今年4月よりTV放送され、現在はYouTubeにて公開中のショートアニメ『ARNOLD & PUPPETS/アーノルドアンドパペッツ』。非対称対戦型マルチプレイゲーム『IdentityV 第五人格』(Android、iOS、ほか)が原作で、制作にあたったのは今年20周年を迎えたカナバングラフィックスだ。
ゲームの内容をいかにアニメにしていくのか、CGWORLD vol.315(2024年11月号)では、その制作について全12ページにわたって掲載したが、今回はその一部を抜粋・再編集してお届けする。
人気ゲーム『IdentityV 第五人格』をショートアニメに富岡 聡氏&宮崎あぐり氏に経緯を聞く
これまでの実績と特徴が評価され海外からのアニメ制作依頼につながる
CGWORLD(以下、CGW):アニメ『ARNOLD&PUPPETS』は中国のゲーム会社NetEase Games(以下、NetEase)が制作したゲーム『IdentityV 第五人格』を原作とするアニメ作品ですが、どのような経緯で海外プロダクションのNetEaseからお話が来たのでしょうか。
富岡 聡氏(以下、富岡):今回、アニメ作品制作のお話をいただけたのは、当社は以前から様々な案件の制作を通して、ゲームやアニメのモデリングからリギング、アニメーション、エフェクトまでを担当させていただいているほか、私が同時に昔からオリジナルのアニメーション作品制作を手がけているという部分を評価していただいた結果のようです。海外のプロダクションは、必要であれば自分たちから興味のあるプロダクションにアポイントするというスタンスの会社が多いので、なんらかのプロダクションとしての特徴や強みがあった方が声をかけられやすいように思います。
監督、演出、絵コンテ、脚本
富岡 聡氏
CGW:『ARNOLD & PUPPETS』では富岡さんが脚本を作成し、それをNetEaseの方で校正をされたということですが、海外プロダクションならではのフィードバックはありましたか。
富岡:『ARNOLD & PUPPETS』に関しては海外案件ならではというフィードバックはなかったですね。ただ、本作はゲームの内容をそのままアニメにするのではなく、原作からのスピンオフでコミカルに描くというオーダーだったので、原作のキャラクターの性格や設定をどこまで残して作品に反映させるかというところが難しかったです。
ゲームではサバイバーとハンターという2種類の敵対関係のあるキャラクターが設定されているのですが、本作ではそういう関係性を取っ払って、荘園というひとつの場所でキャラクターたちが日常生活を送っているという内容になっています。主人公がハンター側のジョーカーなのですが、キャラクター性が一番伝わりやすいなと思って主役にしています。
CGW:スピンオフとしてどこまで設定を反映させるかが課題だったんですね。
富岡:そうですね。例えば、機械技師のトレイシーというキャラクターがいるんですけれども、機械技師なので様々なものをつくってジョーカーにいじめられたことに対して復讐するというながれをつくりました。ただ、NetEaseさんからトレイシーは人気がある可愛いキャラクターなので、あまり意地悪にしないでほしいというフィードバックがあって、最終的にはトレイシーがちょっといたずらしてやろうと思ったことが、ハプニングで意に反して作った機械が暴走するというながれに修正しています。
このような、ゲームのキャラクターたちの性格やバックグラウンドをどこまで変えていいのかの線引きなど、物語自体に対するチェックはありましたね。
有名ゲームのキャラクターたちをアニメ向けにリデザインしていく
CGW:続いて、宮崎さんにお伺いしたいのですが、キャラクターデザインや、背景デザインを詰めていくなかでNetEaseとはどのようなやりとりをしながら制作を進めたのでしょうか?
宮崎あぐり氏(以下、宮崎):キャラクターデザインや背景デザインのやりとりについては、海外と日本であまりちがいはない印象です。基本的にはわれわれデザイナーの方で、なるべく多くのデザインを作成して先方に提示して、要望や方向性のフィードバックをいただきながら詰めていきました。
もともと原作がゲームでオリジナルキャラクターも知れ渡っているので、NetEaseさんとはどのあたりを監修するのかという線引きを決めていただいて、アニメ用のキャラクターデザインを進めさせてもらっています。かなり早い段階で監修の線引きを決めてもらえたので、ラフデザインを出した段階でのダメだしはほとんどなかったですね。
アートディレクター
宮崎あぐり氏
CGW:キャラクターのデザインや表現上の制約はあったのでしょうか。
宮崎:子供も観るアニメに関しては、怖すぎる表現はNGになることが多く、顔がリアルで怖いものは少し柔らかい表現に修正しています。そのほか、基本的に子供が真似したら危険な暴力表現や、ネガティブなシチュエーション演出については丁寧にチェックされているようでした。
CGW:宮崎さんがデザインを行うときに意識していることは何でしょうか?
宮崎:基本的に当社の作品はショートアニメが多いので、くり返し見ていただいたときに何度でも楽しめるものになるように注力しています。映像を止めて見ると発見できるようなものなど、楽しめる要素をいっぱい入れたいと考えています。今回の『ARNOLD & PUPPETS』でも、背景デザインについてはキャラクターのパーソナリティや好きなものを資料や原作から読みとってなるべくデザインに落とし込むようにしました。
CGW:最後に海外コンテンツへの参画に興味のある方に対してアドバイスがあればお願いします。
宮崎:国内外関係なく、基本的にクライアントさんだったり、視聴者の人たちが何を求めているのか、何をつくりたいのかということを丁寧に聞き出して、それを反映させていくことが大切だと思っています。そのために、相手とコミュニケーションが重要です。最初に良い関係を築ければ、その後スムーズにいくことが多く、自由にやらせていただけることも増えていきます。
富岡:最初にお話しした内容とかぶってしまいますが、会社として何かしらの特徴をもっていたほうが良いと思います。オリジナルの作品がつくれるということだけではなく、他社ではつくっていないようなルックデベロップメントができるとか、アニメーションの表現力が高いとか。海外の企業から見て何らかのわかりやすい特徴が作品やホームページ、SNSを通じて発信できているとチャンスがやってくるのかなと思っています。
(2)に続く。
CGWORLD 2024年11月号 vol.315
特集:デジタルハリウッドの30年
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年10月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_大河原浩一 / Hirokazu Okawara
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDITOR_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada