3分かけて割り箸を割ってくれる「機械
あらゆるものをゴージャスに演出して登場させる「
コーンスープ缶の粒を綺麗に飲む「装置

これらの “ギリギリ役に立つ”? アイテムを創作する、発明家のカズヤシバタ氏。ここではカズヤ氏によって生み出される数々のユニークな発明品の裏側を見せていただく。

記事の目次

    課題解決が鍵・カズヤ流「発明」

    発明家
    カズヤシバタ

    https://www.seevua.com/
    https://twitter.com/seevua
    https://www.youtube.com/@seevua
     

    CGWORLD編集部(以下、CGW)本日はよろしくお願いします。発明家にはどの様な経緯でなられたんでしょうか?

    カズヤシバタ(以下、カズヤ):幼い頃からいろんなものを分解するのが好きで、木を切ったり、紙を貼り合わせたりというものづくりを頻繁にしていました。
    それで、高校を卒業する2012年頃からは、CADや3Dプリンタが個人レベルまで降りてくることでものづくりのフィールドが拡張されて世界の産業構造が変わる、いわゆる「メイカームーブメント」が来ます。これはおもしろそうだ!!ということで、そこから電子工作を始めたんです。

    CAD: コンピュータを利用して建築物や工業製品を設計すること。あるいは、コンピュータによる設計支援ツールのこと。Computer Aided Designの略。

    カズヤ:そもそも「課題解決」が好きなんです。ただ少し極端で、自分の発明品を見て頂いたら分かると思うんですが誰も考えないような回りくどいやり方で課題解決する方法を考えるのが好きで(笑)。ものづくりと掛け合わせて、何かしらの問題をものづくりで解決する。それをわかりやすいように「発明」と表現しているんです。

    CGWカズヤさんは発明品の見せ方がユニークですね。

    カズヤ:自分がつくったものを、ものすごく大袈裟に、極端に演出して発表したいんです。むしろ発表したいから発明してるみたいな(笑)。大きく影響を受けたのは、中学3年の頃に見たアップルの開発者向けイベント「WWDC」での、スティーブ・ジョブズのiPhone3Gのプレゼンテーションですね。

    発明品紹介

    全自動割り箸割り器

    CGW発明品をいくつか紹介してください。最初に発表したのは何ですか?

    カズヤ:特定の課題を解決するというコンセプトで一番最初につくったのは「全自動割り箸割り器」です。

    カズヤ誰もが経験したことのある割り箸が綺麗に割れない問題。この問題を解決する全自動で割り箸を割ってくれるマシンです。これを出したとき、「あ、ハマった」という感覚があって、これがやりたかったことだったと気付きました。

    全自動割り箸割り器のCADデータ(Fusion 360)

    ゴージャス登場箱シリーズ

    CGW次はこちらの大きな箱、これは何でしょう?

    カズヤ:これは「ゴージャス登場箱『デルモンテ2020』」です。これはほかの発明品とはちょっと違っていて、アップデートを重ねている作品です。

    この2020は4世代目で、初代と比べると動きも数倍で、光も音もスモークも出るという、全部盛りみたいな登場箱です。これで光やモーター制御といった電子工作のイロハを学びました。試行錯誤しながら完成させた、すごく印象深い発明品です。

    カズヤ:この4代目はワンボードマイコンのArduinoを5枚使って、各機構がタイミングを揃えて動作する、制御機構を備えています。

    CGW素晴らしい! 家電みたいな仕組みが備わっているんですね。

    カズヤ:家電といえば、エラーが出ても復帰する機能がありますよね。実はこれにも似た機能を持たせてあって。TVの生放送に出たときに、ふたが開いて中からライトが出る途中でMCの方の手がちょっと当たって、ライトが詰まっちゃったんですよ。でも実は、出演ギリギリ前のタイミングで「もし詰まったら1回リトライする」という機能を持たせておいたので事なきを得たんです(笑)。「うわ、助かった!」と思いました。

    ゴージャス登場箱「デルモンテ2020」の組み立て図。見える範囲内だけで部品が約300点もある。モーターは50個、ボルトナットを除くパーツ数は合計1,000個にも達する。「実はこれ、CADソフトウェア・Fusion 360上でジョイントを組んであるので、Fusionの中で動きをシミュレーションできます」(カズヤ氏)

    つぶつぶトルネード

    CGWそして直近の最新作はこちらの「つぶつぶトルネード」ですね。

    カズヤ:これは缶ジュースタイプのコーンスープのつぶをちゃんと飲めるように、缶を振ってくれる発明品です。

    カズヤ:モーターで缶を回していけばつぶが上に上がっていきそうだなとは思ったんですが、モーターをどう配置してどう動かせば良いか、仮説を立てて、モデルをつくって3Dプリントをしてプロトタイプを動かしてというサイクルを回して詰めていきました。

    プロトタイプ案のスケッチ
    つぶつぶが上がってくる機構は3段階にわたって検討。

    ①は、缶の中心にモーターを取り付けて回転させる仕組み。

    ②は、①ではつぶつぶが端に寄るだけだったことから、上に持ってくるために缶を傾けるようにしてみた。
    ③は、さらに効率的につぶつぶを上に持ち上げるため、回転に合わせて傾く場所が変わるようにした

    “ギリギリ役に立つ”発明をスピーディにつくる

    CGW発明をされる上で気を付けていらっしゃることは何ですか?

    カズヤ:大切にしているのはスピードです。荒削りでも試作品でも良いからアイデアを早く出す。発明をしている人たちってけっこういて、「うわ、それやろうと思ってたのに」ということがしょっちゅうあるんですよ。

    CGW先を越されないためのスピードですか

    カズヤ:はい。発明家クラスタの中にはやっぱり共通の課題認識というものがあって、私のように遠回りして課題を解決しようとしていても、先に発表されてしまうとアイデアが潰れてしまうんですよね。
    だから素早くつくりながら、そこにワンポイントでアイデアや技術要素を入れてオリジナリティを出す。自分が今持っているスキルを総動員して、上手くいくかもしれない組み合わせを試しまくるんですよ。

    CGW修正して、妥協を繰り返すというのは?

    カズヤ:私は独学なので、制作の途中で技術的にまだ難しくてできないという部分が出てきます。ただ、技術を学ぶのを待ってからつくるとなると、そこで数年間ロスしてしまうから、「学びながらつくっていく」というやり方が許される環境をつくる方向で頑張っています。
    そうなると、「それ習得していないのに仕事にしちゃっていいの?」と突っ込みたくなる人が多いと思いますが(笑)、そこで私の発明を表現する“ギリギリ役に立つ”という言葉が出てきます。どこかに欠点があるということを共通認識にしてしまうんです。

    CGWなるほど、巧みな戦略ですね!

    カズヤ:最初の頃は、遠回りな課題解決を「複雑なものをつくる」というコンセプトに落とし込んでものづくりをしていたんですが、そうすると完ぺきを求めてしまって、いつまでも完成しない。そこで少し発想を変えて、コンセプトは複雑でも、制作中に起こる予想外な出来事を受け入れてもらえれば良いと考えました。「ここが動かないんだけど、それを面白く表現してしまう」といったことです。その結果出てきたのが「ギリギリ役に立つ」というコンセプトです。個人的にはこれが一番の発明じゃないかなと思っています(笑)。

    発明に欠かせないFusion 360

    CGWCADは何から始めたのですか?

    カズヤ:私は大学時代Macを使っていて、当時CADソフトにはほとんど選択肢がなかったんですが、Fusion 360の開発を行うAutodesk社が無償の123D Designというソフトを提供していることを知って、これは良さそうだと早速使い始めました。プリミティブのブロックを組み合わせて、足したり引いたりしてモデリングする、初心者向けのCADソフトです。これでつくったデータをSTL形式(CADソフト用のファイルフォーマットの一つ)で書き出して、大学にある3Dプリンタでプリントしていました。

    ほどなくして、無償(当時)でFusion 360というものが使えるようになるらしいという情報を得て(笑)。試しに使ってみたら、UIも整理されていてつ123D Designよりも数値的な細かい処理ができるので、「これだ!」と。

    シンプルで洗練されたユーザーインターフェース

    CGWFusion 360を使っていて便利だなと思う機能は何ですか?

    カズヤ:そうですね、いくつかあります。特に最近では、パラメトリックモデリングの性能向上を感じます。これはパラメータと式を使ってモデリングする(造形する)手法なんですが、例えば制作の途中で「やっぱりここの穴、もうちょっと左にしたいな」というときに穴を動かすと処理が入って、良い感じに修正されるんですよ。とても重宝しています。

    あとはレンダリングですね。ローカルでもできるんですけど、たまに大きなファイルをクラウドに投げるというときに。これは発明とは別の、真面目な業務のほうで使うんです。アイデアを出して、それをクライアントさんに見せる必要があるときに、よそ行き用の綺麗な格好をしてもらいます(笑)。

    ※レンダリング: 3次元CG空間内に配置されたモデル、ライト、カメラなどの情報をもとに計算を行い、各ピクセル辺りの「色」を導き出すこと。

    Fusion 360の魅力を語るカズヤ氏。

    CGWアップデートで新しい機能がどんどん追加されていますね

    カズヤ:そうなんです。最初はモデリングの機能がメインだったんですけど、最近ではCAMの機能とか、EAGLEという電子基板をつくるソフトとの連携とか。もうFusion 360ひとつで何でもできるような環境になってますよね。

    CAM: CADで設計された部品を、コンピュータ制御の工作機械で製造・加工するためのプログラムを生成するツール。コンピュータ支援による製造ツールのこと。Computer Aided Manufacturingの略。

    カズヤ:ちょっとした革命ですよね。それまでどれだけ早くても3日はかかる切削が、自宅で半日でできるようになったんですから。思い立ったらすぐできるというのはプロトタイピングでは本当に重要です。

    3Dプリントと切削を行うアトリエ

    Cleality社の3D Enderが3台(左)。1台は造形範囲が大きいもので、2台はやや高速に3Dプリントができる機種。「2台あるのは、速度効率面での工夫です。複数の部品を並べて造形しているときに、造形中1個だけポロッと取れちゃったら、隣のEnderでその取れちゃった部品だけプリントするという使い方をしています」(カズヤ氏)。右はFormlabsのForm 2。「高精細なプリントができるんですが、もう廃番になってしまって。保守部品はだいぶ買い置きしてあります」とカズヤ氏

    目標は発明品の量産

    CGWここ最近急激にAIが進化していますが、発明への活用をどう考えていますか?

    カズヤ:楽しみにしています。AIが発展して、入力と出力をやるだけでその周りをつくってくれるようになれば、開発スピードはすごく上がりますよね。もっと極端に言うと、自分専用のソフトをつくってくれるかもなと。例えば、今使ってるCADに「もっとこういう機能つけて」とオーダーしたら、AIがそれを実装してくれる。そんなことが近い将来起こるんじゃないかと。

    CGW最後に、今後の目標を教えてください

    カズヤ:やりたいことはたくさんあります。まずは自分でつくった発明品を、内々で10個から100台以内ぐらい量産して、人に使ってもらいたいです。町中で「つぶつぶトルネード」が使われてるみたいな変な光景を見たい(笑)。そのための、数がつくれるような施設をつくりたいですね。

    あとは、自分とはちがった優れたスキルを持つ人たちが一堂に会して共同作業ができるようなスペースをつくって、チームで本格的なプロジェクトをつくってみたいです。少しハードルは高いですが、それもまた「課題解決」かなと。

    CGWありがとうございました。

    Fusion 360について

    Fusion 360

    3D モデリング、CAD、CAM、CAE、PCB ソフトウェアが統合された、製品設計・製造向けのクラウドベースのプラットフォーム。

    詳細はこちら

    https://www.borndigital.co.jp/software/fusion360.html
    https://cgin.jp/collections/fusion-360

    TEXT _kagaya(ハリんち
    PHOTO _弘田 充
    EDIT_宮澤 開吾(CGWORLD) /Kaigo Miyazawa
    INTERVIEW_池田 大樹(CGWORLD) /Hiroki Ikeda, 塩澤 豊 /Yutaka Shiozawa, 宮澤 開吾(CGWORLD) /Kaigo Miyazawa