Meta Quest 2/Steam VR向けにリリース予定の3vs3の近接格闘を重視したVR対戦アクション『ブレイゼンブレイズ』。VRの没入感の中くり広げられる対戦アクションは話題となり、さらに現在オープンβ テストが開催中となっている。リリースに先駆け、現在開発中となる本作の制作の裏側を紹介しよう。
ユーザーの意見から端を発した本格マルチ対戦アクション
MyDearestにて現在開発中のVR対戦アクション『ブレイゼンブレイズ』。VRならではの没入感ある空間で殴り合う爽快なアクションゲームだ。
「本作は近接戦闘を重視した3対3でのオンラインマルチ対戦ゲームになっています。キャラクターにはそれぞれ特徴があり、各キャラクターごとに備わっているメインウェポンやプレイヤーが自由に選べるサブウェポンを駆使し、プレイヤー間で協力して戦うゲームです。企画の起ち上げには、ユーザーコミュニティからの意見を踏まえ、いくつかのジャンルのゲーム候補から選ばれたものを採用しました」(プロジェクトマネージャー・安井愛由実氏)。
現在、リリースに向けて開発が続いているが、企画が起ち上がったのが2022年の中頃、実制作期間は約1年ほどという非常に短い開発期間となり、当初ゲーム仕様、アートを含めたプリプロダクションが並行して進められた。
「ユーザーが求めるVRオンラインマルチ対戦というコンセプトで、モックモデルでゲーム仕様が検証される傍ら、キャラクターを含めたアートを詰めていきました」(安井氏)。ゲーム仕様に関しては、様々なルール形式が検証されつつも、誰もが気軽にプレイできるようなシンプルな操作性と併せて爽快なアクショングラフィックスが追求されていった。
「制作の中で大きな課題となったのが、Meta Quest 2のハードの制限でした。PCでのVRなどと比べてグラフィックスにかけられる容量はかなり制限されます。その中でVR空間で興醒めしないゲーム体感ができるグラフィックス表現を行うための試行錯誤をくり返しました」(アートディレクター、リードキャラモデラー・Genz氏)。
殴り合うメイン武器となるガントレットの金属的な表現やアクションを彩るエフェクト、ステージが破壊されるしくみなど、ゲーム体験が損なわれないよう、調整されていったという。
<1>Meta Quest 2で映えるキャラクター制作
ハードの制限を感じさせないリッチなキャラクター表現
現在、5体のキャラクターが準備されているが、スピードに秀でたキャラクターやパワーに秀でたキャラクターなど、それぞれに特徴がある。モックモデルを用いたプリプロダクションを進めながら、各キャラクターの特徴が決められキャラクターデザインが進められた。
「日本だけではなく、世界中でプレイされるゲームを目指していますので、キャラクターデザインは海外のデザイナーに依頼しました。ライオットというキャラクターから始めましたが、最初ということもあり、かなり時間を要しました」(Genz氏)。
世界で好まれるデザインを推敲しつつ、アクションギミックを含めたガントレットのデザインの変更など、制作側からのアイデアも組み込まれていったのだという。
実制作の中で課題となったのはやはりハードの制限であった。「プリプロを経て早い段階から各モデルに充てるポリゴン数の割り振りを決めました。プレイヤーからの画面では自分はガントレットと武器で表示され、敵と相対するかたちになりますが、自分のガントレットは25,000ポリゴン、サブウェポンは最大4,000ポリゴンとしています。対して敵となるキャラクターは最大25,000ポリゴンとして、LODで15,000、7,000を目指して作成しています」(Genz氏)。なお、ゲーム全体で25万ポリゴン、背景10万ポリゴンが指標とされたという。
ポリゴン数の制限に加えて、質感に関わる制限も大きかったという。PBR(Physically Based Rendering)は使用できないという前提で、IBL(Image-Based Lighting)を採用されたとのことだが、スペキュラやラフネスなどマップを多用することはできない。そのため、ノーマルマップを基本にマットキャップを使ってディテールをつくり上げる手法を採ったとのことだ。
「PS5などハイエンドなグラフィックスを日頃から目にしているユーザーは目が肥えています。そのユーザーを満足させられる体験を提供しないといけないのは、結構厳しいところでもありましたが、制限のある中で挑んでいくのは楽しいところでもありました」(Genz氏)。
プリプロダクション
モックモデルを用いてのプリプロダクション。ゲーム仕様と併せてグラフィックス制作の計画が進められた。割けるポリゴン数の割合や、モーションの取捨選択、エフェクト効果の検討が長期にわたって行われたという。
キャラクターアート
現在、実装予定の5体のキャラクターアート。世界での販売を視野に向け、海外のデザイナーに依頼された。ガントレットはアクションによるギミックがデザインに反映された。
キャラクターモデル
キャラクターは基本サブディビジョンサーフェイスモデリング→ローポリにベイクといったワークフローが採られた。抜きのアルファ処理は重くて使用できないため、髪の毛や睫毛なども全てポリゴンで作成されている。
選択可能なウェポン
サブウェポンはLOD0の最高クオリティの状態で4,500ポリゴンという制限。ガントレットの高クオリティに見劣りしないよう、ハイポリの段階でできるだけディテールを詰めてからベイク処理された。
主観モードのガントレット
ガントレット主体のバトルがメインということもあり、使えるポリゴン数全てを投入しモデリングされた。またMeta Quest 2という制限のある中、現行ゲームハードに見慣れたプレイヤーがプレイしても見劣りしないクオリティを出すためにグラフィックエンジニアと協力し、プロジェクト初期からR&Dがくり返されたという。
キャラクターの質感設定
キャラクター用シェーダは、ベースマップ、ノーマルマップ、マスクマップ、マットキャップテクスチャの基本4枚構成。マットキャップ用テクスチャとして、R:Matcap1(モデル全体のテカリなどの質感用)、G:Matcap2(エッジダメージや強調したいテカリ用)、B:Emission1(常時発光、明滅などが可能)、A:Emission2(フラグで追加発光)となり(R,Gでシルバー&ゴールドなどの異なった質感を表現可能)を1枚のテクスチャで表現。また、スキンモードにて、超軽量な疑似的SSSを再現し、顔などは個別にアンビエントの割合や影を薄くする処理が施された。
<2>没入感あるマルチバトル
レスポンス重視のアクションとエフェクト効果
「制作において最も苦心したのはVRのアクションゲームとしての体感でした。見映えはもちろん重要ですが、操作に対してのレスポンスが鈍いとゲーム体験としては失敗となりますので、そのバランスをいかにとっていくかが鍵となりました」(モーションディレクター・三井 亘氏)。
モーションの制作は、モックを使ってのプリプロ時から継続して進められたというが、当初はモーションキャプチャを使用せずに手付けで行なっていたとのこと。「モックを使ってのプリプロの延長上で作業している期間が非常に長かったのですが、最終的にはモーションキャプチャを使って量産することに決めました。どんなモーションを採用し、どういう仕上がりするかといった取捨選択を手付けで作成しながら行なっていきました」(三井氏)。作業を進めながら必要なモーションのリストを作成し、モーションキャプチャの収録へと進められた。
モーションキャプチャは自社内にキャプチャスタジオが新設され、収録が行われたが、合わせてモーション制作のフローが構築され本作でも活用されている。「リギングを自動生成するツールを開発し、キャプチャデータをながし込むフローを整理しました。それにより量産化とヒューマンエラーを防ぐことにつながりました」(テクニカルアーティスト・大沼勇輝氏)。オンラインゲームとして今後もキャラクターの追加などがあった際にも、おおいに役立つフローとなっている。
ゲーム体験としてエフェクトも非常に重要な要素だが、作成にあたっては制限が多かったようだ。「アクションに伴って発生するエフェクトは体験上重要な要素ですが、Meta Quest 2では半透明の設定は使用できませんでしたので、そこを補う工夫を施しています。また、アクションによってステージ(マップ)の全てが破壊可能なのですが、そうしたしくみも容量との戦いでしたね。ステージのルックに関してもライトマップをベイクすることはできなかったので、マスクを用いてディテールを補っています」(Genz氏)。
モーションキャプチャの活用
自社スタジオでのモーションキャプチャ収録の様子。撮影エリアは5.5×5.5メートルほどとのこと。収録にあたってはプリプロダクションからの制作を通じてモーションリストが作成された。
キャラクターリグ
キャラクターのリグは全キャラ共通となっている。自社開発のツールによってキャラクターの体格に合ったリグが自動的に生成されるようになっている。これによりモーションキャプチャで収録した骨のアニメーションデータをリグへ簡単にながし込むことが可能となり、大幅な制作コストの削減につながったという。
モーション作成
モーションはVRアクションとしてのレスポンスを重視して調整されている。
ステージとエフェクト
CGWORLD 2024年5月号 vol.309
特集:『グランブルーファンタジー リリンク』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年4月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT&EDIT_渡邊英樹 / Hideki Watanabe
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada