フィギュアスケートを題材として「次に来るマンガ大賞2022」コミック部門1位にも輝いた人気コミック『メダリスト』がTVアニメ化されて放送中だ。メダリストを目指す少女とコーチの物語で、アニメ制作を手がけたのはENGI。作画ベースの作品の中で、フィギュアスケートシーンをCGで表現することが本作では大きな挑戦だった。今回は全4回にわたり、制作の裏側を紹介する。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 319(2025年3月号)からの転載となります。
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テレビ朝日系“NUMAnimation”枠ほかにて放送中
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©つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会
指先からエッジの角度までこだわりのアニメーション付け
フィギュアスケート演技のアニメーションについて、一連のシークエンスをまとめたのがフィギュアスケート監督・3DCGディレクターのこうじ氏だ。監督にCGでできることの説明と提案を早くから重ねた結果、作中でのCG活用についてお互い信頼をもって進められた。
「フィギュアスケートのシーンに関しては、山本監督からほぼ任せていただけました。そのため、まずはこちらでモーションキャプチャデータをながし込んでキャラクターを動かし、カメラを付けてVコンテをつくりました」と制作方法を語るまた、堀氏は「広いリンクの中でスピード感を出すには、レンズが広角になることが多いです。キャラクターの顔にも広角特有のゆがみが出るため、キャラクターデザインから大きくかけ離れないように細かく顔の見た目を調整しました」と本作ならではの苦労を語る。

特に難度が高いカットを担当した3DCGアニメーションスペシャリストの湯藤 巧氏は、原作の魅力をどれくらい伝えられるかが課題だったとふり返る。「繊細な振付の中でのタメツメはなかなかシビアで、少しの差で印象が変わるため注意が必要でした」(湯藤氏)。
Vコンテからのフィギュアスケートシーン制作
フィギュアシーンについては、絵コンテ制作時にはまだ振付がされておらず、スケートシーンは仮コンテ状態だったため、キャプチャデータを基にこうじ氏がVコンテを作成して演出の方向性を監督に提案するかたちで進められた。スケート自体の演技はストーリーを基に振付担当の鈴木氏が考えた内容を実際に滑ってもらい、モーションキャプチャを収録。そのデータをキャラクターに当てはめて動かしたものに音楽を乗せて、カメラを付けたVコンテがつくられた。
下記の画像はVコンテの一例。「どんな技をやっているかわかりやすくなるように、足元が見えるアングルを心がけました」(こうじ氏)。このVコンテをベースに山本監督からの細かな修正対応をくり返し、カットが仕上げられていった。

リアルタイムコラボレーションツール「SyncSketch」によるディレクション
全体のプロジェクト管理にはFlow Production Trackingを使っているが、スケートアニメーションのディレクションにはリアルタイムコラボレーションツールの「SyncSketch」が採用されている。SyncSketchはオンライン上にアップした動画を参加者全員がリアルタイムに同期再生することができるクラウドサービスで、共通のURLへアクセスすれば複数人でもほどんど遅延もコマ落ちもせず再生でき、リアルタイムにフィードバックを受けることができる便利なツールだ。
調整が必要な1コマごとに、説明しながら直接修正の絵を描いたりコメントを書くことができる。もちろん内容を後で見直すこともでできて、修正内容をまとめてPDF化することも可能だ。


フィギュアスケートならではの繊細なアニメーション付け
以下は湯藤氏が手がけた第1話の狼嵜 光のフィギュアスケートシーン。Maya作業画面と完成カット。キャプチャしたままのデータではなく、コマごとに細心の注意を払って綺麗なポーズに見えるよう調整している。指の形状や動きは、撮影資料を基に手で付けていて、動きの速い箇所はスローモーションで撮影した動画で形状、動きの確認をした。腕は肩から肘、手首、指先の順番にしなやかに動かすように意識し、特に手指の形、シルエットには気を遣ったという。スカートの動きもシミュレーションではなく、手付けされている。
同様に下記はスパイラルのカット。上体を反り、フリーレッグを腰より高く上げるポジションだが、その際にフリーレッグのつま先が重さや重力に負けて下へ向かないように注意する必要があるのと、インエッジ、アウトエッジのどちらで滑っているかもしっかり見せなければならなかった。フィギュアスケートではジャンプも含めて、インエッジとアウトエッジのどちらを使うかが重要な演技要素となるため、特に注意してアニメーションが付けられている。
スピン中もキャラクターをより魅力的に見せられるように、CGが苦手とするアングルは避けるようにして1コマずつ見映えの良い絵を選択している。アニメーション全般で言えることだが、フルコマのモーションキャプチャから単純にコマを落とすのではなく、ちょうど良い角度を選択して調整している。スピン中はブレードの後ろの方がやや上がり気味になるなど、重心の位置に注意した。このカットに限らず、スケーティング全体のアニメーションで重心の位置はとても重要だった。
作画監督による修正指示
いのりのフィギュアスケートカットを作画監督が監修した例。


(4)に続く。

CGWORLD 2025年3月号 vol.319
特集:CGクリエイター新潮流
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2025年2月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ)
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada