Houdini 21.0(以下、21.0)がついにその姿を現しました。新たな筋肉システムの実装や、アニメーション関連の強化、実用的な機械学習ノードの追加などが行われ、新時代の幕開けを感じさせます。本稿では全3回に分けて、主要なアップデートを中心に紹介。No.3では、MPM・ML・RBDがもたらす物理表現の進化や、加速するSolarisとKarmaの連携について解説していきます。(※機能や画像は開発中のものであり、リリース時とは異なる場合があります)

記事の目次
    ※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.326(2025年10月号)掲載の「筋肉システムから機械学習まで 新時代に突入したHoudini 21.0」を再編集したものです。

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    INFORMATION

    Houdini 21.0

    価格:
    1,415ドル[Houdini Core/商用版ワークステーションライセンス-WS-(1年レンタル)]
    3,369ドル[Houdini FX/商用版ワークステーションライセンス-WS-(1年レンタル)]
    2,105ドル[Houdini Core/商用版ローカルアクセスライセンス-LAL-(1年レンタル)]
    5,209ドル[Houdini FX/商用版ローカルアクセスライセンス-LAL-(1年レンタル)]
    1,995ドル[Houdini Core/商用版ワークステーションライセンス-WS-(ノードロック)]
    4,495ドル[Houdini FX/商用版ワークステーションライセンス-WS-(ノードロック)]
    2,995ドル[Houdini Core/商用版ローカルアクセスライセンス-LAL-(フローティング)]
    6,995ドル[Houdini FX/商用版ローカルアクセスライセンス-LAL-(フローティング)]
    販売元:インディゾーンボーンデジタル

    多彩な材質と挙動を再現。進化するシミュレーション機能

    シミュレーション周りで目を引くのは、MPMの強化です。MPMはHoudini 20.5で追加された機能で、FLIPを固体へと拡張し、土や金属、砂など多彩な材質のシミュレーションを同一空間で行えるようにしたものです。21.0では、このMPMに対してSurface Tensionへの対応やSleeping機能の追加、EmissionやCollision機能の改良などが行われました。

    ▲MPM Source SOPのContinuous Emission機能が改良され、パーティクルで満たされた領域にも新たなパーティクルを追加発生させられるようになった
    ▲MPM Collider SOPの改良により、摩擦(friction)や粘着性(sticky)を任意の場所で変更可能となった

    また、MPM関連ノードとして、シミュレーション結果を基にジオメトリを破片に分割するMPM Post-Fracture SOPや、それを動かすMPM Deform Pieces SOPが実装され、レンダリングまでのワークフローが整備されました。剛体以外でも、新たに追加されたMPM Surface SOPにより、シミュレーション結果のポリゴンやVDBへの変換が容易になっています。さらに、Debriの発生源を作成するMPM Debris Source SOPも追加され、MPMシミュレーションからのDebri作成がより簡単になりました。

    ▲MPM Post-Fracture SOPと、MPM Deform Pieces SOPを併用することで、MPMシミュレーション結果をジオメトリへ簡単に適用できるようになった
    ▲MPM Debris Source SOPを使用して、MPMシミュレーションからDebriの発生源となるポイントを作成。それを基に発生させたパーティクルに色を付けた作例

    そのほか、Neural Point Surface SOPの実装も注目ポイントです。これは点群を入力することでVDBサーフェスを構築するノードで、シミュレーション結果のメッシュ化などに活用できます。実はこのノード、様々な素材モデルを学習したONNX Interfaceノードを内蔵しており、シャープなディテールを保ちながら滑らかなサーフェスを構築することが可能です。liquid、smoothなどのモードが用意されており、用途に応じたVDBを生成できます。このノードは、既存のParticle Fluid Surface SOPや前述のMPM Surface SOPにも組み込まれています。なお、CUDAを使用するGPU環境での実行を前提としており、CPUでの実行は非常に遅くなる点には注意が必要です。

    ▲【左】入力した点群/【中】従来のVDBによる変換結果/【右】Neural Point Surface SOPによって変換されたメッシュ

    機械学習つながりでは、ボリュームのアップレゾリューション用にML Volume Upres SOPが実装されました。機械学習自体はTab Menuに追加されている"ML Train Volume Upres"で行うことができるようになっています。また学習済みモデルを用いたML Volume Upres SOPがPyro Configure Billowy Smokeのネットワークにも組み込まれていますので、ぜひ試してみてください。

    ▲【左】ボリュームにML Volume Upres SOPを適用することで、【右】解像度が向上し、ディテールが追加された様子が確認できる

    RBD関連では、クルマの破壊に特化したノード群が実装されました。Houdini 20.0で導入されたRBD Car Rigに対して破壊処理を行うもので、車両をパーツごとの破片に分割するRBD Car Fracture SOP、それをシミュレーションポイントに基づいて移動させるRBD Car Transform SOP、タイヤやサスペンションの変形を制御するRBD Car Deform SOPといったノードが追加されています。さらに、Pyro関連のShelfも多数追加されました。これらの作例は、Solarisを使ったレンダリングやCopernicusによる画像編集まで組み込まれており、非常に参考になります。

    ▲RBD Car Fracture SOP、RBD Car Transform SOP、RBD Car Deform SOPを用いた車の破壊シミュレーション。RBD Car Rigの使用が前提となるが、これまで複雑だった破壊ネットワークの構築が、数個のノードで代替可能となった
    ▲SOP用のPyroのShelfが新たに追加された。Solarisを用いたレンダリング用ネットワークも自動生成されるため、学習用途として最適である。紹介したもの以外にも複数用意されているので、ぜひ確認してほしい

    Solaris強化。描画の自由度がさらに向上

    Solarisのアップデートでまず挙げたいのが、Live Render LOPです。これを通してレンダリングを行うと、その結果がリアルタイムにRender Galleryへ反映され、レンダービューアのように活用できます。さらに、Copernicus側のFileノードにもLive Renderに関するパラメータが追加されており、Live Render LOPの出力結果をリアルタイムで取り込めるようになりました。また、ウインドウの右下には新たにLive Simulation Buttonアイコンが追加されており、これを使ってリアルタイム処理の有効・無効を切り替えることが可能です。

    ▲Live Render LOPノードを使用することで、Solarisにおけるレンダリング結果をリアルタイムでRender Galleryに追加できるようになった。レンダリング中のノードにはバッジが表示され、進行状況を視覚的に把握できる
    ▲ウインドウ右下に追加されたLive Simulation Buttonアイコン(緑枠)。21.0で実装されたLive系ノードの有効・無効を一括でコントロールできる

    Karmaでは、Huskコマンドにautotileオプションが追加されました。Huskとは、HoudiniがUSDデータをレンダリングするためのコマンドで、このオプションを有効にすると、1枚の画像を複数のタイルに分割してレンダリングし、それを自動で結合することで高解像度な画像を生成できます。なお、この機能はUSD Render ROPノードにも追加されており、GUIからも簡単に利用可能です。

    ライティング関連では、Geometry Light LOPの新設によって、ジオメトリライトの設定がより簡単になりました。Slap Comp機能も強化されており、Filter Listの実装により、GlowやDefocusなどのポストプロセス効果をリストから選択するだけで適用できるようになりました。

    ▲Geometry Light LOPの追加により、これまでRender Geometry Settingsノードで行なっていたジオメトリライトの設定が簡略化された。左から、Mesh、Points、Line、Volumeをライトとして設定した作例
    ▲【上】Filter Listを使用することで、【下】Slap Compに対して各種フィルタ効果を簡単に適用できるようになった。各フィルタ処理はCopernicus内に対応するノードが生成されるしくみだ

    注目すべきもうひとつの機能が、Shot Builderシステムです。これはSolarisで複数のショットを効率的に管理するためのしくみで、project.jsonファイルに基づいてショット構成を定義し、各ショットのレイヤー構造を管理できます。併せて、hpr:というprefix付きのパスが常に最新バージョンを参照するように設計された、HPR Asset ResolverというカスタムのUSD Resolverも利用可能です。保存時には内容が同一であれば書き出しを省略する仕様となっており、無駄なファイル生成を防げます。関連ノードとしては、Shot Load LOPやShot Layer Edit LOPなどが追加されており、現在はβ版ながら、今後の進化に期待が高まります。

    マテリアル周りでは、OpenPBR Surfaceの実装や、Karma Fur Shaderの2.0への進化も見逃せません。OpenPBRは、OpenUSDに準拠したPBRマテリアル仕様で、今後の業界標準を見据えた重要な動きと言えるでしょう。加えて、気になる新機能として、Bake GSplat SOPノードの実装があります。これは、点群ベースの3D表現技法であるGaussian Splatsを扱うためのノードで、GSplatデータをHoudini上でKarma XPUレンダリング用に変換することが可能です。

    ▲21.0で新たに実装されたOpenPBR(Open Physically Based Rendering)は、業界標準を目指して設計された物理ベースの共通マテリアルモデルだ。既存のStandard Surfaceの進化系にあたるもので、柔軟かつ多様な質感表現に対応している
    ▲Karma Fur Shaderが2.0へと進化。濡れた毛の反射特性をリアルに表現できるほか、羽根などに適用できる虹色の光沢表現にも対応

    UI面の改善としては、ビューポートの標準ライト表示において、従来のHead Lightに、Dome LightやPhysical Skyなどの選択肢が追加されました。標準でVulkanが採用されたことで、描画環境の向上が実感できるようになっています。

    ▲Scene Viewにおけるライト機能が刷新され、【左上】Head Light、【右上】Dome Light、【左下】Physical Sky、【右下】Three Points Lightsの各モードに対応し、Display Optionsから詳細設定が可能。Work Lightsとしてツールバーから選択でき、シーンのライトを使用する場合はScene Lights表示に切り替える必要がある。Ambient OcclusionやUse Ray Tracingオプションを有効にすれば、表示品質を高めることも可能

    INFORMATION

    ひたすら実践! Houdiniエフェクト

    エフェクト制作に興味がある初心者が、Houdiniらしい面白そうなエフェクトの制作方法を学べる書籍。
    著者:北川茂臣
    定価:6,600円(税込)
    発行:ボーンデジタル

    詳細・ご購入はこちら

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.326(2025年10月号)

    特集:実用デジタルツイン ショーケース
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年9月10日

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT_北川茂臣(No More Retake 3DCG屋さん向け Tips & Reference サイト)
    EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)