スペシャリストが多く、それぞれの専門性を活かした分業体制を取ることが多いマーザ・アニメーションプラネット(以下、マーザ) だが、『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』の制作においては、チーム同士が連携しながらひとつの課題に取り組む場面も少なくなかった。背景制作からエフェクト、ライティングに至るまで協働することで、監督の演出意図を確度高く画に反映している。


メイキング第3回となる本記事では、新たなツールやワークフローの導入も含め、こうした制作体制の下で構築された背景、BGリグ、エフェクト、ライティング&コンポジットの取り組みについて解説する。


記事の目次

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    マーザが挑んだ映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』
    ・(1)キャラクターIPを映画に仕立てるCG制作の新機軸
    ・(2)"動くぬいぐるみ"を成立させるモデル・リグ・アニメーション設計

    Information

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    tabekko-movie.com
    ©ギンビス ©劇場版「たべっ子どうぶつ」製作委員会

    Interviewee

    写真左から
    Sets&Propsリギングスーパーバイザー・森永健太氏、キャラクターモデルスーパーバイザー・何 雯氏、アニメーションスーパーバイザー・増子理準氏、キャラクターリギングスーパーバイザー・Harshad Bari氏、アニメーションリードアーティスト・浅村元樹氏、CGスーパーバイザー・堺井洋介氏、Sets&Propsスーパーバイザー・永田浩司氏、ストーリーボードアーティスト・山口将史氏、ライティングコンポジットスーパーバイザー・戸松 聡氏、FXスーパーバイザー・安部 清氏、FXリードアーティスト・大島遥日氏、レイアウトスーパーバイザー・冨山竜徳氏、ルックデヴ/クラウドスーパーバイザー・佐藤佑亮氏、アニメーションスーパーバイザー・坂本知万氏
    以上、マーザ・アニメーションプラネット

    Houdiniが力を発揮した背景制作

    背景制作では、まずシナリオを基にアートチームが2Dのコンセプトアートを制作し、それを起点にBGチームとの打ち合わせが行われた。ここで重視されたのが、スケール感とシルエットによる世界観の統一だ。お菓子のパッケージには背景が描かれていないため、何を正解とするかを探りながら、アートチームと話し合いを重ねて詰めていったという。

    Sets&Propsスーパーバイザーの永田浩司氏は、「単にシルエットを丸くすれば可愛くなるという発想ではなく、その空間がもつ存在感や物語世界の中での説得力まで踏まえて造形することを重視しました。シルエットの印象だけに頼らず、スケール感や質感、画面全体として調和の取れたバランスに仕上げることを意識しました」と語る。

    キャラクターとのバランスを踏まえつつ、ディテールを削りすぎれば物足りなくなり、リアルに寄せすぎれば画が馴染まなくなる。その足し引きを見極めることが、背景制作における大きなテーマだった。

    ▲Sets&Propsスーパーバイザー・永田浩司氏

    こうした前提の下、本作では背景制作の主要部分にHoudiniを採用した。永田氏によると、モデリングへの本格投入は今回が初めてだったが、プロシージャル構築によって後から入るスケール調整や形状修正にも柔軟に対応しやすくなったという。

    作中で象徴的な存在となる塔は、設定上約300mに及ぶ巨大な構造物として設計されている。ブロック単位で分割されたプロシージャル構造により、ショットごとにスケールや形状を調整することが可能で、実際にカットによっては大きさが変わる場合もあったという。ノードベースで構築されているため、修正時のUV展開にも柔軟に対応でき、同じくHoudiniを用いるエフェクトチームとの連携もスムーズに行われた。

    ▲塔がそびえる街のラフスケッチ
    ▲Houdini上での塔のモデル。プロシージャル構築により、ブロック単位で形状を管理し、ショットごとのスケール調整や変形に対応している

    ▲塔を下から仰ぎ見た遠景のショットと、間近から見下ろしたショット。こうしたショット単位の形状やスケールの調整に対応するため、プロシージャルに再構築できるHoudiniが効果を発揮した

    同様のプロシージャルなアプローチは、岩などの自然物の制作にも適用されている。HoudiniのVDBを用いることで、トポロジーを破綻させることなくメッシュを再構築でき、分割の制御やUV展開にも柔軟に対応可能だ。こうした手法は以前から社内で活用されてきたものだが、本作では大規模な背景制作の中でその有効性が改めて発揮された。

    ▲HoudiniのVDBを用いて岩をプロシージャルに再構築。トポロジーを破綻させることなくメッシュの分割や調整が可能で、UV展開にも柔軟に対応できる

    大量のBGリグを効率的に作成するワークフロー構築

    本作のリギングは、キャラクターと背景プロップで担当を分けて進められている。背景リグを担当したのはSets&Propsリギングスーパーバイザー・森永健太氏と、経験の浅いジュニアアーティストの2名。背景プロップだけでも約90点に及ぶアセットを扱う必要があり、限られた人数で効率的に作業を進めるためには、工程の共通化と自動化が不可欠だった。

    ▲Sets&Propsリギングスーパーバイザー・森永健太氏

    そこでSets&Propsリグチームでは、パイプライン上で管理される、アセットトークンと呼ばれるアセット情報を基に、リグ構築に必要な処理を自動化。モデルデータを読み込んでツールを実行するだけで、グローバルコントローラの生成や各種設定、ファイル出力までを一括して行える環境を整備した。

    これにより、シンプルなリグであれば最短30秒で構築が可能となり、大量のアセットにも対応できる体制が構築された。「可能な限り共通化と自動化を行い、少ない手順で作業を進められるようにしました。作業者が変わっても迷わず作業できる環境を整えることを意識しています」(森永氏)。

    • ▲パイプライン経由で読み込まれたモデルデータには、アセットトークンと呼ばれるアセット情報が付与される。この情報を基に、リグ構築を自動化するツールが設計されている
    • ▲ガイド生成とCustom Step Scriptsの作成・設定を一括で行うInit Guideツール。リグ構築に必要な処理をまとめて実行できる
    ▲リグ設定画面。全体移動のみのシンプルなリグであれば、ツール実行からパブリッシュまでを約30秒で完了できる

    ▲スキンクラスタやデフォーマのウェイトを書き出すツール。アセットトークンを基に出力先を自動決定するため、ファイルパスや命名を意識せず作業できる

    さらに、リグ構築時に用いるCustom Step Scriptsについても、全てのアセットで共通の構成とし、編集箇所を一箇所に集約。これによりデータ管理のコストを抑えつつ、作業者が変わった場合でも迷わず作業を引き継げるようにしている。


    また、本作ではマーザ独自のパイプライン機能である「Connect Group」を活用。モデルとリグの接続情報を保持することで、モデル更新時にもリグを作り直す必要がなく、作業負荷を大幅に削減している。これにより、モデル完成前にリグを先行して制作し、レイアウト作業を進めるといった柔軟な運用も可能となった。


    背景についても、動かす単位ごとにグループ化されたジオメトリに対してコントローラを自動生成するしくみを導入。多数の可動要素を効率的に管理しながら、必要に応じて個別調整を行える構成となっている。


    • ▲Custom Step Scripts。全Prop&BGで共通の構成を採用し、Init Guideツールによって自動生成・設定される。編集箇所を一箇所に集約することで、データ管理の負担を抑えつつ、作業の引き継ぎを容易にしている
    • ▲Connect Group。マーザのパイプライン機能で、別々に読み込まれたアセット同士をアトリビュートベースで接続するしくみ
    ▲リグ側に接続情報をもたせることで、モデル→リグの順に読み込むだけで自動的に接続が行われる。モデル更新後もリグの再作業が不要となり、先行制作や作業効率の向上に寄与している

    BGリグの構築は、モデル読み込み後にInit Guideツールでデータを準備し、スクリプトによって必要なコンポーネントを一括生成する流れで進められた。これにより基本的なセットアップは短時間で完了し、その後はコントローラ形状の調整や必要に応じた構成変更といった作業に集中できる。

    また、モデル更新時にもリグの再作業が発生しない設計とすることで、手戻りを抑えながら効率的に作業を進められる体制が整えられている。

    • ▲モデルの読み込み
    • ▲Init Guideツールでデータを準備し、スクリプトによってgeoGp単位でコンポーネントを生成。不要な箇所は削除して調整する
    • ▲ガイドをビルドすることでリグを生成。コントローラサイズはジオメトリに応じて自動調整される
    • ▲必要に応じてコンポーネントタイプやコントローラ形状を調整。モデル更新時もリグの再作業を最小限に抑えられる

    BGチームとエフェクトチームの協業で実現したお菓子の廃棄場シーン

    お菓子の廃棄場シーンでは、たべっ子どうぶつたちが積み重なったお菓子の上を動き回るため、背景との密接なインタラクションが常に発生する。このため、エフェクト作業を想定したBG制作が求められた。

    そこでBGチームとエフェクトチームが連携して制作方針を検討し、最終的にはエフェクトチームがHoudiniを用いてお菓子のモデル配置からエフェクト作業までを一貫して担当する体制を構築した。「モデル配置とエフェクトを分業せず統合的に扱うこのアプローチは、これまでマーザではあまり例がなかったものであり、新たな制作体制への挑戦でもありました」(FXスーパーバイザー・安部 清氏)。

    ワークフローはFXリードアーティスト・大島遥日氏が構築した基盤をもとに整備され、2〜3名のスタッフがショットワークを担当。大きなトラブルもなく運用され、効率的な制作が実現した。

    ▲FXスーパーバイザー・安部 清氏
    ▲FXリードアーティスト・大島遥日氏

    まず、レイアウトチームが用意した仮サーフェス上に、HoudiniのScatterとCopy to Pointsを用いてプロキシモデルを配置。この段階では箱同士の貫通が発生するため、まずRBDシミュレーションAを実行し、貫通を回避する処理を行なった。ここでは「i@found_overlap = 1」を用いることで、シミュレーション開始時から自動的に貫通を回避するしくみを構築している。

    ▲レイアウトチームが用意した仮サーフェス
    • ▲仮サーフェス上にScatterでポイントを生成し、Copy to Pointsでプロキシのお菓子箱を配置。この段階では箱同士が貫通している
    • ▲貫通を解消するためのRBDシミュレーションAを実施。Packed Pointsに「i@found_overlap = 1」を付与することで、開始フレームから重なりを自動的に解消する。従来約1時間半かかっていた処理を42秒まで短縮
    ▲RBDシミュレーションAのノードツリー。ここでは重力は使わず、ただ貫通を回避するのが目的。①snackBoxのbulletで使用されるshapeをBoxかCylinderに分岐。Convexを使わずに効率化している/②背景はHeight Fieldでコリジョン生成
    • ▲③めり込み回避のため、発生するv、wをリセットする
    • ▲④配置時の位置にとどまるようにforceを設定する

    続いて、配置された箱を自然に積み重ねるために追加のRBDシミュレーションBを実施。重力による安定化に加え、斜面では雪崩が発生しないよう重力方向を制御するなど、シーンに応じた調整が加えられた。

    なお、このプロジェクトは最終的にMayaで全てレンダリングするワークフローのため、Sets&Propチームにお菓子の箱ごとの.assファイル(Arnold Scene Source)を出力してもらい、それをポイントインスタンスした.assをパブリッシュしている。

    ▲RBDシミュレーションBの実行結果。50フレームに1時間半ほど要する
    ▲RBDシミュレーションBのノードツリー
    • ▲①お菓子の箱がいつまでも転がるのを防ぐ処理
    • ▲②斜面は雪崩れにならないよう、gravityの方向を斜面の法線方向に設定
    ▲10種類のお菓子箱の出現割合はAttribute Randomizeで制御し、シーン全体のバランスを調整している

    さらに、.assのデータはMaya上ではバウンディングボックスでしか表示されず、アニメーターが作業できないという問題があった。そこでアニメーター向けに、ポリゴン数を削減しパスを分岐したモデルを別途用意し、作業に必要なエリアだけを表示/非表示できるようデータを分割することで、アニメーターが快適に作業できる環境を提供した。

    ▲シーン全体のトップビュー。L0〜L24までエリアが分割されており、ショットごとに必要なエリアを表示/非表示して作業する

    また、お菓子の箱の山の中を動き回る不気味な存在にたべっ子どうぶつたちが追い詰められていくショットのエフェクト作業では、シミュレーション領域を限定し、動きが必要な箇所のみをアクティブ化。さらにage属性を用いてたべっ子どうぶつたちから離れた要素を停止させることで、動きにメリハリを与えている。こうした制御により、大量のオブジェクトを扱いながらも、演出的な意図を維持したシミュレーションが可能となった。

    ▲シミュレーション領域を限定し、対象エリアのみをアクティブ化(@active=1)
    • ▲シミュレーションのノードツリー
    • ▲①アニメーションの動きに合わせてシミュレーションにもメリハリを付けるため、age属性を導入。キャラクターから離れて一定時間が経過したら@active=0に設定し、挙動を停止させている
    ▲完成ショット

    アートチームと連携したライティングフロー

    ライティングは、アートチームとの密接な連携を前提としたワークフローで進められた。まずアセット完成時に基準となるベースライトを作成し、それを用いてシークエンスの指針となる「マスターショット」用素材をレンダリングする。このレンダリング画像に対してアートチームがペイントオーバーを施し、演出意図を反映した「カラーキー」を作成。このカラーキーを基準にマスターショットのライティング作業を進めていく。

    マスターショット完成後は、その設定を類似カットに展開することで効率的にショットを量産が可能なフローになっている。この手法自体は過去の作品でも採用されてきたが、本作では特にスピードが重視され、より効率的な運用へと最適化が図られた。

    ▲赤枠で囲われているのがこのシークエンスにおけるマスターショット。類似アングルの中から、他カットへ最も展開しやすいショットを基準として選定される。物語上の重要度ではなく、画づくりの観点で決定される点が特徴だ

    ▲左:ベースライトでレンダリングしたマスターショット/中央:アートチームがペイントオーバーで仕上げたカラーキー。監督とアートディレクターが事前に方向性を定めた上で制作されるため、監督からのリテイクはほとんど発生しなかったという/右:完成カット

    具体的にはライト数を意図的に抑えたシンプルな構成とし、ディフューズカラーを活かした画づくりを採用。さらにデノイザをパイプラインに組み込むことで、レンダリング時間を従来の約4分の1にまで削減している。

    「竹清監督はいわゆるCG的な立体感よりもフラットな画を好んだため、ライトの数を意図的に減らし、ディフューズカラーを活かした画づくりを行いました」(ライティングコンポジットスーパーバイザー・戸松 聡氏)。

    ▲ライティングコンポジットスーパーバイザー・戸松 聡氏

    また、回想シーンでは、アートチームが制作した、レイヤー分けされた一枚画をベースに、Nuke上で各要素を再配置する手法が用いられている。

    2D素材を3D空間上のプレーンに投影し、カメラプロジェクションによって奥行きを付加。カメラワークに対応した立体的な表現を実現しており、平面的な素材でありながら動きのあるカットとして成立させている。

    また、素材が細かくレイヤー分けされていることで、Nuke上での再構成やカメラ制御が可能となっている。こうした手法により、2Dのビジュアルを活かしつつ、映像としての奥行きや動きを付与する表現が実現されている。

    ▲回想シーン
    ▲レイヤー分けの例
    ▲背景
    ▲Nukeの3D空間上でのカメラプロジェクション。2D素材をジオメトリに投影することで、カメラ移動に追従する奥行き表現を実現
    ▲Nukeのノードグラフ

    らいおんくんがゴーレムドンの体内へと入り込んでいくシーンでは、ビジュアルの方向性を定めるまでに複数のアプローチが試みられた。初期段階では、体内を紫を基調とした宇宙的な空間として描き、らいおんくんの色も反転させるなど、非現実的な表現を検討。その後、色味を調整したバリエーションや、らいおんくんをモノクロ化する案など、異なる方向性の検証が重ねられた。

    こうした試行錯誤を経て、最終的にはらいおんくんを背景に馴染ませる処理へと収束していく。完成カットではAfter Effectsのプラグイン「Goph」を用い、画面全体の質感に溶け込ませることで、シーンとしての一体感を成立させた。

    ▲らいおんくんがゴーレムドンの体内に入っていくシーンの初期検討案
    ▲1stテイク。体内を紫基調の宇宙的な表現とし、らいおんくんの色も反転
    ▲2ndテイク。体内の色味を調整し、らいおんくんの色を元に戻した
    ▲3rdテイク。らいおんくんの色をモノクロに変更
    ▲OKテイク。最終的にAfter EffectsのプラグインGophを使用してらいおんくんを背景に馴染ませた
    ▲マーザ内製のNuke用リライトツール。レンダリング済みの画像に対してライティング情報を再計算し、後処理で光の方向や強度を調整できる。右はパラメータ調整画面で、スライダ操作により直感的な制御が可能

    全3回にわたって紹介してきた『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』の制作は、シンプルな造形をもつキャラクターをいかに映像として成立させるかという課題に対し、各工程が密接に連携しながら解決を図っていったプロジェクトだった。

    キャラクターモデルやリグ、アニメーションでは、限られた情報量の中で感情や動きを伝えるための設計が追求され、背景やエフェクトではHoudiniを活用したプロシージャルなアプローチにより、大量のアセットを破綻なく扱うしくみが構築された。さらにライティングやコンポジットでは、アートチームとの連携を軸に、カラーキーを基準とした効率的な画づくりが行われている。

    こうした一連の取り組みに共通しているのは、単一の工程で完結させるのではなく、各チームが前後の工程を見据えながら設計を行うマーザの制作姿勢だ。本作は、可愛らしいビジュアルの裏側にある、精度の高いパイプライン設計とチーム連携の積み重ねによって成立しているといえるだろう。

    TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota