Houdini 21.0(以下、21.0)がついにその姿を現しました。新たな筋肉システムの実装や、アニメーション関連の強化、実用的な機械学習ノードの追加などが行われ、新時代の幕開けを感じさせます。本稿では全3回に分けて、主要なアップデートを中心に紹介。No.1では、新たに実装された筋肉システムOtisについて解説していきます。(※機能や画像は開発中のものであり、リリース時とは異なる場合があります)

INFORMATION

価格:
1,415ドル[Houdini Core/商用版ワークステーションライセンス-WS-(1年レンタル)]
3,369ドル[Houdini FX/商用版ワークステーションライセンス-WS-(1年レンタル)]
2,105ドル[Houdini Core/商用版ローカルアクセスライセンス-LAL-(1年レンタル)]
5,209ドル[Houdini FX/商用版ローカルアクセスライセンス-LAL-(1年レンタル)]
1,995ドル[Houdini Core/商用版ワークステーションライセンス-WS-(ノードロック)]
4,495ドル[Houdini FX/商用版ワークステーションライセンス-WS-(ノードロック)]
2,995ドル[Houdini Core/商用版ローカルアクセスライセンス-LAL-(フローティング)]
6,995ドル[Houdini FX/商用版ローカルアクセスライセンス-LAL-(フローティング)]
販売元:インディゾーン、ボーンデジタル
新筋肉システムOtis登場。機械学習ノードなど注目機能満載
21.0でも数多くのアップデートが行われており、その中でも注目したいのは、新たに実装された筋肉システムOtisです。このシステムにより、骨・筋肉・脂肪といった構造を単一のシミュレーションで扱えるようになり、キャラクターの筋肉の動きや皮膚の揺れを、より自然かつリアルに再現できるようになりました。
アニメーション関連機能も大幅に強化されています。ポーズやアニメーションの再利用に便利なAPEX Animation Catalogや、アニメーションクリップの合成・編集に特化したMotion Mixer SOPなど、実用性の高いツールが数多く実装されています。リグ関連では、APEX Auto Rig Builderを使うことで、ドラッグ&ドロップ操作だけで簡単にリグを作成できるようになり、作業効率が飛躍的に向上しています。
Houdini 20.5で実装されたCopernicusやMPMといった機能も、着実に進化を遂げています。Copernicusで注目すべきは、シミュレーション機能の実装です。特に、Pyroシミュレーションまで扱えるようになったのは驚きです。MPM関連では、ポリゴンやVDBへの変換といったポスト処理系ノードが充実し、レンダリングまでの動線が整ってきた印象です。
機械学習を活用した実用的なノードが登場し始めた点も、見逃せないポイントです。例えば、動きを基に自然な変形を行うML Deformer SOPや、ボリュームの高解像度変換が可能なML Volume Upres SOPなどが実装されています。
そのほか、カメラからの映像をリアルタイムに取り込むLive Video COPや、Solarisのレンダリング結果をリアルタイムにRender Galleryに追加するLive Render LOPなど、リアルタイム性の高いノードの追加にも注目です。さらに、ネットワークの参考になるレシピや新規Shelfなども充実しており、新規ユーザーにとっても学びやすい環境が整えられています。それら数多くの魅力的なアップデートについて、以降で詳しく紹介していきたいと思います。
骨・筋肉・脂肪を一括制御。Otisが拓く新たなボディ表現
まず注目の新機能として挙げたいのが、Otis Muscle and Tissue System(以下、Otis)です。OtisはOrganic Tissue Solverの略で、最大の特徴は、これまで個別に行なっていた筋肉・脂肪などのシミュレーションを、単一のSolverで統合的に処理できる点にあります。Otisは、「骨(Bones)と筋肉(Muscles)」、「骨と筋肉を包み込むコア組織(Tissue Core Layer)」、「脂肪(Tissue Solid Layer)」の3層構造で構成されています。骨に固定された筋肉の動きが周囲の組織へと伝播することで、揺れや遅れ、変形といったリアルな動きを生み出すことができます。
Otisのシミュレーション方式は、FasciaとTissueの2種類が用意されています。Fasciaシミュレーションは、骨・筋肉・コア組織のみで構成されており、外側の脂肪層が存在しないため副次的な揺れは少ないものの、軽量で高速な処理が可能です。一方のTissueシミュレーションは、脂肪層も含めた構成となっており、よりリアルな揺れやボリューム感を表現できます。

これに合わせて、新しいテストジオメトリのOttoも追加されました。Ottoは高解像度の人体モデルで、骨と筋肉のジオメトリも内包されており、Otisのテストや学習用途に活用できます。レシピも複数用意されており、例えばOtto Muscle and Tissue SimulationではOttoの筋肉構造を活用したOtisのセットアップ例を確認でき、Otto Muscle TransferではOttoの骨や筋肉のジオメトリを、トポロジーが一致する別キャラクターへ転送するネットワークを構築できます。


関連ノードとして注目したいのが、ML Deformer SOPの実装です。このノードは、あらかじめ訓練された機械学習モデルを用いてキャラクターの変形を行うもので、動きに基づいた自然なデフォームを簡単に適用できます。さらに、Armature Capture SOPとArmature Deform SOPという新しいデフォーマも追加されました。これらの内部にはOtis Solverが組み込まれており、骨格を基にした体積保持を伴う変形が可能になります。従来のBone Deform SOPよりもリアルな結果が得られるだけでなく、時間に依存しない変形処理ができるため、機械学習用のデータ生成にも適しています。

そのほか、SOP関連でもいくつかの興味深いノードが登場しています。例えば、細分割されたポリゴンをLowポリゴン状態に戻すUnsubdivide SOP、スラスターエフェクトを手軽に作成できるPyro Thruster Exhaust SOP、カメラからの見た目に基づいて輪郭を抽出するExtract Silhouette SOPなどが挙げられます。どれもニッチながら、実用性の高い機能です。


INFORMATION

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著者:北川茂臣
定価:6,600円(税込)
発行:ボーンデジタル

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判型:A4ワイド
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発売日:2025年9月10日
TEXT_北川茂臣(No More Retake 3DCG屋さん向け Tips & Reference サイト)
EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)