2023年11月に公開された映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』。興行収入が約27億円を記録し、各地で応援上映も行われる大人気作だ。今回は東映アニメーションとモンスターズエッグを取材。全2回にわたり、3DCGによって効果的に表現された妖怪「狂骨」や「血桜」のメイキングをお届けする。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 309(2024年5月号)からの一部転載です。
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大ヒット映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を支える効果的な3DCG表現の数々
水木しげる生誕100周年記念作品『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(6期シリーズ)の前日譚であり、終戦間もない日本を舞台に、鬼太郎の父(かつての目玉おやじ、以下、ゲゲ郎)と血液銀行に勤める水木を主人公にした異色の作品だ。第47回日本アカデミー賞「優秀アニメーション作品賞」を受賞し、劇場でもロングラン上映され、高い評価を得ている。
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原作:水木しげる/監督:古賀 豪/脚本:吉野弘幸/キャラクターデザイン:谷田部透湖/制作:東映アニメーション/配給:東映
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©映画「⻤太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
本作は、作画では表現が難しい部分に3DCGを使用するというオーソドックなスタイルでつくられたが、3DCGが主張しすぎないように、あくまで作風に合わせる方向性だった。担当したのは数々の有名作品を手がけてきたモンスターズエッグ。3DCGが使われたのは主に、大量に出てくる妖怪の「狂骨」、ゲゲ郎に襲いかかる「恨みの結晶」、一部の背景動画、そしてクライマックスで登場する「血桜」などだ。
使用ソフトはメインに3ds Maxとモデリングの一部にZBrushが使われている。制作は2023年の年始からスタートし、ピークは7~9月ごろ。特に重要な役割を果たす血桜はトライ&エラーのくり返しで、最後の最後まで粘って仕上げたという。
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モンスターズエッグのCGディレクター・志賀健太郎氏は「3DCGは比較的オーソドックスな使い方をしました。久しぶりの劇場版 『鬼太郎』作品に花を添えられたら嬉しいです」とふり返った。同じくCGディレクターの入川慶也氏は「アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の3期が物心ついたときにハマった初めての作品。そんな作品に参加できたのはとてもうれしいです」と語る。
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そして、CGプロデューサーで、全体を統括した奈良岡智哉氏は「スタッフの熱量が高く、自分史上で最も最後まで粘った作品になりました。結果、ロングランで大ヒットしたので、とても嬉しいです」と、貢献できた喜びを語ってくれた。以下、詳しく紹介していきたい。
3DCGならではの表現力を活かした使いどころに注目!
制作上の指針について、奈良岡氏は「3DCGっぽく目立たせるのではなく、作画に合わせてリッチにするけれど目立たないように調整しました」と語る。3DCGが活用されたシーンの一例として、大量の狂骨が飛び回るカットは、画面手前の狂骨は作画、中景から遠景は3DCGの狂骨が採用されている。数が多いのでアニメーションをパターン化していたが、古賀 豪監督からの要望でほぼ手付けとなった。
クライマックスでゲゲ郎を襲う「恨みの結晶」は、監督の中のおおまかなイメージをブラッシュアップして具体的な形状にしていった。形状や動きのテストを重ねたが、最終的にはカットバイの調整が個々のアニメーターにより入れられて、仕上げるかたちになった。
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そのほか、鳥居をはじめとした背景動画にも3DCGは使われている。背景用の3DCGはレイアウトでも使われ、作画や美術のベースになっている。カメラワークが複雑なカットでは3DCGでBipedを動かし、カメラの動きを付けて作画ベースを作成。それを作画スタッフへ渡し、出来上がった作画を背景動画と合わせるというような複雑な手順も採用されている。
大量に発生する妖怪の狂骨
監督からの要望は一貫して「3DCGでないと表現の達成が困難な部分をお願いしたい」というものだった。妖怪の狂骨については、1体1体キャラクターとして見せる距離は作画で、群衆のような数を表現する距離は3DCGで、という表現の棲み分けを意識して作成された。
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▲中距離用のレンダリングチェック。作画でミドル~ロングを描く場合は、遠いほど線数を落とすため、3Dモデルでも同様に対応。そのため、多用する大きさの収まりでレンダリングのチェックを行なった -
▲同じく、遠距離用のレンダリングチェック
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結晶が集まり一瞬人型になって崩れる「恨みの結晶」
大量に発生し、ゲゲ郎に襲いかかる「恨みの結晶」。
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▲ゲゲ郎を飲み込む直前に人型から雪崩状に崩れつつ、迫ってくる結晶のカット。いくつかのセットをつくりAfter Effects(以下、AE)上で合成コンポジットしてチェックデータを作成 -
▲この後さらに本撮が入って完成となる
ゲゲ郎が飲み込まれた狂骨内の怨念
狂骨内の怨念はやや実写よりで違和感のあるエフェクトというイメージだったため、つくり方に少し遊びを入れた。まず、スタッフの怨念めいた表情の写真とラフ絵を基に、AI生成で画像をつくり、エフェクトのたたき台に使用した。
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▲AIテストを基に作成したテクスチャのベースを入れた3ds Maxのビューポート -
▲Particle Flowにて生成したパーティクルで流れていく怨霊のAE画面。一部、監督要望による細かな怨霊の動きに関しては、手付け対応で怨霊の顔を動かした
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▲3ds Max作業画面。3D作業は、FumeFXで生成したスモーク素材とUVアニメーションで流れるテクススチャ雲BG素材をワールド素材として形成し、その中にParticle Flowで発生させた怨霊の顔テクスチャアニメーションを流していくフローで進められた -
▲AEでコンポジットしたカット例
鬼太郎の母登場時の花びらの表現
鬼太郎の母が登場する一連のシーンの花びらも3DCGで表現された。花びらが宙を舞うときは段階的に増減させ、悪目立ちしないように調整をかけた。画角の切り取り方次第で多く見えたり少なく見えたりするため、画で見てつながって見えるか、キャラクターの邪魔をしていないかを判断し、発生率を上下させて、画として同じ印象に見えるように調整している。
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鳥居のある鍾乳洞の背景動画
背景動画は美術ボードを先行して制作してもらい、モデリングを始めた。当初はモデラー側でも凹凸を付けたディテールあるモデルを作成していたが、重くなるとの予測からテクスチャとカメラマップを駆使した方法に変更。フレーム上に入るところのみを作成し、ボードの質感に合わせて調整をした。3DCGによる鳥居はカットのアングル次第でスピード感が変わって見えてしまうため、間隔を伸縮させてくぐるスピード感を“映像的に同じくらい”になるように調整していった。
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以下は、ゲゲ郎と水木が出口にたどり着くカット。3DLO先行で、カメラワークとモーション含めムービーのLOテイクを作成。
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▲前半の横アングルで並走する2人の部分は3DBG。ゲゲ郎と水木は3D側でBipedアニメーションを最初から付けておき、OK後に連番を出して作画に渡している -
▲後半のカメラクレーンアップするようなT.Bする部分は2DBGにするため、BG原図を出した。前半と後半を1カット処理に見えるように、鳥居の柱でワイプし切り替えている
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狂骨との戦いで壊れる回廊
クライマックスのゲゲ郎と巨大な狂骨が戦うカット。戦いで壊れていく回廊は背景動画になることが予定されていたため、3DCGで制作されている。もともとレイアウトモデルだった回廊を、急遽、背景動画として使えるようにブラッシュアップして対応し、テクスチャについては、美術ボードに見た目を近づけるよう、目合わせで描かれた。ただ、作画レイアウトが上がってきたところ、背景動画ではなく2D PANのワークになっていたため、カメラ手前は2D美術で、破壊される箇所から奥を3Dモデルという棲み分けに切り替えられた。なお、狂骨に破壊されていく回廊の破片やガラも3DCGで作成。また、煙は3DCGと作画のブレンドで表現されている。
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「後篇」につづく。
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CGWORLD 2024年5月号 vol.309
特集:『グランブルーファンタジー リリンク』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年4月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ)
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada