11月2日より配信スタートした、Netflixシリーズ「鬼武者」。カプコンの同名戦国サバイバルアクションゲームが発売22年を経て初のアニメ化となった本作は、主人公・宮本武蔵のモデルに三船敏郎を据え、圧倒的な臨場感が大きな見どころとなっている。本作の制作を担当した須貝真也監督とサブリメイションの中核スタッフに話を伺った。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 304(2023年12月号)からの転載となります。

    Netflixシリーズ「鬼武者」
    世界独占配信中
    総監督:三池崇史
    監督:須貝真也
    出演:三船敏郎/三船プロ
    キャラクターデザイン:キム・ジョンギ、マニリン・トレダナ(宮本武蔵のみ)
    制作:サブリメイション

    CGで描かれる爽快剣戟アクションアニメ

    異形の魔物・幻魔との戦いを爽快なアクションで描いた戦国サバイバルアクションゲーム『鬼武者』シリーズ。シリーズ累計販売本数は860万本を超え、まさにサバイバルアクションゲームの金字塔と言える『鬼武者』が初めてアニメ化の運びとなり、Netflixで現在配信中だ。本作は総監督に三池崇史が迎えられ、世界的イラストレーターのキム・ジョンギ氏がキャラクターデザインを担当するなど、発表時から大きな話題となっていた。

    左から、制作デスク・土屋嘉廣氏、アニメーションチーフ・高島和輝氏、監督・須貝真也氏、ルックデヴアーティスト・杉 英人氏、モデリングチーフ・小川喬右氏(以上、サブリメイション)

    原作ゲームでも歴史上の人物を主人公とし、金城 武や松田優作、ジャン・レノなど実在の俳優をキャラクターモデルにすることも見どころのひとつであったが、本作では主人公となる宮本武蔵に世界的名優・三船敏郎をモデルとし、原作さながらの過激で臨場感あるアクションが展開される。

    その制作を担当したのが、サブリメイションだ。Netflixにて2020年より配信開始されたカプコンゲーム原作アニメ「ドラゴンズドグマ」に続いての制作となった。「『ドラゴンズドグマ』の制作終盤から本作の企画が挙がっていました。『ドラゴンズドグマ』から続けてとのこともあり、アニメとしてさらに魅力あるものを目指しての挑戦でした」と監督を務めた須貝真也氏。

    本作はLightWaveをメインツールに制作されたCGアニメとなるが、セル調のルックとアニメーションの追求が制作の命題とされたという。その言葉どおり、本作は作画と見紛うほどの高いクオリティに仕上がっている。キャラクターアニメーションは全て手付けで行われ、社内スタッフも12名(プラス外部スタッフ数名)という少人数の体制であったということにも驚かされる。

    「ゲーム『鬼武者』のキャッチコピーでもある“バッサリ感”を意識して制作したアクションシーンも見どころですが、本作は表情芝居にも力を入れていますので、ぜひそこも楽しんで観てもらえると嬉しいです」と須貝氏。本作品の見どころと合わせて制作の裏側を紹介しよう。

    <1>プロットとプリプロダクション

    本格歴史アクションを実現するための座組み

    原作ゲーム『鬼武者』の代名詞と言える「バッサリ感」。アニメ作品としてもっとも重要視されたのが、その「バッサリ感」を感じられる迫力ある活劇だ。そうした点からも数多の作品で斬新な殺陣演出を見せる三池崇史氏が総監督に迎えられ、第1話冒頭のシーンでは実写撮影されたカットをCG化することで指針が示された。

    また本作では音響監督は設けられておらず、三池氏が担当している。「仕上げの部分での三池総監督の力は非常に大きかったと感じています。指示の出し方、ニュアンスの伝え方がすごくわかりやすく、臨場感あるカットに仕上げることができました」(須貝氏)。

    また、本作では世界的イラストレーターのキム・ジョンギ氏がキャラクターデザインを手がけている。「圧倒的な画力でした。ジョンギさんには主人公である武蔵以外のキャラクターと幻魔のデザインを担当していただいたのですが、記号的なものではなく、多角的に見て造形が汲み取れるものでした。作品とジョンギさんの絵柄の相性もすごく良かったですね。完成度の高い絵であるからこそCG化する難しさもありましたが、ジョンギさんの絵柄を壊すことなくアニメ的にリデザインして進められました」(須貝氏)。

    なお、宮本武蔵のキャラクターデザインに関しては、三船敏郎の再現に重きを置いたことからマニリン・トレダナ氏が担当されているが、共にアニメ化のためのラインの微調整や双方のデザインの統一化などはサブリメイション内で行われた。

    なお、本作へのカプコン側からの要望は、ゲーム固有の設定に関わる演出部分のみであったという。「鬼の篭手、鬼火の演出のみ細かな指定が入りましたが、それ以外は自由につくらせていただきました」(須貝氏)。

    三池総監督による殺陣の演技指導

    斬新な殺陣演出を得意とする三池崇史総監督。第1話冒頭のシーンでは、三池監督による殺陣演出を実写で撮り、そこからCGアニメーションのカットが作成された。「このように実写で撮影されたのはこちらのカットのみで、他のカットではアニメーターが手付けでイチから動きをつくっていますが、こうした三池総監督の指針が初期に明示されたのは大きかったです」(須貝氏)。

    キム・ジョンギ氏が描いたデザイン画

    “世界一絵が巧いイラストレーター”として知られるアーティストのキム・ジョンギ氏(故人)によるキャラクターデザイン。同氏の精巧な筆致が見て取れる。なお主人公の武蔵に限り、三船敏郎という明確なモデルとなる人物をイラストでデザインするという観点から、マニリン・トレダナ氏が別で担当することとなった。いずれのキャラクターも、CG化する上でサブリメイションによりリファインされ、アニメ的なラインの整理などが施されている。

    <2>キャラクター&アニメーション制作

    三船敏郎のCG化とこだわりの手付けモーション

    本作の大きな見どころのひとつは、三船敏郎をモデルに制作された主人公の宮本武蔵だ。「武蔵は、『用心棒』『椿三十郎』における三船敏郎をモデルとしています。デザインや造形はもちろんのこと、三船敏郎らしい動き・芝居も作品に登場させることを目指しました。表情芝居は特に注力したポイントで、豊かに変化する様をしっかりつくることを徹底しています」(須貝氏)。

    なおそのクオリティは、3Dモデル作成後、代表的な表情を付けた画像を三船プロに確認してもらい、太鼓判を押されたほどであった。「武蔵を含め各キャラクターはリファインしたデザイン画を基に作成されていますが、本作ならではという点では着物の作成の仕方にこだわりました。アクションや所作を行なった際に綺麗にシワが寄るメッシュ構造である必要があったため、様々な動きによってできるシワを想定してリトポロジーを行なっています」(モデリングチーフ・小川喬右氏)。

    アニメーションに関しては、『ドラゴンズドグマ』と同様にFKリグによる手付けで行われた。三船敏郎の複雑に変化する表情芝居を再現するため、フェイシャルには通常より多くボーンが設置され、頬、口まわり、瞼の微秒なラインにいたるまで細かく調整できるようになっている。

    このアニメーション作業時に特に意識されたのが、非対称感であったという。「一般的にCGのフェイシャルは綺麗になりすぎてしまいがちです。小さい表情から大きな変形を伴う表情まで左右非対称であることがその不自然さを取り除くことにつながるので、大前提としてそこは外さないように細かい部分まで詰めていきました」(アニメーションチーフ・高島和輝氏)。

    加えて苦心した部分としては、着物の動きが挙げられた。手を懐に忍ばせるなど三船敏郎特有の動きを再現するため、通常のセットアップとは別に手を懐に入れたセットアップも準備され、モデルを切り替えながらモーション付けが行われた。「着物の揺れに関してもクロスシミュレーションは使わず、手付けで行なっています。いわゆるアニメの記号的な動きというか、自然かつ画的に映える揺れや変形する動きを、カットごとにアニメーターが細かく調整しています」(高島氏)。

    武蔵の3Dモデルとキャラクターリグ

    • マニリン・トレダナ氏のデザインをリファインして3Dモデル化された武蔵
    • 『用心棒』(1961年公開/東宝)、『椿三十郎』(1962年公開/東宝)の三船敏郎がイメージされており、三船プロにも太鼓判を押されたという納得の出来映えになっている
    モデルとしては、着物のシワを自然に出すことも重要であり、動いた際のシワの隆起を自然に見せるために、変形を想定した特殊なリトポをするなどの下準備も施された
    • キャラクターのセットアップはFKでの制御を基本としている。FKを採用することでカットによってはデザイナーが補助骨やコントローラを追加し、リグ自体をアップデートできる体制を採っていたという
    • 顔のシワ制御用フェイシャルリグ

    本作独自の特殊なセットアップ

    本作ではキャラクターの衣装が着物であることで、着物特有の動きを実現できるセットアップが求められた。特に、手を懐に忍ばせるという三船敏郎らしい演技の再現が大きな課題となった。そのため、懐手から派生する動きを実現すべく、手を懐に忍ばせるセットアップと通常のセットアップの2つが準備され、アニメーション作業時は切り替えて使用されている
    切断カット用のセットアップ。刀での斬り合いによって体の部位が切断され、切断面が露出する場面も出てくる本作では、首・腕・手首など切断用モデルとセットアップが準備され、通常版と切り替えて使用された

    徹底追求された表情芝居

    三船敏郎をモデルとしアニメ化する上で重要であったのが表情芝居。こちらは表情サンプルの例となるが、重要視されたのが左右非対称であること。「当たり前のことではありますが、改めて左右非対称を徹底的に意識してつくることで、アニメーションとして見たときの効果は歴然です。細かく豊かな表情をつくり出すことにスタッフ全員が徹底的にこだわってくれました」(須貝氏)。

    手付けによる細やかなアニメーション

    ここでは、サブリメーションこだわりのアニメーションについていくつか紹介する。

    武蔵の抜刀。時代劇ものとして描かれる代表的な動きだが、その所作の美しさに思わず目が奪われる出来だ。体の大きな動きから指先、着物の揺れに至るまで細かい調整が行われていることが窺い知れる
    顔を拭う武蔵。手拭いで拭かれた顔の変形まで緻密に描かれている
    泣きじゃくるさよ。大泣きするさよの顔が破綻なく自然に、かつ豊かにつくり上げられている。本編でぜひ注目して見ていただきたい

    <3>セル調ルックへのこだわり

    汚しや影のディテールを追求したルックデヴ

    制作の命題として掲げられたのが、セル調ルックの追求。セルらしい表現の中でどれだけ盛れるか、情報量を上げられるか。質感、影(陰影)のそれぞれで工夫が凝らされたのだという。「リアリティを付与するという点では、まず襟元などにある汗染みや土汚れなどを加えてディテールアップを図りました。これらは戦いの中で様相を変えるものなので、汚しのレベルごとに準備しています」(ルックデヴアーティスト・杉 英人氏)。

    さらに着物などの素材そのものの質感をアップさせるため、質感用テクスチャも準備されている。「アクションなどでキャラクターの動きに合わせて着物の柄やシワが見えるよう、メッシュのトポロジーに合わせて無数のラインを引いています。自動化する方法もいくつか試しましたが思うような結果が得られず、ひとつひとつ手で描きました。相応の労力がかかりましたが、その甲斐あって、質感に深みを出すことができました」(杉氏)。

    一方、陰影に関しては、BL影と呼ばれる黒い影が本作で新たに追加された。先述の汚し素材の効果と相まって、立体感と現実感のあるリッチなルック表現につながっている。また、陰影のみでも肌の質感が伝わるような処理も加えられた。年配者や骨ばった幻魔にはギザギザのエッジ、若者にはツルッとしたエッジというように顔に落ちる陰影が描き分けられている。

    「影だけでも情報量を上げています。こうした各種質感素材に加え、ラインを調整して仕上げていきます。キャラクターの造形とシーンの印象を意識しながら、例えば武蔵の瞼の厚みが感じられるラインを入れたり、強い表情のときには印象を強めるために意図的にラインを太くしたりなど、カットごとにAfter Effects上で調整していきました」(杉氏)。

    特効によるルックの表現力アップ

    本作のルックで大きな特徴となっているのが、特効と呼ばれる汚しや影による効果だ。

    • 特効なし
    • 特効あり。汗染みや汚れ、本作で新しく追加されたBL影と呼ばれる暗い影などを付加することにより、格段に情報量が増しているのがわかる。このように、セル調のルックでありながらリアリティとディテールアップを図ることが、ルックデヴにおけるコンセプトとなっていた

    特効を含め、本作のルックをつくり上げる15種類のレンダリング素材は次のとおりだ。

    • カラー
    • グラデーション
    • シャドウ
    • アンビエントオクルージョン
    • アウトライン
    • 手描きタッチ
    • 汚れ
    • 着物の質感
    • BL影
    • 服マスク
    • 服マスク
    • ひげ
    • ひげ用マスク
    • UV
    UVマスク

    陰影・ラインの処理

    陰影についても一様でなく、肌の質感が感じられるよう微細な変化が加えられている。

    • 画像の武蔵の影のエッジはギザギザ
    • 画像の幻魔の影のエッジもギザギザ
    画像の若いキャラなどはツルッとしたエッジといったように、肌の質感、凹凸の質感を描き分けている
    ラインの出方はAfter Effectsで処理
    • オブジェクトや遠近によるラインの太さをコンポジットで調整している
    • 近景でのキャラクターのライン処理
    • 刀を代表としたプロップなども個別に調整
    • 刀の金属感は単純に光らせるなどではなく、テクスチャで作画風の金属感を描くことでアニメらしい刀が作成された

    表情の味付け処理

    作中登場する感情をむき出しにした大きな変形を伴う表情もCGで制作されている。一見作画と見紛う仕上がりだが、アニメーターによってしっかりとつくり上げられた表情に加え、コンポジットでカットにあった影やラインの調整がそのクオリティを支えている。

    CGWORLD 2023年12月号 vol.304

    特集:限界に挑む! 最新モバイルゲームグラフィックス
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2023年11月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_渡邊英樹
    EDIT_藤井紀明(CGWORLD)/ Noriaki Fujii、山田桃子 / Momoko Yamada