IT系メディアを対象に2023年4月18日より「ASUS台湾ツアー」が開催された。
これはASUS Japan初となる試みで、日本のメディアやインフルエンサーを対象に台湾の台北にあるASUS台湾本社で行われたカンファレンスイベントだ。
本記事では、カンファレンスの内容だけではなく、台湾の現状やASUS本社の内情など、CGWORLD特派員が台湾現地を訪れ取材した様子をルポタージュ形式でお届けしていく。
読者の皆様には我々特派員と一緒に台湾取材に行った気持ちになっていただけたら幸いだ。
ますく(坂本一樹)
1991年生まれ、多摩美術大学卒。
原型・ゲームモデリングの専門会社で修行を積み、大手ゲーム会社 R&D部門にてAIを活用したアバター生成技術の特許を取得したのち独立。
アプリケーションやゲームなどリアルタイム分野のモデリングに特化したCGスタジオ「KATASHIRO+」を設立。
CGWORLDの執筆に多く携わり、 ブログやFanboxなどのメディアに力を入れており、3Dモデリングやゲームエンジン、CG原型、3Dスキャンなどの指導を教育機関・個人へ行っている。
制作依頼、企業への技術顧問、教育機関・個人指導について、お気軽にお問い合わせください(Twitter X:mask_3dcg)
プロローグ)ASUSからの招待状
CGWORLD編集部にASUS JAPANから、ASUS台湾本社への招待状が届いた。
新製品にまつわる重要な発表があるとだけ聞かされていたものの、この招待状が届いた時点では、まだ我々はこのイベントの趣旨を知らされていなかった。ASUSのイベントについては後ほど語るとして、本編に入る前に台湾についての情報を少しおさらいしておこう。
台湾は九洲とほぼ同じ大きさの島国で、沖縄の石垣島のすぐ近くにある。台湾には複雑な歴史があり、オランダや清朝、近代では日本に統治されていた時代もある。
また、IT先進国であり世界の半導体基盤の66%が台湾で作られている。中でも、2ナノメートルという超高精度の半導体は台湾のtmscでしか安定生産することができず、他に替えのきかない世界でも唯一無二の半導体生産国である。
台湾は現在のIT社会にとって高度に複雑で特殊な環境に置かれた地域だ。そしてなにより、日本人にとって一番忘れてはいけないことは、東日本大震災で真っ先に支援をしてくれたのが台湾だったということである。今回取材するASUSも出荷するマザーボードに「GOD BLESS JAPAN」と入れ、10万ドルの義援金を送ってくれたのだ。今回台湾を訪れるメンバーの一人は福島出身者であり、東日本大震災の当事者であっため、チームとしても感慨深いものがあった。
我々特派員は台湾とASUSに対して不思議な縁と感謝の念を抱きながら台湾行きの飛行機に乗り込んだ。
アジアが世界に誇る、ASUSの知られざる実力
詳細を何も知らされずに台湾に現地入りを果たした特派員だが、現地の空港に到着すると100名近い日本のインフルエンサーや報道陣が集まっていた。果たして、ASUSが日本の報道陣を集めた理由は何なのか。
ASUSといえばゲーミングPCなどで有名な台湾のPCメーカーだ。半導体で世界一の精度と生産体制を誇り、手厚い製品保証が付く、信頼性の高いメーカーという印象が強いだろう。特にe-Sports向けのハイエンドノートPCと言えばASUSの名前が真っ先に上がるほど、薄型・軽量・高性能なプロダクトが多い印象だ。実際にゲーミングモバイル市場では、日本国内でのゲーミングシェアNo.1を確立しており、世界シェアNo.2、アジアシェアNo.1を保持している。台湾の圧倒的な半導体製造技術が背景にあるためか、マザーボードの世界シェアは堂々の1位であり、実に世界シェアの40%を誇る。世界的なリモートワークやインドア需要が高まり、半導体需要やPC需要が高まったことで更に台湾は劇的に景気が上昇し、ASUSも飛躍的な成長を遂げた。
成長を続ける台湾のリアルと、挑戦的なプロダクトを世界中に提供し続けるASUSのパワーの源はいったいどこにあるのだろうか。
台湾のアキバ文化
ASUSスタッフに真っ先に案内されたのは、台湾の秋葉原とも言われている通称「光華商場」と呼ばれる商業施設であった。
光華商場(光華数位新天地)は、八徳路電気街という台湾の電気街にある巨大商業施設の俗称であり、ハイエンドPCやガジェット、様々なオタクカルチャーが集う場所だ。日本で例えると、秋葉原のラジオ会館とヨドバシAkibaを合わせたような巨大商業施設と言えばしっくり来るだろうか。
日本では見たことがない規模でPCやガジェットメーカーの展示場が集う巨大商業施設や、路地裏を埋め尽くす電気街の様子は台湾ならでは。まずはその様子を紹介したい。
1)ジャパンエクスポ
光華商場にある三創生活園區というビルに入ると、ちょうど「2023 TAIWAN MEGAHOBBY EXPO」(メガホビExpo)というイベントが開催されていた。こちらでは多くの日本企業のホビーブースが展示されており、台湾の人々がとても楽しそうに見物していた。三創生活園區にはフィギュアやホビー用品店も入っており、台湾でも日本のアニメ人気は健在なようだ。
2)サブカルチャー
同商業施設には、電化製品以外にも、日本のサブカルチャーにまつわる製品が多く販売されている。台湾は親日であり、アニメや漫画、ゲームといった日本のサブカルが広く受け入れられているようだ。
3)台湾のPC、ガジェットストア
実は、台湾ではスマートウォッチやスマートホーム機器の所有率は日本の倍以上もある。今回訪れたここ光華商場の巨大商業施設には、世界中のPCメーカーやガジェットメーカーの大規模な展示施設が常設されていた。これは、日本では東京ビックサイトや国際展示場で行われる東京ゲームショウくらいでしかお目にかかることのできない規模感だ。
光華商場を訪れればいつでも世界の最先端ガジェットに触れられるのだ。
施設内ではゲーミングPCやゲーミングデバイス、ドローン、ゲーミング用設備の体験ブースやゲーミングチェア、VR体験ブースなどゲーミングに特化した展示スペースを多く見かけることができる。
また、液晶タブレットメーカーとして有名なHuionなどクリエイティブ向けの展示スペースも多く、4K液タブや、OLEDを搭載したクリエイター向けディスプレイなど、日本では見られないほど大規模であり、国際的なPCメーカーが一挙に集まる常設型の巨大商業施設に、台湾のIT分野に対する本気を見て取ることができた。
4)PCメーカーのブース
光華商場には、各国の有名PCメーカーの主にe-Sports市場へ向けた展示ショップが立ち並んでいる。Alienware、Razer、Logiなど様々なゲーミングブランドが立ち並ぶ中で、ASUSはe-Sports向けのROGシリーズ専門のショップや、Zenbookシリーズを中心としたビジネス、クリエイター向けのショップを展開していた。
ROGのブースでは、ゲーミング特化というだけあって、e-Sports会場さながらの迫力の展示がなされていた。
実際にここでe-Sportsを体験する事も出来る。ここを訪れた際は、プロゲーマー気分で実際にゲームをプレイしてみてはいかがだろうか。
さらにASUSの他のブースにも、なかなかのハイエンド機が並んでいた。
こちらでは、一般的なビジネス向けのシリーズだけではなくクリエイター向けのモデルも展示してあり、展示スペースで真っ先に最新機種の実機に触れることができる。
新しく発表されたばかりの折り曲げ式有機ELを搭載した[Zenbook17 Fold]は、最新の技術を詰め込んだ非常に高価なハイエンドマシンだ。
5)台湾の秋葉原「八徳路電気街」
光華商場を抜けると、下町には八徳路電気街と呼ばれる電気街が広がっている。高層ビルの隙間を縫うように、ビル街の一階に小さな個人商店が所せましと並んでいる。e-Sports文化がここ台湾では根付いており、素朴な街並みの中にも台湾の先進的な一面が伺えた。
台湾の町を歩いていると、あらゆる場所で微妙に間違った日本語を見かけることがある。日本人が英語のTシャツやパッケージを好むように、台湾でもお洒落なデザインとして積極的に日本語を取り入れている印象を受けた。
6)ナイトマーケット
東南アジアを代表するB級グルメと言えば、ナイトマーケット(夜市)と言っても過言ではないだろう。夜市という文字を見ると少し不安に思う方も居るかも知れないが、台湾などの暑い地域では日中に外出するのは難しいため、日中は屋内などで過ごし、涼しくなった夜に外出することが多い。夜市を歩けばリアルな台湾文化に触れる事が出来るだろう。現地の人が買い物をする市場や食堂が立ち並ぶエリアから、観光地の夜市では日本の縁日の出店に近い、金魚すくいや射的や屋台やお土産屋が並ぶエリアまで、幅広い店舗があり、生活や娯楽に必要なものはなんでも揃う。物価はおおよそ日本と大きな乖離はなく、全体的に日本の8割ほどの価格と感じた。
ASUSとは何者なのか
さて、台湾の今を知ったところで、いよいよ本題のASUSについての話題に戻りたいと思う。
ASUSという企業は歴代の製品を見ても、かなり尖った製品を世に多く出している。
世界初の外部水冷ノートパソコンを発表したり、最薄かつ最軽量の最強タブレットPCを発表してきた。現在でもモバイルPC市場では、クラス最軽量、最薄、高性能で市場のトップを走り続けており、ゲーミングシェアではアジア1位、日本国内でもゲーミングノートの売上1位を記録し続けている。
本記事の後半では、ASUSがハイエンドPC市場でアジアトップへとのぼり詰めたその秘密を覗いていこう。
1)ASUSの開発力の秘密
完成品PCにおける世界シェアはLenovo、HP、DELL、Appleに次いでASUSが世界5位となっている。
Lenovoは中国企業であり、HPやDELL、Appleは北米企業だ。流石にアメリカの会社は強い。また、IBMやNEC、富士通のPC部門を買収したLenovoも堅実な売り上げを見せている。
完成パソコンの世界シェアだけを見るとASUSの実力を誤解してしまうかもしれない。しかし、先述した通り、ゲーミングPCのようなハイエンドPCに目を向けると世界シェア2位、アジア圏や日本でのシェアは1位であり、ASUSはハイエンドPCにこだわった戦略をとっていることが分かる。
2)ASUSは世界最大のマザーボードメーカー
実はASUSが一番の売り上げを誇る部門は完成品PCではなく、マザーボードにある。
ASUSはマザーボード分野で世界1位のシェアを誇り、世界シェアの実に4割を占めている。また、日本国内でもBCN AWARD 2022のマザーボード部門を受賞し17年連続国内販売シェアNo.1という偉業を成し遂げている。
世界中のPCの半数近くがASUSのマザーボードを搭載していると言えば、どれだけこの会社が巨大なシェアを獲得しているか想像していただけるだろう。昨今ではASRockのマザーボードも人気を博しているが、それでもASUSとは10%近い差がある。
そしてASRockはASUS出身の技術者が立ち上げた台湾メーカーであるため、ASUSが技術の基礎を作って来たメーカーといっても過言ではない。マザーボードで積み上げた基盤があるからこそ、他社には無い魅力が沢山詰まったPCを数多く生み出すことができるのではないだろうか。
3)TDPに見るASUSの実力
TDPとは熱設計電力のことで、CPUやGPUの性能をどれだけフルに使えているかという指標の一つだ。本来、CPUやGPUが出せるはずの性能をきちんと出し切っているかを消費電力から推測するものになる。クリエイターやゲーマーがPCを選ぶにあたってTDPのベンチマークをよくチェックしなければ、一番高いグラフィックボードを積んだPCを買ったのに、思ったよりも性能が出ない、という事になりかねない。
多くのメーカーが制作するモバイル向けのハイエンドPCでは、バッテリーや排熱のためにCPUやGPU本来の性能をメーカー側でセーブしている現状があるのだが、ASUSのモバイルPCはカタログスペックに近い性能を発揮できていることが特徴である。ASUSが高いTDP精度を誇り、CPUやGPU性能をフルに発揮できる背景には、Intel、AMD、NVIDIAとのパートナーシップ開発に秘密がある。
4)3大ハードウェアメーカーとのパートナーシップ
先述した通り、ASUSは世界トップのマザーボードシェアを誇っているため、Intel、AMD、NVIDIAなどのCPU、GPU分野においてトップシェアを誇るメーカーと深い繋がりを持った上で開発を行っていることも大きなアドバンテージの一つだ。
今回行われた登壇イベントでも、Intel、AMD、NVIDIAの代表者がASUSとのパートナーシップ開発についての公演を行い、ASUSとの強い繋がりをアピールしてくれた。
ASUS製品がパソコンを作るにあたって、トップクラスのパートナーと提携を行って開発されていることは間違いないだろう。
5)宇宙産業で勝ち得た国際的な信頼
ASUSの技術の裏付けはそれだけではない。
宇宙ステーションに持ち込まれたPCで、他社メーカーのPCが故障していくなか、ASUSのPCのみが600日間をノートラブルで耐え抜いた実績があり、NASAとの深い関係が示されていた。
NASAとASUSの深い結び付きを記念して発売されたAsus Zenbook 14x Space Editionがこちらである。
信頼性に厚いメーカーであることを証明し続けたASUSには絶対的な製品クオリティに対するプライドと誇りがあり、彼らの技術の裏付けとなっている。
6)ASUSはハイエンドゲーミングのパイオニア
ASUSの歴史を振り返ると、なんと2006年にはゲーミングPC専門ブランドROGが始動したとある。
2006年というと、SUPER AIR COMBAT 4、SIREN2、Call of Duty 2などが発売された年である。
この頃はまだPlayStation 2などのコンシューマー機が世間では主流な時代で、同年にサービス開始をしたSuper Swing GolfやGuild WarsなどのネットゲームがPCゲームに定着し始めたばかりの頃である。
この頃はまだグラフィックボードという言葉は存在せず、今や死語となった「ビデオカード」が存在したのみだ。
2006年発売のビデオカードの例でいえばNVIDIA GeForce 7900が挙げられる。ASUSがPCゲーミングの黎明期からゲーミングPC開発を行ってきたパイオニア的存在だというのが良く分かる。
ASUS本社への潜入取材
ここまでで、技術や組織的にASUSが優れた企業になり得たロジックはある程度解き明かせたとは思う。では次に、ASUSという企業がどのようなことを大切にすることでトップ企業にのぼり詰めたのか迫っていきたい。
1)なによりも技術者を大切に
今回のイベントで発表された新製品は、驚くべきことに31製品74モデルもあり、この他にもASUSでは毎月のように膨大な数の新製品を発表し続けている。
ASUSは現在82カ国でビジネスを展開しており、従業員数は世界中に14,500人以上もいる大企業だ。
更に社員の1/3がエンジニアで構成されており、研究開発部門として新製品開発のためだけに5,000人以上のトップクラスの技術者を雇用している。
この5,000人の専門家達がフラットな立場で日々アイディアを出し、研究開発に没頭できる環境を提供しているため、ASUSは開発力では絶対に負けないとCEO Jerry Shen氏は豪語している。
これだけのスピードで新製品をリリースし続けるPCメーカーは他になく、技術と開発に対する熱量の高さが伺える。それは、ASUS本社に入ると真っ先に目に入る同社の社訓からもよく伝わってくる。
ASUS新・旧本社に掲示されている社訓を翻訳すると以下のようになる。
ASUSの経営理念
ⅰ)社員の能力を最大限に発揮できるように社員を育て、大切にし、配慮すること。
ⅱ)清廉・節約・実益を兼ね備えた誠の精神を貫くこと。
ⅲ)世界一の品質・速さ・サービス・革新性・コストを限りなく追い求めること。
ⅳ)グリーンテクノロジーで世界的な先駆者となり、人類社会に実際に貢献することを目指すこと。
これらを完結にまとめると、人を大切にすること・誠実であること・ハイエンドであること・サスティナブルであること。
つまり、社員や技術者を尊重し、製品の品質保証をしっかりとし、常に最先端であり続け、環境にも配慮する国際的リーダーとしての誇りを持つ、ということだ。
台湾の国民性として、真っ先に民主主義的な自由と責任への情熱が挙げられることを先述したが、ASUS自体にも民主主義的な自由と責任の思想、そして、ノブリス・オブリージュ(力ある者の責任)の精神が強く根付いているようだ。
開発チームリーダーに直接、話を聞く機会を得たが、開発メンバーは誰でも意見を発言でき、良案は立場に関係なく反映されるという事を聞き、台湾企業の持つ気高さと力強さをあらためて感じる事ができた。
2)人を大切にする施設
ASUS本社の主な拠点は旧本社と新本社の2つに分かれており、4,500名程度の社員が新本社に移転しているが、旧本社にいる部署も3,000名程度残っているとのことだ。
旧本社の今後の運用は検討中だが、ASUSの業績は伸び続けており、社員も増やしていく方向で考えているとの情報を得た。
ASUS本社に入り真っ先に驚いたことは、美術館のような施設の作り込みだ。
新本社ビルは全体的に白い大理石を基調とした作りで、左右の階段付近にはメインのPCシリーズの名前にもなっている”禅”を取り入れた木と水を基調とした落ち着いた空間が広がっており、休憩中の社員が楽しげに会話していた。
ASUS本社のエントランスには、過去のプロダクトが美術館のように美しく展示されている。
3)社員の能力を引き出す環境
また、本社では社員が利用することが出来るジムやレクリエーションルームが設置されており、福利厚生にも力を入れている様子が見てとれる。
ビリヤード台の側でリラックスしながらアイディア出しを行う技術者達の様子が印象的だった。
旧本社の中庭がマザーボードを模した庭園になっていたり、テニスコートがあったり、新本社のロビーやラウンジが禅をテーマにした過ごしやすい空間になっていることなど、とにかく社員や来賓が気持ちよく過ごせることに注力していることがよく分かる素晴らしい環境だ。
また社員食堂は、新本社ビルにはワンフロア全体を使ったかなり広いフードコートが用意されており、数え切れないほどのお店の料理を好きに食べることができる。
社員や来賓は社員証にチャージされた電子マネーをレジにかざして、上記の店からキャッシュレスで好きな料理を食べることができる。
フードコート以外にも、カフェやフルーツ専門店やタピオカやスムージー専門店やお菓子屋さん、コンビニエンスストアといった幅広い店のブースが並んでいた。お昼どきには通路やフリースペースに所せましとアパレル、化粧品、家電、民芸品などの出店が立ち並び、どの出店にも長蛇の列ができていた。
4)自然を大切にする生産体制
SDG'sやサスティナブルという言葉が社会で大きく取り沙汰される以前から、ASUSは社訓に従い、環境的・人員的に持続可能な素材を使い、環境に配慮した製品づくりに注力し続けてきた。
その一環としてASUS製品の空き箱は、PCスタンドとして再利用できるように設計されていたり、リサイクル可能な素材が随所に使用されている。
4)品質を担保する極秘施設
PC製品の保証は通常、高額な場合が多いが、ASUSの製品には無料で1年間の製品保証がついてくる。また、安価な金額で3年間の追加保証にも入ることができ、ASUSの自社製品への自信が伺える。
この技術を裏打ちするのは先述した通り、5000人の研究開発チームの技術力であり、NASAで勝ち得た国際的な信頼とプライドであり、業界シェアNo1の基盤技術とハイエンドモバイルPCの実績でもあるが、最後にもうひと押し、物理的な根拠が存在する。
ASUSは、製品の物理的な耐久性能にもこだわりを持っており、国際規格に対応した過酷な製品耐久テストを行っているのだ。
製品テストは極秘中の極秘技術のため、普段は本社の人間ですら立ち入りが制限されているのだが、我々特派員は特別に秘密エリアへの立ち入りを許可された。
真っ黒でただの業務用通路の用に見えるASUS本社の扉の奥には広大なスペースが設けられており、高温多湿時や振動での短期・長期による製品への影響から海外発送時の梱包の安全性のテストなど製品の安全面に関わるテストが行われていた。
安全性や耐久性のテストだけではなく、PC本体の騒音テスト、Wi-Fiの電波強度チェック、タッチパネル精度、コロナウイルス対策として施策された抗菌テストなど製品のあらゆる品質管理を行う環境が整っている。
世に出る前の試作品もここで日々テストしているとの事なので、厳重なセキュリティ管理がされているのも頷ける。
また、米軍MIL規格の耐久テストもここで行われており、厳しい基準をクリアしたものが製品として販売される。長時間かつハードな環境下でも安心して使う事が出来るのでとても安心だ。
読者の皆様にこの施設の全貌をお見せできないのが心苦しいが、このような大規模なテスト施設があるからこそ、ASUSには信頼できる製品が目立つのだろうと、初めて製品開発の裏側を見て実感した。
ASUSがアジア有数のテックカンパニーになれた理由
ASUSがアジアで世界的なテックカンパニーにのぼり詰めたのか、といった最初の問いに立ち返ってみると、なぜ台湾の地でASUSのような世界的起業が生まれ、日々挑戦的な製品がリリースされてくるのか答えが見えてきたのではないだろうか。
1)なぜASUSはアグレッシブな開発が出来るのか
過去のASUSの製品では挑戦的なアイディアを積極的に取り入れ、失敗作も含めて多くのユニークな製品を展開してきた。
今ではそれは成熟した製品となってきており、多くのユーザーから愛されている。
ではなぜ、挑戦的な製品を作り続けられるのか、開発チームのリーダーから直接話を聞くことができた。
新しい物を生み出すという事は当然リスクがあり、そこに不随するコストがあるので多くのメーカーではどうしても保守的な設計や製品になってしまう。
ASUSでは1/3がエンジニアと前述したが、そのエンジニアチームでは全てのメンバーがフラットに意見を交換する事ができ、良いアイディアは採用されるというのが特徴的だ。
具体的には、過去にあった世界初の外部水冷のノートパソコンが、ASUS史上最も尖った製品と認識している。
ASUSがそれだけ尖った製品を多く世に出せるというのは、マザーボードのシェアが世界1位である事によるASUSの資金力と、失敗が許され挑戦のしやすい企業文化にある。
2)台湾、そしてASUSから学ぶこと
ASUSと台湾から学ぶ、クリエイターにとって大切なことは
①誰にも負けない一つの分野を作り、育てること。
②一つの分野で秀でたら、そこを基盤に資金力やコネクションを作ること。
③失敗が許される環境を作り、常に挑戦的で新しいものづくりを続けること。
④プライドを持ち、本気で取り組むこと。
成功の裏には、技術と努力と継続が必要で、実績に裏付けされた余裕や誇りが大切だということをASUSは我々に教えてくれたのではないだろうか。
ASUSは、激動の台湾の歴史の中で産まれ、禅の心を持ち、社員を大切にし、ユーザーを重視し、環境に配慮し、国際社会への貢献を考え、人類全体の技術の発展をリードするのは自分たちだというプライドを高く持ち続けている企業だ。
誇れる存在であろうとする彼らの国民性と使命感が、ASUSという一つの強い企業を生み出したのだろう。
3)ASUSがトップ企業になれた理由
ASUSはチャレンジ精神、そして強力なマザーボード事業の資金面があるからこそ、常にユニークな新しい製品を生み出し続け、一般ユーザーからゲーマーまで幅広く支えてきた実績がある。
2019年にASUS JAPANの新社長となった先進気鋭の若手社長アルヴィン氏は、情熱に満ちた瞳でこう語る。ゲーミングPCの需要は十分に育ったので、次はクリエイター向けのPCに力を注ぎたいと。
今後展開されるクリエイター向けの『ProArt』シリーズには期待が高まる。
今回のツアーでは、CGWORLD海外特派員として台湾を歩き、台湾の人々と触れ合い、台湾の人々と同じ目線から見えたのは、民主主義への誇りと新しい事へのチャレンジ精神であり、ASUSの新製品に対するルーツを知る事ができた。
著者も彼らのその姿勢を今後見習っていこうと思う。記事では取り上げられなかった内容は計り知れない。まだまだ読者の皆様に伝えたい事があるが、記事の関係上この辺でルポは切り上げさせていただく。
ぜひ読者の皆様にも実際の台湾を訪れその魅力を体感して頂きたい。
取材:Katashiro+ ますく / 秋葉