しようと思い、「音楽×パラメトリックワールド」というコンセプトで制作した。リアルのフェスでは体験できない音楽体験をメタバースで構築することを目指している。UEFN Audio Patchworkを用いてプレイヤーの行動とながれる音楽を連動させており、プレイヤーは行動を起こしながらワールドを変化させ、新たな音楽を演奏していく。
ワールドのベースとなる浮島は、Houdiniを使って作成した。ランダムに浮島をグループ化し、それぞれに異なる挙動を与えている。ワールド内のオブジェクトもパラメトリックに作成することで、少しずつ異なる形状のものを多数制作できた。音楽に合わせて動く背景の建物のモデルもHoudiniで作成している。
「コンセプトがすごく面白い。ワールド内を探索しながらスイッチを押していくと、それが反映されて光や音が変わり、楽曲が新しくできてくるのが興味深かったです」(津田氏)
11.「過密流幽怪」(sion)
世界観を味わいながら、「幽怪」というお化けと旅をするワールドだ。幽怪は、渋谷の人混みの風景をScaniverseで3Dスキャンしてみると、魚のような生き物っぽさを感じたところから生まれたキャラクターだ。
ScaniverseでスキャンしたデータをBlender上で分解して、Houdiniで骨や目をつけ、UEFNで配置している。ワールドのベースは、無料配布されている渋谷地下街の3Dモデルを使用した。
「世界観が好きです。スキャンした素材が幽怪になって細部が見えなくなっていますが、実際に人の手が映り込んでいたりすると、不気味さが出たり、現実世界とのつながりが見えたりしてより面白いのではないでしょうか」(戸村氏)
12.「Astrala」(チームA)
「宇宙の経由地」をコンセプトに、「地球と火星の間で発見され、宇宙の経由地として発展していく宇宙都市アストラ」というシナリオで制作した。プレイヤーがアストラから出てくる廃棄物を回収して自チームの回収ボックスに入れると、それに応じてスコアが付与されるゲームだ。相手チームを妨害できる「いたずら」システムなども実装している。
モデリングは全てHoudiniで行なった。都市の区画もパラメトリックで作成している。Houdiniで作成したものはOBJに書き出し、BlenderでFBXに変換して、UEFNにもち込んだ。UEFNではゲームシステムと各部のギミックに分けて制作を進めていった。
「空間と世界観のつくり込みが秀逸で、狙い通りにつくれているんじゃないかなと思いました。その場に入りたいと思わせるワールドで、ゲームとしてもやるべきことがはっきりしていたので入り込めましたね」(木内氏)
13.「Lostscape」(チームE)
「記憶から地図を描くこと」をコンセプトにしたゲーム。プレイヤーは行方不明になった、認知症患者である祖母の精神世界に迷い込む。ファストフード化した都市でアイテムを見つけると、その場所と紐付いたアイテムの記憶が開示され、周辺のディテールが回復していく。
地形はHoudiniとUEFNの両方を用いて、徐々にブラッシュアップしながら作成していった。リアルな都市を表現するため東京都青梅市の地図をOpenStreetMapから引用している。建物は面積、頂点数で分類した都市のフットプリントから、それぞれのビルディングタイプごとに1層ずつ建ち上げるかたちでモデリングした。窓、室外機、ドアなどの要素の配置が、建物や階層ごとにランダムになるようにパラメーターを設定している。
「何もないからこそマップが広く感じられて、同じところをぐるぐる回っている感じがしないのが面白かったです。色のないワールドで、祖母のアイテムだけに色がついているのも、世界観として気が利いていて良い空気感だなと思いました」(室氏)
受賞チームインタビュー
最終プレゼンテーションを終えて、本ワークショップの受賞チームが決定した。以降では受賞チームに、本ワークショップと講評に対する感想を聞いた。
【木内賞】
2.「Les Hommes du Desert -荒野の人々」(吉積英子氏)
——受賞・講評に対する感想をきかせてください。
吉積氏:大変ありがたく思っております。講評でご指摘いただいた「プレイヤーごとに役割を制限して、協力することでようやくプレイが成立するようにする」という部分は、実は当初から計画していたものの、前日まで粘って実装できずに急遽設定を完全に変更した箇所でした。見えていない部分でこだわっていたところに気づいていただけて嬉しかったです。
——わずか2ヶ月間、ゼロからのHoudini、UEFNの習得はいかがでしたか?
吉積氏:私は3月末まで個展で忙しく、実質4月から3週間程度しか参加できなかったので、要素を大幅に削ることから始めました。Houdiniは2022年に堀川さんにレクチャーいただいてから続けておりましたが、UEFNは完全に初めてだったので苦戦し、Houdiniを限定的にしか取り入れられませんでした。Houdini単体で学習するよりもゲームエンジンとの接続の方が発想に広がりが出て、可能性を感じました。
——今後どういった活動に活かしたいですか?
吉積氏:今回のワールドは、私の現代美術作品のスピンオフ作品という位置付けで制作しました。もう少しブラッシュアップして、正式な作品として発表できないかと考えています。またデザイナーとして地域創生の相談を受ける機会が多いのですが、HoudiniとUEFNを組み合わせて、観光推進コンテンツの制作やデザインリサーチの手法として発展させることも考えています。MapboxやPLATEAUなどの実際の地図データとの連携にも興味がありますね。
【戸村賞】
11.「過密流幽怪」(sion氏)
——受賞・講評に対する感想を聞かせてください。
sion氏:幽怪たちを生み出した後、その世界に没入し、制作の海に溺れている自分を適切に刺激してくださった講師の皆様に感謝いたします。講評を踏まえつつ、幽宮城の動的な都市のデジタルアーカイブとしての可能性と、より魅力ある幽怪の姿にも思索を重ね、現実と夢の狭間の世界をつくり続けたいと思います。
——わずか2ヶ月間、ゼロからのHoudini、UEFNの習得はいかがでしたか?
sion氏:講師のお2人とさつき先生のおかげで、これまでのHoudiniの挫折を乗り越えることができました。作例や質問への回答も、どれも協業や展開に効果的なワークフローを意識されており、パラメトリックなモデリングを行うための考え方が身につきました。UEFNについては、偶発的に魅力的になってしまうルックを探索するのが楽しかったです。
——今後どういった活動に活かしたいですか?
sion氏:幽宮城・過密流幽怪は、アートリサーチプロジェクトとして理論的背景を強化しつつ、デジタルゲームを中心に、MRでの映像化、パフォーマンス作品など展開を考えています。Houdiniの恩恵にあやかり、幽怪づくりを一部参加型にする構想も検討中です。Houdiniをメインツールにすべく、今後もスキルアップしていきます。
【佐野賞】
6.「Cosmos of Parametric Forms パラメトリック形態の宇宙」(岡村美紀氏)
——受賞・講評に対する感想を聞かせてください。
岡村氏:企画やゲームとしてつくり込まれた魅力的な作品が並ぶ中で今回賞をいただけて、驚きつつ嬉しく思っています。講評の際には「フラクタル的に外側にも宇宙を展開する」、「形態に特有な移動を設定する」、「相対性理論を基に時空間や重力を操作する」など、もっと面白い表現や体験への種が蒔かれたので、ぜひ育てたいと思いました。
——わずか2ヶ月間、ゼロからのHoudini、UEFNの習得はいかがでしたか?
岡村氏:HoudiniもUEFNも、密度の濃い講義と毎週のミーティングのほか、「こうするにはどうすればいいか」という質問にも答えていただき、つくりたいものをつくれました。特にHoudiniは少し使用した経験がありハードルを感じていましたが、今回応用できる実践的な学びを得たことで、「楽しい、面白い!」に出会う制作体験ができました。
——今後どういった活動に活かしたいですか?
岡村氏:自分は落書きと、アナログ・デジタル問わずいろんな素材を使った表現やものづくりに興味があります。テーマとしては哲学・科学全般に関心がありますね。今回出会った「楽しい、面白い!」の気持ちを大切に、それらとHoudiniをかけ合わせ、ワクワクするような作品制作をしていきたいです。
【室賞】
1.「Project Loop -自然の強制力と人の選択による環境構築と物語-」(チームF:wangxuzhe/王 旭哲氏、藤巻大輝氏)
——受賞・講評に対する感想を聞かせてください。
チームF:室賞を受賞したこと、中でも主要なコンセプトである、時間軸のループ体験が評価されたことが嬉しかったです。また、プレイヤーの選択によってそれぞれまったく異なる時間軸を体験できるという、新しいマルチプレイの可能性を感じていただけたことは、新しい視点として今後発展させていきたいと思いました。
——わずか2ヶ月間、ゼロからのHoudini、UEFNの習得はいかがでしたか?
チームF:Houdiniでの全てをプロシージャルに設計していくという手法は、非常に難しく、実際のところ完璧に使いこなすことはできませんでした。一方で、自分のつくりたいイメージを講師の助言もいただきながら表現することはできたので、制作体験としては面白かったです。比べてUEFNのゲーム設計は、基本的なものは簡単に設計することができたので、やりたいことを自力で表現するレベルまで習得できました。
——今後どういった活動に活かしたいですか?
チームF:建築を専攻しているので、Houdiniでの複雑な形状の作成や、スライダーを動かすことで簡単に形態スタディできる点は、活用の可能性を感じました。単純に制作体験が楽しかったので、個人的にUEFNゲーム制作なども行なってみたいと思っています。
【FabCafe Kyoto賞】
10.「ARIFUJI IN WONDERLAND」(チームB:西村 穏氏、加芝 亮氏)
——受賞・講評に対する感想を聞かせてください。
チームB:FabCafe Kyotoさんより賞をいただき嬉しいです。この作品はワールドの音楽を誰でも変化させることができる、インタラクティブな体験を生み出すことを大切にしており、みんなで音楽を奏でるためのシステム構築に力を入れました。講評ではプレイヤーの誘導が思うようにいかなかったりと、用意していたものを全て体験してもらえず、ゲーム制作の難しさを痛感しましたが、システムの可能性を評価していただき、前向きなご意見を多数いただけてとても勉強になりました。
——わずか2ヶ月間、ゼロからのHoudini、UEFNの習得はいかがでしたか?
チームB:Houdini、UEFN共にほとんど初めて使うツールでしたが、講師の方々のサポートが本当に手厚く、とてもスムーズに理解できました。ワールドではPatchworkという『フォートナイト』の中で音楽を作成できるツールを多用しており、基礎的なレクチャーで学んだことを用いて自分なりに使いこなせたと感じています。準備からレクチャー、毎週のミーティング、質問への対応など、講師・運営の方々には本当にお世話になりました。ありがとうございました。
——今後どういった活動に活かしたいですか?
チームB:Houdiniについては様々な分野での活用が考えられると思い、学んだことを積極的に使っていきたいと思います。今回のワールドは「ARIFUJI WEEKENDERS」という、実際にあるフェスを基に世界観を膨らませていきました。実際に、5月18日開催した「ARIFUJI WEEKENDERS 2024」では、フェス内にゲームブースを作って出展し、盛況を得ることができました。今後も、この作品をリアルなフェスの中で楽しめるコンテンツとしてアップデートしていき、リアルとバーチャルを横断する新しい音楽体験の創出を目指していきたいです。
【KYOTO Design Lab賞】
12.「Astrala」(チームA:徃西賢悟氏、篠原典子氏)
——受賞・講評に対する感想を聞かせてください。
チームA:どのチームも非常に独創的で興味深いワールドばかりだった中で、こんな賞をいただけたことを非常に嬉しく思います。個人的にも色んな人に楽しんでもらえるようなワールドがつくれたのではないかと思っていたので、実際にこのように評価していただけてとても光栄です。
——わずか2ヶ月間、ゼロからのHoudini、UEFNの習得はいかがでしたか?
チームA:どちらのソフトもほとんど触ったことがなく、ワークショップの初めから最後まで悪戦苦闘の日々でしたが、いつでもどんなことでも質問できる環境があったことが、最後までやり遂げられた大きな要因だなと感じています。
——今後どういった活動に活かしたいですか?
チームA:大学では3Dプリンタを用いた研究を行なっていく予定で、Houdiniで3Dデータを制作しようと思っています。出来上がった作品の制作過程をUEFNでワールドとして残していくといった活用もあるかなと考えています!
【パラメトリック・ワールド賞】
13.「Lostscape」(チームE:松本健太郎氏、三木若菜氏、矢野絢子氏)
——受賞・講評に対する感想を聞かせてください。
チームE:受賞することができて本当に嬉しいです。選出に際して複数の講師の方から推薦があったと聞きましたが、講師陣による濃密なレクチャーと手厚いサポート体制がなければ今回の制作はなかったと思います。講評ではシナリオやゲーム性についてコメントをいただき、体験をつくり込むことの重要性を痛感しました。
——わずか2ヶ月間、ゼロからのHoudini、UEFNの習得はいかがでしたか?
チームE:毎週6時間ほどの高密度のレクチャーを、アーカイブで何度も確認しながら少しずつ理解していきました。Houdiniは特に、ネット上にもリファレンスが少なく、ノードひとつ習得するにもかなりの時間と労力が必要でした。思うように操作できると感じ始めたのは最終プレゼンの2週間前ほどで、楽しさ半分、焦り半分で作業を進めていました。
——今後どういった活動に活かしたいですか?
チームE:HoudiniもUEFNも汎用性が高いので、今回のワークショップのような3DCGやゲーム制作はもちろん、大学での研究活動にも活かしたいと考えております。特にHoudiniはデータの参照・編集が柔軟に行えるため、現実空間のデータと紐付けての活用が期待できると思います。
ワークショップを終えて
7週間にわたって行われたパラメトリック・ワールド。本ワークショップを終えた講師・レビュアー陣に、総評を語ってもらった。
「ランドスケープや空間の設計にプロシージャルツールを応用されていた作品が多かったのが、ワークショップの意図やHoudiniを使ってプロシージャルデザインをする意味が大きく出ていて素晴らしいと思いました」(佐野氏)
「力作揃いでしたね。こういった知見をベースにおいた上で、表現したいことができてくると、教育や仕事のやり方も変わってくるのではないかと思います。今回のイベントを通じて思ったのは、『世界観をひとつのエレメントでつくっている作品は強い』ということです。ワンエレメントでやっているものは世界観に引き込まれてオリジナリティを感じました」(戸村氏)
「ゲームとして洗練されているものが多かったと思います。ただ、僕自身が評価したいと思うのは、世界に対する認識をどう変容させてくれるかというものです。その観点から言うと、『ARIFUJI IN WONDERLAND』や『Cosmos of Parametric Forms パラメトリック形態の宇宙』、『Lostscape』を特に評価したいですね」(木内氏)
「アセットを自作すると世界観をつくりやすく、プレイしていて引き込まれやすい世界になるなと思いました。また、つくられたものの中にインタラクションがあると、ゲームであることの意味がより出てくると感じました。Houdiniのプロシージャルな制作方法を活かした作品が多かったことも良かったです」(津田氏)
「今回は自由度が高いからこそ、迷った部分もあるのではないかと思います。ひとつのコンセプトを突き詰めたり、要素を削ぎ落としたりすると、体験の強度が上がるものが多いのではないかという印象です。『Project Loop -自然の強制力と人の選択による環境構築と物語-』は、他者がプレイしているものを並行して見ていると、異なる時間軸でお互いに干渉し合うような新しいマルチプレイのあり方が生まれる可能性を感じました」(室氏)
「中間発表から全てのチームが進化していて感動しました。私は最初マテリアルについて教えていたのですが、見た目をきれいにするだけでなく、例えばワイヤーフレームでの表現など、新しいアイデアがたくさん生み出されてきたことが面白かったです」(孫氏)
「全てのチームに面白いアイデアがあったと思います。それが局所的なところに留まらず、拡張され分岐し、ワールド全体に反映されていく様子が勉強になりました。この世界観ならこれはこうなるだろう、というところが徹底されていると、没入感のある作品になると思います。ゲームに限らず、色んなワールドが生まれて嬉しいです」(中島氏)
「井上さんと一緒に気軽に企画したワークショップでしたが、ここまで完成したものが見られるとは思っていなかったので、感動しました。2ヶ月という長期にわたって制作を続けて、最後まで走りきれたことは、すごいことです。全てのワールドが素晴らしかったと思います」(堀川氏)
「Houdini、UEFNをまったく知らない方もいる中で、ここまでのクオリティのものを生み出せたのは、参加者の皆さんの努力と講師の方々のサポートのおかげです。また次の展開として、この技術をご自身の研究や制作にどうやって活かしていけるのかをぜひ考えていっていただきたいです」(井上氏)
TEXT_オムライス駆
EDIT_李 承眞/Seungjin Lee(CGWORLD)、藤井紀明/Noriaki Fujii(CGWORLD)
PHOTO_大沼洋平