今回は、現在YouTubeにて公開されている、スタジオカラーによる『シュガシュガルーン』連載20周年記念短編映像、「SUGAR SUGAR RUNE Les deux sorcières」のメイキングを全3回にわたり紹介する。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 330(2026年2月号)に一部、加筆修正を加えた転載となります。
ショコラとバニラ、再び! 連載20周年を記念する短編作品
――まずは、本作についてどういった作品か教えていただけますか?
川島正規氏(以下、川島):本作、『SUGARSUGAR RUNE Les deux sorcières』は安野モヨコ氏の漫画作品『シュガシュガルーン』(講談社)の連載20周年記念として制作した約6分半の短編映像です。ストーリーとしては原作漫画のお話の前日譚にあたり、主人公のショコラとバニラが人間界に行くための試練の儀式として、魔界を旅していたときの様子を描いています。
原作:安野モヨコ/監督・脚本・画コンテ:松井祐亮/プロデューサー:川島正規/アニメーションプロデューサー:藤原滉平/アニメーション制作:スタジオカラー
youtu.be/qidzapjAMVc?
ⒸMoyoco Anno / khara
――前日譚というだけあって、原作漫画にはないエピソードやシチュエーションがたくさん登場しますね。
川島:監督の松井(祐亮)に『シュガシュガルーン』を映像化したいという強い思いがあり、短い尺の中で原作をどのように映像化するのがベストなのかを考えていく中で、漫画第1巻より前の話、前日譚であれば作品のファンも喜んでくれるのではというアイデアが松井監督から出てきました。安野先生にも非常に喜んでいただけて、そこから制作がスタートしたという感じです。
川島正規氏
プロデューサー/スタジオカラー
――今回、MORIE Inc.さんがメインプロダクションとして参加されていますが、参加の経緯をお聞かせください。
川島:この企画が始まった当初、カラーでは他の複数の作品制作が進行中で、社内スタッフをフル稼働させるのが難しい状況でした。そこで、松井監督がカラーに入社する前から長年一緒に仕事をしてきたMORIE Inc.の森江(康太)さんであれば、松井監督のやりたいことを理解して一緒につくってくれるのではないかと、ご相談して参加していただくことになり、2社が中心になって制作が始まったという経緯になります。
松井祐亮氏(以下、松井):MORIE Inc.とカラーは10年ほどのお付き合いで、僕個人としてはサンライズでアニメ『FREEDOM』(2006)の制作に森江さんと一緒に参加していたので、約20年の付き合いになるんです。今回もご一緒できてとても心強かったです。
松井祐亮氏
監督・脚本・画コンテ/スタジオカラー
前日譚をイチから構築し不思議な魔界の世界を描く
――本作は漫画『シュガシュガルーン』の前日譚ということですが、ストーリーなどはイチからつくっていったということでしょうか?
松井:そうですね。ストーリーのアイデアを自分から提案して、安野先生に確認してもらいながらまとめていったという感じです。安野先生と内容を相談する中で、「魔界には魅力的な場所が数多くあるが、原作では描いていない場所も多いので、それを出すのはどうか?」というご提案があり、それであればショコラとバニラが人間界に行く前に魔界でどのような試練があったのかを描くことができるのではないか、ということになりました。『シュガシュガルーン・コレクションブック』(2020)に魔界の詳細な地図が載っているので、それをヒントにストーリーを練っています。
――本作を制作する際のワークフローや、コンセプトなどについて教えてください。ヴィジュアルの方向性はどのようにプランニングしていったのでしょうか。
松井:私はアイデアを出したり、脚本を書いたり、設定を考えたりということが主だったので、ルックに関してはヴィジュアルディレクターの釣井(省吾)と相談して、プロダクションが始まる前に全体の雰囲気を検討しました。
釣井省吾氏(以下、釣井):事前に安野先生から、コレクションブックを見ながら「この辺を舞台にしてほしい」というアイデアをいただいていたので、松井監督と相談しながら「この場所だったらこんな色味で」など、ヴィジュアル的なアイデアを出していきました。その後、絵コンテができた段階で、コンテに色を着けていきながら徐々にカラースクリプトを作成しました。松井監督からは、「ロードムービーにしたい」という要望もあったので、シーンごとに様々な色味が登場し、楽しい感じがするような色遣いでデザインしていきました。
釣井省吾氏
ヴィジュアルディレクター/スタジオカラー
松井:映像の尺が短いにも関わらず、魔界の魅力を伝えるために、シーンをとても多くしたんですよ。その物量をこなすのがかなり大変でしたね。
釣井:膨大なシーン色を考えていくのにとても苦心しました。松井監督からは、魔界は紫をベースにして空は基本は夜の状態で変化はないとか、水の街だったら常に昼間なので、昼と夜の境目をどうするかとか。現実世界ではあり得ないからこそ面白く考えられると良いなと、話しながらまとめていきました。
松井:よくセレブがSNSなどでラグジュアリーな旅行の動画を投稿されているじゃないですか。そうしたイメージを参考にしつつ、ヴィジュアルのベースを詰めていきました。ヴィジュアルに魔界のちょっと不思議な異様さとか、可愛らしさを組み合わせることで面白いロードムービーになるのではないかなと思ったんです。短い尺なので、常に展開を変えてなるべく情報量を多くして、観てくれた方に満足してもらえる構成になるように心がけていました。
ファッショナブルなキャラクターデザインの再現
――ショコラとバニラの衣装も様々に変化するので目を離せませんでした。
松井:そうですね。短い尺の中で3回も衣装を替えているので、正直とても工程が多くなってしまって、普通だったら「こんな一瞬しか映らない衣装をつくるわけにはいかない」と、現場から怒られると思います(笑)。けれど、多様なファッションが登場するのも『シュガシュガルーン』の魅力のひとつなので、今回は現場に無理をお願いしました。
――ショコラやバニラのファッションは儀礼服や試練服など、どれもとても魅力的で、観ていて楽しかったです。
松井:安野先生と一緒にファッションの方向性を決めるのはとても勉強になりました。キャラクター制作をする際に、安野先生から漫画連載当時、どのような考え方でファッションをつくり上げていたのかを丁寧に教えていただき、自分にとってキャラクター造形をする上でとても財産になったと思います。それに、2人が持っているアイテムもたくさんあるのですが、それらのデザインも安野先生から、どのようなデザインであれば女の子が可愛いと感じるのかという話をいただきながら、アイテムのデザインもまとめていきました。
――キャラクターのモデル制作で特に難しかったのはどのようなところですか。
松井:やはり目がとても大きいキャラクターなので、3DCGの立体造形としておこせるのかという点が難しかったですね。特定のカメラアングルからみて最適な形になるように、カットごとに専用の顔モデルを作成して対応しています。
――そのほかはいかがでしょうか?
松井:難しかったのはやはり髪型ですね。特にバニラのモコモコとした髪型を立体として表現するのが難しくて、少し見る角度が変わるとラインの出方などで印象が変わってしまう。髪型に関しては、私がもともと美容師だったのでかなりこだわっています。2人の髪型もストーリーが進むにつれて変わっていくのですが、髪型自体が2人の心理状態を表しています。髪型が演出上、大切なアイテムになっているんです。
冨田直人氏(以下、冨田):髪の毛のモデリングには本当に苦心しました。何度もリテイクを重ねて理想形に近づけていった感じです。モデリングディレクターである香田(一成)さんとフィードバックを重ねながら落とし込んでいきました。特にドレスアップした2人の髪型にはとても試行錯誤した記憶があります。数カットだけですが出てきますので、ぜひ注目していただけたら嬉しいです(笑)。
冨田直人氏
キャラクターモデラー/MORIE Inc.
アニメらしさとリアルな演技の追求
――キャラクターのアニメーションについて、方向性や意識したところがあれば教えてください。
森江康太氏(以下、森江):カラーさんと何度か仕事をさせていただく中で、カラーというスタジオにとって、リアルな世界観の表現にはとてもこだわりがあるのではないかと感じていました。松井監督もそれを踏襲されていると思いますが、いわゆるコテコテのアニメっぽい演出というよりは、リアリティを追求した動きの演出になっている。けれど、アニメとして可愛い動きや感情を伝えることも大事なので、誇張表現もあるのですが、誇張しすぎないリアルなラインを目指してアニメーションを付けられているように思います。
森江康太氏
CGアニメーションスーパーバイザー/MORIE Inc.
――今回の制作にあたってはいかがですか?
森江:本作ではラグジュアリーな空気感とか、大人っぽい雰囲気が出るように動きを意識しました。また、主人公2人のキャラクターの演技についても、それぞれの性格やキャラクター性が表現できるように、表情の付け方や動き方を工夫しながらアニメーションを付けるようにしています。女の子がしそうな表情やポーズを安野先生にアドバイスをいただきながら研究もしました。それに、アニメーションに関しては松井監督に明確なビジョンがあったので、とてもやりやすかったです。
膨大な素材のコンポジットとグレーディングによる演出
――続いて、コンポジットについても教えていただけますか?
柴野剛宏氏(以下、柴野):今回はアセットの種類やコンポジット用の素材が非常に多かったので、それらをどのように社内で管理すべきかをかなり検討しました。Mayaでレンダリングした素材をわれわれの方で一度After Effects(以下、AE)でコンポジットし、カラーさんの方で最終的な撮影処理をしていただくというながれになっていました。そのためカラーさんの撮影仕様でコンポジットを組む必要があるのですが、これが大変でした。
柴野剛宏氏
CGアニメーションディレクター/MORIE Inc.
――具体的に教えていただけますか?
柴野:例えば、肌の影の部分だけアウトラインの色を少し変えようとか。撮影段階でとても細かく画づくりができるような仕様になっているので、そのための素材が非常に多く必要になって苦労しましたね(笑)
釣井:そのコンポジットでの画づくりをお願いしたのは私なんですけど、ご相談するとふたつ返事で「大丈夫です!」って返ってくるので、本当にMORIE Inc.さんはすごいなぁと(笑)
森江:柴野はボリュームと複雑さのあるコンポジットをよく担当してくれました。普通だったらやらない方向で考えるような内容も、まずやってみるというところから進んでいくんです。
釣井:こちらがアイデアベースで提案したことを確実に画にしてくれる。特にショコラたちのマントの裏地がキラキラした表現はお客さんからも非常に評判が良かったです。
松井:今回は一度撮影した映像を、Khakiの水野正毅氏に依頼してカラーグレーディング処理してもらっています。本来は撮影処理の終わった映像の色に手を加えることはしないのですが、今回は特別に実写の映像で実施するようなグレーディングをしてもらいました。これがとても面白かったですね。一気に質感が変わって、今回のターゲットとしている少し年齢層が高い女性が好むようなシックで高級感のある映像になって、これはすごいなと思いました。
新しい才能との協業と海外での反響
――クレジットを見ると、これまでカラー作品にはあまり参加されていないクリエイターのお名前が見受けられます。どのような意図でスタッフィングされたのでしょうか。
川島:実は、そこも今回の推しポイントのひとつなんです(笑)。アニメーションプロデューサーの藤原が今回の作品のために色々なクリエイターにアプローチしてくれました。
藤原滉平氏(以下、藤原):今回、一部エフェクトを作画で仕上げてもらっている部分もあるのですが、お仕事をお願いした作画のアニメーターの方たちが非常に格好良い仕上がりにしてくれたのが印象的でしたね。特殊エフェクトデザインを湯浅政明さんにお願いしたり、コンセプトアートをゴキンジョさんにお願いしたりと、作品の根幹に関わるような部分で、これまでカラーの人脈にはなかったクリエイターの方々に参加していただいたのが非常に新鮮で、良い結果に繋がったと思います。
藤原滉平氏
アニメーションプロデューサー/スタジオカラー
――最後に、本作は2025年7月に開催されたフランスでのJAPAN EXPOにも参加されていますが、そのときの印象もお聞きしたいです。
川島:もともとこの作品は海外初出で発表したいと考えていました。どこの国で発表するのがベストか検討する中で、作品の内容からもフランスが世界観にマッチしているし、パリで開催されるJAPAN EXPOで発表するのが時期的にもちょうど良かったので決めました。JAPAN EXPOでは事前に『シュガシュガルーン』という作品名はまったく出さず、「短編の新作を発表します」としか表明していなかったんです。当日、松井監督と藤原Pに登壇してもらって、その場で初めて公開しました。
藤原:ありがたいことに、かなりの人数のお客さんが入ってくれて、とても盛り上がっていました。
松井:セッションの最初に上映したんですが、上映してトークをしているうちにお客さんがどんどん多くなったので、再度上映したんです。
川島:その2時間くらい後にカラー公式YouTubeチャンネルで配信したところ、原作ファンの方々が注目してくれて、多くの方が好意的なコメントを寄せてくださいました。海外のファン、特に韓国のファンの方々がものすごく反応してくれたのは、ねらっていたところでもあったので嬉しかったですね。
――約6分という短編作品ですが、内容が詰まった、何回観ても面白い作品だと思います。本編アニメーションも制作決定ということで、大変楽しみです。ありがとうございました。
様々な色彩が織りなす魔界のイメージボード
コンセプトアートのゴキンジョと釣井氏でやりとりして作成したイメージボードの例。『シュガシュガルーン・コレクションブック』の魔界の地図などからイメージを膨らませて描いていった。今回のコンセプトアートにはゴキンジョをはじめ、新進気鋭のクリエイターも多数参加している。
シーンごとに異なる色味を決めたカラースクリプト
プリプロ段階で作成されたカラースクリプトの例。松井監督と釣井氏が話し合いながら、絵コンテに着色することで作品全体の雰囲気がプランニングされている。シーンごとに画面の色味に変化を付け、色彩設計で多様な世界観が表現され、観る人を飽きさせない色彩構成が意図的に盛り込まれている。
No.2に続く。
CGWORLD 2026年2月号 vol.330
特集:映像制作ニュースタンダード
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2026年1月9日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_大河原浩一(ビット プランクス)/ Hirokazu Okawara
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada