去る6月11日(火)、イラストレーターのいとうみちろう氏がXに投稿したモノクロのBlender作品が話題となった。

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    Blenderの楽しさを素朴なコメントと共に伝えるポストに様々な賛辞が寄せられ、800超のリポスト、8,300超のいいねが付いた。Xのプロフィール欄には「イラスト/絵本/3DCG」というキーワードと、専門学校講師(イラスト、3DCG)の文字。CGWORLDは早速本人にコンタクトを取り、インタビューを実施した。

    温かみを感じるモノクロ線画のルック

    CGWORLD編集部(以下、CGW):Xの投稿が話題ですね。

    いとうみちろう(以下、いとう):ありがたいことにたくさんの方に見ていただけて。これをきっかけに私の作品を知ってくれた方も多かったようです。

    CGW:手描きの線画のような風合いが話題です。このルックはどのように実現されているのですか?

    いとう:モデリングはいたって普通で、目新しいことはしていません(笑)。ルックに関係するのは「ハッチング」と呼ばれる線画のシェーダです。波テクスチャを使って、ディフューズBSDFで影を付けています。トゥーンシェーダの要領ですね。私は非常にシンプルなノードの組み方をしています。

    ▲いとう氏が組んだ、簡単なハッチングシェーダの例

    いとう:もしつくるのが難しければ、「hatching blender」といったワードで検索すれば、つくり込まれた素晴らしいシェーダがたくさん見つかると思います。私は特にKristof Dedeneさんのものが好きで参考にしています。

    ●Kristof Dedene氏による「Procedural hatching and manga shaders for EEVEE」(Gumroad)
    https://kdedene.gumroad.com/l/tcKOI

    CGW:ハッチングシェーダによる表現とはいえ、コツはありそうですが。

    いとう:そうですね。単にモデルにハッチングシェーダを適用しても、思ったような効果が得られないことがあるので、そこはライティングの調整で、光と影のバランスを整えます。作品によってはライト1灯だけのほうが良い場合もありますね。

    他にも、細かな工夫や技術をいろいろと使っているのですが、そのあたりを丁寧に解説するコンテンツを今、Coloso.のオンライン講座(9月公開予定)用に準備中ですので、ご興味ありましたらそちらを見ていただけたらと思います。

    ▲現在チュートリアルを準備中の作品より

    イラストの下絵づくりにBlenderを活用しはじめる

    CGW:ではここからは、いとうさんの来歴について教えてください。まず、どういった経緯でBlenderで作品をつくることになったのでしょうか。

    いとう:最初は教育関係の仕事をしながら、2足のわらじでイラストを少しずつ描くようになって、書籍、広告、アプリ、インディゲーム、舞台の背景美術などでイラストの仕事をいただくようになりました。

    CGW:なるほど。まずはイラストから。

    いとう:はい。そうすると、カルチャーセンターや美術教室でイラストを教える機会が増えてきて、現在も続けている専門学校講師の仕事に繋がりました。

    CGW:Xのプロフィールにも専門学校講師、と記載がありました。

    いとう:そうですね。専門学校もイラストの講師をしていたのですが、その学校でBlenderを使った3DCGの授業が始まるということで、以前から3DCGに興味を持っていた私に声がかかり、今に至るという感じです。

    CGW:3DCGの講師を引き受ける前からBlenderは使っていたのですか?

    いとう:多少です。挿絵のイラストで水車を描いたんですが、パースに関連した修正が入って、当時は3DCGを使わずに苦労して修正しました。後日出版されたその書籍を見たら、私以外にも参加していた別のイラストレーターさんが、3DCGを使った水車の挿絵を描いていたんです。シンプルな造形に輪郭線も抽出されていて、「単純なカットでもこんなふうに3DCGが使えるんだ!」と衝撃を受けました。

    CGW:確かに、3DCGはイラストや漫画背景の下絵としても良く使われますね。

    いとう:そうですよね。それで調べていたら、Blenderなら無料だしYouTubeにもわかりやすいチュートリアルがあるし、ということで。ちょうどコロナ禍に入ってすぐで、何かを学び始めるのにちょうど良いタイミングでした。

    CGW:なるほど。それでBlenderを使い始めた、と。

    いとう:はい。ただ、そのときは簡単な水車程度のものがつくれるぐらいの習熟度で目的は果たせたと考えていたところ、3DCGの授業を受け持つことになったので、猛勉強です。あの日以来ずっと、勉強しては教え、勉強しては教えの繰り返しです。

    CGW:ちなみに、いとうさんはどのようにBlenderを学んでいますか?

    いとう:始めた頃はYonaoshi3Dさん、VaryGraghicsさん(当時)の動画にお世話になりました。3Dのメモ帳さんは今でもわからないことがあると見ています。UdemyではEnigmaさんの「【BlenderPerfectCourse】ヘラクレスオオカブト編」も非常に有意義でした。

    それと、東條あずささんのオンライン講座です。スキルは身に付くし、刺激も得られて、繋がりまで増えるという、良いことだらけの素晴らしい講座でした。
    CGW:今ではどのようにBlenderを作品制作に使っていますか?

    いとう:イラストや絵本を描く際の構図探しや、依頼を受けた映像・MV制作で3DCGを使っています。

    ▲Blenderの活用例1:シーンを組んでペイントオーバーしイラストを完成させる

    ▲Blenderの活用例2:魚眼レンズを通したインパクトのある構図を探すため、Blenderで簡易なシーンをつくり、それをベースに絵本のワンシーンを仕上げる

    いとう氏著書『恐竜サファリ(仮)』(PHP研究所)※2024年7月19日(金)発売予定
    https://www.amazon.co.jp/dp/4569881793

    CGW:こうしたイラスト制作に3DCGを活用するメリットは何でしょうか?

    いとう:構図や画角を自由に検討できますし、色や光の具合も良くわかります。光源位置に応じてどこに影が落ちるかがわかるのも便利ですね。個人的には、モデリングが上手くなると、なぜか絵も上手くなるように思います。

    CGW:今後3DCGを活用してどういった作品をつくっていきたいですか?

    いとう:例えばこういった3DCG(下記)を全面的に活用した絵本などをつくってみたいですね。

    いとう:短期的には現在進行形で私が関わっている「絵本やイラスト」、「3DCG」、「教育」の3本柱で人の心を動かしていきたい。長期的には学ぶことや、できなかったことができるようになること。成長の喜びを感じるための挑戦を続けていきたいですね。

    CGW:今後にも期待しています。ありがとうございました。