『FINAL FANTASY VII (以下、FFVII)』完全リメイク3部作の2作目として、『FFVII REMAKE(以下、REMAKE)』から4年を経てリリースされた『FINAL FANTASY VII REBIRTH(以下、REBIRTH)』。
前作と地続きでありながらPS5のパワーによってさらに微細に描き出される本作の開発について、5回に分けて紹介していく。
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PS5のスペックを最大限活かし高速で緻密な描画を実現
ミッドガルという都市内に留まった前作から世界中へとゲームプレイの範囲が広がった本作は、緻密なグラフィックは引き継いだままPS5のパワーを最大限活かした高速な描画を目指した。
エンバイロメント(以下、ENV)班を率いるエンバイロメントディレクター・三宅貴子氏は“もてる仕様をギリギリまで使い切った” と評し、「大量のオブジェクトで世界を構築していくために描画のしくみを刷新し、アーティスト側からはLODを意識せずコリジョン生成も自動化された開発環境で、前作からつくり方をそれほど変えずに広いマップをレイアウトしていきました」と、今作もUEをベースによりカスタマイズが進んだ環境での開発について語る。
三宅貴子氏
エンバイロメントディレクター
市原麻菜氏
エンバイロメントスーパーバイザー
西山 慶氏
システムプログラマー
VFXにおいても使えるパーティクル数が増加し、特にバトルエフェクトでは密度感のある粒子が描画できた一方、「フレームレートが60fpsになったので、テクスチャ解像度を上げつつも、描画範囲が大きいエフェクトでは負荷的に厳しい場面もありました」(リードVFXアーティスト・角田瑞紀氏)とのこと。なおエフェクトツールは本作よりNiagaraへ移行された。
角田瑞紀氏
リードVFXアーティスト
高井慎太郎氏
アートディレクター
ライティングでは上記描画手法の刷新に伴いライト数の扱いが変わった他、ライトマップではなくプローブをベイクする手法に変更。空間密度に基づく配置やプローブ編集ツールを充実させて取り組んだ。カットシーンは前作から大きくフローは変わらず、シーンによっては演出も委ねるなど担当者の裁量を大きく取りつつ、アニメ・映像系の外部パートナーとも協業しやすい環境を構築。
Blenderによる3DコンテからワンストップでMotionBuilder(以下、MB)上でシーンを組んでいくなど、スピード・クオリティともに向上させる施策にも取り組んだ。それぞれの詳細をみていこう。
広大で開放的なワールドマップ制作
ゲーム性と画づくりのバランスを意識
『REMAKE』で好評を博した高密度なグラフィックは、前作における達成のひとつとして本作でも堅持。加えて本作では、広大なフィールドにおいても物量感を維持したまま多彩なエリアを描いていくことが目指された。
前作でも導入していたHoudiniはプロシージャル配置を活用するためにさらに重要度が増し、エンジン側では大量のオブジェクトを描画するためのしくみを導入、これに合わせた大量配置のためのプロシージャルフロー、コリジョン生成自動化などが構築された。
「大量に物を配置するのは前作と同じ実装方法では無理だったので、TAやプログラマーと協力してしくみ自体をガラッと変え、大量配置に特化したものになりました。その働きは大きく、われわれもそれに合わせた配置の方法などを工夫しています」(三宅氏)。
プレイヤーカメラが映している箇所のオブジェクトを、Compute Shaderによる可視判定・空間ボリューム・事前計測などの混合処理を用いて瞬時にロード/アンロードすることで高密度なグラフィックと操作性を両立。ここにはPS5のパワーがおおいに貢献している。
「前作の画づくりとゲーム的な調整の比率は、感覚的には8:2ほどでしたが、本作は5:5くらいで取り組む必要がありました。次作ではその経験を踏まえて、どうより良くしていくかを考えているところです」(エンバイロメントスーパーバイザー・市原麻菜氏)。
原作のイメージを保ちつつリアルテイストに仕上げる点では前作と変わりなく、資料集めから3段階のチェックを経るENV制作のながれも同様だが、前作以上に実際に歩く中でリアリティを感じさせようとする点は大きなちがいだと言う。
「視覚だけではなく遊びを通してリアルだと感じてもらう、思い出をつくっていくという体験の作品になったなと、思い返してみるとそういう印象はあります。なので、フィールドと街とのメリハリ、エリアごとの特徴の出し方、どう歩かせるかという点では、企画班との連携がより重要になりました」(三宅氏)。
大量配置のしくみ
前作で示された通り、開発チームにはロケーションを緻密に描く能力のあるスタッフが揃っている。本作が要求するような、何kmにもおよぶフィールドを手がけた経験のあるスタッフは少なかったものの、前作相当の画づくりを作品全体へ拡大することを目指した。
「緻密なものづくりに向いたスタッフが揃っていたので、そこを活かす、つまりたくさん物を置くことでフィールドを構成していきました」(三宅氏)。
イメージ資料収集・モックアップ制作・本番制作の3段階の作業パスといった制作フローは変えず、プロシージャル配置の活用やエンジン側では大量のオブジェクトを描画するのに特化したしくみへと刷新して対応した。
独自実装のLOD
本作では、アセットを大量に描画するためのしくみの一環としてMeshletベースで描画を効率化する処理を独自実装。これはUE5のNaniteと似たコンセプトと言え、このためアーティスト側ではLODを作成する必要がなくなった。一部のスケルタルメッシュではLODを作成したものもあるが、LODの段階としては2段、割合としても全体の1割以下ほどとのこと。
さらに、最遠景に表示するためのFarLandモデルを用意。街や島などのレベルを丸ごとひとつの軽量メッシュ化したもので、いわゆるHLODに相当する。
コリジョンの自動生成
本作のロケーションはレベル上に配置されるアクタ数が飛躍的に増加し、かつ自然地形も多い。
「コリジョンによるメモリ圧迫の回避やプレイヤーのスムーズな移動の担保のため、コリジョンの数を減らし形状を均す工程が必要になりましたが、フィールドの広大さもあり、手作業ではなく自動化を目指しました」(システムプログラマー・西山 慶氏)。
テクスチャのリピート感軽減
巨大な自然地形や建造物のテクスチャをユニークで用意するとなると、莫大なテクスチャ解像度が必要となる。
古代種の神殿
ダンジョン地形自体が大きく変動する「古代種の神殿」では、動く背景物はスケルタルメッシュかVAB(後述)化。前述のMeshletの処理など本作における大量オブジェクトを描画するための施策は静的オブジェクトが対象であり、動かすとなると話がちがってくる。
「ほかのロケーションでは緻密に描いてきて、ここに来たら簡素になってしまうというわけにもいきませんので、プログラマ、ENV、モーションとセクション横断で関係者が集まって対策を検討しました」(三宅氏)。
動く背景オブジェクトは、できるだけ統合してスケルタルメッシュ数を減らしつつリダクションしてメモリを節約。ゲームプレイ側の兼ね合いにより、途中から動的オブジェクトへ切り替わることもあり、開発最終盤まで調整がくり返されたとのこと。
画に説得力をもたせるエフェクト
刷新した制作手法でクオリティを底上げ
VFXにおいては、フィジカルで説得力のあるエフェクトが引き続き目指された。シェーダの更新のほか、例えば本作のフィールドには「風」がありそこからパラメータを取得、煙突の煙や敵を倒した際の死亡エフェクトの揺らぎに活用したりと、細かい部分で「実在感」をさりげなく積み重ねてプレイ体験の向上を試みている。
エフェクト制作ツールとしては、前作で使用していたCascadeは公式の開発・メンテナンスが終了していることから、Niagaraへの移行を実施。したがって、本作用の新規エフェクト制作に加えて前作のエフェクトもごく一部を除きNiagaraで組み直しており、少数精鋭のVFX班においてはタイトなスケジュールでの開発となった。
また、Houdiniで制作したエフェクトをゲームに組み込む際に広く利用されているVAT(Vertex Animation Texture)については、データとしてはテクスチャアセットである必要性に乏しいことからバイナリに置き換えた「VAB(Vertex Animation Buffer)」を実装。テクスチャを用いていたことに起因する制約から解放されたエフェクト制作が可能となった。
HoudiniはVAB出力用のツールを新たに用意したほか、爆発や煙の連番出力といったオーソドックスな素材づくりにも引き続き用いられた。また、一部のスタッフはテクスチャ制作にSubstance 3D Desingerも利用しているとのこと。
「PS4からPS5に移行したため、テクスチャ素材の解像度は上げて出力しています。汎用性の高い煙や爆発素材は4K・8Kで用意しておくなどして、より細やかな表現ができたと思います」(リードVFXアーティスト・角田瑞紀氏)。
PS5への移行によるメモリ面・GPU面での向上もあり、描画できるパーティクル数は増大。一方でフレームレートは30fpsから60fpsへと上昇しているため、粒子感ある画づくりにはつなげられたものの負荷的にはシビアな擦り合わせが行われたようだ。また、前作から登場している魔法エフェクトなどについては劇的な変化はないものの、高解像度化に努めつつケレン味などを加えてのクオリティアップが目指された。
「いろいろな積み重ねが結果につながると考えていますし、本作でも技術的な部分も含めてある程度進化できたと思います。3作目に向けての仕込みもできてきているので、徐々に進化していければと思っています」(アートディレクター・高井慎太郎氏)。
Niagaraへの移行
エフェクト制作ツールを本作よりCascadeからNiagaraへ移行。Cascade製のエフェクトアセットをNiagaraに変換するツールをEpic Gamesがが提供しているが、開発チームではエンジン内部に深く手を入れていることもあり全て作り直しとなった。
「慣れ親しんだツールが良いということもわかっているんですが、次作の開発も見据えた上で移行に踏み切りました。物量が多い上に前作からの流用なしでゼロから取り組むことになり、なかなかにタイトな進行でした」(角田氏)。
VABの活用
炎や煙など不定形なエフェクトを描画する際の定番手法となっているVAT(Vertex Animation Texture)は前作でも利用されていたが、本作ではテクスチャではなくバイナリを使用するVertex Animation Buffer(VAB)として実装。
テクスチャアセットとして運用する上で、2のべき乗でなければならないといった制約がある一方で、VABではByteAddressBuffer形式とすることでデータをビット単位で詰め込むことが可能となっている。テクスチャとしての制約から解放され、フレーム数も自由となった。
アレクサンダーの爆発エフェクト
アートディレクター・高井氏のお気に入りのひとつというアレクサンダーのエフェクト。前作では導入直後で手探り感があったというHoudiniも本作ではスタッフの習熟度が増し、特に流体表現でのクオリティアップにつながっているという。
黒マテリアと白マテリア
前作ではボリュームテクスチャを用いたプロシージャルノイズで表現されていたマテリアだが、今作では新たにマテリア内にエフェクトを描画する表現も登場。作中で重要な役割を果たす「黒マテリア」「白マテリア」がこの手法で表現されているほか、メニュー画面で大きく表示されるマテリアもこれに当てはまる。
忘らるる都におけるフィーラーの大群
本作の終着地点となる「忘らるる都」。「どこも思い出深いですが、やはり『忘らるる都』は本作最後のロケーションでもあり、各セクションの様々な思いが詰まったロケーションなのはまちがいないですね」(高井氏)。
基本はほかのロケーションと同じく、原作のイメージを崩さすどう現代風に表現するかが指針となるが、エフェクトとしては大量のフィーラーが特徴のひとつと言える。
CGWORLD 2024年8月号 vol.312
特集:パルワールド
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年7月10日
価格:1,540 円(税込)
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EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada