202461日(土)、東京・池尻大橋にて3DCGVFX、ゲーム業界の交流を目的としたイベント「クリエイターズHUB v1.00」が開催された。本記事ではイベントの雰囲気や豪華ゲストによるトークセッションなどを中心にレポートする。

記事の目次

    イベント概要

    クリエイターズHUB v1.00

    日時:2024年6月1日(土) 15:00〜18:00
    場所:BPM (東京・池尻)

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    発足1周年を記念して200人規模での開催

    「クリエイターズHUB」はJitto 恵美孝彦氏、3DCGスクールAlchemy 大澤 司氏、エヌ・デザイン 川瀬基之氏の3名が発起人となりスタートしたイベントだ。

    「コロナ禍以降、人との繋がりが疎遠になった昨今、直接的な交流を広げる場所をつくりたい」という想いのもと、2023年からプレイベントとして3ヶ月に1回程度のペースで開催してきた。今回は発足1周年を記念して「v1.00」と銘打ち、200名規模で開催する運びとなった。

    場所は池尻大橋駅の南口を出て徒歩30秒という好アクセスのイベントスペース「BPM」。開場前から人が並び、開場とともに多くの人が入場した。

    ▲会場の様子

    驚いたのが、参加者の熱量だ。こういった交流会では開始直後は静かなことが多く、参加者同士でもなかなか話しかけづらい雰囲気になることも多いが、当イベントではスタートから大盛り上がり。満員の会場のあちらこちらで歓談が弾んでいるのが印象的だった。

    ▲主催者挨拶を行う「クリエイターズHUB」発起人の3人。左から3DCGスクールAlchemy大澤 司氏、Jitto 恵美孝彦氏、エヌ・デザイン 川瀬基之氏

    主催者3名による挨拶の後、今回の目玉イベントであるトークセッションが行われた。映画『ゴジラ-1.0』で第96回アカデミー賞視覚効果賞を受賞した白組のCGディレクター・高橋正紀氏、コンポジター・野島達司氏が登壇し、モデレーターを恵美氏が務めた。

    白組・映画『ゴジラ-1.0』スタッフによるトークセッション

    恵美:まずは、お2人が白組に入った経緯を教えて下さい。

    高橋正紀氏(以下、高橋):学生時代に白組でバイトをしていて、そのまま入社しました。山崎監督も同様で、あの時代はみんなそうでした。

    野島達司氏(以下、野島):僕はゲームをしていたら突然白組からメールが来て誘われました。はじめは詐欺かとも思ったのですが、それにしては本物っぽくて驚きました。

    ▲左から恵美氏、高橋正紀氏、野島達司氏

    高橋:彼はSNSで有名だったから。うちのチームの人間が、SNSでいい子がいるから呼んじゃいますかと。家が近くだから見学に呼んだんです。

    野島:そこで、コンポジットができるならバイトで来ないかと誘っていただきました。SNSではそこまで有名ではありませんでしたが、作品のクオリティを見てもらえた。人気になることよりも、クオリティが大事だと思いましたね。

    恵美:SNSで逆オファーとは今風ですね! 白組の方たちがSNSでスカウトをしているなんて夢があります。高橋さんのキャリアの中で、ターニングポイントになったプロジェクトはありますか?

    高橋:30年くらいVFXの仕事をしていますが、はじめの10年くらいはCMの仕事でした。その後、『ジュブナイル』(2000)という山崎さんのデビュー作品をつくるときにファミレスに呼び出されて「俺がつくるから手伝え」と言われて。忙しかったし不安だったけど、映画をやりたかったので参加しました。

    恵美:野島さんは自主制作で海のシーンをつくって、それを見た山崎監督が『ゴジラ-1.0』で海のシーンを増やしたという話を聞きましたが、なぜ海を題材としたCGをそのときつくろうと思ったのですか?

    ▲野島氏が自主制作した海のシーン

    野島:昔からパーティクルみたいな、流動的に変化し続けるものが好きでした。会社に入って安定して、日々、仕事をこなしているうちに面白みがなくなってきて。自分が何をやりたいかと考えるようになって、Houdiniを開いてみました。

    恵美:Houdiniはもともと触っていたのですか?

    野島:Houdiniは初めてです。独学でやっていたので、普通とはやり方がちがうみたいで。プリセットをいかにいい感じにするかに注力しています。観察眼がとても大事で、品質を見極める目を養いながらつくっていました。スクリプトを書くよりも最終結果にこだわります。『ゴジラ-1.0』はほぼプリセットをベースにしてますね。

    恵美:そうなんですか! スクリプトをめちゃくちゃ書いているのかと思っていました。プリセットでもあれほどの画がつくれるんですね。

    野島:重くて大変でした。精通している人は、そんな風にならないそうです(笑)。ただ、スクリプトや細かい技術を習得しながら映画の仕事はできません。時間がないからやるしかない。ニワカです。でも、セットアップが良くても結果が悪いとダメですよね。結果を良くするには、実写を観察するのが一番大事。実写を見ないと何も始まらない。

    恵美:結果がいいのが一番大事ですよね。過程を考えすぎて、上がりが悪くなってもしょうがない。

    高橋画が全てです。過程でこんなにすごいことをやったとか関係なくて、方法論は何でもいい。

    恵美:なるほど。高橋さんに質問ですが、映画などでショットワークの担当の振り分けはどのように決めていますか?

    高橋:人数が少ないので、コンポジットは均等に分けて全員でショットワークします。分けるときにヒーローショットやCGWORLDさんに載るようなカットは、個々にいくように考えますね。それに、結果を出してもらいたいから苦手なものは振らないようにして、チームのモチベーションを上げるようにしています。

    参考:映画『ゴジラ-1.0』 白組 調布スタジオがこれまで培ってきたVFX技術の集大成 | VFXアナトミー

    恵美:スタッフのモチベーションを上げるツボを熟知しているんですね。そういえばコンポジターで入社した野島さんがエフェクトも担当していることに驚いたのですが、なぜエフェクトも任せられるようになったのですか?

    野島:仕事ではコンポジットでアニメやカメラワーク以外の部分をやっていましたが、カットをもっと良くしたいなと思い、カットの中の布を勝手につくって見せたら採用してもらえました。最終的に自分で足せるので、コンポジターだからこそできることですね。

    恵美:勝手に変えたら怒られそうですが。普通、なかなかそういう発想にはならないですよね。

    高橋:山崎さんだからできることかもしれないですね。普通、監督は自分のイメージを重視しますが、山崎さんは、良いものが出たときに採用してくれます。作品は観客のためのものだから、いい画ができたら採用という考え方で、変なこだわりはありません。

    恵美:確かに山崎監督は観客の求めている映画をつくっている印象があります。

    高橋:こちらが「こうだ」と強く推してもダメなこともありますよ。でも、できた後に見てみると変えなくて良かった、危なかったとなります。やっぱり見る目がありますよね。

    恵美:さすが山崎監督ですね。個人的に『ゴジラ-1.0』のメイキングで一番驚いたのが撮影方法だったのですが、限られたセットの中でVFXをつくるのは苦労されましたか?

    高橋:実は小さいセットで撮影してCGを足すというような、エクステンションの技術には自信があります。ずっとやってきたことなので、どうやってやればいいかはわかります。難しかったのはVFXよりもフルCGのショットでした。実写合成のような拠りどころがないので、リファレンスを見ても正解がわからない。水のショットとか、これでいいのだろうかと悩みつつつくりました。

    恵美:確かに実写カットに挟まれたフルCGカットは見え方のクオリティを合わせないといけないので難しいですよね。高橋さんでもそんなに苦労されたんですね。野島さんは高橋さんをはじめとするベテランと仕事をする中でどのようなことを学びますか?

    野島:ちゃんと納めるところは、納めることです。納期を絶対守って終わらせろと言われましたね。どんな手段をとってもいいから納めるのが白組です。途中は間に合わなさそうですが、なんだかんだ最後は納まります。

    高橋:最終的な画を見据えていないと納まりませんね。目立つところ以外はいい意味で抜くとか、どうやってつくるかをちゃんとイメージして作業する。

    恵美:いらないのに、めちゃくちゃがんばってつくり込んでしまうこともありますもんね。山崎監督と他の監督とのちがいや魅力はどんなところですか?

    高橋:他の監督と大きなちがいがあるというわけじゃないです。監督をやっている方はみんな映画が好きで、こういうのをつくりたいという気持ちがありますし。それにこちらも仕事として接しているので、他の監督と同じように接します。ただ、一緒にやっている距離が近いですね。

    野島:バランス感覚が絶妙です。合成でどれくらい実写を使うとか、実写とCGのバランスはいろいろとやってみないとわからないことも多いのですが、経験があるからか全てわかっている。

    高橋:それに最初に予算を考えますよね。自分のお金じゃないし、ちゃんとつくって結果を出さないと次に続かないとよく言っています。ずっとつくり続けるには、お金が必要です。

    恵美:なるほど。ビジネスとして成立するようにお金と作業量に心がけているんですね。

    恵美:今、新しい技術がどんどんCGでも開発されていますが、注目されているものはありますか? 今後のCGの技術革新に期待していることを教えてください。

    高橋:細かいことはたくさんありますが、一番はレンダリング時間をなしにする技術が欲しいです。『ゴジラ-1.0』 でRedshiftを使ったのもレンダリングが速いから。でも、まだリアルタイムはクオリティ的に難しいですね。

    野島:いろいろな手法がどんどん出てきているので、次に何が出てくるか予想がつきません。予想してもしょうがないので、技術は使えるものを使うと割り切っています。生き残った技術を、使えるのだったら使うことしかできない。それよりは、とにかく目を養うことが必要だと思っています。

    恵美:そうですね。目を養うと言えば映画等の動画だとは思いますが、映画以外のメディアやアートから影響を受けることはありますか?

    高橋:映画や本も好きですが、写真にも影響されました。アンドレアス・グルスキーが特に好きですね。写真だからリアルだけど、絵みたいに加工されていて面白いです。

    野島:自分で写真を撮ったりしています。CGはモデルがよくないとダメですが、写真はとりあえず本物ですし、同じカメラで良くなることもあれば、悪くもなります。なぜだろうと、いつも考えています。自分は写真に育てられました。

    質疑応答

    恵美:ここからは、いくつか来場者からの質問を受け付けます。質問のある方、どうぞ。

    Q:一番影響を受けた映画はなんですか?

    高橋:ジェームズ・キャメロンの『エイリアン2』(1986)です。いまだに見ちゃいますね。

    野島:2つあります。映画としては素晴らしいのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)。もうひとつ、子供の頃よく見ていたのは『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)で、1,000回くらい見ました。この頃から海が好きでした。

    Q:面倒な作業を効率化するツールのオススメはありますか?

    野島:Pythonを使って、あらゆる作業を簡略化しています。あとはflexible renamerという太古の昔に開発終了したツールを使っています。

    恵美:ツールと言えば、ショットの管理はやはりShotGrid(現・Flow Production Tracking)ですか?

    高橋:スプレッドシートでやっています。うちはあまり管理していないです。たまに間違えて問題が起きていますね(笑)。

    野島:時代に逆行していますよね。パイプラインなんていらねぇんだよ、的な。適当にやれ!と(笑)。データのやり取りも、「ここに置いておいたよ」とか雑です。

    恵美:ええ! そうなんですか? 調布スタジオは人数が少ないからできることなんですかね。

    高橋:1つの部屋でやっていますからね。弊社の三軒茶屋スタジオでは普通に管理ツールを使っているようです。

    恵美:最後の質問になりますが、このようなクリエイター同士のイベントに参加するメリットをどのように感じますか?

    野島:白組は自由なスタジオです。僕がエフェクトをやったように、やりたいことができます。そんな、やりたいことをやる野望をもった人とこういった場所で出会えて、一緒に仕事ができたらいいなと思います。

    高橋:年齢関係なく、一緒にできる人を探しています。何かあったら、会場で気軽に話しかけてください。

    恵美:こういった場所で仲間を増やそうということですね! 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

    イベントをふり返って

    トークセッションは現場のクリエイター同士ということもあり話が弾み、大いに盛り上がった。最後に、発起人の3氏からコメントをいただいたので、紹介する。

    恵美孝彦氏(Jitto)

    今回のクリエイターズHUBを終えて改めて実感したのは、皆さんの意識の高さでした。特に白組のお二人のお話は、多くの参加者にとって非常に刺激的だったと思います。

    もともと私自身、業界内での横のつながりがあまりないことに強いコンプレックスを抱えていました。映像業界の人々が集まるイベントをネットで探していましたが、なかなか見つからず、それなら自分でやってみようと思ったのがこのイベントを始めたきっかけです。

    大学時代にアメリカに留学していた経験から海外のパーティ文化が好きだったので、日本のよくある飲み会とはちがう、スタンディング形式で自由にフランクに会話ができる交流会を目指しました。

    デザイナーは閉鎖的な業務が多いですが、こういった場で他のデザイナーと話すことで知識が広がったり、同じ悩みや想い、目標などを共有することで気持ちが楽になると思います。そして何より、モチベーションが上がるでしょう。私自身がCGアーティストとして活動しているからこそ、同じ業界で働く仲間たちにとってこういったイベントがどれほど重要かを痛感しています。

    人との出会いで人生が大きく変わることはよくあります。このイベントが、そのような出会いの場となれたら最高に嬉しいですね!

    大澤 司氏(3DCGスクールAlchemy)

    業界の交流会として、年齢関係なく幅広く交流が行われている様子が見受けられました。3時間だけの交流会ですが、時間はあっという間に過ぎてしまう印象でしたね。今後はもう少しゆっくり話せる場も設けられると良いのかなとも思っています。

    学生の方にとって、現役のデザイナーと直接お話ができる場は大変貴重かと思います。実際にポートフォリオなどを見てもらったり、現役のデザイナーとの交流だけでなく、業界全体の集まりとして有効に活用していただければ嬉しいです。

    3DCG業界のみならず、映像やデザイン、ものづくりを行なっている団体とも協力して、より幅広くたくさんの方々と交流ができる場を皆で協力してつくり上げられればと思います。

    川瀬基之氏(エヌ・デザイン)

    1周年を迎えるにあたり、気合いを入れて200人規模のイベントとして参加者を募集したところ、すぐに申し込みが埋まりました。自分たちが思っている以上に認知していただいており、大変嬉しく思います。

    反面、規模が大きくなるにつれて、準備や当日の対応が増えたため、参加者の方々と直接お話しする機会が減ってしまい、少し寂しく感じています。また、白組さんをお呼びして登壇していただいたり、ジェイムソンさんなどの協賛を得ることで、本来自分たちが目指したい「イベント」というかたちが少しずつ見えてきました。

    交流の場という目的においては、CG業界のみならず、製作側の監督やプロデューサーにも声をかけ、映像業界全体を活性化させたいと思っています。クリエイターズHUBのSlackも開設しているので、今後、各社の交流や仕事、スタッフの相談の場としても提供していきたいです。

    さらに、自分たち本来の目的である「イベント」を今後も増やしていき、非常に大きな目標ではありますが、映像フェスティバルを開催できたら良いなと考えています。

    このイベントに参加して感じたのは、CG業界の熱だ。普段、会社の人としか触れ合う機会がない人や、作業中心の人ほど参加した方が刺激になるし、新しい出会いも期待できる。今後も定期的に開催されるそうなので、ぜひ参加してみてほしい。

    開催情報はクリエイターズHUBの公式SNSで発信されているので、興味のある方はチェックしてみよう。

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    TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ)
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota