今年5月10日(金)に第1幕が公開された『コードギアス 奪還のロゼ』。6月7日(金)からは第2幕も公開中だ。今回は第1幕の内容をメインに、「Zi-アポロ」など3DCGで描かれたナイトメアフレームのモデリングからアニメーション付けまでを詳しく紹介する。
新たなナイトメアフレームによるスタイリッシュなロボットアクションに注目!
「コードギアス」シリーズの新作アニメ『コードギアス 奪還のロゼ』が5月10日(金)より毎月劇場上映され、全4幕を展開する。本作の見どころのひとつは、ナイトメアフレーム(以下、KMF)によるメカアクションバトル。作画アニメと見紛うほどケレン味にあふれた画面を3DCGで表現したのは、これまで数多くのサンライズ(現:バンダイナムコフィルムワークス)作品を手がけ、クリエイターからの信頼も厚いCGスタジオ・武右ェ門だ。
CGI監督を務めた篠田周二氏は「以前にもサンライズ作品に携わってきましたが、今回は求められるレベルがとりわけ高く、何度も重田 智さん(メカニックデザイン・メインアニメーター)とのやり取りをくり返しながら「コードギアス」シリーズとしての“正解”を探っていきました」と語る。
演出面や動きにおける大きなヒントとなったのは大橋誉志光監督からもたらさせた「フィギュアスケーターのようなしなやかさ、『必殺仕事人』のような活劇スタイル」といったキーワード。これらを基に演出方法を模索し、「伝統芸能における“見栄を切る”ような格好良さ」(篠田氏)と目標を定め、表現を追求していったという。
本作で3DCGが担ったのはKMFのほか各種車輌や作画補助のガイドなど。制作は2020年年末からアセット制作を開始し、セットアップを経て21年秋からカット制作をスタート。23年6月に全話のCGパートをフィニッシュさせた。
武右ェ門では従来、篠田氏がCG映像づくりにおける陣頭指揮を執っていたが、本作ではリギング・CGアニメーションチーフの笠原季生氏、モデリングチーフの今野 航氏、ルックデヴ・レンダリングチーフの七五三慶紀氏ら、社内の若手リーダーたちに役割を任せ、制作を通じて成長を促していった。「CGムービーではなく、視聴者に望まれている“アニメ”を目標通りにつくれました」と手応えを語る篠田氏。その制作プロセスを紹介していこう。
「Zi-アポロ」のモデリングとルックデヴ
超合集国KMF・Zi-アポロ(以下、アポロ)は、主人公機であるため、デザイン段階からモデリングまで入念に作業が行なわれた。最初に阿久津潤一氏(アストレイズ)が原型となるデザインを起こし、それに対する大橋監督のオーダーを重田氏が解釈し、デザインをブラッシュアップする。それを基に武右ェ門の方でラフモデルを作成し、重田氏からのチェックバックを反映させて完成モデルに至るというながれだ。
チェック指示から、「KMFらしさとは何か」を意識したと話す今野氏。「一般的なロボットよりもKMFは手足が長く、また見栄を切るアクションの際に干渉しないよう、背中のコクピットが小さくなっていたりします。面構成も複雑で格好いいのが特徴です」と語る。
CGプロデューサーの岡村慎治氏は「重田さんはデザイン上でひたすら格好良さを追求し、3D的な部分の整合性はわれわれに解釈を預けてくれました」と話すように、武右ェ門のアーティストには技術力だけでなく、高い読解力も求められていた。アポロは最初に制作した機体だったこともあり、キャッチボールの回数も多かったそうだが、実質的な制作期間は1ヶ月ほどでモデリングをフィニッシュさせたという。
高い戦闘能力を誇るアポロのモデル
主人公・ロゼの兄、アッシュが搭乗するアポロ。
アポロの胸部を飾るエングレイビング
アポロの胸部にはエングレイビング(銅版画の彫刻凹版技法)が施されたパーツが取り付けられている。これはアポロの「全身を武器とする」イメージを強調するためのデザインで、太陽をモチーフとしている。また、主人公であるロゼが搭乗するKMF「Zi-アルテミス」には、月をモチーフとしたデザインのエングレイビングが施され、2つで対になっている。ギミックとして劇中で使われることはなかったが、各パーツに何らかの意味合いをもたせたいという大橋監督の意向で付け加えられた。
肘刃の変形ギミック
アポロの肘部分には刃が収められている。攻撃の際は、刃がそのまま下がるのではなく、黒いヒンジのパーツがせり出し、それが手首まで降りてくる設定だ。ラフ稿(画像右)の時点ではギミック部分の機構が固まっていなかったため、今野氏が解釈した上で、大橋監督や重田氏と相談して設定した。この部分のほかにも、腕やつま先部分で設定のミキシングを行なったため、今野氏はメカデザインとしてもクレジットされている。「お二人ともこちらの提案を柔軟に受け入れてくださり、かなり自由につくらせていただきました」(今野氏)。こうした積極的な取り組みは、いわゆる“待ち”の時間を減らし、工期の短縮にもつながったという。
カメラからの距離に応じたディテールの調整
CGメカを作画調に表現する工夫のひとつが、カメラの距離に応じてモデルのディテールを変えること。作画アニメがロングレンジでは線の数やハイライトを減らすことに倣い、本作ではロングレンジの場合はアウトラインの線だけを残し、ディテール線を省略した素材を使用した。寄り状態では標準的な線の素材を使った。また、ミドルレンジのときは両者を50%ずつオーバーラップさせた素材を使用。この後、さらに撮影で処理がかけられて完成画面となる。
アポロのルックデヴ
本作のルックデヴも作画アニメらしく見えるようなテクスチャが施された。手順としてはまず、仮色の状態でモデルの形状を完成させた後、アウトラインの線画で出力し、重田氏がハイライトと影付けの領域を設定する。この工程と同時進行で色彩設計スタッフが本番色を決め、指定された影付けに基づいた配色のテクスチャ作成を行なった。
アニメらしい影の表現①
KMFなどのメカの影は、当初は3DCGらしいグラデーションのある影を想定していたが、セルアニメ調に統一する意向から、大橋監督が気になる箇所をチェック。レンダリングチームがカットバイでAfter Effectsを使ってレタッチを行なった。「スタッフには苦労をかけましたが、最終的に仕上がった画面を見るとやはりこちらの方が見映えが良かったので、苦労が報われました」(七五三氏)。
アニメらしい影の表現②
第2話・CUT-244。アポロとネオ・ブリタニアのKMF・ヴァルプニルの戦闘シーン。「最初のころは重田さんから光源や影付け周りのご指示をいただいていましたが、話数が進むと『格好良い感じで!』という指示だけでも、この作品の影付けの方向性が見えてくるようになりました」と語る七五三氏。提供されていた影付け参考の完全コピーではなく、影の量や光源の向きを参考にこの作品の方向性を自ら導き出した。このほか、既存のサンライズのロボットアニメを研究して再解釈していったという。
(2)につづく。
CGWORLD 2024年6月号 vol.310
特集:ローポリから始める3DCG
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年5月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_海老原 朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada