CGWORLD vol.321の特集「セガのゲームで学ぶ 3DCGの基礎」では、デザイナーの仕事で必要とされる3DCGの基礎知識を、セガのゲームや同社の新人研修資料を引用しながら、3D初心者向けに体系的に解説した。本特集の中から、「COLUMN 1 デザイナーの職種」を転載する。


記事の目次

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    代表的な9つの職種を紹介

    ゲームのビジュアルを担当する開発職は、デザイナーまたはアーティストと呼ばれ、ゲームの表現力・技術力の向上にともない分業化が進んでいる。ここでは代表的な9つの職種を紹介する。

    コンセプトアーティスト

    ゲーム開発の初期段階で、ゲームのコンセプト、世界観、各ステージで必要とされる要素などを表すアートを描く。目指す方向性が確定するまで、数多くのアートを描き、試行錯誤をくり返す。方向性が確定したら、そのアートを指針としてゲームのビジュアルが制作される。最近は3DCGと2DCGを柔軟に組み合わせた画づくりをするコンセプトアーティストも増えている。なお、コンセプトアートはあくまでイメージの方向性を示すものなので、キャラクター・背景・プロップ(キャラクターの装備品や乗り物など)の詳細なデザイン画を描く作業は後工程で行われる。

     
    『ソニック × シャドウ ジェネレーションズ』ステージコンセプトアート

    キャラクターモデラー

    キャラクターや、その装備品などのプロップの3Dモデルを制作する。造形対象の立体的な形、内部の構造、質感などを的確に把握し、表現する力が求められる。キャラクターの場合は関節構造、武器の場合は変形ギミックも視野に入れ、アニメーションをさせても破綻しないポリゴン構造にする必要がある。ゲームはリアルタイムにレンダリングされるので、必要最小限のポリゴン数や、テクスチャサイズにすることも重要だ。キャラクターデザインや、リギングまで担当する場合もある。近年は、フォトグラメトリー、3Dスキャニングなどの便利な技術を使った3Dモデルの自動生成も行われているが、生成後の3Dモデルをゲームに実装するためには、モデラーによる調整が必要となる。

    ▲『ソニック × シャドウ ジェネレーションズ』キャラクターモデル(中央上:Mayaの作業画面、ほか:実機映像)

    背景モデラー

    ゲームのステージと、ステージに配置するプロップの3Dモデルを制作する。背景制作では、地形や建築物の配置を工夫し、プレイヤーが自然に目的地へ進めるように誘導するレベルデザインも求められるため、背景をつくり込む前に、プランナーと連携しながらレベルデザインの検証用ステージの制作にも携わる。多くの場合ライティングまで担当するが、レンダリング技術の発展にともない、近年はライティングアーティストという専門職が担うケースも増えている。

    ▲『ソニック × シャドウ ジェネレーションズ』背景モデル(メイン:実機映像、右上・右下:Mayaの作業画面)

    アニメーター

    キャラクターの3Dモデルにアニメーションを設定する。なお「アニメーション」と「モーション」は似た言葉だが、意味が異なる。アニメーションは動きを付ける技術全般を指し、キャラクターを動かす手法や表現方法を含む。一方、モーションは具体的な動作そのものを指し、キャラクターの歩行、ジャンプ、攻撃といった個別の動きが該当する。ゲームでは、様々なモーションが組み合わさることでアニメーションが形成され、スムーズな動きを実現する。

    顔の表情付けはフェイシャル、台詞に合わせた口パクはリップシンクと呼ばれ、ボディ担当のアニメーターと分業することもある。モーションキャプチャを利用する場合には、モーションアクター向けに演技内容を説明する資料や、撮影するモーションのリストの制作、撮影時のディレクションをアニメーターが担当することもある。

    ▲『ソニック × シャドウ ジェネレーションズ』アニメーション(Mayaの作業画面)

    UIデザイナー

    ゲームのコンセプトや世界観、仕様に基づき、ウインドウ・ダイアログ・ボタン・タブ・スクロールバー・プルダウン・テキストボックス、グルーピング装飾などのUIのルールを決め、プロトタイピングとデザインを経て、ゲームに実装し、開発終盤までブラッシュアップをくり返す。ゲームの遊びやすさや、わかりやすさは、UIの良し悪しに大きく左右される。特にゲームに不慣れなプレイヤーの多いスマホゲームでは、UIデザインの良し悪しがゲームの業績に直結する傾向にある。

    『オンゲキ bright MEMORY』UI

    エフェクトアーティスト

    ゲームを盛り上げたり、リアリティを高めたりするために、爆発、炎、液体、破壊された物体の破片、発光などをゲーム内に追加する。実在する自然現象だけでなく、漫画的な集中線、ドラゴンが吐く炎、魔法なども制作する。自然現象や物理法則に対する理解に加え、架空の現象であっても、理屈や設定を考えられる力が求められる。エフェクトの表現方法は多岐にわたり、3D空間内で物理シミュレーションを用いて高負荷な計算をする場合もあれば、2D画像のテクスチャで表現する場合もある。また、ポストエフェクトやカラーグレーディングまで担当し、描画担当のプログラマーと連携して制作を進めることもある。なお、ゲーム業界ではエフェクトのことをVFXと呼ぶ場合も多いが、CG映像業界ではCGによる視覚効果を包括してVFXと呼ぶため、混同しないように注意する必要がある。

    『ソニックフロンティア』エフェクト(内製ツールの作業画面)

    テクニカルアーティスト

    TAと略すことが多い。テクニカル関連の仕事を担うプログラマーと、アート関連の仕事を担うアーティストとの橋渡しを担当する。プログラマーからTAに転向する人もいれば、アーティストからTAに転向する人もおり、各々の経歴を活かした働き方をしている。プログラマーとアーティストの思考のちがいを理解し、両者が抱える問題の解決方法を提案する役割を担う。煩雑な作業を自動化・効率化するためのツールを開発することもある。また、プロシージャル生成、シェーダ設定、リギング、エフェクト制作、物理シミュレーションなど、テクニカルに対する理解が必要とされる工程を担当する場合もある。  リギングは、3Dモデルにアニメーションを付けるための設定を施す工程で、リガー、あるいはリギングアーティストと呼ばれる専門職が担う場合も多い。

    ▲ここでは龍が如くシリーズにおける、TAの仕事に関連する画像を紹介している。TAの仕事については、SEGA TECH BLOGでも詳細が解説されている

    シネマティックアーティスト

    カットシーンアーティストとも呼ばれる。ゲームのプロモーションビデオや、ゲーム内のOPムービー、カットシーン用の映像を制作し、プレイヤーにストーリーを伝える。具体的には、最初に映像の設計図にあたる絵コンテを制作し、次にプリビズやアニマティクスと呼ばれる仮素材を使った映像を制作する。ほとんどの映像は複数のカットで構成されるので、各カットに登場するキャラクターと背景のモデルを3Dシーン内に読み込み、アニメーションを付け、カメラワークを設定し、ライティングをして、エフェクトを加え、各カットを演出する。最後に各カットをつなぎ、編集し、映像を完成させる。キャラクターの演技から、カメラワーク、ライティングなどの映像演出まで、映像に関する幅広い知識と技術が求められる。

    ▲『ソニック × シャドウ ジェネレーションズ』コンポジットブレイクダウン

    ライティングアーティスト

    カットシーンを含むゲーム全体のライティングと、ポストエフェクトやカラーグレーディングなどのポストプロセスを担当し、各ステージの明暗の割合や、色味、コントラスト、陰影の入り方などをデザインする。各シーンの照明環境や、時間帯、天候、季節、演出意図、レンダリングにかかる時間などを考慮し、適切な画づくりを行うことが求められる。ライティングの主な役割は2つで、ひとつは、ゲーム内の各ステージにおいて、何をしてほしいのか、プレイヤーにわかりやすく伝えることだ。もうひとつは、各ステージのムードやキャラクターの感情を、明暗や色味によって表現することだ。

    ▲『ソニック × シャドウ ジェネレーションズ』ライティング
    ©SEGA

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.321(2025年5月号)

    特集:セガのゲームで学ぶ3DCGの基礎
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年4月10日

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    TEXTEDIT_尾形美幸/Miyuki OgataCGWORLD