コンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術に関する世界最大の学会・展示会である「SIGGRAPH Asia 2024」が、2024年12月3日(火)から6日(金)の4日間、有楽町にある東京国際フォーラムで開催された。前回、新型コロナウイルスによる渡航制限により、海外からの渡航者ゼロで開催された「SIGGRAPH Asia 2021」から一転、世界30ヶ国から約9,000人弱を集める大規模イベントが再び東京に戻ってきた。

今年のテーマは「Curious Minds」。直訳すると「好奇心をもつ心」「好奇心旺盛な人々」といった意味で、アーティストの作品や、研究者が最新技術を突き詰めた研究のすべてが、「好奇心」をきっかけに生まれているとの想いが込められており、今年のSIGGRAPH Asiaは、会場でしか体験できない数々の展示や発表が盛り上がりを見せていた。

本稿では、そうした様々なプログラムの中から、注目度の高いものをいくつかピックアップして紹介していく。

記事の目次

    <1>映像の祭典「Computer Animation Festival」

    SIGGRAPH Asia 2024 – Computer Animation Festival Trailer

    SIGGARPH Asiaといえば、メインを飾るのは学会であり論文発表というイメージがあるかもしれないが、もうひとつの花形イベントと言えるのが、CG短編作品のアワード「Computer Animation Festival」(以下、CAF)だ。例年、多くの応募作品が集まっているが、今年は422作品の応募があり、その中から33作品が選出された。どの作品も言語や文化を超えた、深みのあるストーリー、そして感情に訴えるCG表現が評価された。

    CAF受賞作は次のとおり。

    最優秀賞(Best in Show):『Au 8ème Jour』

    予告編
    メイキング映像

    監督: Agathe Sénéchal, Alicia Massez, Elise Debruyne, Flavie Carin, Théo Duhautois(Piktura
    プロデューサー: Carlos De Carvalho(Piktura

    世界を創るのに7日かかったが、そのバランスを崩すのには1日しか、かからなかったという情景を描いた作品。フランスの学生チームによるこの映像制作プロジェクトは、パンデミック中に監督の母親が経験したバーンアウトから着想を得て、精神的な葛藤を描いている。この作品では手描きやストップモーション、ガラスを用いた映像合成など、独創的な技法を駆使し、感情的かつ視覚的にも印象の際立つ物語が表現されている。

    <2>基調講演「The Endless Possibilities of a Piece of Cloth」

    毎年のSIGGRAPH Asiaの基調講演はCG/VFX直球ではなく、少し周辺の業界から示唆のある話が聞ける満足度の高い講演が用意されている。今年の3本の基調講演の中でも、特に注目を集め、会場が沸いたのは、三宅デザイン事務所のデザインディレクター・宮前義之氏の講演「The Endless Possibilities of a Piece of Cloth」(一枚の布が広げる無限の可能)だ。

    ▲デザインディレクター・宮前義之氏(三宅デザイン事務

    本講演は、現代のファッションがどこまで進化するのか、テクノロジーとファッションとの融合に関するひとつの答えを示した講演だった。A-POC ABLE ISSEY MIYAKEのデザイナーでもある宮前義之氏は長年にわたり、「A-POC」(エイポックは "A Piece of Cloth"の略)という革新的な思想と技術の開発に携わってきた。宮前氏は「布づくりの進化は、コンピューター技術と共に歩んできた」と語り、19世紀に登場したジャカード織機が、パンチカードを用いたプログラム制御を取り入れ、現代のコンピュータ概念の先駆けとなったことを紹介。この技術革新はテキスタイルデザインにも新たな可能性をもたらしたという。

    ▲講演のスライドより、ジャカード織機

    「A-POC」は、従来の布を切り貼りする服づくりを超え、布の裁断・縫製を最小限にし、立体的な形状へと変化させる思想だという。このアプローチによって廃棄物を減らしつつ、美しいデザインを実現することができる。「服の半分はデザイナーがつくり、残りは着る人が完成させる」という自由な発想を紹介し、着用者の個性を重んじるイッセイミヤケのデザイン哲学を伝えてくれた。

    ▲講演のスライドより、「A-POC」の解説

    また、複数のプロジェクトを通じて、テクノロジーとアートが生む可能性も紹介された。例えば、米の籾殻由来のカーボン素材を用いた、環境に配慮した衣服の制作、折り紙技術を応用した立体的なジャケット、そして熱で変形する3D素材の開発など、いずれも環境循環型デザインや伝統と最新技術の融合、さらには建築やインテリア分野への応用を視野に入れた試みであることに驚かされる。さらに、ファッションの未来について「これからのデザインは色や形だけでなく、つくり方のプロセスそのものをデザインすることが重要だ」と述べ、技術の進化に加えて人間の直感や感性の重要性、そして異分野の専門家との協働の必要性を強調した。

    講演の最後、宮前氏は「デザインには希望があると僕は信じている。デザインは驚きを、喜びを、人々に届ける仕事である」と三宅一生氏のコメントを引用。技術と芸術が交わるデザインの未来への期待を込めたメッセージと、布という古くからの素材に最新技術と革新的思想を重ね合わせる、未来像を伝える基調講演となった。

    ▲最後にスチーム(蒸気)で変形する素材を使ったデモンストレーションを披露し、会場から拍手喝采を集めていた

    <3>メイキング:映画『エイリアン:ロムルス』初期作品への敬意、静かな恐怖の表現とは

    Alien: Romulus | Final Trailer

    映画エイリアンのシリーズの最新作『エイリアン:ロムルス』(2024)は、観客に「静かな恐怖」と「未知なる宇宙の深淵」を提示する、新たな映像制作への挑戦が集結したものだった。CG/VFXを担当したWeta FXチームは、シリーズ初期の作品へ敬意を払いながら、現代技術を駆使して映画『エイリアン』の映像表現を再構築した。

    ▲講演「Weta FX takes on Alien: Romulus」の模様
    左より、エフェクトスーパーバイザー・Michael Chrobak氏、VFXスーパーバイザー・Daniel Macarin氏(Weta FX)

    巨大宇宙船の崩壊シーンでは、旧作の伝統である「手作りの模型を破壊する」手法を受け継ぎつつ、Houdiniによる物理シミュレーションを用いて、内部構造の細部まで精巧につくり込んでいる。まるで本物かのようにパネルが剥がれ、破片が飛び散る様子は、視覚的な説得力とともに観客に圧倒的な臨場感を与えた。また、惑星のリングは土星の氷の環を参考にしながらも、Houdiniを用いた手続き型シミュレーションで生成され、各ショットごとに密度や動きがとても細かくカスタマイズされた。この緻密な設計により、映像全体に静かな不安感と緊張感が漂うつくりになっている。

    映画のラストでは、闇に沈むエイリアンが描かれ、初期作品へのオマージュとして観客を未知なる宇宙の深淵へと誘う。この作品は、手づくりの映像制作手法を尊重しつつ、その上で最先端技術が融合した新しいホラー映画の制作手法を採ったことで、観客にとって作品の原点に立ち返ることのできる「静かな恐怖」を表現している。

    <4>メイキング:映画『ゴジラ-1.0』少数精鋭のジェネラリスト集団によるCG本来の映像制作スタイル

    ▲講演「Godzilla Minus One with SHIROGUMI's VFX: The Path of Technological Innovation in VFX Films 」の模様
    CGディレクター・髙橋正紀(白組

    第96回アカデミー賞にて、視覚効果賞を受賞した『ゴジラ-1.0』(2023)。本作の制作過程には多くの挑戦と熱意が込められている。VFXはたった35人のチームで制作されており、本公演ではその制作の苦労と面白さが紹介された。

    わずか35人という小規模なチームで、限られた時間と予算の中、驚異的なクオリティを実現したその裏には、独特の作業スタイルとチームワークがあったという。この作品では、多くのハリウッド映画のCG/VFXにみられる通常の分業体制ではなく、スタッフ全員がモデリングからアニメーション、レンダリングまで、多岐にわたる作業を手がけている。「何でもやるジェネラリスト」の姿勢が貫かれていた。次の工程へ自然に移行する作業フローを工夫し、時間やコンピュータ資源やデータストレージの不足を逆手に取ったこの方法は、限られた環境で効率的に成果を出す好例となった。

    ▲講演の様子

    特に注目すべきは、若手メンバーが活躍した水のシミュレーションに対する挑戦で、3DCGにおいては水の質感が現実味を欠くとすぐに違和感が生じてしまう。チームは日々膨大なテストを重ね、膨大なシミュレーションデータを駆使して高品質な粒子表現を追求した。何度もやり直す中で、過去データをどれだけ保存しておくかが悩みどころだったとのこと。また、主要メンバーが同じフロアで作業する環境では、ミーティングに頼らず日常的な会話の中で意思疎通を図り、迅速な問題解決が行われた。なによりも制作の「速さ」をとても重視し、試行錯誤を繰り返す姿勢が、この作品の完成度を大きく引き上げた要因だったとふり返った。

    少ない予算と人員で挑戦を乗り越えた『ゴジラ-1.0』は、チームの情熱と実行力の結晶であり、ハリウッドの大規模CG/VFXプロダクションも注目する、日本発のクリエイティブが世界に届く力を示したものとなった。

    編集部注:映画『ゴジラ-1.0』の詳細についてはこちらもご覧ください

    <5>メイキング:『ウルトラマン:ライジング』鮮やかなビジュアルスタイルの舞台裏

    ▲講演「Ultraman: Rising - How ILM brought this iconic hero to screens large and small」の模様
    VFXスーパーバイザー・Hayden Jones氏(Industrial Light & Magic

    NetflixとIndustrial Light & Magic(ILM)が手掛けたNetflix配信のアニメーション作品『ウルトラマン:ライジング』(2024)の制作プロセスに関する講演。本作では、絵画的な美しさを追求しながらも、細部まで徹底したアートディレクションを施し、独自の世界観と映像美を実現している。

    制作チームは、KatanaMariといった最先端のライティングやルックデヴ、テクスチャペインティングのツールを活用し、キャラクターや背景のディテールを何層にもわたって丁寧に制作していったという。特に、キャラクターの感情や個性に応じたライティングとアニメーションの工夫が注目ポイントだ。例えば、主人公のケンには手持ちカメラのような不安定な視点を与え、緊張感を演出。その一方、敵キャラクターはその威圧感を際立たせるため、ダイナミックな動きや陰影が活用されている。

    ▲「日本らしさ」を表現するために、古い怪獣映画のサイズである「東宝スコープ」を参考にしたアスペクト比や、1950年代に制作された映画『七人の侍』(1954)やアニメ『AKIRA』(1988)からインスピレーションを得たレンズフレアが採り入れられている
    ▲レンズフレアは実写のカメラレンズでしか発生しないが、眩しさや輝きの印象を与えるためにCG/VFXでもレンズフレアを取り入れているところがポイントだ
    ▲東京の街並みや目黒の老舗とんかつ屋「とんき」の内装を忠実に再現し、作品にリアリティが加えられた。あまりにもリアルな「とんき」の様子から、会場からはクスクスと笑いが沸いていた
    ▲エフェクト制作においては「アニメ物理学」と呼ぶ独自のアプローチが採用されている。これはリアルな物理シミュレーションとアニメ的なタイミングを融合させた手法で、爆発や水しぶきなどのエフェクトをスタイライズ(写実的ではない演出の効いた映像表現)で表現するというもの。さらに「モーションブラー」や「インパクトフレーム」といった2Dアニメの技法を3Dに応用し、シーンに動きと緊張感を生み出したという
    ▲制作は、ロンドン、シンガポール、バンクーバーの3拠点にまたがるチームが協力し、3年の歳月をかけて進められた。そのチームの活躍よって、『ウルトラマン:ライジング』は視覚的な美しさだけでなく、観客がキャラクターの心情を深く感じ取れるようなエモーショナルな作品に仕上がっている。『ウルトラマン:ライジング』の舞台裏には、原作へのリスペクトと、緻密な計算、クリエイティブへの挑戦があり、それが作品の完成度の高さを支えているのだと感じさせられた

    <6>メイキング:『幽☆遊☆白書』スタントとVFXの融合。スタントビズの真骨頂

    ▲講演「Netflix manga series Yu Yu Hakusho: How Megalis Created the Show’s Most Complex Shot」の模様

    映画やドラマでときおり見られる、カットの切り替えなしで撮影された「ワンショット」のシーンは、観客に強い没入感を与えるが、その裏側には、想像を超える技術と創造力が存在している。国際色豊かなVFXスタジオMegalis VFXが手掛けたワンショットシーンの制作過程では、制限のある制作時間と予算の中で、どのようにして複雑な映像を作り上げたのかが紹介された。

    Megalis VFXのチームは、撮影前の段階から「スタントビズ(stunt-vis)」という技法を使用して、制作シーンの詳細な計画を立てていた。この技法は、アクションの動きを事前にシミュレーションするもので、従来の日本の制作現場でも使われているものだ。しかし、今回の場合、完成に至るまでのプロセスは容易ではなかった。実に8枚の異なる映像素材を繋ぎ合わせる必要があり、その作業の難易度は実際に進めてみるまで完全には把握できていなかったという。

    ▲「スタントビズ(stunt-vis)」解説スライドの一例

    本プロジェクトで最大の課題となったのは、監督からの「登場キャラクターを一瞬たりとも観客に見失わせない」という指示だった。この要件を満たすために、爆発や特殊効果でシーンを隠すような方法は採れず、デジタルダブル(本物の俳優をCGキャラクターで置き換えたもの)を活用してシーン全体の連続性を保つことが求められた。この手法により、キャラクターが自然に動き続ける映像が実現し、映像を見ている観客の気持ちを途切れさせることなく、没入感を損なわない仕上がりとなった。

    制作期間は当初3ヵ月半とされていたが、最終的には5ヵ月間へと延長された。その間、アニメーションチームはスタントビズや実写を基にデジタルダブルを作成。さらに、Houdiniを活用して、薔薇のムチのような複雑なアセットを効率的に生成する技術も導入した。Houdiniを活用したワークフローによって、シーン全体のクオリティが大幅に向上したという。

    背景やキャラクターの調整を行うコンポジット作業では、Nukeのスクリプトを分割して管理する手法を採用し、作業の効率化も図られた。制作素材が随時アップデートされる中で、最後まで高い集中力と調整力が求められたというが、そのおかげで視覚的に一体感のあるシーンを完成させることできたとのこと。

    Megalis VFXのチームはまた、日本のVFX業界についても言及している。日本では少ないリソースで幅広い業務をこなす「ジェネラリスト」が多く活躍する一方、ハリウッドでは専門分野に特化した「スペシャリスト」が分業体制を敷いている。Megalis VFXは、両者の長所を取り入れたハイブリッド型のワークフローを構築しており、特にプリプロダクション作業の内製化を進めることで、迅速かつ高品質な制作を実現しているという。

    <7>メイキング:『SHOGUN 将軍』:現実感との戦い

    スウェーデンのストックホルムに拠点を置くVFXスタジオ、Important Looking Pirates(以下、ILP)のビジュアルエフェクツスーパーバイザー、Philip Engström/フィリップ・ピングストローム氏による、『SHOGUN 将軍』(2024)制作における複雑で挑戦的なVFX作業についての講演。同スタジオは約250のショットを手がけ、水のエフェクト、大規模な群集シーン、3DCGによる舞台セットの拡張、そしていくつかの劇的なシーンを制作。それぞれの場面で高度なテクノロジーとアートの融合が必要とされたという。

    ▲セッション「VFX in Shogun Creating a Large-Scale Landslide, Environments and Water Simulations」の模様

    ILPは制作の初期段階から関与し、歴史的な正確さを保つために、制作陣が行なった綿密なリサーチを基にVFXをつくり上げた。武士の階級ごとに異なる衣装や動作など、歴史的に重要なディテールを再現することで、物語のリアリティを支えるビジュアルを追求。特に水面の動きや武士たち群集の振る舞いなど、細部へのこだわりが随所に見られるという。

    海のシーンでは実写プレートに3DCGでつくり込んだ水面や水しぶきを組み合わせることで、自然な水の動きをリアルに表現した。水上シミュレーションを駆使して、海の荒れ模様や反射の変化など、実際の自然界に近い質感を再現したという。

    また、10万人規模の群集を描くシーンも登場。歴史的な考証を反映した個々の動きや行動を取り入れつつ、大量のキャラクターを効率的に管理する「ソーセージ・アーミー」と呼ばれる群衆の中で目立たない個々のキャラクターをソーセージのような単純な形状で表現する手法技術を活用し、壮大なスケール感とビジュアルのクオリティを両立させた。

    ILPの技術と芸術性は『SHOGUN 将軍』が追求するリアリティと物語性を見事に表現し、視聴者に深い感動を与えた。ピングストローム氏の語る、綿密な調査に基づいた制作の舞台裏は、歴史を尊重し、それに最先端技術が融合して再現されるVFXの可能性を示すものだ。氏は「こうした細かいこだわりが、映像作品の魅力を一層引き立てた」とふり返り、講演を締めた。

    <8>ライブドローイング:高尾克己氏:アニメ『薬屋のひとりごと』数百本の専用ブラシと背景の空気感

    ▲「Live Drawing: The Art of Background Design in "The Apothecary Diaries"」にて、数百種類の専用ブラシを駆使してタブレットで描くアニメ『薬屋のひとりごと』美術監督・高尾克己氏

    背景美術制作の現場では、手描きだけでは膨大な時間と労力が必要だったが、近年では3D技術と手描きを組み合わせた新しい手法が取り入れられている。例えばアニメ『薬屋のひとりごと』では監督から要望のあった夕方のシーンを「10パターン」つくる場合、まず3DCGでつくったベースに手描きでレタッチを加えることで、効率的かつ精密な表現を実現している。

    奥行きや色のコントラストを重視する制作では、奥の建物や空を3DCGで、手前の建物を手描きで仕上げることで自然な空気感を生み出している。また、3DCGの正確なパース線に手描きのタッチを馴染ませることで、デジタルとアナログの融合も図られている。さらに「空の色から手前に向かって描き込む」技法により、微妙な色彩表現も行なっているという。

    ▲会場では「実際の現場ではこのように背景美術がつくられているのか!」と、は驚きの目線が集中していた

    背景1枚を完成させるのに3Dレンダリング後「4時間」ほどかかり、カスタムブラシを駆使して細部を描き込んでいく。入道雲や木目など、多様な質感を再現しつつ、重ね重ね描いていくことで背景が仕上げられていく。特に監督のこだわりが求められる場面では、複数レイヤーを駆使してリアルさと手描き感の両立が追求も追求されている。

    デジタル技術の進化により効率化が進む一方で、あえて「フリーハンドで描くこと」にこだわることで温かみや個性をもたせているという高尾氏。3D技術と手描きを組み合わせたこの手法は、単なる効率化ではなく作品の質を高める新たな制作スタイルとして定着しつつあるとのこと。

    <9>ライブドローイング:伊藤暢達氏:空気感とクリエイティブの舞台裏

    ▲「Live Drawing: Lines for Communication」より、キャンバスと向き合い、その場で描く伊藤暢達氏

    アーティスト・伊藤暢達氏のライブドローイングは、観客の前で描き手の「空気感」を表現する特別なパフォーマンスだった。「線の集合体」をテーマに、線が形となり、観る人にイメージや世界観を伝える。デジタルツールを使わず、後戻りのできない、その場で生まれる表現の変化がこのパフォーマンスの醍醐味だった。

    伊藤暢達氏は多摩美術大学卒業後、コナミ株式会社『サイレントヒル』シリーズのアートディレクションやクリーチャーデザインを担当し、現在はフリーランスとして活躍している。独自の「退廃美」を追求するデザインで知られるアーティストだ。

    今回のライブでは、観客の前でひとつの線から始め、徐々に広がる世界を描いた。短時間での仕上げに「課題は残ったものの、空気感をある程度表現できた」と、ふり返りのコメントもあった。伊藤氏のライブドローイングは、偶然性や手仕事の魅力を余すところなく観客に伝えた。デジタルだけでは生み出せないクリエイティブの価値を再認識する場となった。

    ▲ライブドローイング後も手を加え、完成版となった伊藤暢達氏のドローイング

    <10>「SIGGRAPH」、そして「SIGGRAPH Asia」の今後

    次回北米で開催される「SIGGRAPH 2025」は、2025年8月10日(日)〜14日(木)の5日間。CG産業の盛んなカナダのバンクーバーで開催される。また、次回のSIGGRAPH Asia」は、2025年12月15日(月)〜18日(木)の4日間、香港での開催が決まっている。

    インターネットで様々な情報が入手可能であり、コロナ禍後はオンラインのイベントも増えるなかで、実際に体験して、アーティストや研究者と直に意見交換し、仲間や同じ志をもつ人々と集まるリアルなイベントはますます貴重な存在になと考えられる。

    生成AIの台頭により、映像制作やワークフローが大きく変化していく中で、CG/VFX制作の最先端、かつ現場と研究の良いバランスをもったSIGGRAPH、およびSIGGRAPH Asiaから今後も目が離せそうにない。

    TEXT_安藤幸央(エクサ) / Yukio Ando(EXA CORPORATION)
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada