映画『ONE PIECE FILM RED』の劇中歌『ウタカタララバイ(ウタ from ONE PIECE FILM RED)』MVのYouTubeの再生回数が5,200万再生を超えている(2022年12月時点)。情報によると、「地球外生命体マルチクリエイター・ヲタきち」なる人物(?)が同MVの監督を務めたという。ヲタきち氏とはいったい何者……!? 興味深々、レッツインタビュー!

記事の目次

    その正体は
    3軸で活躍するマルチクリエイター

    CGWORLD(以下、CGW):ヲタきちさん、今日はよろしくお願いします。監督を手がけられたMV『ウタカタララバイ(ウタ from ONE PIECE FILM RED)』の再生回数が5,200万再生を記録していますね! そんなヲタきちさんに初インタビューということで、まずは現在のお仕事を含め、どういった活動をされているのかお聞かせください。

    ヲタきち:どうぞよろしくお願いします。これまではモーショングラフィックスを使ったCMなどの広告映像や、実写撮影とCG掛け合わせた企業VPをつくる仕事をしてきました。その後、VTuberのプロデューサーなどを経て、現在は実写からUnityを使った3DCGまで幅広く映像ディレクターの仕事を行なっています。映像業界から見ると「映像ディレクター」として、VTuber業界から見ると「マルチクリエイター」のような存在として認識されているのかな、という感じです。

    ヲタきち

    バーチャルYouTuber「ヲタきち」は、地球外生命体マルチクリエイターとしてYouTube活動を行う他、企業依頼の映像制作も行います。ワンアイデアを活かした撮影編集ギミックやグラフィックを掛け合わせた映像構成、イベント企画やグッズデザインなど、作る事全般が大好きな宇宙人です!

    2014年7月、映像制作会社「株式会社ナナメ」を共同起業。2018年10月に独立後、ディレクターを主な活動としたクリエイティブチーム「NIN」を設立。
    YouTube:@wotakichi 
    Twitter:@wotakichii_

    CGW:いろんなお仕事をされていますよね。いずれも映像に関わるお仕事をされていらっしゃいますが、名義の使い分けはどのようにされているのですか?

    ヲタきち:「本名名義」はどちらかというと堅いお仕事のときに、そしてチャレンジングなお仕事や、キャラクターを扱う案件の際は「ヲタきち」として活動しようという目的で使い分けてきました。シチュエーションやニーズ、TPOに合わせて使い分けていますが、今となってはほとんど垣根はないですね。これも一種のバーチャルだなって広く受け止めて貰えると嬉しいです(笑)。

    CGW:「ヲタきち」というキャラクターが存在するのも強みですね。

    ヲタきち:そうですね。心はもちろん大人ですが、「ヲタきち」は今年で5歳なんですよね(笑)。映像業界の大人が言うと説明がましい感じになってしまうことも、5歳で2頭身のヲタきちがコミュニケーションをとった方が温和に伝わることもあるのかなって。そういうところがVTuber業界やアバター文化の好きなところだったりするんですよね。

    CGW:すてきなキャラクターの使い分けですね! なるほど、お仕事の幅が広がるわけですね。いろいろと手がけられていらっしゃいますが、最近はどういったお仕事が多いですか?

    ヲタきち:あえて3軸に分けてみますね。まずは「実写撮影のディレクター」としてミュージックビデオや企業のブランディング映像の編集や監修に携わることが多いです。次に、Unityを使ったミュージックビデオの制作を手がけています。そのほかライブ演出や、「ヲタきち不動産」(VTuberさん向けのオリジナル配信部屋を制作)もUnityでつくったりしています。もう1つはヲタきち」というキャラクターとしてYouTubeに動画を上げたり、他のVTuberさんと一緒にコラボレーションしたりといった趣味に近い活動をしています。

    CGW:ほんとうに幅広く活動されているんですね!

    ヲタきち:あはは、そうなんですよ。でも実はつくることを口実に人と関わりたいだけだったりします。「今回は誰と一緒に仕事ができるのかな」といった感じで。1人で黙々と作っているより、気になっている方々と一緒にお仕事ができることにワクワクさせられるんです。だから、あまり特定のテクニックに偏りすぎないように意識していたりします。そういう意味でも「ヲタきち」の存在は有り難いですね。

    ネクライトーキーMV「北上のススメ」
    小名良平(NIN)名義の監督作品
    YouTubeプレイリスト「ヲタきち不動産 物件ご紹介」

    CGW:ヲタきちさんが所属する「NIN(ニン)」のホームページを拝見しました。「人情に厚いものづくりを」ってすごく良いコンセプトですね。なぜこういった思いを込められたのですか?

    ヲタきち:最初に会社を起業したのが8年くらい前で、当時はAbema TVなどの動画配信サービスやインターネット広告が急成長していた頃で、「モーショングラフィックスをやっていればとりあえず食っていける」みたいな時代だったんですね。そんなブームの渦中にいるうちに、どこか「自分らしさ」のようなものが取り残されていくような気がしたんです。

    CGW:大きな流れの中にいると自分を見失いそうになりますよね。でも、そんな自分の状態に気づけないまま、いつのまにか押し流されてしまっているかもしれません。

    ヲタきち:そうなんですよね。それで独立するときに「その人に合ったこと」や「自分だからこそできること」を仕事として引き受けたいなと思うようになって。現在NINのプロデューサーをしてくれている宮腰達也に相談した際に、「歌舞伎や芸能の言葉で仁(ニン)っていうのがあって……、」と話してくれたんです。僕は初めてその言葉を知ったんですが、役柄に合っている、直感的に納得出来る「雰囲気、らしさ」といった意味があるそうなんですね。

    CGW:ピッタリの言葉じゃないですか!

    ヲタきち:そう、「あ、それだわ。みたいな」(笑)。左右対象なものが好きだったりするのでアルファベットで書いたときの見た目も良い感じだし、前から読んでも後ろから読んでも「ニン」になるし。これが僕の「人らしさ」のアイデンティティになれば、という思いがありました。

    CGW:とても素敵なエピソードですね。

    ヲタきち:語るほどのことではないんですけどね(笑)。「仁」という言葉もあまり知られていないし、程よく誰もわかんない感じが良いなって。あまり重たい意味を持たせるのも引かせてしまうだろうなと。

    CGW:でもこうやってヲタきちさんとお話しをしていると、やわらかくも軸があって、ものすごく「人」の温かさを感じます。「人情に熱いもの作りを」というコンセプトに納得感があるし、そこからの「NIN/仁」の意味とエピソード。全てがしっくりときています。

    実在するアーティストとして好きになってもらいたい
    「ウタ」の二面性と心情をいかに魅せるか

    CGW:映画『ONE PIECE FILM RED』の劇中歌、MV『ウタカタララバイ』の監督をされましたが、どういった背景でヲタきちさんに依頼があったのでしょうか?

    ヲタきち:これまでにいくつかVTuberさんのミュージックビデオを制作させていただいているのですが、ディレクターと編集を務めたミュージックビデオの1つにMarpril(マープリル)というアーティストの『Girly Cupid』(2019)という作品があって。そのMVを評価してくださって今回ご連絡くださいました。「新しい『ONE PIECE』の映画の中で楽曲制作をするにあたり、ミュージックビデオを作っていただきたいです」と、TwitterのDMでご連絡いただきました。

    CGW:Twitterでのご連絡だったんですね!

    ヲタきち:はい。ONE PIECEの映画公式アカウントからだったのでしばらくはドッキリかと疑っていましたね(笑)。映画の世界観をそのまま表現するのではなくウタと音楽アーティストのコラボレーションにより生み出される「楽曲」から表現を考えてほしいということでご依頼いただきました。劇中で使用される全7曲のうちで3DCGを使うのは僕だけということだったのでどんなものを作っても被ることはないなと思いつつ、「モーショングラフィックスで歌詞を表示してほしい」というご要望に応えるかたちで制作していきました。

    【Ado】ウタカタララバイ(ウタ from ONE PIECE FILM RED)

    CGW:そういった依頼を受けて、どのようにとらえてビジュアルを作っていかれたのですか?

    ヲタきち僕の場合、「完全に見たことのない映像をつくる」っていうほど才能が豊かではなくて。それよりも「どこかで見たことがあるもの」という安心感の中に、ちょっとした違和感を加えて楽しんでもらえるコンテンツをつくりたいなといつも思っています。なので、今回も2割か多くても4割程度の「新鮮に思ってもらえるポイント」をつくろうという風に考え、また自分らしさを表現するにあたり、複雑な技術を使用せず見栄えが良い手法を探りました。

    CGW:等身大のヲタきちさんによる、ヲタきちさんらしい映像制作のスタンスなんですね。肩ひじ張っていない感じがすてきです! ウタというキャラクターの見せ方についてはどのように考えられましたか?

    ヲタきち『ウタカタララバイ』では、暗いカットの中でとりあえず何か光らせる!といった単純でカッコいいエフェクト処理はあまりしないようにしています。ウタというキャラクターが、ちゃんとこの現実世界に実在するアーティストとしてみんなに好きになってもらいたい。そういったオーダーでもあったし、僕としてもそう考えていたので表情や感情に意識が向かうようにと考えていました。

    ヲタきち構成としては「映画の中盤でウタが能力を発動したあたりで流れる曲です」と伺っていました。台本もいただいていなかったし、ウタの心情も伺っていなかったのですが、おそらく「追い込まれて能力を使わざるを得なくなる」という心情やストレスを歌った曲なのかなと想像し、逃げたい気持ちと立ち向かわなければならない気持ちによる、悪夢みたいな絵を表現しようと考えました。

    CGW:挑戦したことや難しかった点はどのようなところでしたか?

    ヲタきちまずは、完璧に作り上げられた『ONE PIECE』の世界観を邪魔をしないように気を付けていました。それを踏まえた上で、楽曲制作を手がけられたFAKE TYPE. さんによるラップをいかに映像で盛り上げるかがチャレンジングでした。当然ラップシーンがメインなんですが、いわゆる「1サビ」「2サビ」みたいな構成ではないし、だからといってストーリーだけで描くこともできないくらいすごく面白いつくりの曲になっているので、どこまでウタの心情を描きつつストーリーとリズムを楽しませるかの比重にこだわりました。

    画コンテの一部を公開!

    CGW:ラップシーンの映像をつくるって難しいんですね! ヲタきちさんはどのように解決の糸口を見つけたのですか?

    ヲタきち僕は普段、音楽を聴くときあまり歌詞を見ないんですね。同じくミュージックビデオの制作のときも極力歌詞を見ないようにして、耳から入ってくる言葉に意識を集中していたりするんです。みなさんもおそらく耳から入ってくる情報の方が印象に残ると思うので、同じように僕も耳に入ってきた言葉と音を最初のヒントにイメージをつくっていく事が多いですね。

    CGW:そうなんですね! でも『ウタカタララバイ』はそうはいかないですよね。

    ヲタきち:はい。制作にあたって歌詞を見る必要がある曲ですね。でも歌詞をしっかりと理解したからといって世界に深く入れるわけでもなく、リリックビデオのような性質を求められているわけでもないと思ったので、これはもう「何度も観て何度も聴いてもらうことで分かる映像作品」にした方が良いのかなと考えました。繰り返しみることでいつの間にか歌えてしまうようなものにするために、思い切って映像を細かくカット割りする手法でつくっていくことにしました。

    CGW:フォントの使い方も面白いですよね。

    ヲタきちフォントは「2つの系統」を作成しました。2種類のフォントを使っているという意味ではなく、「ウタの2面性」みたいなものを表現するためにシーンごとに使い分けています。僕は勝手に「闇ウタ」と言ってるのですが(笑)。彼女たちが登場するシーンでは全体の色合いを寒色系にして、フォントも明朝寄りのトゲのあるものを使って不安を表現しています。

    CGW:ただただ「きれいだな~」と映像に見とれていただけでしたが、そこまで計算されていたんですね! 

    「少しのギャップ」を軸に
    みんなを楽しませるものづくりを

    CGW:ヲタきちさんの映像って、どこか懐かしいものを見たときのワクワク感があるように思うんです。決して何かのマネをしているという意味ではなく、懐かしくも新鮮な印象を受けます。

    ヲタきち:そうかもしれません。僕が映像をつくるときって、「このソフトの新しい機能を使ってみよう」とか「斬新な表現で驚かせよう」という考えではなくて、誰もが見たことのあるものや経験が着想になることが多いんです。というのも僕自身、あまりにトリッキーな映像だと胃もたれしちゃうんですよ。知らないものを一気に取り入れられないというか、ギャップが大きいと大事なものが伝わらないような気がして。

    仮に、やりたいと思っていることや理想としていることを100%出し切ったところで「誰かがそれを評価してくれるだろう」というのはあまりにも他人に委ねすぎている気がしてしまう。僕にとって2~4割の新しさでも見てくれる人にとっては10割新しく感じるものだったりする可能性もあるし。表現者しか分からないものはなるべく避けて、「作品を見てくれる人の理解力とギャップ」の開きをどの程度にするか。そこが重要なんじゃないかって。

    CGW:なるほど。クリエイティブって、どこか他者とのちがいや個性をアピールするものだと思っていたのですが、自分を抑えた「調和と思い遣りのあるものづくり」は、観る人をしあわせにするんだなとしみじみと感じています。

    ヲタきち僕は「ワンアイデア」から作っていくことが多いのですが、それは「誰にとっても分かりやすい」方が良いと考えているからなんです。撮影現場にいるスタッフだって「今何をしてるのか」がわからないと、やっぱり楽しめないし提案出来ないじゃないですか。観る人もつくる人も、作品に関わる全員が自分のアイデアと経験で面白く補間してもらえるように、余白を残しておくように意識してたりします。

    VR - Virtual Reality (prod.by Snail's House) / KMNZ [Official Music Video]

    監督:ヲタきち&小名 良平

    CGW:観る人のことも一緒につくっている人のことも考えて、ご自身のことをしっかりとコントロールして制作されているんですね。本当に「監督(ディレクター)」という言葉がふさわしく、愛情がありますね。

    ヲタきち:あははは(笑)。僕はおばあちゃん子だったりするので、何ていうか「おばあちゃんを裏切れない」って思いながらつくっています。あんまり悪いことしちゃいけないな、と思いながら。

    CGW:いやもう、自分のこれまでをふり返るとすさまじい反省の気持ちが(笑)。

    ヲタきち:いやいやいや、もうホントに自分の課題にしてるだけなんですよ。守れないときもたくさんあって、もうきついなとかしんどいなとか、これは何も新しくないよって思うこともあって。なんでもそうかもしれませんが、最初にイメージを固めたものから下回ることが前提だと思うんです。「こういう人間でありたいな」と決めても下回ることを想定して、日々努力している感じではありますね。

    CGW:ものすごく心に染み渡るお話で、ヲタきちさんのおかげで「私もこういうことができてなかったな」とふり返るきっかけをいただけました。自分のダメなところを認めるのって、意外と浄化作用があるんですよね。なんだか少し救われたような気分です。

    ヲタきち:自分が作ったものが誰かの心の支えになっていたりもしますし。自分的に出来が悪くて反省しているようなミュージックビデオでも、誰かの人生の一部になっていたりするのを知ると、やっぱりカッコ良くありたいなと気が引き締まる思いがしますね。

    CGW:最後に、これまで10年以上にわたり映像制作に携わってこられましたが、大きな変化が続く今とこれからをヲタきちさんはどのように考えられていますか?

    ヲタきち:iPhoneが生まれインターネット回線が早くなり、誰でもパソコンとデバイスを持っていて。もっと言うと、誰でも最先端の技術を使って映像作品をつくることができる時代で、しかもそれが無料で使えるようになりました。100年くらいかかるような革新が10年で行なわれるようなスピードですよね。

    一方で、TikTokやYouTubeを観ていると「全員が良くできたものを見たがってるわけではないんだな」とうれしく思うところもあるんですよね。雑に編集されたネタ動画が流行ったり、クルクル回る猫がただ可愛いだけの動画だったり、まだまだ根源的に「面白い」とか「癒される」って思われるものは変わらないんだなって。

    需要が高まっていることは嬉しいかぎりですが、自分がその需要の大きな流れに乗る必要はないのかなと。僕はどちらかというと器用なことを売りにするよりも「不器用です、ごめんなさい」っていうスタンスでいる方が、仕事の層が広がるんじゃないかとも感じてるんです。むしろ器用すぎることがこれからのクリエイターの課題になっていくんじゃないのかなって、なんとなく感じています。

    ヲタきち氏の制作環境

    CGW:CG・映像業界でも技術革新が一気に進み、CGでできることの幅が広がりましたよね。CGの世界に入るハードルがどんどん下がる一方、クオリティはどんどん上がっていくし。

    ヲタきち:そうなると、それに見合った企業と予算で仕事をしないとやっていけなくなるので、スキルを活かすことの方がむしろ難しくなってきちゃっているのかなと。技術の方が需要に対してやや先行してるかもしれません。だから改めて立ち返ってみて、自分らしい表現をするためにその技術をフル活用する必要があるのかどうか、そしてその上で「自分の個性を上乗せして価値あるものにできているのか」を見つめる必要があるなと感じています。

    CGWヲタきちさんとのお話を通して、反省してみたり勇気付けられたり、考えさせられたりモチベーションをもらったり。大きな変化の中で見失いかけていたものに気付かされました。自分にふさわしいものづくりについて見つめ直してみようと思います。ヲタきちさん、今日は素敵なお話を本当にありがとうございました!

    ©️尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

    INTERVIEW&TEXT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE
    EDIT_柳田晴香 / Haruka Yanagida(CGWORLD)