講談社の「モーニング」に連載されていた三原和人による人気漫画『ワールド イズ ダンシング』が今夏TVアニメ化された。室町時代、猿楽師の家に生まれた鬼夜叉(後の世阿弥)が新しい舞をつくり上げていくという情熱的なストーリーで、アニメーション制作と3DCGを担当したのはCypicだ。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 337(2026年9月号)からの転載となります。

    「舞を作画で描く」ために3DCGの作画ガイドを活用

    アニメ『ワールド イズ ダンシング』のアニメーションプロデューサーの溝口 侃氏は本作について、「僕自身、学生時代から能を経験していた経緯もあって、原作を読んで面白いと思いアニメ化を企画しました。現場から企画を出すこと自体がアニメ業界だと稀で、チャレンジングなプロジェクトでした」と本作の成り立ちを語ってくれた。

    『ワールド イズ ダンシング』
    全国9局にて放送中、Prime Video・ABEMA、ほかにて配信中
    原作:三原和人『ワールド イズ ダンシング』(講談社モーニングKC刊)/監督:黒柳トシマサ/アニメーション制作:Cypic
    sh-anime.shochiku.co.jp/worldisdancing-anime
    ©三原和人・講談社/『ワールド イズ ダンシング』製作委員会

    本作は基本的に作画メインの作品だが、舞台やモブなど一部は3DCGで表現されている。また、舞のシーンではモーションキャプチャを用いた作画ガイドを制作したほか、美術背景用のCGガイドも制作し、3DCGが作品のクオリティアップに貢献している。

    3D監督の中野祥典氏は、監督からの要望について「舞は作画で表現したいとのことだったので、3DCGでガイドを制作しました。衣装にシミュレーションをかけてガイド出しするのは時間的に難しいため、モーションキャプチャを収録し、裸の素体でガイドを制作しています。その際、3DBGも制作して、カメラを探りたいというのが最初の相談でした」とふり返った。

    舞は神事でもあるため制作側の都合で内容を変えることはせず、型付監修の津村禮次郎氏が実際に舞ったモーションを正解として、最大限リスペクトしながら制作されている。

    左より、設定制作・小金井源太氏、3Dリードモデラー・阿達里紗氏、3D監督・中野祥典氏、アニメーションプロデューサー・溝口 侃氏(以上、Cypic/ ※2026年4月にCygamesPicturesから社名変更)
    cypic.co.jp

    そのほか、能面や扇の作画をサポートしたのも特筆すべき点だろう。能面は作画が難しいため、3DCGで詳細なガイドを出し、舞に使う扇も作画に合わせて調整したものをテクスチャまで含め3DCGでレンダリングし、後から載せられている。美術や作画との連携もスムーズだったとのことだ。

    能のモーションキャプチャによる作画ガイド作成

    本作では能のモーションキャプチャを収録して舞の動きを再現し、作画用のガイド素材として使用している。能楽師によるモーションキャプチャは大学が研究・保存目的で学術的に行なった例はあるが、エンタメ作品での活用は聞いたことがなく、おそらく本作が初の試みではないかという。

    作画ガイド用のCGキャラクターは裸の素体で制作されたが、実際の作画には衣装が必要になる。そこで、作画参考用に10台のカメラを使って、衣装を着けた撮影も別に行われている。

    課題となったのは、モーションキャプチャがひとつの正解テイクとして扱われる一方、伝統芸能である能は舞う度に振付が微妙に異なる点だ。モーションキャプチャ収録時と衣装撮影時とで動きがくいちがう場面も発生したが、監督とやり取りしながら、最終的にCG側でガイドとして適切なかたちに調整したという。

    その際、アニメーション制作側の都合でモーションを修正するということはなく、津村氏の舞を崩さないように敬意をもって調整された。収録日数はモーションキャプチャのみで4日間、衣装付きの撮影を含めると計6日間を要したという。

    能のモーションキャプチャの収録

    • ▲型付監修の津村氏によるモーションキャプチャ。膝の曲げなど細かな身体の動きが衣装によって隠れ、わかりにくくなるのを防ぐため、あえて衣装なしの状態で収録された。伝統芸能である舞は演じる度に振付が微妙に異なるため、津村氏自身も試行錯誤しながら複数パターンを収録したという
    • ▲津村氏による衣装ありでの舞。実際の作画には衣装が必要となるため、作画参考用として、通常のカメラでも撮影が行われた
    ▲衣装を着けた参考映像のまとめ。作画の参考資料として、10台のカメラで10アングルから撮影がされている

    3Dレイアウトの活用

    • MotionBuilderの作業画面
    • Blenderでの作業画面。Auto-Rig Proのリグに津村氏のモーションキャプチャデータを適用し、主人公である鬼夜叉のモデルへ反映している。衣装があると重心や膝の曲げ方がわかりにくいため、素体のガイドモデルを使用。ガイドの制作にあたっては津村氏の動きを「正解」として基本的に手を加えず、カメラの位置や動きのみ監督と相談しながら調整されている。作業中は津村氏本人の映像を参考に並べて表示していた
    ▲Blenderから出力された作画ガイド。モーションキャプチャのデータを基に書き出され、鬼夜叉は素体のまま表示されている
    ▲完成カット。作画ガイドにより、能特有の姿勢が衣装を着けた状態でも正しく再現されている

    鬼夜叉の作画ガイド用モデル

    • ▲鬼夜叉の設定画。衣装を着けた通常の設定画である
    • ▲鬼夜叉の裸の設定画。CGモデル制作のために描かれたもので、着物を着けるとわかりにくくなるポーズを正確に把握できるように用意された
    • ▲Blenderで制作されたモデル。裸の設定画を基に、体形の再現を重視しながらモデリングが進められた
    • ▲レンダリングされたプロポーションチェック画像
    ▲作画ガイドでの表示の一例。素体のため、関節の位置や身体の動きがわかりやすくなっており、モーションキャプチャのデータをながし込みする際にもそのまま活用できる

    地謡や囃子方のモデル

    • ▲地謡(じうたい)や囃子方のモデル。遠景のカットでは作画ではなく3DCGでフィニッシュまで仕上げられている。使用時は座った姿勢のみのためリグを入れず、あぐらのポーズで衣装のシワなどをモデリングで細かくつくり込んでいる
    • ▲目線や目パチができるようつくられており、歌っているときと待機しているときで微妙にポーズを変えるなど、能楽監修からの指摘を受けながら実際の作法に合わせて設定を丁寧に入れ込んでいる
    ▲実際のカットの一例。つくり込まれたモデルを基にしたCGキャラクターが、手前で演じる作画のキャラクターと違和感なく組み合わされている

    Geo-Scatterによるモブキャラクターの配置

    ▲モブキャラクターのモデルの一例。立っているモブと観客として座っているモブが別々に作成された
    • ▲Blenderでモブキャラクターを全て表示した画面。アドオンの「Geo-Scatter」でメインのモーションが入ったキャラクターを配列・散布し、Culling機能で一部を非表示にした上で、特徴的な部分だけ手作業で追加している。こうした群衆制御はBlenderでは融通が利かず不得手とする分野で、今後の機能強化に期待したいとのこと
    • ▲手作業で置き換えたモブだけを表示した画面。前列付近は手付けでアニメーションがつくり込まれている
    ▲Geo-Scatterで散布し、置き換える部分をCulling Maskで非表示にした様子
    ▲完成カット

    3DCGによる扇の表現

    扇は当初、作画で描くことも検討されていたが、複雑な形状のため3DCGで制作することに決まった。さらに3DCGで表現するということで、テクスチャも詳細に描かれている。作業フローはモーションキャプチャの良い部分を作画で調整するという方針のため、「3Dレイアウト」→「調整して作画」→「色付きのセル素材として3DCGへ戻す」→「3DCGで扇を合わせる」というながれ。

    ▲扇のモデル。通常の扇とは異なり、軸の部分がねじれた複雑な形状をしており、作画で表現するのは難しい
    • ▲扇挟み込み仕様書。身体・指・扇などのレイヤー分けを定めた仕様書である。運用当初は3DCGを後乗せする際にトラブルが発生していたが、仕様を決めてからはスムーズになったという
    • ▲左画像赤枠の拡大
    ▲CGレイアウト。扇はアタリとして配置されている
    ▲完成カット。扇を持つ指も違和感なく仕上げられている

    能面の作画ガイドモデル

    能面は精密にモデリングしたものをレイアウトに置き、作画ガイドとして活用されている。扇と同様に能の根幹をなす重要な要素だが、固い無機物としての一定のテンションを作画で描き続けるのが難しかったため、CGガイドが必要とされた。

    • ▲翁の面のモデル
    • ▲能特有の傾き加減で表情を表す物のため、正確な造形が求められた。通常の面と異なり、あごのラインがわずかに見える微妙な大きさも、作画で再現するのが難しい点だったという
    ▲3Dレイアウトの一例。面の造形の細かさがわかる
    ▲完成カット。作画で仕上げられている。まさに3DCGが縁の下から支えた表現のひとつと言えるだろう

    獅子舞のモデル

    第5話で登場する獅子舞は、3DCGでフィニッシュまで仕上げられている。3DCGでリッチに表現したいという監督の要望から、琉球獅子をベースに、作画では描くのが難しい情報量の多い獅子舞がつくり上げられた。なお、獅子舞の設定画はなく、写真を参考にしながらモデリングが進められた。

    ちなみに、当初はファーやヘアで毛をシミュレーションしていたが、画面から浮いてしまったため、途中で毛束をモデリングして生やす方向へ転換している。劇中では「伝統的」とされた獅子舞を先端技術の3DCGでつくり、同じく劇中では「最先端」の舞を昔ながらの作画で表現する構図がメタ的に面白い。

    ▲Blenderで制作した獅子舞のモデル
    ▲ディテールチェックのためのレンダリング画像
    • ▲クロスシミュレーションを行うためのチューブ状の毛
    • ▲ボーンを全て表示した様子。シミュレーション結果をカットバイで調整をするために、オフセット用のボーンが多数設定されている
    ▲シミュレーションのテスト画面。手付けでは出せない自然な動きだ
    ▲完成カットの一例
    ▲同じく、完成カットの一例

    No.2に続く。

    CGWORLD 2026年9月号 vol.337

    特集:『価値を創造する3DCG』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2026年8月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ)
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada