今年4月よりTV放送され、現在はYouTubeにて公開中のショートアニメ『ARNOLD & PUPPETS/アーノルドアンドパペッツ』。非対称対戦型マルチプレイゲーム『IdentityV 第五人格』(Android、iOS、ほか)が原作で、制作にあたったのは今年20周年を迎えたカナバングラフィックスだ。
ゲームの内容をいかにアニメにしていくのか、CGWORLD vol.315(2024年11月号)では、その制作について全12ページにわたって掲載したが、今回はその一部を抜粋・再編集してお届けする。
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原作:『IdentityV 第五人格』/アニメ原案・脚本:カナバングラフィックス
声の出演:武内駿輔/監督・演出・絵コンテ・脚本:富岡 聡/アートディレクター:宮崎あぐり/制作:カナバングラフィックス/製作:クラヴィフ劇場運営委員会
www.arnoldandpuppets.com
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STORY
深夜のクラヴィフ劇場。今宵もアーノルド・クレイベルクの案内で人形劇が始まる。劇場の舞台の上に鎮座する人形劇の荘園の箱庭。アーノルドが箱庭に人形を置くと、人形は自我をもって動き出す。わがままだがひょうきんなジョーカー、ちょっとナルシストで怒ると止まらないレオ、マイペースで何を考えているの分からないベイン、荘園の住人たちのスラップスティックな1日が始まる
原作ゲームをリスペクトしつつ、いかにアニメ化するかの試行錯誤
アニメの世界観を決めるプリプロとアートディレクション
本作ではカナバングラフィックスの代表である富岡 聡氏が監督、演出、絵コンテ、脚本を務めている。初期段階からの企画や設定などのプリプロダクションも富岡氏が担当。
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監督、演出、絵コンテ、脚本
富岡 聡氏
そして、その後の工程でアートディレクションを監修したのは『ウサビッチ』(2006~2015)や『イナズマデリバリー』(2016~2018)でもお馴染みのアートディレクター・宮崎あぐり氏だ。
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アートディレクター
宮崎あぐり氏
今回は特に大きいプロジェクトということもあり、さらにもうひとり、アートディレクターとして関 厚人氏も参加している。
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アートディレクター
関 厚人氏
本作は前述のようにゲーム『IdentityV 第五人格』を原作とするアニメ作品だが、コメディタッチのスピンオフ作品ということもあり、アニメ向けのキャラクターデザインを宮崎氏と関氏が行なっている。最初はバリエーションを広げながらラフを描いて、クライアントであるNetEase側がどのようなテイストを求めているかを探るところからスタート。はじめはリアル寄りのルックも含めて提案していたが、最終的には同社が得意としている『イナズマデリバリー』のようなフラットなルックでデザインが詰められていった。
最初にデザインされたキャラクターは主人公のジョーカーだったが、原作の恐ろしいデザインをどこまでデフォルメしていいかのバランスが難しかったという。特にジョーカーは頭が大きく、髪はボサボサでバランスがとりにくかった。アクションが多い作品のため、脚を短くしすぎるとアニメーションを付けづらくなるので少し長くして、さらに物を掴む関係で腕をなるべく大きくするなど、動きとデザインのバランスをとるのに時間がかかったとのことだ。
また、鹿の頭を被ったキャラクターのベインを担当した関氏は「鹿の頭や首の虎挟み、毛皮のモコモコなど要素が多く、どうやって3Dにするのか悩みました」と語った。それぞれがユニークなキャラクターなので、それらをデザインとして成り立たせるのが大変だったという。
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そのほか、舞台のデザインも苦労した部分だ。細かなモデリングをしなくてよいように、テクスチャとして使えるデザイン画を用意してテクスチャに貼り付けていったり、背景のライティングの負荷を抑えるために、ライトの照り返しなどもテクスチャ側に描き込んでいる。
ゲームに出てこない設定を想像しながらの楽しい仕事だったとのことで、「背景には原作をモチーフにした隠し要素もあるので、ぜひ何度も見直してもらえたら嬉しいです」と宮崎氏。また、舞台のギミックは富岡氏の企画書に書かれた設定画を基にデザインされている。箱のカタチをした舞台が拡張して床が広がったり、舞台の床が円柱に入れ替わり回転したり、スピーディーかつ ダイナミックに変形していくのも見どころだ。そのため背景デザインはアートと言うよりも設計図に近く、3Dとして成り立たせるにために物理的な考証を加えている。
プリプロダクションと世界観の設定
企画がスタートした当初、富岡氏はシリアスなSF的なストーリーを提案。尺も30分あるものだった。提案はNetEaseから好評で手応えもあったが、その後、方針が変わりコメディタッチの作品を求められた。しかし、原作のゲームはコメディではなかったので世界観をどう構築し直すか悩んだという。その際、ゲームのキャラクターのぬいぐるみをヒントに、デフォルメされた人形のキャラクターたちが動き回る人形劇を思いついた。「スピンオフ、パラレルワールド的なものだと思っていただけたら」と富岡氏。この方向なら、ゲームの設定を活かしながらカナバングラフィックスらしいコメディの世界観を出せる妙案だった。図は富岡氏の企画書に描かれた初期のキャラクターラフ。
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Storyboard Proの活用
絵コンテは富岡氏の手により、Storyboard Proで描かれている。カットの絵を描いたらタイムラインに並べて動かし、さらに音やセリフも入れられるデジタル絵コンテ制作ツールで、通常のアナログな絵コンテのように紙を切ったり貼ったりする必要もなく、尺のタイミングも実際に動かして確認できる。さらに、従来の絵コンテだけでなく、動画形式のVコンテも出力できる。
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主人公・ジョーカーのデザイン
ジョーカーのデザインの変遷。
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©Joker Studio ©NetEase Games
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▲初期のジョーカーのラフ。宮崎氏の描いたもの。原作のエッセンスを残しつつ、人形劇に合うコミカルなデフォルメをしている -
▲宮崎氏によるジョーカーのラフなバリエーション。宮崎氏と関氏でそれぞれテイストの異なるラフを出した
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▲関氏によるジョーカーのラフなバリエーション。宮崎氏のものと比べて、頭身が低めのポップで可愛い印象だ。おおよそ、1~1.5日でバリエーションを展開して描くという -
▲デザインを詰めていく過程。ラフのフィードバックを受けてブラッシュアップしていく
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可愛くて少し不気味なキャラクターたち
ジョーカーのほかにも、本作には原作ゲーム『IdentityV 第五人格』おなじみのハンター・レオやベイン、そしてサバイバーも多数登場する。原作はハンターもサバイバーも不気味でダークな世界観だが、本作では見事にカナバングラフィックスらしくデフォルメされたコメディタッチのデザインになっている。キャラクターは皆な個性的で、シルエットを見るだけで誰かわかるような造形にされている。
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キャラクターの個性を活かした背景や荘園
背景制作のために描かれたアートの一例。
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▲舞台となるクラヴィフ劇場。原作のコンセプトアートをベースに、シンプルにデザインし直された -
▲ジョーカーエリアの設定画。ジョーカーが住んでいるエリアだが、原作にないものなのでサーカスの移動小屋をモチーフにイメージを膨らませて描いた。ジョーカーの憧れの存在である踊り子・マルガレータのポスターが所狭しと貼られているのがわかる。モデルにテクスチャとして貼り込むだけで成り立つほど、細かいところまで描きこまれている
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(3)に続く。
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CGWORLD 2024年11月号 vol.315
特集:デジタルハリウッドの30年
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年10月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDITOR_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada