CGWORLD vol.321の特集「セガのゲームで学ぶ 3DCGの基礎」では、デザイナーの仕事で必要とされる3DCGの基礎知識を、セガのゲームや同社の新人研修資料を引用しながら、3D初心者向けに体系的に解説した。本特集の中から、「PART 1 インタビュー:セガの新人研修を紐解く」を全2回に分けて転載する。
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ゲーム開発の制約の中で、最大限の成果を出す手段を考えてもらう
CGWORLD(以下、CGW):エフェクト研修の課題でも、描画速度などのレギュレーションが設定されており、とても実践的ですね。
三浦義貴氏(以下、三浦):ゲーム開発の終盤になると、エフェクトは必ず容量や処理負荷の問題に直面します。大量のパーティクルや半透明処理を多用すれば見た目は派手になりますが、ゲーム全体のパフォーマンスは圧迫されます。そのため研修では、少ない負荷で、いかに効果的に見せるかを意識するよう指導しています。
阿部浩之氏(以下、阿部):エフェクトの応募者も以前よりは増えましたが、まだ課題ベースの作品や、炎・水・電気といった属性ちがいのエフェクトのみで構成したデモリールが多い傾向にあります。そういう基礎力にプラスして、コンセプトをもってつくったり、実際にゲームで使うことを想定したりしてほしいですね。「見映えが良いから」という理由で、真っ暗な背景の上にエフェクトを配置する人が多いのですが、実際のゲームのシーンは常に夜とは限らないので、昼のシーンに配置したら、エフェクトがほとんど見えないといった事態も起こり得ます。新人研修でつくる宝箱のエフェクトでも、「派手にした結果、中身がまったく見えない」といった失敗がよくあるのです。ゲーム開発では必ず制約がついて回るので、その中で最大限の成果を出す手段を考えてほしいです。
UI研修の成果物

エフェクト研修の成果物




テクニカルアーティスト(TA)研修の成果物


CGW:新人研修カリキュラムの最後に設けられている、合同ゲーム制作研修についても教えてください。
阿部:第2事業部のデザイナー、プログラマー、プランナー、サウンドの新人が少人数のチームを組み、ゲームの企画から完成までの一連のながれを約2.5ヶ月かけて体験します。少人数チームで開発を行うため、自分の志望職種以外の役割を担うこともありますが、研修前半で様々な職種の仕事を実際に体験しているため、各々の強みを活かしつつ、チーム内でフォローしあいながら進めることができます。進捗は日報で共有され、必要に応じてコーチやマネージャーがアドバイスを行います。
三浦:近年、ゲーム開発はますます大規模化・長期化しており、個々のセクションの仕事が見えにくくなっています。だからこそ、少人数のチームで、プログラマーやプランナー、サウンドと密にコミュニケーションを取りながらゲームをつくった経験は、プロジェクト配属後のゲーム開発において大きな財産になります。例えば、ほかのセクションの進捗を聞いたときに、「自分には関係ないこと」と切り離すのではなく、自分事として受けとめ、「今、自分が何をすべきか?」を考えられるようになることは非常に重要なのです。
合同ゲーム制作研修の成果物






適切な質問ができる力と、相談先を判断する力を養ってもらう
CGW:第2事業部の新人研修では様々な職種の仕事を体験するし、今回のCGWORLDの特集でも広範囲の基礎知識を網羅します。とはいえ、実際のゲーム開発は分業化されていますよね。実のところ、専門外の知識をどこまで理解しておけば良いと思いますか?
三浦:任される仕事によって異なります。例えばアートディレクターを目指すなら、細かいツールの操作方法まで把握する必要はありませんが、全工程に対するおおまかな理解は不可欠です。基本的には、自分の職種に関連する知識は必須で、余裕があればそこから徐々に広げていくのが理想的です。専門外であっても、会議に出席した際に、周囲がなんの話をしているのか理解できる程度の知識はもっておいて損はありません。
阿部:特に、自分の職種の前後工程に関する知識は、自分の業務をよりスムーズに進める上で大きな助けになります。例えば私の場合は、プロジェクトの合間にキャラクターのウェイト付けを経験する機会があったおかげで、新しいモデルを受け取った際に、「ウェイトが外れている」といった具体的な指摘ができるようになりました。
CGW:プロジェクト配属後は、自分の力で学び続けることが求められると思います。それができる人の共通点を教えてください。
三浦:ゲーム開発は趣味や自己満足ではなく、お客様に楽しんでいただく商品をつくる仕事です。ただ、その中でも「自分が楽しんでつくること」はとても大事だと考えています。自分の仕事を楽しみ、高いモチベーションで制作する力は、最終的なゲームのクオリティやプレイヤーの体験にも影響を与えるからです。さらに、自分がつくりたいものを具体的にイメージして、それを実現するための手段や、どうやったら必要なスキルを学べるかまで考えられる力のある人が、長く活躍できているように思います。
阿部:何かあったときに動揺せず、自発的に動いて、誰かに相談できる力も重要です。その力を培ってもらうために、新人研修では、約5ヶ月間のコーチや先輩社員とのコミュニケーションを通じて、適切な質問ができる力と、状況に応じた相談先を判断する力を養ってもらうことも目的のひとつにしています。
CGW:キャリアを重ねる中で、職種を転向するケースはありますか?
三浦:多くはないですが、例えばキャラクターモデラーから背景モデラーに転向するといったケースもあります。培ってきた専門スキルをリセットして、ほかの職種に転向することは簡単ではありません。しかし本人が強い意志をもち、挑戦したいと考えるのであれば、なるべくサポートするようにしています。
阿部:それとは別に、サブスキルを身につけることで仕事の幅を広げている人もいます。例えば、アニメーターがリグの知識を深める、エフェクトアーティストが簡単なモデリングを行えるようになる、といったケースです。サブスキルをもつことで、プロジェクトの中でより柔軟に動けるようになり、結果的に自身のキャリアの選択肢を増やすことにもつながります。ゲーム開発は多様なスキルが求められる世界です。自分の得意分野を伸ばしつつ、新たなスキル習得にもチャレンジできる環境を提供することで、デザイナーとしての可能性を広げられるように支援しています。
CGW:セガには、第2事業部以外にも複数の事業部がありますよね。事業部をまたいで仕事をする機会はありますか?
三浦:ひとつのプロジェクトの終了後、少し手が空いたときなどに、人手不足のほかの事業部のプロジェクトにヘルプのデザイナーを派遣するといったケースはよくあります。例えば長年ソニックシリーズをやってきたデザイナーが、第1事業部の龍が如くシリーズを手伝いにいったりしています。まったく方向性がちがうビジュアルだからこそ、「やってみたい」という人はわりといて、表現の幅を広げる良い機会になっています。
阿部:そのヘルプがきっかけで、「先方の開発環境が非常に優れていたので、第2事業部にも導入したい」という話が生まれ、マネージャー同士で調整し、開発環境の移植につながった事例もあります。それとは別に、お互いの開発環境や技術情報を見せあう、技術交流の場を設けたりもしています。
CGW:新たな知見を得る機会が、数多く設定されているのですね。お話いただき、ありがとうございました。
INFORMATION

月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.321(2025年5月号)
特集:セガのゲームで学ぶ3DCGの基礎
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2025年4月10日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota