「ライアンズ・ワールド」はアメリカのキッズYouTuberライアン・カジくんのYouTubeチャンネルだ。今回、紹介するのはそのチャンネルで公開されているCGアニメーションである。制作にあたったのは、りょーちも氏とOnakamaに集うデジタルアーティストたち。Blenderを活用した効率的なワークフローにより、少人数での制作を可能にしたという。その制作の様子を、全3回で紹介する。

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    【公式】ライアンズワールドアニメ「ニンジャアドベンチャー」第2話

    Blenderを活用したワークフロー、VRモデリングソフト「Gravity Sketch」の導入

    ▲左より、レスキュー編(1&3話)副監督:窪田 祥氏(フリーランス)、ニンジャ編&レスキュー編 監督・りょーちも氏(フリーランス)、タイムトラベル編 監督:清水理央氏(フリーランス)、プロデューサー・濱中 良氏(Onakama)

    濱中こちらが「ニンジャ編」のワークフローです。

    「Blender Fes 2024 AW」で講演で使用した、りょーちも氏によるワークフロー図

    濱中一般的なアニメ制作フローを基に、りょーちもさんがBlenderを使うかたちでワークフローをつくりました。ただ、Clip Studioも使ったりと工程が多岐にわたり、複雑になってしまいました。もっとシンプルにしたかったのですが、カット数が多かったりスケジュールの問題もあったため、まずはこのかたちを採用しました。

    りょーちも従来のワークフローにおいては、原画(アニメーター)から撮影さんへのお願いごとはすべてタイムシートに記載することになっています。つまり、タイムシートにはすべての情報が集約されるわけです。しかし、透過光の直感的な入れ方の指示などは、文字にすることは難しい。僕らの場合、3D映像にグリースペンシルで描き込み“作画”しているので、タイムシートに転載する意味はないんですよ。海外ではプリビズやムービーに対して指示を書き込むなどして制作を進めることがあるので、僕らもタイムシートではなく、ストーリーリールを主体にした方がやりやすいと判断しました。

    ――「ニンジャ編」ではモデリングに「Gravity Sketch」というソフトウェアを使ったそうですが、どんなソフトか教えていただけますか?

    りょーちもこれはVR上でモデリングするソフトです。以前に手がけた作品『夜の国』では、作画ガイドとして3Dキャラクターに起こすために使用していました。今回はさらにレベルの高いものをつくるため、このソフトを導入しました。

    ――VR上で絵を描けるソフトはほかにもありますが、その中で「Gravity Sketch」を選んだ理由は?

    りょーちもVRモデリングソフトには、大きく2種類あります。ひとつはスカルプティング系のソフト。もうひとつは面を貼っていくタイプのソフトです。前者はメッシュの量が膨大になり大変だったので、後者を選びました。「Gravity Sketch」は工業デザイン用のソフトで、車や靴のデザインに使われていて、シンメトリでつくることに向いていたり、ツールがシームレスで使いやすかったりと、とてもデザイナーに向いています。

    このソフトでモデルをつくった後、Blenderでボーンを入れてアニメーションさせ、表情付けや着色を行います。背景モデルはキャラクターやコンセプトアートを担当された高原さとさんがつくってくれていたので、それを活用しプリビズとして組んでいきました。

    濱中プリビズをやって良かったなと思った点は、クライアントからのリテイクが少なくなったことです。ある程度できた段階で確認してもらい、意思疎通を図ってから仕上げたので、無駄な作業を省くことができました。おかげで、10分間で130~140カットの作品を、少人数でも2ヵ月から2ヵ月半でつくり終えることができました。

    清水プリビズは、「こういう画づくりを目指せば良いんだ」と、精度高くビジョンを共有できた点も大きかったですね。

    ▲プリビズ
    ▲プリビズ修正
    ▲完成カット

    りょーちもVRソフトがあるとプリビズが本当に早くつくれるんですよ。空間に3Dモデルを置いて、空間の中でカメラワークを付けて出力する作業は、まるで人形遊びのように簡単です。

    ――3Dでレイアウトを切ることは現在でも行われていますが、もっと主観的なカメラワークが可能になるわけですか?

    りょーちもそうですね。コマ撮りっぽくなるんですよ。かつ、3DCG空間に自分が入るので実写の撮影のようにカメラを置いて調整できます。もちろん、その中で芝居付けを行うこともできます。

    ――特にニンジャ編の第2話には『SASUKE』(※TBSのTV番組)のようなアクションで見せていくシーンがあり、まさにVR上での制作の賜物でしたね。

    りょーちもあのシーンはライアンくん自身にヘッドマウント・ディスプレイを被ってもらい、どのタイミングでどこに向かって飛ぶかを指示してもらいました。それに合わせて僕らがカメラワークを付けたんです。まさにこのプロジェクトのコンセプトである、「ライアンくんと遊ぼう」を実践できました。

    清水当時10歳のライアン君でも指示できるくらい、VRでの操作は本当にシンプルなんです。3DCGの人形が目の前にあって、タイムラインに合わせるだけというシンプルな構造なので、技術的なハードルはとても低いんです。僕がたたき台をつくって、りょーちもさんがブラッシュアップするながれだったのですが、その受け渡しもとてもスムーズでした。VR環境だからこそ直感的にできるのが利点でしたね。

    ■第2作目「レスキュー編」の課題は、輪郭線と新メンバーへの教育

    ▲「ライアンズワールド」レスキュー編ep1

    ――第2作目の 「レスキュー編」では、どのような新しい挑戦があったのでしょうか?

    濱中「レスキュー編」でのチャレンジは大きく2つありました。ひとつはキャラクターモデルに手描きのような「輪郭線」を出すこと。もうひとつは、これまで2人で行なっていたプリビズを、ほかのBlender作画の方にもお願いすることでした。

    ▲ラインアートの画像

    ――「輪郭線」はどういった経緯で導入することになったのですか?

    りょーちもクライアントから強い要望がありました。第1作目「ニンジャ編」はどちらかというと、海外のアートアニメに寄せた画づくりだったのですが、先方には「もっと日本の伝統的なアニメーションのスタイルがほしい」という思いがあり、「キャラクターに線がほしい」とオーダーいただきました。ただ、3DCGで自然な線を入れるのは非常に大変なんです。

    ――技術的なハードルがあったんですね。

    りょーちもはい。当初、Blenderにあった線の機能は不安定で実用的ではありませんでした。そんな中、「Line Art」という新しい機能が登場したんです。「これならいけるかもしれない」と思い、テストでアニメーションをつくってみました。

    ――手応えはいかがでしたか?

    りょーちもこれが驚くほど上手くいって。周りに何の説明もせずに「これどう思う?」と見せたら、プロデューサーもクライアントも「え、これ作画じゃないの?」という反応で(笑)。そこで「よし、いける!」と確信し、「実はこれ、3Dなんです」と種明かしをして採用が決まりました。

    ▲ラインアート作業画面

    ――「レスキュー編」では新しいメンバーも加わったそうですね。

    濱中 はい。私たちが開催したBlenderのオンライン講座に来てくれた方々や、商業アニメの経験はないけれどBlenderが得意なイラストレーターさん、エンジニアの方など、様々なバックグラウンドをもつ方々に参加いただきました。

    ――現場未経験の方も多いチームだと、スキルの差など大変な部分もあったのではないでしょうか?

    窪田そうですね。Blenderの知識レベルは本当にバラバラだったので、不慣れな方がいればマンツーマンで画面共有しながら「これはこうですよ」と説明し、全体のレベルを底上げしていきました。

    ――制作手法もかなり変化したとか?

    窪田はい。りょーちもさんの開発スピードが本当に速くて、人の3倍速くらいあるんです(笑)。「レスキュー編」は1話、2話、3話と進むごとにつくり方が変わるので、その都度マニュアルを更新して皆に共有していました。りょーちもさんの中には最終的なゴールが見えていて、僕らはそこに向かってアップデートされ続ける手法についていく、という感じでしたね。

    りょーちも極端に言えば、作画の作品が3DCGに寄っていくようなながれです。それを最初から「全部やってください」と言うと、みんなパンクしてしまいますので、「まずはここまでできればOK」というところから始めて、皆さんの習熟度を見ながら「じゃあ、次はここまでやってみましょうか?」と、段階的に任せる範囲を広げていきました。

    ――どのように、Blender初心者の方のレベルを引き上げていったのでしょうか?

    りょーちも「ニンジャ編」と「レスキュー編」の段階で言うと、基本的には自分が創作の指針を立て、本人の思いつくままにやっていただきました。その中で補足したい部分をこちらで「こんな感じにしてほしい」と指示を入れ、そこから精度を上げてもらうかたちにしました。いわゆる作画監督のように、最終的にこちらで引き取って精度を高めるのは、このプロジェクトにはあわないな、と考えていました。当初はスムーズに進まない部分もありましたが、上達する人の姿を見ることができたのはとても良かったですね。

    窪田そうですね。皆さんどんどん上手くなって、「こういう機能はないのか」と積極的に尋ねてこられることも増えました。

    りょーちもプリビズをこなしてBlenderを覚えて……と、かなり大変だったと思います。それを乗り越えて、第3作目の「タイムトラベル編」になると、質問のレベルも上がっていました。窪田さんにいろいろと教えていただいたことが大きな力になっているんだなと実感しました。

    ――フレッシュな方ならではの表現のセンスや、従来のアニメのセオリーではないものが発露したことはありましたか?

    りょーちもそれがまさに第3弾となる「タイムトラベル編」なんです。「レスキュー編」は、まず僕がカメラワークなどの設計を固めることで、アニメ制作の経験が浅い方でも「自分の仕事が映像になる」という成功体験を積んでもらうためのステップでした。この段階ではまだクリエイティブの主導権は僕が握っている段階です。この経験と自信が土台となり、次の「タイムトラベル編」では、皆が自分のアイデアを出してコンテから一緒につくるという、さらに進化した制作スタイルへと繋がっていきました。

    (3)へ続く。

    INTERVIEW&TEXT _日詰明嘉/Akiyoshi Hizume
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子Momoko Yamada