今年4月よりTV放送され、現在はYouTubeにて公開中のショートアニメARNOLD & PUPPETS/アーノルドアンドパペッツ。非対称対戦型マルチプレイゲーム『IdentityV 第五人格』(Android、iOS、ほか)が原作で、制作にあたったのは今年20周年を迎えたカナバングラフィックスだ。

ゲームの内容をいかにアニメにしていくのか、CGWORLD vol.315(2024年11月号)では、その制作について全12ページにわたって掲載したが、今回はその一部を抜粋・再編集してお届けする。

記事の目次

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    ショートアニメ『ARNOLD & PUPPETS/アーノルドアンドパペッツ
    原作:『IdentityV 第五人格』/アニメ原案・脚本:カナバングラフィックス
    声の出演:武内駿輔/監督・演出・絵コンテ・脚本:富岡 聡/アートディレクター:宮崎あぐり/制作:カナバングラフィックス/製作:クラヴィフ劇場運営委員会
    www.arnoldandpuppets.com
    ©Joker Studio of NetEase All Rights Reserved. ©IdentityV/クラヴィフ劇場運営委員会

    STORY
    深夜のクラヴィフ劇場。今宵もアーノルド・クレイベルクの案内で人形劇が始まる。劇場の舞台の上に鎮座する人形劇の荘園の箱庭。アーノルドが箱庭に人形を置くと、人形は自我をもって動き出す。わがままだがひょうきんなジョーカー、ちょっとナルシストで怒ると止まらないレオ、マイペースで何を考えているの分からないベイン、荘園の住人たちのスラップスティックな1日が始まる

    デザイン画を忠実に再現し、タッチ感もテクスチャで表現

    モデリングで最もこだわったのは、アートディレクターたちが描いたデザイン画を忠実に再現することだった。実際に作品を見てみると手描きのコンセプトアートがそのまま動いているようで、そのねらいは達成できている。

    モデリングの工程は、まずデザイン画の特徴であるエッジの効いたメリハリのあるシルエットを再現することから始められた。テクスチャを外して、キャラクターのシルエットを確認しながらモデリングすることもあり、例えば、ジョーカーの義足部分にはスムーズに丸まった部分とカクッとしたところがあるが、そのメリハリのバランスをとることが求められた。デザイン図で描かれていないアングルはモデラーがながれを読み解き、補完してモデリングしてテクスチャを描いた。作業時間はメインキャラクターのモデリングとテクスチャワークで20日間ほどかけられている。

    一連の作業の中でも特に難しかったのはテクスチャだったという。本作ではライティングをほとんどせずに、キャラクターモデルのテクスチャワークで明暗や陰影を描き込んでシェーディング的な表現を実現。衣装の中の同じ赤い素材の中でも、微妙に色相を変えてデザイン画と同じブラシで描いたようなタッチを丁寧に入れている。

    テクスチャは慣れていないとベース色と影色の表現を混同して描いてしまうこともあるという。モデリングとテクスチャのスキルについて聞くと、「個人的にはモデリングもテクスチャも両方できて然るべきかと思います。テクスチャで陰影を表現するのはゲームCGのつくり方に近いですね」とモデリングディレクターの古部満敬氏。リアルな3DCGのコンテンツでは、ここまでテクスチャを描き込むことはないが、カナバングラフィックスのモデラーは比較的、今回のようなテイストの作品に慣れていて、美術的素養のあるスタッフも多いので対応できるという。

    モデリングディレクター
    古部 満敬氏

    テクスチャワークはSubstance 3D PainterPhotoshopを併用。はじめはSubstance 3D Painterのみの作業を試みたが、微妙な色合わせやはみ出し修正などはPhotoshopの方が取り回しが良く、Photoshopも並行して使うことになった。

    背景もキャラクターと同様のアートタッチだが、平面のステージがスライドして広がったり、円形にまるまったり、ギミックが盛りだくさん。特に回転するところは演出やアートと相談しながら詳細なモデリングを詰めていった。また、アニメーターからも意見を聞き、動かしやすい方法を考えながら、部署間をまたいだ総力戦で背景がつくられていった。

    テクスチャのタッチ感も再現したジョーカーのモデル

    ▲ジョーカーの全身のモデル。テクスチャで陰影まで描き込まれているので、ライティングしていないビューポートなのにデザイン画とかなり近い状態で表示される
    ▲ジョーカーの顔のアップ
    • ▲ボディのアップ。デザイン画のブラシのタッチが再現されているのがわかる……
    • ▲小物のステッチや腕の包帯などは、テクスチャではなくモデリングされている
    • ▲全身のワイヤーフレーム。モデリングの際は、テクスチャをOFFにしてシルエットを確認しつつ進められた
    • ▲顔のアップのワイヤーフレーム。口周辺の分割が多いのは、表情付けの大きなポイントだからだろう。ボーンではなく、ブレンドシェイプで表情を細かく付けることを見越したモデリングが行われている

    ベインのモデル

    • ▲ベインの全身。ベインは鹿のアタマを被った無口なキャラクター。首の周りはトラバサミが首輪のようにかかっていて、その下はモコモコした毛皮を着ているという、見どころの多い複雑な造形で、モデリングも手間がかかった
    • ▲ベインのアップ。鹿の顔の毛皮感や、トラバサミの金属感、毛皮のモコモコ感など、タッチで素材を描き分けている。カナバングラフィックスのモデラーは、こうしたゲームのようなタッチで描くテクスチャワークを得意としている
    • ▲全身のワイヤーフレーム。毛皮はスカルプトでモデリングされた
    • ▲顔のアップのワイヤーフレーム。角やトラバサミなどで折り目ツールを積極的に使っているのがわかる

    劇場の支配人・アーノルドのモデル

    • ▲アーノルドのモデル全身。アーノルドはほかのキャラクターとちがい、生身の人間という設定だ
    • ▲顔のアップ。デフォルメをされているが、骨格や筋肉ではアナトミー的な知見も入れて、リアルにモデリングされている
    • ▲全身のワイヤーフレーム。身体はテクスチャで描き込まれているために、形状自体はシンプルな仕上がり
    • ▲顔のアップのワイヤーフレーム。テクスチャを外すと、人間の顔の立体としてもしっかりと造形されているのがわかる
    ▲アーノルドは人間ということもあり、表情が豊かでつくり込みがされている。目、眉毛、歯などには他のキャラクターよりも写実的な表現が入っている

    ギミックたっぷりの背景モデル

    • ▲舞台背景を正面から。背景は人形劇の舞台のように書割となっているほか、パーツが細かく分かれているのがわかる。アートディレクターのデザインを検証しながらモデリングをしていく
    • ▲舞台背景正面から選択の表示を消した状態。テクスチャが陰影を含めて細かく描き込まれていて、ライティングがない状態でも成り立つようにつくられている
    • ▲回転するタイプの舞台背景作業画面。モデラーとアニメーターが相談しながら、動かしやすい構造の背景がつくられた。平面ではないのでオブジェクトの配置に苦労したという
    • ▲カメラから見た回転する舞台背景。このビューで監督やアートディレクターが確認を進めた。左右の書割の木にパースがついて、ダイナミックな印象になっている

    CGWORLD 2024年11月号 vol.315

    特集:デジタルハリウッドの30年
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年10月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDITOR_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada