『FINAL FANTASY VII (以下、FFVII)』完全リメイク3部作の2作目として、『FFVII REMAKE(以下、REMAKE)』から4年を経てリリースされた『FINAL FANTASY VII REBIRTH(以下、REBIRTH)』。
前作と地続きでありながらPS5のパワーによってさらに微細に描き出される本作の開発について、5回に分けて紹介していく。
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明るく開放的なロケーションに対応したライティング
前作とは逆方向の引き算の画づくり
閉鎖的な空間や暗めのロケーションが多かった前作と比べ、明るく解放的なロケーションが多い本作では、明るい場所でキャラクターをどのように見せていくかがライティングにおける大きなテーマとなった。
「具体的には、前回は暗い中にライトをどんどん追加していって明るくしていくというつくり方。今回は逆に、昼間のロケーションにどう影をつくっていくか、という引き算の考え方でライティングしていきました」(ライティングディレクター・山口 威一郎氏)。
山口 威一郎氏
ライティングディレクター
ワークフローについては、カットシーンのライティングは前作と大きく変わらず、まずはマスターショットとなる数カットを作成し、その後マスターから派生するサブカットにマスターのライトをコピーして仕上げていくというながれ。
一方簡易イベントにあたるプランイベントでは、ライトの生成・管理をExcelベースで行なっていた前作から刷新、モーション編で紹介したDialogue Editor上での作業となった。ライトの調整も角度などをExcelに記入して行なっていたが、本作ではシーケンサーを使用し、修正が容易になったとのこと。
フィールドライティングでは、前作は背景にはライトマップ、キャラクターにはライトプローブと異なるライトベイク手法を用いていたが、本作のような広大なフィールドでライトマップをベイクするのは作業コスト的にもコンテンツ容量的にも現実的ではない。
そこで、背景もキャラクターと同様ライトプローブでのベイクを採用することとなった。
「全部プローブとなると、背景だと陰影がかなりフラットになってしまったり、壁の隙間から明るさが漏れてしまうライトリークと呼ばれる現象が起きたりと、いくつかの問題も予想されたのでライトプローブ周りの機能を大幅に強化した上で作業に臨みました」(山口氏)。
鈴木 美菜子氏
ライティングプロダクションマネージャー
また、ENVパートで触れた描画のしくみの刷新に伴い、ライトの灯数に対する負荷が変化。これまでは最適化時にはシャドウONのライトが要点となっていたが、本作環境ではシャドウOFFのライトでもあまりにも広範囲を照らしている場合は要注意となった。
これに対応したライティング最適化用のデバッグビューを用意してもらいつつ負荷確認を進め、ときにはロケーションの灯数を制限したり、ライトがない場所でも重さの原因がプローブであるケースもあったりと、前作と比べライティングの最適化には大きな労力を割くこととなった。
ENV班との連携が光るゴールドソーサー
原作の華々しさを表現することが最大のテーマとなったゴールドソーサー。
「全体をゴージャスにするのではなく、例えばエントランス付近はコレルからのロープウェイで到着時はやや薄暗い感じで寂しさを出し、途中の通路でゴールドソーサーがチラッと見えたりして徐々に盛り上がっていく、という風に『雰囲気のコントラスト』を変化させています」(山口氏)。
また、壁・床の多くが幾何学的で汚しのないデザインとなっており、ともするとCG然とした見た目に陥りうる。さらに照明の多くが照明器具ではなく間接照明や壁と一体化したスリット状となっており、当初からENV班とライティング班が密に連携しての制作となった。
「通常なら背景を制作した上であるべきところに照明を設置していくというながれになりますが、ゴールドソーサーは最初からライティング班と共に『ここには照明を仕込みたいからスリットを入れましょう』などデザイン面も含めて相談して進めました」(エンバイロメントディレクター・三宅氏)。
「背景の中にライトが組み込まれて分離できないので、ライティング担当者はENV班のデータを触ることになり、作業のバッティングが起きないよう密な連携が求められました」(山口氏)
コスモキャニオンの天球
原作の夕景が印象的なコスモキャニオン。天球は増えるほど容量圧迫につながるが、ここは早い段階から分けたほうがいいと判断し、専用の夕方の天球を用意して差別化を図っている。
ニブルヘイム
忘らるる都
忘らるる都はニブルヘイムとは逆に進行上最後発のロケーションとなり、ENV班側の作業の進行に応じつつ段階的にライティングプランを練っていった。ライティングを担当した鈴木氏自身も思い入れが深いロケでもあり、最後までルックの調整をくり返したという。中でも、内部にある水の祭壇は作中屈指の重要イベントが描かれる場所であり、そこを目立たせるための工夫が凝らされている。
制作を円滑にする各種ツール
前作ではフィールドの広さが限定されていたこともあり背景はライトマップ、キャラクターはライトプローブを用いてベイクしていたが、本作からはどちらもライトプローブとなった。そこでライトプローブ周りの機能を大幅に強化。
前作準拠の均等配置だとプローブ数が約27万になるところ、本作仕様ではアセットのディテールに応じてプローブ密度を変更、明るさの変化が少ない箇所は少なく、変化が多い箇所には多く配置することでプローブ数を約4万まで低減。
さらには分割用ボリュームを追加することで部分的にプローブを増加、または分割を抑える、プローブを削除するといった編集も可能。なおプローブの間隔はおおまかに、街中で約2m、開けたフィールドでは10mほどにすることも。
現実に合わせた露出
前作は暗めの室内や人工照明、日中屋外であっても上空はプレートで覆われていたりと、晴天・自然光の多い本作とは真逆であった。本作では太陽光の強さなど現実に準拠した数値を使用し、カメラのEV値も晴天時は14~15、室内なら4~8を目安としている。
「EVのレンジが広いとライトリークや白飛びを引き起こしやすく調整は大変ですが、ここを偽ってしまうと日陰や室内のGIからのバウンス感が減ってしまい、日中のロケーションが多い本作としては好ましくありません」(山口氏)とのことで、可能な限り現実に即した露出で作業を進めたのこと。
ただその場合は屋外から屋内を見た場合は真っ暗に、逆の場合には真っ白に飛んでしまうということが起きがちだ。これらが過度な場合にはディレクター要望で露出を調整することもあった。
Flow Production Trackingによる管理
本作でのShotGrid(現・Flow Production Tracking)運用については、これまでの運用に加えて作業に応じたステータスを追加し、現在どのカットがどこまで終わっているかをより明確化。前作よりも効率良くスケジュールを決めていくことができたという。
原作の物語を現代風に魅せるカットシーン
外部スタッフに演出から完成までを委ねる制作フロー
『FF』シリーズの伝統とも言えるボリューム感のあるカットシーンは、本作でも受け継がれている。一方で、これを担当するカットシーン班では、物量が多いためにこなせない・削ってほしいといった対応はできる限り避け、クオリティを担保しつつ物量もこなすバランスの取れた制作体制を目指してきた。
また画的なコンセプトとしては、『FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN』(2005)のルックをリアルタイムで再現するという大目標を設定。さらに、原作を現代風につくり変えるにあたっての配慮も肝となった。
「原作はポリゴンのカクカクしたキャラクターで演技していて、動きにリアリティがなくても伝わるような作品でしたが、それを現代風にするとき、どのような動きにすればリアルなグラフィックの中で受け取りやすい表現に仕上げられるか、また時代を加味してつくり変えるとどうなるか、といったところを意識して、アクターさんと相談しながら動きをつくっていきました」(カットシーンディレクター・三宅秀和氏)。
三宅秀和氏
カットシーンディレクター
制作体制としては、膨大なカットシーンをつくりきるために外部スタッフの比率が非常に大きくなっており、CG映像制作会社にも協力を仰ぐためゲーム特有の作業が極力不要になるよう技術面を整備。さらに、絵コンテが必要と分類されたシーン以外は演出から担当者に委ね、ひとつのシーンを最初から最後まで同じ担当者で完結できるよう徹底されている。
「大きなプロダクションやベテランの方ほど、自由ですと言うと戸惑われます。特殊ではありますが、この10年ほど積み重ねてきて有効なやり方だと思っています」(三宅氏)。
一方で、長らく取り組んできたやり方だけに、変えられるところがあれば変えたいという思いもあるとのこと。今作ではごく一部ながら試験的にBlenderとの連携を実施。熟練のスキルが求められるアクションシーンの絵コンテを、最初からコンテマン自身がBlenderで3Dシーンとして作成、そのままMBに読み込むというフローを試してみたところ、演出内容を絵コンテに落とし込む・絵コンテを読み解いて3Dシーンにレイアウトするという工程なしに素早く進行することができた。
「素晴らしい才能をもった方がまだまだいると思うので、こういうかたちでより外部パートナーさんの間口を広げて一緒に働くことができる柔軟なフローが組めたら、非常にメリットが大きいなと思っています」(カットシーンCoディレクター・林 淳一氏)。
林 淳一氏
カットシーンCoディレクター
カットシーンの種類
本シリーズ制作において、ノンプレイアブルなイベントシーンは「ムービー」「カットシーン」「プランナーイベント」に大別される。
カットシーン制作のながれ
カットシーン制作ツール
Blenderを活用したアクションシーン
好感度イベント「LOVELESS」では短い中に3度のアクションシーンがあり、制作コストを下げられないかと模索された。
「絵コンテを担当したのはアニメ業界の方で、最近Blenderを少し使っていると言っていて。まずはアクションのアイデアをいくつか挙げて採否を整理してから、Blenderで絵コンテの代わりにシーンを組んでもらいました」(林氏)。
CGWORLD 2024年8月号 vol.312
特集:パルワールド
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年7月10日
価格:1,540 円(税込)
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EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada