2026年7月31日(金)、東京工芸大学 芸術学部 アニメーション学科の協力の下、同大学中野キャンパスにて「2026年 第1回 VES Japan Sectionイベント」が開催された。米国VES(Visual Effects Society)本部より認可されたVES Japan Sectionのお披露目と、2027年3月に授賞式が開催予定の第50回より「日本アカデミー賞」に新設されるVFX賞の設立を祝う、2部構成の記念イベントである。

第1部では初代Section Chairの鈴木 勝氏がVESの概要と今後のビジョンを語り、運営を担う12名のBOM(Board of Managers)が紹介された。第2部では日本アカデミー賞「VFX賞」の新設に尽力した8氏が登壇したほか、『キングダム 大将軍の帰還』(2024)で第48回日本アカデミー賞特別賞を受賞したVFXチームを代表して、VFXスーパーバイザー 小坂一順氏による特別講演も行われた。一連の模様をお届けする。

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    「VES(Visual Effects Society)」とは

    第1部は、今年2月に催された『The 24th Annual VES Awards』ショーリールと、VES本部のBoard of Directors(BOD)Chairを務めるKim Davidson氏(SideFX創業者)から届いたビデオレターの上映で幕を開けた。続いて登壇したのは、VES Japan Section初代Section Chairに選ばれた鈴木 勝氏(白組)。設立宣言に続き、VESという組織の全体像が改めて紹介された。

    公式サイトの説明では、「VES(Visual Effects Society)」とは、エンターテインメント業界においてVFXに携わるあらゆる実務者を包括的に代弁・代表する、唯一のグローバルな名誉専門家団体(Professional Honorary Society)とある。この文脈における「名誉専門家団体」とは、誰でも加入できるものではなく、VFX業界で一定年数以上の実務経験、著名な実績、そして既存会員からの推薦といった要件を満たしていること。その上で理事会による厳正な審査を通過した人物のみが入会を認められる、ステータス(名誉)の高い専門組織と言える。

    本イベントを開催した時点で50を超える国々に5,500名以上の会員を擁し、映画、テレビ、CM、アニメーション、特殊会場向け映像、ゲーム、ニューメディアといったエンタテインメントのあらゆる領域に会員が携わっている。そして、2026年1月には日本とスペインにセクション(支部)が新設され、世界18セクション体制となった。

    ここで押さえておきたいのが、VESが個人単位で加入する会員によって構成された団体だという点である。

    企業や法人が名を連ねる業界団体ではなく、VFXスーパーバイザー、アーティスト、プロデューサー、技術開発者、教育者、スタジオ経営者といった個々のプロフェッショナルが集う「名誉協会」を標榜している。またVESは、労働組合(ユニオン)ではない。賃金交渉や福利厚生の提供といった、労働組合が本来担う機能は有していないため、その性格は専門家協会(ギルド)に近いものと言えるだろう。

    VES Japan Sectionについても、鈴木氏から基本的な位置づけが示された。日本での法人登録は行なっておらず、あくまで米国VESの傘下に置かれる組織であること。セクションの所属は居住地域に基づいて決まるため、会員が海外へ拠点を移せば、その地域のセクションに所属することになること。各Sectionにも理事会が設置され、任期を定めて役員を選出する民主的な仕組みで運営されていることなどが紹介された。

    ▲ VES内に設けられているCommittee(委員会)一覧。それぞれの具体的な活動内容については、今後Japan Section会員向けに紹介していく予定だという(筆者撮影)

    VES本部の活動として紹介されたのは、毎年開催される「VES Awards」、各種パネルディスカッション、機関誌『VFX Voice』の発行、2025年に第4版が刊行された『The VES Handbook of Visual Effects』など。加えて、会員特典として提供される作品のスクリーニングシステム、アーカイブやビデオギャラリーといったリソースにも言及があった。なお、ウェルビーイングやヘルスケアに関する支援など、現時点では日本に適用されない特典もあるという。

    「VES自体の活動をより多くの人に伝えていきたいですし、より多くの人に理解してもらいながら、より多くの人に協力してもらって、コミュニティとしてどうつくっていけばいいのかをみんなと考えていきたいと思っています。50か国以上のネットワークがあることを活かして、日本の人たちが多くの人とコミュニケーションを重ねながら、色々な気づきを得たり、逆にJapan Sectionから本国へフィードバックするなど、幅広く活用していただければと思っています」(鈴木氏)

    ▲『The 24th Annual VES Awards』の様子(Photo by Moloshok Photography, Inc.

    Japan Section運営メンバーも公正な投票によって選出

    続いて、セクションの運営を担う12名のBOM(Board of Managers)が紹介された。VES資料によれば、役員の選出は米国VES本部の主導の下で行われている。

    今回選ばれたJapan Sectionの初代運営メンバーについては、2026年1月27日の支部設立発表を受けて、2月12日にVES本部から理事選出の投票案内が配信され、2月23日に投票が終了。3月26日にVES本部のGlobal ManagerであるShannon Cassidy/シャノン・キャシディ氏、Global CoordinatorであるJade Ghali/ジェイド・ガーリー氏の立ち会いの下で理事とScreening、Membership Communicationsの担当が決まり、4月7日の第1回理事会で残りのポジションが確定したという。

    ▲ Japan Section初代運営メンバー。左上から、セクション代表(Section Chair)/鈴木 勝氏、セクション副代表(Section Vice Chair)/菊地 蓮氏、会計(Treasurer)/木下瑠美子氏、秘書(Secretary)/ノブタコウイチ氏、秘書補佐(Vice Secreary)/植木孝行氏、試写会担当(Screening Lead)/山口 聡氏、メンバーシップコミュニケーション担当(Membership Communications Lead)/竹村英樹氏、ソーシャルメディア担当(Social Media Lead)/塙 芽衣氏、イベント企画担当(Event Planning Lead)/秋山貴彦氏、スポンサーシップ担当(Sponsorship Lead)/松永孝治氏、イベント企画補佐(Assistant Event Planning)/オダ・イッセイ氏、メンバーシップアウトリーチ&エデュケーション担当(Membership Outreach & Educational Lead)/ジェフリー・デリンジャー氏(※本イベントは欠席)。詳細は割愛するが、多くのメンバーが複数の役職を兼務しているが、本業との両立や属人化を避ける意図などが窺える

    VES Japan Sectionの構想自体は、決して急ごしらえのものではない。VES Japan Sectionメンバー向けの「設立のお知らせ」では、初代Global Outreach Japan Chairを務めた鈴木D.美智子/Michiko Suzuki Durinski氏からのメッセージが掲載されている。それによると同氏は1990年代半ばに、VES初代ChairのTom Atkin/トム・アトキン氏へ日本支部設立を相談したものの、当時の日本ではVESの存在自体がほとんど知られておらず、思うようには進まなかったという(時代的に言葉の壁も大きかったはずだ)。

    その後、日本地域を任された同氏は、現地の状況を理解する信頼できるパートナーとして秋山貴彦氏(4Dブレイン)に日本側のサポートを託した。単に人数を増やすのではなく、実力と実績を認められた人々が核となる組織であるべきであり、その理念を保ちながら準備が重ねられたことが、設立に時間を要した理由のひとつでもあったと同氏は綴っている。

    会場では、BOMメンバーからひと言ずつ抱負が語られた。

    「海外と日本で半々くらいの割合で仕事をしているので、そういう意味でも日本のVFXのために貢献できることがあるのかなと思っています」(菊地氏/Amazon Web Services(AWS))。

    「今回のイベントは、VES本国とのやり取りをしっかり行なった初めての活動でしたので、私としても大変勉強になりました」(木下氏/KRADLEX、劇団四季)。

    「VESメンバーとしての活動は10〜15年くらいやらせてもらっていますが、やっと念願の日本セクションができました。海外とのつながりももっとつくれればと思っています」(ノブタ氏/神央薬品)。

    制作現場との距離感に触れるコメントも目立った。

    「ゴリゴリの制作現場で働いている人間なので、制作の意見をダイレクトに上へ届けられるように頑張ります」(植木氏/白組)。

    「最近は作品制作にあまり関わっておらず、どちらかというとシステム開発やビジネスをやっているのですが、VFXを産業として認めていただけるかたちにしていければと思っています」(山口氏/アデリープランニング)。

    目下の課題としてくり返し挙がったのは、世代の偏りであった。

    「これからを担う若い方々の勧誘にも力を注ぎたいと考えています。そのためにも、VESメンバーとのコミュニケーションだけでなく、情報発信にも尽力したいと思います」(竹村氏/ボーンデジタル)。

    「普段はVFXプロデューサーとして映画やドラマの制作に取り組んでいます。VES会員の方々は年齢層が高めなので、SNSを活用しながら、自分よりも若い会員を増やせるように尽力したいと思います」(塙氏/Spade&Co.)。

    「その会員の年齢を引き上げているのは私だと思いますけれども」と、会場を沸かせたのは秋山氏。本人いわく、1996年に日本で初めて「VFXスーパーバイザー」という肩書きで映画『ACRI』のクレジットに名を連ねた経歴の持ち主だ。「これからも、こういったかたちでイベントを企画したり懇親会をやったりして、皆さんの横のつながりを増やしていくような会をどんどんつくっていきたい」と語った。

    松永氏(フリーランス)も「CGやVFXをやり始めて40年近くになります。どうせやるなら盛り上げて人生を全うしたい。まずはベテランが中心となって起ち上がりましたが、少しずつ若い人たちにバトンタッチしていけるようにがんばります」と続けた。

    オダ氏(ナイス・デー)は「とにかく柔軟で、でも尖っているセクションになればいいなと思っています」と締めくくった。

    最後にマイクを取った鈴木氏は、業界を取り巻く環境の変化にふれた。「スペシャルエフェクト(SFX、特殊効果)と呼ばれていた時代からデジタル化が進み、ビジュアルエフェクト(VFX)と呼ばれることが増えていきました。今では映画表現に不可欠なものになっています。このタイミングで日本にVESセクションが誕生したのは大変嬉しいことですし、日本アカデミー賞にVFX賞が新設されたのと同じタイミングで生まれたことも、とてもありがたいと思っています」。

    日本アカデミー賞に「VFX賞」が誕生するまでの道のり

    第2部のテーマは「祝・日本アカデミー賞 VFX賞 設立」。

    日本アカデミー賞の正賞には、第1回から設けられていた作品賞、監督賞、脚本賞、各種俳優賞、音楽賞、外国作品賞に加え、アニメーション作品賞、撮影賞、照明賞、美術賞、録音賞、編集賞といった部門賞が追加されてきたが、VFXの正賞は設けられずにいた。

    だが、日本アカデミー賞協会は今年4月22日付で新たに「VFX 賞」を正賞に設けることを発表した。新設されるVFX賞は、実写作品における「VFXスーパーバイザー」が対象となる。

    2027年3月12日開催予定の第50回「日本アカデミー賞」授賞式より、VFX賞が加わるという。長年にわたる日本のVFX業界関係者の悲願が、ついに実を結んだかたちだ。

    第2部では、その実現に尽力した塩田周三氏、石橋俊雄氏、秋山貴彦氏、松永孝治氏、ノブタコウイチ氏、鈴木 勝氏、オダイッセイ氏、ジェフリー・デリンジャー氏の8名が紹介された。

    ▲ 左上から、塩田周三氏(VFX-JAPAN代表理事)、石橋俊雄氏(VFX-JAPAN理事)、秋山氏、松永氏、ノブタ氏、鈴木氏、デリンジャー氏、オダ氏

    欠席したデリンジャー氏を除く7名が壇上に上がった後、最初にマイクを取ったのは、VFX-JAPAN代表理事の塩田氏(ポリゴン・ピクチュアズ)。

    VFX-JAPANは2012年に設立された職能団体であり、現在の会員数は700名強に上るという。塩田氏は、法人設立当初から事務局長を務め、2016年から代表理事を兼務していた結城 徹氏の逝去を受けて、2025年に代表理事へ就任した経緯を説明した。

    「VFX-JAPANを起ち上げる頃、VESとしてやるのかVFX-JAPANとしてやるのかが議論されていた最中に私もおりました。14〜15年におよぶ悲願が、しかも『ゴジラ-1.0』という日本の作品が第96回アカデミー賞で視覚効果賞に輝き、世界に認められたという流れの中で叶ったことを、心からお祝い申し上げたい」と喜びを語った。

    VFX-JAPAN設立当時をふり返ったのは秋山氏だ。

    「VFX-JAPANを起ち上げた理由のひとつに、映画の現場でVFXをやっている方々が、昔はわりと肩身の狭い思いをした時代があったことがありました」。2012年の設立後、日本アカデミー賞側にVFX賞の新設を打診したこともあったが、当時は実現に至らなかったという。

    潮目が変わったきっかけとして秋山氏が挙げたのは、『ゴジラ-1.0』(2023)が第96回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞したことだ。日本のスタッフによる同賞受賞は史上初であり、この快挙が大きな後押しとなった。

    「『ゴジラ-1.0』が米国アカデミー賞の視覚効果賞を獲るかもしれないという時流と、松永さんの『このタイミングで働きかけないと永久にダメだと思う』という熱い思いを受けて、じゃあもう1度みんなで日本アカデミー賞にアプローチしようという感じで、このあたりのメンバーが集まったんです」(秋山氏)

    その松永氏は、中学生の頃に自分でお金を払って観た初めての洋画『E.T.』(1982)に感動して映画に憧れ、CGを志してNHKに入局。長らくドラマのCGやVFXに携わった後、2023年に早期退職してフリーランスとなった。「大きい組織に所属していると、やっていいこと、やっちゃいけないことがあるので動けませんでした。3年前に自由になって、やりたいことをやっていこうとすごく思っていました」と松永氏。

    VFX-JAPAN理事・事務局長の石橋氏は「一緒に並んでいらっしゃる方々のすごく熱い思いで、今回の正賞が実現したのだと思います。特に松永さんの熱い思いに動かされて、裏方をさせていただいた次第です」とふり返る。

    ノブタ氏は「VFXだとわからないまま観ている映画もあると思うので、そこでみんなが評価されて、良い仕事になるといいなと思いました」と、賞が持つ意味を語った。

    鈴木氏は「私は影で支えるようなかたちで微力ではあったのですが、現場でがんばっているスタッフの姿を見て、いつかこの人たちに光が当たると良いなと思っていました」とコメント。

    オダ氏は「14年前、VFX-JAPANができたときに秋山さんから『とにかく日本アカデミー賞にVFX賞をつくるためにもこの活動を始めるんだ』とおっしゃられていたことを覚えています。以来、日本映画界の重鎮の方々に会う度に『(VFX賞の新設を)プッシュしていただけませんか』とお願いしてきました」と長い道のりを述懐した。

    会の中盤では、日本アカデミー賞実行委員会 委員長の市川 南氏(東宝)から寄せられた祝辞が読み上げられた。今や映画になくてはならないVFX部門が長らく表彰されずにきたこと、業界の尽力により第48回で『キングダム 大将軍の帰還』VFXチームが特別賞を受賞したこと、このたび正賞としてVFX賞が新設されたこと。そして今後は毎年、VFX部門から優秀賞が5作品選ばれ、その中から最優秀賞が選ばれることが伝えられ、参加者に対して日本アカデミー賞協会への入会と投票への参加が呼びかけられた。

    ▲ 松永氏のFacebook投稿より。『ゴジラ-1.0』の第96回アカデミー賞視覚効果賞ノミネートが発表された瞬間を、白組 調布スタジオで山崎 貴監督らとともに見守ったときの映像。数多くのメディアで取り上げられた本作の快挙が、日本アカデミー賞へのVFX賞新設に向けた再挑戦を後押しした

    『キングダム 大将軍の帰還』VFXメイキング特別講演

    続いて登壇したのは、第48回日本アカデミー賞特別賞を受賞した『キングダム 大将軍の帰還』(2024)のVFXチームを代表して、VFXスーパーバイザーの小坂一順氏(Spade&Co.)。VES会員でもある小坂氏による特別講演では、シリーズのVFXが置かれていた実制作上の条件が、率直な言葉で語られた(ここでは公開可能な範囲に留めて紹介する)。

    『キングダム』シリーズの2作目、3作目、4作目は、撮影からポストプロダクションまでの一連の制作がまとめて進められたという。そのはじまりは2019年4月。1作目『キングダム』(2019)の公開から間もなく、プロデューサーの松橋真三氏(CREDEUS)より2作目以降のVFX制作について相談を受けたことだった。

    「2作目以降をやるには、どうしても中国の大平原と騎馬隊が必須でした。馬のCG表現をリアルに描けなければ、そもそもこの企画が成り立たなかったんです」。そこで、まずは馬のCG開発がModelingCafeの協力を得て進められ、それと並行してエンバイロンメントの制作も動き出した。

    ▲『キングダム 大将軍の帰還』VFX制作に関する特別講演を行なった小坂氏(筆者撮影)

    2019年10月に第1回、2020年1月に第2回の中国ロケハンを実施。しかし2回目の帰り際には、武漢における新型コロナウイルス感染症流行の報が伝わり始めていた。

    「まさかその後、中国に行けなくなるとは思いもしませんでした。僕の記憶では、日本からスタッフがまとまって中国に行けたのは、それが最後でした」。

    当初は全体の半分ほどを中国で撮影する計画だったが、コロナ禍によって大幅な縮小を余儀なくされる。クランクイン後も中断が2度あり、クランクアップまでにおよそ1年を要したという。

    そうした制約は撮影規模に直結した。当初、小坂氏はエキストラが最低でも300人は必要だと伝えていたが、密を避ける観点から最大100人に絞られることとなる。しかも敵味方に分かれて戦うシーンでは両軍に振り分けるため、実質は半分になってしまう。当初は3列目あたりまで実際のエキストラで埋められると見込んでいたというが、「並べてみると、もう1列目で終わっちゃうんですね(苦笑)」。結果として3列目以降はCGの群衆に置き換えられた。

    馬も同様で、当初想定していた100頭に対し、日本での手配は10〜15頭ほど。メインキャストが乗る役馬はモブには使えないため、実質的な頭数はさらに減る。2頭引きの騎馬戦車に至っては、日本ではその訓練に半年を要すると言われ、実際に用意できたのは1組のみ。ほとんどのカットをフルCGで表現する必要に迫られたそうだ。

    「物量・クオリティともにハードルがかなり上がりましたが、期間が延びたことで撮影方法を入念に検討できました。それはCG・VFXも同様で、当初の想定よりもカメラから近い距離でもCGだとバレないような群衆をつくれるまで、スキルを高めることができました」と小坂氏はふり返る。

     映画『キングダム 大将軍の帰還』VFXメイキング 

    講演の後半では、第48回日本アカデミー賞授賞式当日の様子が語られた。受付を済ませると、作品ごとにテーブルが用意されるビフォアパーティがあり、授賞式に臨む俳優たちの衣装やメイクがその場で仕上げられていく光景も目に入ったという。授賞式の後にはアフターパーティ、さらに作品ごとの二次会と続き、1日を通してお祭りが演出されていたと小坂氏はふり返った。

    「特別賞の受賞が決まったときは、もう緊張してしまって、これは辞退してもいいかなくらいに思っていたんですけど、終わってみると、来年も行きたいなと(笑)。第50回のVFX賞もねらっています!」と意欲を見せ、講演を締めくくった。

    制作者自身が、自らの言葉で制作の実情を語る機会は決して多くない。VESやVFX-JAPANといった職能団体が主催するイベントは、こうした一次情報に触れられる場としても機能している。会員として参加することの実利のひとつが、この点にあると言えるだろう。

    日本アカデミー賞「VFX賞」への期待と課題

    続いて石橋氏より、日本アカデミー賞協会への入会方法が案内された。

    入会資格はふたつ。ひとつは、VESの会員、またはVFX-JAPANの個人会員・特別会員であること。もうひとつは、現在も含めて劇場公開映画の事業に継続して3年以上従事していることだ。ただし2026年度の申し込みでは、資格に該当しない申請者についても、過去の実績をふまえて特別に許可されたケースがあったという。

    「『私は資格を満たしていますか?』といったご質問があれば、VFX-JAPANの事務局から日本アカデミー賞協会に問い合わせをいたします」と石橋氏。

    会員期間は1月5日から12月31日までの1年ごとの更新制で、募集は年末に行われる。手順としては、まずVFX-JAPANが用意するWebフォームに必要事項と自身が手がけた作品などを記入して提出。VFX-JAPANが推薦状にまとめて日本アカデミー賞協会へ送付し、受理されると協会から手続き一式の書類が届く。それを記入・返送することで、1年間の会員資格を得られる。なお、年会費は2026年度で2万円とのこと。

    日本アカデミー賞協会の会員特典としては、テレビ放映もされる授賞式に所定の参加費で出席できること、翌年の作品に対する投票権が与えられること、日本アカデミー賞の対象となる映画を協会指定の映画館(東京近辺、名古屋、大阪、京都)で鑑賞できること、年2回発行される会報を受け取れることなどが挙げられた。ちなみに2026年度に新規入会したVFX関係者は、VESから6名、VFX-JAPANから11名だという(※本イベント開催時点)。

    ▲ 日本アカデミー賞協会「会員」入会手続き要項(筆者撮影)

    続く質疑応答では、実務に踏み込んだ質問が相次いだ。

    まず挙がったのは、配信作品がノミネート対象になり得るのかという問い。これに対して石橋氏は、対象作品は日本アカデミー賞協会から提示されるものであり、ストリーミング作品の扱いは協会が決めることで、現段階ではわからないと回答。鈴木氏は、劇場公開が前提であり、その後に配信されるものについてはリストに掲載される、という既存のガイドラインを補足した。

    続いて松永氏から、選考プロセスにおける課題が示された。米国アカデミー賞の選考過程には、ノミネート作品のVFXチームによるプレゼンテーションの機会が設けられているが、日本アカデミー賞には現状そうした場がない。

    「日本アカデミー賞協会の方々と話をしていて、『あの映画のVFXがすごかったですよね』と言うと、『え、あれはVFXなんですか?』と言われてしまうことがあります」。インビジブルエフェクトなど、VFXだと気づかれない表現が中心の作品の場合、VFXのクオリティが高くても選ばれにくい。その構造をどのように改めていくかが今後の課題だと松永氏は指摘した。

    投票の仕組みについての質問には、塩田氏が答えた。VES Awardsの投票がVFX分野の会員によって行われるのに対し、日本アカデミー賞では細かい取り決めがなされておらず、会員が一斉に投票するかたちになっているという。

    「VES Japan SectionやVFX-JAPANに加入されている方々など、日本のVFXコミュニティがもっと力を入れていくしかありません。それぞれの会員が増えることで、より大きな声を届けられるようになると考えています」(塩田氏)。また、VFX-JAPANが主催する「VFX-JAPANアワード」の開催と投票の時期を見直し、日本アカデミー賞の投票時期より前に発表することで、業界へのインフルエンスを高めたいという構想も語られた。

    塩田氏の発言を受けて秋山氏より、第48回から新設されたクリエイティブ貢献賞についてはVESとVFX-JAPANの会員投票を経て候補が推挙されてきた経緯が紹介された。ただし、正賞となった後にどのような流れで候補が挙がるのかは未定だという。

    両氏のコメントのとおり、日本アカデミー賞のVFX賞に関してはまだ確定していない事柄が多く、VFX-JAPANやVES Japan Sectionを通じた提案や意思表示が、今後の運用に影響を与える可能性は高そうだ。

    個の熱意を、業界の総意へ

    VES Japan Sectionの発足と、日本アカデミー賞「VFX賞」の新設。この2つの出来事が同じ年に重なったことは偶然ではない。『ゴジラ-1.0』の第96回アカデミー賞視覚効果賞受賞という追い風を、業界がどう受け止め、どう動いたのか。本イベントで語られた証言は、その過程を具体的に示すものだった。

    一連の話から浮かび上がってくるのは、日本アカデミー賞「VFX賞」の新設が一個人や一企業の働きかけだけで実現したわけではないという事実である。熱意ある個人の行動が起点となったことは確かだが、それが実を結んだのは、職能団体という受け皿があり、日本のVFX関係者の総意として提案を届けるかたちを取れたからだ。逆に言えば、業界が抱える課題や改善に向けた提案は、個別の声のままでは届きにくい。

    その意味で、日本のVFX制作者による職能団体であるVFX-JAPANに加えて、国際的な専門家団体であるVESのJapan Sectionが発足した意義は大きい。前者は国内の制作現場の実感を束ねる受け皿として、後者は世界18セクションのネットワークへ日本の仕事を接続する回路として、それぞれ異なる役割を担っていくはずだ。

    日本アカデミー賞への提言や投票にかぎらず、両団体の会員数が増えていくほど、業界の声が反映される余地は広がっていく。同時に、日本のVFXが国際的な評価の場とつながる機会も増えていくだろう。関心を抱いた読者は、まず両団体の公式サイトやSNSを確認してみてはいかがだろうか。

    ▲ 会場のカフェテリアで実施された懇親会の様子。両団体は、VFX関係者が直接顔を合わせる機会としても機能している

    INTERVIEW & EDIT_NUMAKURA Arihito
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota