製鉄所の爆発により時が止まった冬の街を舞台に、少年少女たちの葛藤と未来への挑戦を描く、映画『アリスとテレスのまぼろし工場』。アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2011)の脚本などで知られる岡田麿里氏が脚本・監督を務め、MAPPAが制作を担った長編アニメーション作品で、2023年9月15(金)から劇場公開された。今回はそのメイキングを全3回に渡ってお届けする。
MAPPAの技術力とこだわりで描き出す岡田麿里監督の世界
本作のCGディレクターを務めたMarcoの小川耕平氏は、岡田監督の前作『さよならの朝に約束の花をかざろう』からひき続いて2度目の参加となる。その経緯は、岡田監督の前作と本作で美術監督を務めている東地和生氏が、本作のCGディレクターもひき続き小川氏をと誘ったためだという。
ストーリーの鍵となる製鉄所の第五高炉は、小川氏のディレクションにより3DCGで表現。外観・内観だけでなく車両や電車、背景のカメラマップなども活用し、奥行き感のある、非常にリッチな質感の背景に仕上がっている。
今回注力した点について小川氏は「第五高炉の内観では、テクスチャを貼った背景素材をかなりの数レンダリングする必要があったので、その物量をこなすのが大変でした。5~600枚はレンダリングしたと思います。それと、カメラマップを使った3Dカメラワークにも力を入れました。使えば使うほど画的に効果が出てくるんです」と話す。
なお、製鉄所から現れる狼のような煙「神機狼」も3DCGや撮影処理によって幻想的に表現しているが、こちらの3DCGはMAPPAが手がけている。
撮影はMAPPAが担当。撮影監督の淡輪雄介氏は「作中、空や空間のひび割れの向こう側とこちら側を同じ空間内で表現するカットが多くありました。その処理や解釈が難しかったですね」と話す。ひび割れの表現は、物語の核心に触れる、作品上とても重要かつ難しい部分だが、見事な撮影処理により、わかりやすく効果的に表現されている。
美術との密な連携で描き出す第五高炉の3D背景
第五高炉の内観は、美術スタッフが作成したラフな美術設定とモデル、そしてロケハンで撮影した写真資料などを参照しながら3DCG制作を行なった。モデリングに3ds Max、レンダリングにはArnoldを使用している。
小川氏は制作をこうふり返る。「モデルにマッピングするテクスチャは、質感の設定を東地さんと細かく話し合いながらつくりました。それに、第五高炉の中はいろいろな時間帯のカットで登場しますから、ライト位置のバリエーションも用意して、提案しながら進めました。背景素材としてレンダリングした画像は、最後に東地さんがトーンなど色彩を整えて仕上げています。今回は美術監督と非常に距離感が近い現場で、チェックは週1回、頻繁に意見を交換しながらの作業でした。東地さんとはもう10年ほど一緒にお仕事させていただいているので、イメージの共有もスムーズです。テクスチャ制作も2~3日しかかかっていないんですよ」(小川氏)。
非常にディテールの豊かな舞台となった第五高炉だが、目立たない箇所はUVを展開せずに済ませ、逆に光の当たる箇所やカメラが寄る箇所は細かく質感が描き込むなどの工夫も施されている。
第五高炉の3DCGモデル制作のながれ
第五高炉の3DCG背景は、美術設定としてのラフモデルにディテールを足しながら制作を進めた。
時間経過の表現に使用した各種レンダリング素材
第五高炉の背景でレンダリングした素材の一部。ストーリー上の時間経過を反映し、ライトの調整などを行なっている。ライト関連の素材はArnoldでレンダリングし、その他の素材はスキャンラインでレンダリング。「Arnoldは簡単な設定で綺麗なライティングをレンダリングできるので、こういった背景制作にはうってつけです」(小川氏)。
(2)へ続く。
取材協力
撮影監督・淡輪雄介氏、撮影監督補佐・藤田健太氏(以上、MAPPA)、3Dディレクター・小川耕平氏(Marco)
CGWORLD 2023年12月号 vol.304
特集:限界に挑む! 最新モバイルゲームグラフィックス
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年11月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_大河原浩一
EDIT_海老原朱里(CGWORLD)/ Akari Ebihara、山田桃子 / Momoko Yamada