画像生成AIに関する疑問と言えば、気になるのが著作権を中心とした法律関連の問題。今回はAIを活用する上で、アーティストが気になる疑問・質問の数々をSTORIA(ストーリア)法律事務所の柿沼太一弁護士に解説してもらった。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 293(2023年1月号)からの転載となります。

    AIによる生成物と著作権の問題を考える

    STORIA法律事務所の柿沼太一と申します。スタートアップ法務やデータ・AI法務を多く取り扱っています。2022年秋、MidjourneyやStable Diffusionなどの画像生成AIが話題になりました。わたしもブログで「Midjourney、Stable Diffusion、mimicなどの画像自動生成AIと著作権」という記事を公開したところ、たくさんの反響をいただきました。

    特にクリエイター・アーティストの方々からは「画像生成AIで生成した画像って著作権が発生しているのでしょうか?」「画像生成AIで生成した画像を商用利用していいのでしょうか?」「公開している自分の作品を画像生成AIの学習データとして使用してほしくない場合はどうすればよいでしょう?」「画像生成AIが生成した画像が自分の作品と似ている場合は、何らかの手段を講じることができますか?」などなどのご質問をたくさんいただいています。

    画像生成AIに関する議論は、いわゆる生成系AIにほぼ等しくあてはまりますが、実は生成系AIに関する法律面の議論は、学者や実務家などの専門家の間では2016年頃からなされていました(AIに限定しない、コンピュータ生成物と著作権の問題は、もっとずっと前から議論されています)。ただ、そのような専門家も、当時は「まあ、とはいえこの議論が必要になるのは、まだまだ先だよね」と思っていた方がほとんどだったと思います(私も含めて)。ところが、Midjourneyが出てきたあたりで、こりゃえらいことだと皆ビックリして、慌てて以前の議論を全ておさらいして、改めて真剣に検討を始めたところです。今回は限られたページ数にはなりますが、アーティストの皆さんの疑問・質問にできるだけわかりやすくお答えしていきたいと思います。

    柿沼太一

    1997年京都大学法学部卒業。2000年弁護士登録。2015年にスタートアップのサポートを重点的に取り扱うSTORIA 法律事務所を共同設立して現在に至る。専門分野はスタートアップ法務、AI・データ法務、ヘルスケア法務
    storialaw.jp

    著作権を主張するために必要な「創作的寄与」とは?

    アーティスト(以下、Aさん):最近、画像生成 AIが話題ですが、そもそものところで、画像生成 AIで生成した画像って著作権が発生しているのでしょうか? 「AIでつくった画像には著作権が発生しない」という、ネットの記事を読んだのですが。

    柿沼弁護士:それは AIを使って画像制作をする際に、ご自身に「創作的寄与」があるかによりますね。

    Aさん:「創作的寄与」ってなんですか?

    柿沼弁護士:簡単に言うと、人間が実際に手を動かしたり、頭を使ったりするような「創作的行為」を行なっているかどうかということですね。人間がそういう「創作的行為」を行なっていれば、AIをいわば「ツール(道具)」として使って人間が創作した画像ということになるので、著作権が発生します。

    Aさん:では、逆に「創作的寄与」がない場合って、どういう場合ですか?

    柿沼弁護士:誰でもできるような単純な操作しかせず、あとは AIに「お任せ」で画像が生成された場合ですね。たとえば「生成」ボタンをクリックするだけ、とかとても簡単な「呪文」を入れて画像を生成する場合とか、めちゃくちゃ簡単なラフ画を入力して画像を生成する場合などが該当すると思います。

    Aさん:なるほど……。ただ、実際には簡単な「呪文」を入れて画像生成をすることをくり返し行なって、その中からイケてる画像を選んだり、生成された画像にさらに自分で手を入れてブラッシュアップすることが多いのですが、その場合は「創作的寄与」がないということになるのでしょうか?

    柿沼弁護士:いやいや、そのような「多くの生成画像からイケている画像を選ぶ」という行為や「生成画像にさらにプロとして手を入れてブラッシュアップする」行為についても「創作的寄与」に該当する可能性が高いと思います。なので、その場合は著作権が発生すると思いますよ。

    Aさん:それを聞いて安心しました。とすると、AIを使っていたとしても、ある程度人間が手をかけていれば著作権が発生する、ということになりますね。

    柿沼弁護士:はい、そのとおりです。なので、プロのイラストレーターの方がAIツールを使って画像を制作される場合には、普通は「創作的寄与」があるでしょうから、著作権が発生することがほとんどではないかと思います。

    画像生成AIで生成した画像を商用利用するために気を付けることは?

    アーティストBさん(以下、Bさん):画像生成 AIで生成した AI画像に著作権が発生するかどうかの基準はわかりました。では、AIで自動生成した画像を商用利用していいのでしょうか?

    柿沼弁護士:そうですね。その点については画像生成AIを利用して生成した画像について、生成したユーザーがどのような「権利」をもっているかが問題になります。

    Bさん:「権利」というと?

    柿沼弁護士:この点は 2つに分けて考える必要があります。ひとつは「AI画像を生成したユーザーが、その画像を商用利用を含め、自分で使ったり、第三者に使わせたりと自由に使うことができるか」という点ですね。もし生成ユーザー自身が自由に使えるとしても、その画像を第三者が勝手に使っていた場合に、そのユーザーが「著作権侵害じゃないか!」と文句を言えないとまずいですよね。

    Bさん:確かに……。そういう場合に文句を言えないと「自分が権利をもっている」と言ってもあんまり意味ないですね。例えば、私が雑誌社から注文を受けて生成した AIイラストを納品し、そのイラストが掲載された雑誌が販売された後に、第三者がそれをパクった場合とかですよね。そういう場合に文句を言えないとなると、私自身が雑誌社から文句を言われそうです……。

    柿沼弁護士:そうなんですよ。なので「生成したユーザーが商用利用を含め、自分で使ったり、第三者に使わせたりと自由に使うことができるか」だけでなく「生成画像を第三者が無許諾で利用した場合、それに対して生成ユーザーが著作権侵害に基づいて権利行使(差止請求・損害賠償請求など)できるか」も同じくらい重要なんです。

    Bさん:なるほど。ではどこを見たらそれがわかるのでしょうか?

    柿沼弁護士:まず、そもそもAI画像について著作権が発生しているかどうかですね。著作権が発生していない場合は、「自分で自由に使える」けど「他人が勝手に使った場合に文句を言えない」ということになります。著作権がないので。

    Bさん:あ、そういうことか。でも、先ほどのお話だと、プロがAIツールを使って手をかけて創作した場合は著作権が発生するということでしたよね。とするとその点はあまり心配なさそうです。

    柿沼弁護士:そのとおりですね。ただ、仮に著作権が発生しているとしても、創作に使った AIツールの利用規約の内容次第では困ったことになることもあります。たとえば、Dream Studioの利用規約を見ると、このツールを使って生成した画像について、ユーザーはCC0 1.0 Universal Public Domain Dedicationの条件で第三者にライセンスしなければならない、とされています。

    Bさん:Public Domainと聞くと嫌な予感がしますが……。

    柿沼弁護士:はい、CC0 1.0 Universal Public Domain Dedication の条件の詳細については該当ページを見ていただきたいのですが、要するに著作権を全て放棄する、という内容です。

    Bさん:とすると、Dream Studioを使って生成した画像については、嫌でも著作権を放棄しなければならない、ということですか。それはきついな……。

    柿沼弁護士:もちろん、生成ユーザー自身がその画像を商用利用することは完全に自由ですよ。ただ、第三者がその画像を勝手にパクった場合に文句を言えない、ということになります。あと、有料プランかそうでないかで、商用利用できるかどうかの扱いがちがうツールもあります。たとえば、Midjourney の場合、有料会員は自ら生成した画像について商用利用できますが、無料会員は商用利用できないことになっています。

    自分の作品を学習データとして使われたくない場合は?

    Aさん:私はポートフォリオとして、自分の作品をWebで公開しているのですが、画像生成AIの学習データとして使われたくありません。そういう場合はどうすればよいでしょう。Webサイトに「AI学習禁止」などと記載しておけばよいのでしょうか?

    柿沼弁護士:実はそれだけでは不十分なんです。

    Aさん:私の画像をAI学習に使われたくない、という私の意思は、このようにサイトに記載しておけば誰でもわかるのではないかと思いますが、それでもダメなのでしょうか?

    柿沼弁護士2つ問題があります。ひとつ目は、そもそも他人の画像などを学習用データとして利用することは、日本の法律では適法とされているという点です。つまり、日本の著作権法30条の4第2号では、画像生成AIによる生成のような「情報解析」のためであれば、他人の著作物を勝手に利用できる、と定めています。このような法律がある以上、それに反するような著作権者の方の宣言は無効だ、という考え方があります。

    Aさん:そのような法律があることはわかりました。ただ、そのような法律があるとはいえ、その画像の著作権をもっている私がダメだと言っているのですから、ダメなのではないのでしょうか。

    柿沼弁護士:はい、たしかにおっしゃるとおり、著作権法で許されているとは言え、著作権者はそのような利用を禁止することができるはずだ、という考え方もあります。ただ、そのような「禁止」をするためには著作権者とその画像の利用者との間で、その内容の「約束」がされている必要があります

    Aさん:とすると、Webサイトに「AI学習禁止」と記載しているので、そのような「約束」はあると考えて良いのではないでしょうか?

    柿沼弁護士:いえ、「約束」、言い換えると「契約」は、契約をする人双方の意思が合致していなければなりません。つまり、一方的な宣言だけでは「約束」は成立せず、あなたが「AI学習禁止」と言い、利用者が「わかりました」と承諾をしないとならない、ということです。

    Aさん:うーん……。納得できないなあ。じゃあ、結局私が、自分の画像をAI学習に利用されることを禁止することは絶対にできない、ということなんでしょうか?

    柿沼弁護士:いえいえ、明確に「約束」が成立すればOKですので、例えば、Webサイトに「AI学習禁止」と記載し、利用者がそれを承諾しないと画像を閲覧したり、ダウンロードできないようなしくみを採る、ということで禁止することは可能です。

    無断で学習データとして使われた場合はどうすればいいの?

    Bさん:無断で学習素材として使われた場合、AI開発会社を訴えて勝てる可能性はあるのでしょうか? また、開発会社が海外法人の場合はどうなりますか?

    柿沼弁護士:先ほど少し説明をしましたが、日本の著作権法30条の4第2号では、画像生成AIによる生成のような「情報解析」のためであれば、他人の著作物を勝手に利用できる、と定めています。したがって、この日本の著作権法が適用されれば、裁判をしても勝てる可能性はない、ということになります。

    Bさん:「日本の著作権法が適用されれば」ということは、日本の著作権法が適用されなければ、勝てる可能性があるということでしょうか?

    柿沼弁護士:はい、おっしゃるとおりです。実は、日本の著作権法のこの部分はちょっと特殊なんです。日本以外の国の著作権法でも、同じように「情報解析」のためであれば他人の著作物を勝手に利用できるという国もあるのですが、それらの国の著作権法は、そのほとんどが「非営利目的」や「研究機関による利用」に限ってOK、としています。一方、日本の場合はそのような限定がないので、営利目的であっても「情報解析」のためであれば利用可能になっているのです。で、どのような場合に日本の著作権法が適用されるかの話ですが、著作物を利用されている「場所」が日本国内である場合に限って日本の著作権法が適用されることになっています。

    Bさん:著作物を利用されている「場所」が日本国内である場合って、どういう場合でしょうか? 学習はおそらくインターネット上のコンピュータで行われている行為なので、その「場所」と言われても……。

    柿沼弁護士:そうなんです。インターネットが絡む場合「場所」と言われてもよくわかりませんよね。いろいろな考え方があるのですが、「著作物の収集や学習が行われているコンピュータ(サーバ)がある場所」が、通常は「著作物を利用されている場所」と理解されています。ですので、AI開発会社が利用しているサーバが日本に所在していれば、日本法が適用され、訴えることは難しい、ということになります。

    Bさん:では、開発会社が海外法人の場合はどうでしょうか。

    柿沼弁護士:開発会社が日本の法人なのか、海外の法人なのかは、日本の著作権法が適用されるかどうかには無関係です。あくまで「著作物の収集や学習が行われているコンピュータ(サーバ)がある場所が日本国内かどうか」で判断されます。

    画像生成AIが生成した画像が自分の作品と似ているんですけど?

    Aさん:もし、画像生成 A Iが生成した画像が自分の作品と似ている場合は、何らかの手段を講じることができるのでしょうか?

    柿沼弁護士:はい、場合によっては、著作権侵害を理由に損害賠償請求などができる可能性があります。著作権侵害が成立するためには、①あなたの画像に類似していること②あなたの画像の存在を知っていることの2つが必要です。そのため、「あなたの画像が存在することを知った上で、それと類似の画像をAIを使って生成する」行為は著作権侵害に該当します。

    Aさん:それって、普通の話ですよね。とすると「パクったか、パクられたか」という問題は、AIを使うかどうかとは、実はあまり関係がないのでしょうか?

    柿沼弁護士:はい、そのとおりです。「人間が行なったらNGだった行為が、AIを使ったことによりOKになる」ということはありません。ただ、生成者が明らかにあなたの画像の存在を知っていれば問題ないのですが、「たまたま、あなたの画像が学習用データに含まれていて、そのことを生成者が知らなかった場合」は難しい問題になります。

    Aさん:確かに、その場合は「わざとパクった」とは言えなさそうですね。

    柿沼弁護士:そのパターンの場合に著作権侵害が成立するかどうかはいろいろな考え方があり難しい問題なのですが、現在のところ、学習用データに含まれているに過ぎない場合でも著作権侵害である、と考える人が多いように思います。

    Aさん:とすると、「たまたま私の画像が学習用データに含まれていて、そのことを生成者が知らなかった場合」でも、私は生成者に対して「画像を使うな」とか「損害賠償金を支払え」という請求ができる、ということでしょうか?

    柿沼弁護士:そこがややこしいところなのですが、著作権侵害に該当した場合であっても、実は 2つのパターンがあります。相手がわざと、あるいはちょっと注意すれば著作権侵害を避けられたのにあえて侵害行為を行なった場合(「故意や過失がある場合」)には「画像を使うな」と「損害賠償金を支払え」の両方を求めることができます。一方、相手に故意も過失もない場合には「画像を使うな」とは言えるのですが、「損害賠償金を支払え」とは言えないのです

    Aさん:めんどくさいですね……。とすると、学習用データに私の画像が含まれている場合でも、「知ってパクった場合」と「知らずにパクった場合」で結論がちがう、ということなんですね。

    AIを使用して制作した3Dモデルと偶然同じ顔の人が実在していたらどうなるの?

    Bさん:多数の人間の顔を学習させて、実在しない顔を生成するAIを利用し、3Dモデルデータを生成して、商用ゲームなどに利用したとします。後になって、偶然同じ顔をもつ実在の人物から「自分の顔画像をゲームに勝手に使っただろう」と、クレームが来た場合はどうなりますか?

    柿沼弁護士:ものすごく難しい問題ですね……。その実在の人物の「肖像権」を侵害したと言えるかどうかの問題です。これまで、肖像権の侵害が問題となった裁判は、例えば実在の人物の顔の隠し撮りをするとか、隠し撮りをした写真を公開するなどが典型的なケースでして、AIが絡んだ肖像権侵害の事件は、私が知る限り日本はもちろん世界でも1件も問題になっていません

    Bさん:ずいぶん曖昧なんですね。ただ、今後必ず問題となるように思うので、考え方の方向性だけでも教えていただけませんか?

    柿沼弁護士:ここからは完全に私個人の見解になりますが、一応説明しますね。「肖像権」というのは、要するに「勝手に撮影されたくない」「勝手に撮影された写真を公開されたくない」という個人の気持ちを法律で保護するというものです。つまり、肖像権侵害が問題になるのは「ある人間の顔を撮影する」ということが大前提となっているはずで、「大量の顔画像から合成した顔画像を利用する」ということは肖像権が想定している利益ではないように思います。したがって、個人的には、このようなケースでは肖像権侵害は成立しないと考えています

    今後、画像生成AIに関連する法律はどうなっていく?

    Aさん:今はまだ、画像生成AIが出てきたばかりでの状況ですが、今後さらに画像生成AIによる生成が発達していくとして、なにか法律の改正などが行われる可能性はあるのでしょうか?

    柿沼弁護士:いくつか論点があると思います。まず、人間が創作した著作物をAI学習のために利用することができる、という点については、AI技術開発と著作権者の利益のバランス、という観点からは、現行法が改正される可能性はかなり低いのではないかと思います

    Aさん:でも、AIを誰でもが利用できるようになると、AIを利用することで、人間の著作物をパクった著作物が広く世に公開されるようになるのではないでしょうか?

    柿沼弁護士:確かにそのような著作権侵害の危険性は高まるかもしれませんね。ただ、先ほど説明したとおり「人間が行なったら著作権侵害だった行為が、AIを利用することで著作権侵害ではなくなる」ということではありません

    Aさん:ただ、著作権侵害の危険性が高まるのであれば、やはり法律で規制するべきではないでしょうか?

    柿沼弁護士:「法律による規制」というのは確かに強力なのですが、いったん法律ができてしまうと、状況に応じて素早く変更したり、柔軟に変更することがとても難しくなります。一方、民間のルールは、強制力はありませんが、素早くかつ柔軟に変更できるという利点があります。AIという最先端の技術の可能性を殺さず、しかも既存のクリエイターの方の利益を大きく損なわない、合理的な民間ルール形成がなされたり、技術的な解決がなされると良いな、と思っています。ただ、そこまでいくには様々なトラブル解決事例や、裁判例が積み重なる必要があるかもしれませんね。

    Pickup!

    画像生成 AIに関する著作権の記事はSTORIA 法律事務所ブログにも詳しくまとめられています
    ・Midjourney、Stable Diffusion、mimicなどの画像自動生成AIと著作権
    ・Midjourney、Stable Diffusion、mimicなどの画像自動生成 AIと著作権(その2)

    月刊CGWORLD + digital video vol.293(2022年12月号)

    特集:アーティストのためのAI活用
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2022年12月9日

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    TEXT_柿沼太一(STORIA法律事務所)
    ILLUSTRATION_ 安藤 直(asterisk-agency)
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada