「ライアンズ・ワールド」はアメリカのキッズYouTuberライアン・カジくんのYouTubeチャンネルだ。今回、紹介するのはそのチャンネルで公開されているCGアニメーションである。制作にあたったのは、りょーちも氏とOnakamaに集うデジタルアーティストたち。Blenderを活用した効率的なワークフローにより、少人数での制作を可能にしたという。その制作の様子を、全3回で紹介する。
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さらに進化した第3作目「タイムトラベル編」の制作スタイル
――最新作である第3作「タイムトラベル編」のつくり方について教えて下さい。
濱中:まず「タイムトラベル編」では、清水さんに監督を引き継いでいただきました。前作「レスキュー編」では、りょーちもさんが制作とワークフローの両方を担当したのですが、タスク過多になってしまうことが多かったので、役割を分けようと。りょーちもさんからも「清水さんなら任せられる」とお墨付きをもらい、りょーちもさんはワークフローやアドオン、つくり方の改善、そしてクリエイターへのサポートを強化していただきました。
ストーリーボードからコンテまでを清水さんが担当し、プリビズに落とし込むことで、表情以外はほぼ3DCGで制作することができました。さらにこれまでの「ニンジャ編」、「レスキュー編」に比べると、クリエイターそれぞれの色を明確に出すことができたと思います。つくっていて「楽しい」と感じることも、前2作より多かったようです。
清水:皆さんに「今までのやり方に囚われず、自由にやってみましょう」と声をかけたのが「タイムトラベル編」のスタートでした。アニメ『ライアンズ・ワールド』の最初のコンセプトが、「まず楽しもう、一緒に遊ぼう」というものでした。これと現場のモチベーションを紐付けたかったんです。スタッフも含めて「こんなシーンがあったら面白いんじゃないか」というアイデアを出し合える環境にすることで、つくっている自分たちも楽しいし、それを観た子供たちも楽しんでくれると良いなと、考えを再構築しました。
そういった意味でスタッフには「好きにやってみてください」と様々なアイデアを募りました。その際、つくる人によってスタイルやアニメーションの質にバラつきが出ても、その点も含めて皆で面白いものをつくっているんだ、というモチベーションを大切にしました。
――統一感よりも、プロジェクトの根幹部分の再定義の方が重要だったということですね。
清水: そうです。もしかすると「とっ散らかるかもしれない」とは思いつつ、監督が1本のフィルムとして繋がるように管理し、調整していけば良いかなと。まずは皆にアイディアを出してもらい、並べてからながれを調整するという設計でした。結果的に多少の前後調整はあったものの、割と自由にアイデアを並べられ、刺激的なフィルムができたと思っています。
りょーちも:これは「イテレーション」と呼ばれる短い間隔で反復しながら開発を続けるスタイルです。いわゆる「アジャイル開発」というやつです。最初にプリビズを皆に投げて「こんな感じでよろしく」と依頼し、上がってきたものを連結してながす。最初は「これで良いのか?」と思うようなものもあれば、「ここはスゴいじゃん!」というものまで、混在した状態で上がってきます。そこで、一繋がりになった映像を皆で観ると、すでに一度、完成形が見えているので、「こうすれば良くなるのでは?」と気づきが得やすくなるんです。こうすることで、単に制作途中で修正指示を一方的にもらうよりも、ずっと自発的に取り組むことができます。そこに清水さんからの修正指示もあり、映像と言葉をセットで改善に向かうことができます。
――本作ではどのくらいイテレーションを行ないましたか?
りょーちも:プリビズの段階で3回繰り返し、その都度、修正を重ねました。この繰り返しによって、自分はどう動かせば良いか、他の人がどうやっているか、監督がどうしてほしいかがわかる。その機会を3回も得ることができました。さらに、僕は総作画監督としてオーバーペイントを入れ、「こういうアニメーションにしてくれるとありがたいですよ」というフィードバックを行い、それに基づいてアニメーションを付けていきました。このプロセスを3回も経験すると、「この作品はどういうものか」や「他の人がどうつくっているか」を理解した上で作業しているので、作品の一貫性をきちんと理解することができます。
アニメ制作の「民主化」へ、技術の向上が証明した第3作目「タイムトラベル編」でのワークフロー構築
濱中:「タイムトラベル編」については話したいことが山ほどあります。チャレンジなことをやり過ぎた感があるほどです(笑)。クライアントからは「作画アニメをつくってほしい」というものはニンジャ編のときからあったのですが、タイムトラベル編では主に3Dのワークフローになっています。
ただ、ギャグ顔などの表現も含め、3DCGの表現を超えて、絵としてもしっかりハマっている部分があると感じています。少人数でつくりながらもきちんとスケジュールに収まり、クライアントからの評判も上々です。
――世界観がよりポップでデザイン性を強く感じました。
清水:背景美術を、コンセプトアートの途中段階のような感じで制作しています。こうすることでクオリティラインを保ちつつ、高カロリーにならずに制作しやすい構造にできました。それに、美術監督をお願いしているベクタートの鷹野香織さんのセンスが素晴らしいんです。
――「タイムトラベル編」の制作期間と関わった人数はどのくらいでしたか?
濱中:プリプロに1ヵ月ほど、プロダクションは2ヵ月ほどですね。アニメーターは1人あたり10カットを10人くらいで担当しています。背景や色彩、テクニカルサポートなどを含めると約30人ですね。
清水:もともと、プリプロで組んだものを各自のペースでつくってもらい、プロダクション段階ではチェックを最小限にするという設計が理想でした。スケジュール管理の都合や作業者自身の不安を取り除くという意味で、チェック点は設けつつも基本的にはプリプロで徹底的に揉む、という考え方でつくっています。これは「ニンジャ編」の制作で掴んだ方法でもありました。理想を言えば、よりミニマムな人数、例えば3~5人程度でつくり切ることも見据えています。アニメーターも慣れてくれば30カットほど担当してくれるぐらいの期待感があります。
――「タイムトラベル編」でのワークフロー構築の手応えはいかがでしたか?
りょーちも:以前は現場から「ここがわかりません、どうしたら良いですか?」といった質問が頻繁に上がっていました。しかし、現在のプロジェクトでは「みんな質問ないの?」と、こちらが心配するほど質問がなくて、本当に難しいことだけ聞いてくる状態です。それでいて、上がってくるものは問題ないどころか期待以上の仕上がりで、ちょっと嬉しいような寂しいような気持ちです(笑)。
窪田:第2作「レスキュー編」で得た経験値が第3作「タイムトラベル編」で花開いたと感じています。個性が発揮されつつ、クオリティも担保されているとても良いバランスです。中でも、皆が作業しているときに本当に楽しそうだったのが印象的でした。普通のクリエイティブ現場だと疲弊しがちですが、楽しみながら「こうしたい、ああしたい」というアイデアを映像に落とし込んでいたので、そこも含め、本当に良かったですね。
清水:「僕の頭の中のイメージはこうだから直して」と頭ごなしに言われると、モチベーションが下がりますから(笑)。そのモチベーションダウンは本当に画面に出てしまうので、まずスタッフ自身が楽しむという点に細心の注意を払いました。その分、責任が増えるので不安はあったと思いますが、「最終的には僕がカバーしますから」という姿勢で臨みました。
濱中:Discordで夜な夜な集まって雑談しながら作業したり、本当に皆、仲が良いんですよ。楽しんで制作できている様子は、自信をもってお話しできます。
りょーちも:それぞれがスキルを身につけて、皆でつくろうという意識がある。プロダクション的思考と個人作家的思考、両方のチャンネルを意識して動ける人たちが育ってきていると感じています。これでようやくアニメ業界の民主化が進むなと感じました。
――民主化というのは?
りょーちも:これまでは、業界の内側に入らないと得ることができない制作に関する様々なスキルを、今や個人のクリエイターが同じかそれ以上の技術を平気で使いこなす時代です。その意味で、もっと様々なバックグラウンドをもつ方が、アニメづくりで“遊ぶ”ことや制作に携われる環境が整ってくると思います。
濱中:あと、課題はスピードですね。現在10人でつくっているところを3〜5人程度でつくりきりたいという目標がありますし、少人数で劇場作品をつくることもやりたいと思っています。やがてはそうしたことも可能なフローが実現するとは思いますが、今回のような経験を重ねることでよりスピードを上げていきたいと考えます。
まだまだ日本の商業アニメは作画が中心ですが、本作のようなスタイルの2Dと3Dの混ざった方法で「こういう表現していこうよ」と提案して、仕事を増やしていくことが必要だと考えます。より様々な人を巻き込み、案件をこなすことでスピードを上げ、効率的なワークフローをさらに模索していければと考えています。
りょーちも氏が本作で使用したPCのスペック
液晶タブレット
モデル:Wacom Mobile Studio Pro 16/ Wacom one 13 touch
メインPC
メーカー:ASUS、モデル:ROG Strix SCAR 15 (2022) G533、CPU:インテル Core i9-12900H プロセッサー 2.5GHz/5.0GHz インテル スマート・キャッシュ 24MB
INTERVIEW&TEXT _日詰明嘉/Akiyoshi Hizume
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里/Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子/Momoko Yamada