世界の第一線で活躍するモーションクリエイターたちが集結する、世界最大級のモーションデザインイベント「Motion Plus Design Tokyo」が、2023年6月17日、渋谷・さくらホールにて開催された。「Motion Plus Design」は、これまでにも世界13ヶ国で開催され、モーションデザインの最前線を知ることができるイベントとして好評を博してきた。コロナ禍においてのオンライン開催を経て、今回は2019年以来のリアルイベントとなった。
今回、CGWORLDは登壇したアーティストにインタビューを実施。世界を舞台に活躍する彼らに、影響を受けたコンテンツ、お気に入りのツールからAIの話題まで、彼らの実体に迫った。
■ Speaker 01:Benjamin Bardou
CGWORLD(以下、CGW):今回どのセッションが1番楽しみでしたか?
Benjamin Bardou氏(以下、Benjamin):Reuben Wu氏のセッションだね。彼のオリジナリティ溢れる作品に興味がある。Reuben Wu氏の作品を見ていると「これをどうやってつくっているのか?」と考えてしまう。そういった感覚が思わず生まれてくるから興味がわくよ。
また、私は、ヒッチコックがトリュフォーから「あなたは何をつくっているのか?」と尋ねられた際に「新しい形を作っている」と答えたというエピソードが好きで私自身、この話に共感し、新しい形をつくりだすことにこだわっているんだ。Reuben Wu氏からも同様の姿勢を感じている。
CGW:影響を受けた本、その他コンテンツを教えてください。
Benjamin:ヴァルター・ベンヤミンの『19世紀の大都市』だね。それからボドレールの詩からも影響を受けた。2人とも街に関心が強い作家だね。街に疑問を持ち、その疑問に対する答えを見つけていく、街が問いだとしたら、その街のエニグマ(謎)を解いていくプロセスに私は興味があるんだ。東京はまさにエニグマ(謎)多き街だね。こういったプロセスが創作につながると考えているよ。
CGW:愛用しているツールはなんですか?
Benjamin:Clarisseだね。だけど、Clarisseは開発終了になったから、Houdiniに移行している最中だよ。あとはゲームエンジンにも関心があって、Unityはすでに使用しているよ。Unreal Engineにも興味があるよ。
CGW:ちなみにボリメトリックキャプチャはどのように撮影しているのですか?
Benjamin:高橋圭二郎さんが作ったアプリ、プラグインを使用してiphoneで撮影しているよ。高橋さんにこの場で感謝を伝えたいね(笑)。
CGW:2023年の今、学生に戻るなら何を学びたいですか?
Benjamin:映画の編集や、ライティングの勉強をすると思うね。映画に関連した技術を学びたいかな。
CGW:AIをどのように捉えていますか?
Benjamin:AIが良いのか、悪いのかという議論に対しては、私は特に意見を持っていないんだ。私は実験をしていく側だから、もちろん使用はしているよ。例えば、今までClarisseで街を作っていたんだけど、AIは無限の映像、画像を生み出すことができるから、この利点を活かし街作りに使ったりしているんだ。今後も実験として様々な使い方を試してみたい、興味深いツールの一つという認識だね。
CGW:クライアントワークと自主制作をどのように位置づけていますか?
Benjamin:個人プロジェクトと、クラインアントワークは完全に分けて認識している。普段は、マッドペインティンターとしてクライアントワークに従事しているんだ。そういった中で個人プロジェクトも並行して制作しているという感じだよ。もちろん、クライアントワークだけど個人的なプロジェクトのように制作できるプロジェクトがあれば、非常に興味深いね。だけど、基本的に今までそういった案件はないかな。だから、今は完全に分けて取り組んでいる状態かな。
CGW:10年間続けていることはなんですか?
Benjamin:やはり私はマッドペインターとして働いていることもあって、画家としての探究心がずっとあるんだ。私が特に興味があるのは、セザンヌが言っていた「色と絵の関係」だね。だから例えば画家が絵を描くときに、色、ピグメント、テクスチャを表現するために意識していることを、私はデジタル上で意識していて、ある意味で私はデジタル画家なので昔のものを今に合わせて作ること、過去と今を繋げることを意識しているよ。
■ Speaker 02:菱川勢一
CGW:今回どのセッションが1番楽しみでしたか?
菱川勢一氏(以下、菱川):Francesco氏ですね。彼がやっているAIの活用は興味深かったです。彼はすごく楽しんでるなと感じました。昨夜に彼と話す機会もありまして、遊んでると言ってもいいぐらい映像制作を楽しんでいますね。AIをツールの一つとして面白がって使っているいい例だなと思います。
彼の作品を見ると自分の想像していなかったものができていることに驚かされます。新しいツールが出てきたときに、クリエイターがそれを寛容な姿勢でどのように使用するのかは、これから先も問われるような気がします。私がスピーチ内でも話したような「helpful」な、つまり、わかりやすさや実用性を重視するクリエイティブとは反対の、事前には計画しにくい、既存の想像を超えた遊びや冒険のあるクリエイティブだと感じました。
CGW:影響を受けた本、その他コンテンツを教えてください。
菱川:最近は詩ばかり読んでます(笑)。高村光太郎の詩集などですね。例えば『レモン哀歌』です。
CGW:どんな詩が載っているのですか?
菱川:奥さんが、結核で亡くなるまでの日々を日記のように書き記している詩集です。詩というのはやはり読み手の想像力で心情や情景を補完するじゃないですか。だから、映像をやっている人たちは、 多分楽しめると思うんですよね。影響を受けた本は何ですか? と聞かれると、なんとなくそういうものを常に身の回りに置いてる感じですね。行間を読む楽しさ、あと、読むたびに、頭の中に浮かんでくるものが、毎回ちょっと違っているのが面白いですね。
CGW:ちなみにBenjamin氏もボドレールの詩集をあげていました。
菱川:そうなんですね!先ほども少し述べましたが、詩は、行間や、間が面白いですよね。例えば、告白のシーンで男の子が「あなたが好きです」と言った後に、それに対して女の子が「はい」と答える。この時に「はい」を1秒空けるか3秒空けるかで意味が大きく変わるんですよね。「あなたが好きです」と言って、割と短めの間で「はい」と女の子が答えたら、「待ってました。その告白を!」というのが女の子の心情になりますよね。でも、ちょっと間を開けたら、そこには躊躇のような心情があらわれてきますよね。
このような繊細な「間(ま)」の感覚が、クリエイティブの真骨頂な気がします。特に映像は、タイムラインを司っているクリエイティブなので、詩と映像に関連性を感じますね。
CGW:愛用しているツールはなんですか?
菱川:ずっと使っているのは、やはりAfter Effectですね。もうずっと使っています。
CGW:2023年の今、学生に戻るなら何を学びたいですか?
菱川:生物学ですね。
CGW:生物学!?それはなぜですか?
菱川:謎が多すぎるからですかね。人間って知った気になっていますけど、未だに次から次へと色々なものが解明されていくのを見ていると、実は何も知らないことを痛感します。普段、身の回りを見ていても、 例えば、「あ、ここなんか空き家だな〜」と思っていたら、いつの間にか草が生い茂って朽ちて、何もなくなっていて.....みたいなことがありますよね。これは生物学的に見れば私が考えるよりもおそらく大変なことが起きているのに、そのサイクルの中で何が起きているのかきちんと理解できていない。
特にコロナの時とか、こういったことをよく考えていましたね。 ワクチン打った時に「今、体の中で何が起きているんだ!?」とか。そもそも毎日毎日、人間はばい菌だらけのものを口から入れているのに平気で、健康でいられているということだけでも十分大変なことが起きてるんですよね。このように考えると、全て神秘的に感じます。
CGW:目に見えないし、普段意識することもないが動いている。このようなメカニズムはたくさんありますよね。
菱川:いろんなことに感謝していますが、その感謝しているものを一つ一つを学びたいという気持ちがありますね。
CGW:AIをどのように捉えていますか?
菱川:検索代わりに使っちゃったりしていますが、ネットで検索した情報への信頼度は下がっています。一方でAIは、膨大なデータを学習し、思考された上での最適解(間違えている場合もありますが)を出してくれていると、今のところは信じれるので.....だから、もちろん最終的には自分の頭で考えますが、知りたいこと、聞きたいことを、ちょっと気軽に聞く相手、アシスタントみたいなイメージで使用しています。
CGW:クライアントワークと自主制作をどのように位置づけていますか?
菱川:クライアントワークは実験の場ですね。こんなことを言うとクライアントに怒られそうですけど(笑)、クライアントもおそらく、 今やっていることはあくまで「今のベスト」だと思うんです。「これが完成形ですか?」と聞いたら、自動車メーカーにしても、コスメメーカーにしても「いや、まだまだです」と答えることがほとんどだと思います。色々と試行錯誤をして表現を探るプロセスにいるわけですよね、常に。だから、実験だなって思います。
CGW:10年間続けていることはなんですか?
菱川:毎朝4時半に起きることですかね。10年やっているかなぐらいの感じですけど、 でも、まあ長く続いてます。就寝は大体21時から22時頃ですね。もう目覚ましなしで4時半にぴたっと起きるようになりました。朝に書くシナリオや企画書の方が冴えてるなと感じています(笑)。
確率的な話なんですけど、夜な夜な書いたものより、 朝に書いたものの方がクオリティが高い。これは、映像制作でもそうですね。だから、午前中に大体の仕事はもう終わっていて、午後はなんとなく頼まれてもないことをやっているという感じですね。
CGW:ありがとうございました。
■ Speaker 03:中間耕平
CGW:今回どのセッションが1番楽しみでしたか?
中間耕平氏(以下、中間):Reuben Wu氏のセッションですね。ドローンを飛ばして撮影していると聞いて、「どうやってやってんだ!?」みたいな(笑)。「一見現実に見えるけど、実はCGである」はあっても、「一見CGに見えるけど、実は実写である」というものは、CG業界に身を置く私にとっては逆説的で面白いと感じました。
CGW:影響を受けた本、その他コンテンツを教えてください。
中間:『手塚治虫の漫画の作り方』という本ですね。 非常にものづくりの参考になります。プロットの作り方、こういうキャラを入れようというように、本当に漫画の書き方が書いてある本ですけど(笑)。だけどそれが漫画だけではなく他のものづくりにも活用できる、本質的なエッセンスが散りばめれていています。おすすめですね。
CGW:愛用しているツールはなんですか?
中間:Softimageですね。20年くらい使っていますね。今でも一応使えますが、10年前に開発は終わっているので3ds maxに乗り換えようかと思ってます。ノードベースのプログラミングができるtyFlowがあるので。
CGW:2023年の今、学生に戻るなら何を学びたいですか?
中間:映像を勉強したいですね。実は学生時代は社会学部で(笑)。 きちんとした映像の勉強をしてみたいですね。
CGW:AIをどのように捉えていますか?
中間:それ以上でも以下でもなく「新しいツールが生まれたな」という感じですね。個人的な感覚ですが、写真が誕生した際と同じような現象が起きているのかなと考えています。おそらく写真が生まれ際にも、様々な議論が勃発しただろうと思います。でも、今となっては当たり前にアートとして扱われているし、ファインアートと呼ばれるような写真が誕生する以前から存在した分野もなくなっていないですよね。だから、AIに関しても共存という着地になるのではないかと考えています。
「AIを使った表現は大概こういうものだから、逆にこういう表現をしてみよう」というような逆説的なムーブメントの勃興もあり得るかと。もちろん活発に議論されているような諸問題は解決されるべきだとも考えています。
CGW:クライアントワークと自主制作をどのように位置づけていますか?
中間:若い頃は、自分が表現したいことと、仕事で求められる成果物の乖離に多少ストレスを感じていたこともあったと思います。ですが、そもそも仕事は相手がいることですし、その人は私のスキルやアイデアに対して対価を支払ってくださっているということを考えれば非常にありがたいことだなと(笑)。
現在は仕事と自己表現が相互に良い影響を及ぼし合っているなという実感もありますね。あの頃は、自己表現だけしていたいという願望、思考に囚われすぎて肩肘張りすぎていたなと感じます。
CGW:10年間続けていることはなんですか?
中間:あまり思いつかないですね。ですが私は毎日、同じ服を着て、同じ時間に同じことをして.....というようにできる限り毎日を均一化したいという願望がありますね。その方が、引きこもり体質の私にとっては制作に集中できるなと思うので(笑)。
CGW:ありがとうございました。
■ Speaker 04:Francesco misce
CGW:今回どのセッションが1番楽しみでしたか?
Francesco misce氏(以下、Francesco):僕は彼ら全員を尊敬しているんだ。素晴らしいアーティストたちだ。だから、ここに来るのをとても楽しみにしていた。彼らの作品は本当に素晴らしい。あえて挙げるのならば、Benjamin Bardou氏と、Tobias Gremmler氏かな。彼らのやっていることには度肝を抜かれる。彼らに会えること、そして彼らの創作過程をもっと知れることにとても興奮している。とてもクールな仕事をしていると思うから。
CGW:影響を受けた本、その他コンテンツを教えてください。
Francesco:私の仕事に影響を与えたアーティストはたくさんいるね。Robert Henkeはその一人だ。彼は偉大なアーティストだ。彼はオーディオ・ビジュアル・インスタレーション、ビデオ・マッピング、インタラクティブ・インスタレーションを制作しているんだ。音楽ソフトAbleton Liveを開発した人物でもあるよ。それからfuse。彼らは素晴らしいチームだ。彼らも素晴らしいライブパフォーマンスを行ったり、オーディオビジュアルを制作しているね。それから、LUMENについても触れておきたいかな。彼らは最先端の技術を駆使し、ビデオマッピングを制作しているんだ。
CGW:愛用しているツールはなんですか?
Francesco:Max MSP 、After Effects 、Cinema 4Dも使うのだけれど、やはり一番好きなのはリアルタイムで作業できるTouch Designerだね。ダンサーというのは、ステージでパフォーマンスするもので、自分の動きをキャプチャすることで視覚的な表現を生み出したいと考えている私にとってTouch Designerは最高のツールのひとつだと思っているよ。
CGW:2023年の今、学生に戻るなら何を学びたいですか?
Francesco:ダンスとテクノロジーの融合であるパフォーミング・アーツを学びたい。それから新しいアートとテクノロジーはやはり勉強したいかな。でも僕はTouch Designerやモーショングラフィックスに関しては、インターネットを使って独学で学んだんだ。だからインターネットで好きなものを探して学べばいいと思っている。
CGW:なぜデジタル技術を使い始めたのですか?
Francesco:なぜかというと僕はこの世界が大好きなんだ。だから.....どう答えたらいいかわからないけど、アートとデジタルの分野の一部として、たまたま今やっていることを選びこうなったんだ。自分の気持ちや考えを伝える方法として、どちらも気に入っている。
CGW:AIをどのように捉えていますか?
Francesco:ツールとして使っているよ。あくまでツールという感じかな。
CGW:クライアントワークと自主制作をどのように位置づけていますか?
Francesco:クライアントには作曲家やミュージシャンが多く、彼らは私にオーディオビジュアルの制作を依頼してくれる。彼らは基本的にライブパフォーマンスでそれを使用するんだ。
私がクライアントに対して感謝しているのは、彼らがダンスと映像の融合を私に依頼することだね。ほとんどの場合、ビジュアルだけでもダンスだけでもなく、両方の分野から仕事を頼まれるんだ。私はダンスの世界におけるデジタルアートの分野で複数の仕事をしているんだ。ダンスのドキュメンタリーを撮ったこともあるよ。私は両方の世界で横断的に仕事をするのが好きなんだ。
CGW:コンテンポラリーダンスだけの仕事もしているのですか?
Francesco:ええ、もちろん!仕事をしている中で最も多くの時間をコンテンポラリーダンスにかけている。僕はコンテンポラリーダンサーとして活動することが多いんだ。でも、ヒップホップのパフォーマンスや、コマーシャルビデオもやっていて、例えばプーマとカルバン・クランの仕事をした時に、ヒップホップとかブレイク系の振付を頼まれたこともあるよ。
僕は、色々な違う要素を融合させるのが好きなんだ。だからコンテンポラリーダンスでもいいし、アクロバットでもいいし、マーシャルアーツでもいい。
CGW:10年間続けていることはなんですか?
Francesco:ダンスは12年続けているけど、デジタルアートも若い頃からやっているよ。でも、もうひとつの趣味はレコード。DJもする。ミキシングが大好きなんだ。それから写真も大好きだ。
CGW:ちなみにダンスの練習には1日どのくらい時間をかけますか?
Francesco:1日6、7時間くらいかな。時々、ゆっくり休むこともあるよ。1週間踊らないこともある。でも、ダンスはやめられない。やめたくなることもあるけどね。でも、ダンスをしていると、ジムに行ったときと同じような解放された気分になるんだ。
CGW:ありがとうございました。
■ Speaker 05:Tobias Gremmler
CGW:今回どのセッションが1番楽しみでしたか?
Tobias Gremmler(以下、Tobias):みんなすごい気になってた。セレクションがすごくいいイベントだと思ってたよ。
CGW:影響を受けた本、その他コンテンツを教えてください。
Tobias:オーストリアの作家ローベルト・ムージルの『特性のない男』かな。
CGW:愛用しているツールはなんですか?
Tobias:特にこれといったソフトはないね。大概のソフトが大差ない性能を有しているし、プリセットなども豊富にある。誰もが制作自体は可能な時代だ。しかしアーティスティックなものをつくるためには、どのように使うのかということが非常に重要だ。
私は、見たことはないがなぜか懐かしい、何か感じたことがあるという感覚になるものをつくることだけに集中している。その結果鑑賞者が驚いたりすることもあるだろううが、それは結果であって、私が意図していることではない。驚かせようといった鑑賞者に対する意図は持ち合わせていないんだ。
CGW:2023年の今、学生に戻るなら何を学びたいですか?
Tobias:学校か.....行っていなかったからね(笑)。脳の動きや、精神の揺れうごき、そしてそれらをビジュアル化することに非常に興味がある。だからこれを実現するためだったら勉強するかもしれないね(笑)。
CGW:クライアントワークと自主制作をどのように位置づけていますか?
Tobias:基本的に私の動機は情熱だからね。もちろん経験からの学びを優先する場合もあるが、クライアントワークだとしても私のスタイルで創作できる幅が大きいものを引き受けるようにしているよ。例えばMVの制作を依頼されたとして、やはりリリックだったりそのコンテンツ自体から私に何か伝わるものがないと創作はできないね。それは逆も然りで、私のつくったものから相手に何か伝わるものがなければ絶対にうまくいかないと考えている。
CGW:10年間続けていることはなんですか?
Tobias:特に何か考えてやってるわけじゃないからな.....常に その場その場で色々試しながらって感じかな。例えば大学の先生をやることもあったけど、それもすごくいい経験で学ぶことは多かったよ。でもそうだな、ビーチに行って、水に入ったり、裸足で歩くのは昔から好きだね。
CGW:ありがとうございました。
■ Speaker 06:喜田夏記
CGW:今回どのセッションが1番楽しみでしたか?
喜田:誰がというよりも、制作環境の違いから来るクリエイティビティの違いに関心がありますね。ここに来る前に、フランスで行われていた映画祭に参加していたのですが、環境の違いによって生まれるクリエイティブはこうも違うのか!と改めて衝撃を受けました。そしてこれはオーディエンスにも言えることで、鑑賞者のスタンスも国によって全く違うんですよね。
学生時代に、フランスの美術館で、まだ歩けないぐらいの小さな子供たちが床に座って、ピカソの名画を見ている光景を目にして、「こんなに小さな時から本物を目の前に、 しかも床に座ってそれを鑑賞してる(笑)。こんな環境で育ったら、アートに対する理解が深くなるだろうな」と感じたことを思い出しました。今回は各国の同業者の方々が参加されるということで、 環境によるクリエイティビティの違いをまた体感したいと期待していました。
CGW:影響を受けた本、その他コンテンツを教えてください。
喜田:まずは荒俣宏さんの『絵のある本の歴史』という本ですね。小学校時代に父からもらった本です。世界の絵本の歴史をビジュアルとともに紹介している本で、当時、隅から隅までボロボロになるまで読んだくらい大好きな本です。本の中の絵を参考に絵を描いたり、本のキャラクターから、インスピレーションを受けて、 アニメーションで使うキャラクターをデザインしたり.....非常に影響を受けました。
映画で言えば、フリッツ・ラング監督の『メトロポリス』、テリー・ギリアム監督の『バンデットQ』ですね。あとはアニメーション作家ブラザーズ・クエイの『ストリート・オブ・クロコダイル』は、ストップモーションに取り組んでいた学生時代、わかりやすいほどに影響を受けました。 影響受けすぎちゃったなっていうぐらい(笑)。
CGW:愛用しているツールはなんですか?
喜田:基本的にPCはMacBook Proで、ソフトは、Photoshop、After Effectsをメインで使用しています。手書きで描いたり、立体を撮影したりなどアナログの作業も多いです。Illustratorで絵を描くというよりは、アナログな素材を使って、Photoshopで編集し、After Effects で映像化するということが多いです。
CGW:アナログで制作される際はどの画材を使用されていますか?
喜田:作画は水彩、アクリル、油絵、鉛筆、コピックマーカー…..作品に合わせて様々な画材を使用します。またその使い方も様々です。油絵のマチエールを生かすためにスキャンし、それをAfter Effects上で加工したり、Photoshop上で、テクスチャーだけを使って描画したりもしますね。
CGW:2023年の今、学生に戻るなら何を学びたいですか?
喜田:絵画、彫刻などアナログの作業を学ぶと思います。 フィル・ティペットの「どんなにマシーンを駆使しても、アナログの感覚がわからない人は、いい動きは作れない」という言葉に非常に共感したことがありました。たしかにアナログな制作を体験しているアーティストがつくるアニメーションは、どこか生っぽさといいますか生命感のようなものを感じます。少なくとも私はアナログでの制作体験を経たからこそ生み出される動きは確かにあるなと感じるので、学生に戻るとしたらデジタルを使わない制作に取り組むかなと思います。
CGW:AIをどのように捉えていますか?
喜田:現時点ではAIは一つのツールだと考えています。作 品の核になるようなアイデア、コンセプトはやはり人間の個性から生まれてくるものだし、核となるコンセプチュアルな部分は感覚的な領域が作品に影響すると思うので.....それに鑑賞するのは人間ですから、深い部分で伝わるものは人間的な感覚だと思います。
とりわけ今回登壇されている方々は「想像を超えたものを表現する」ことを目標に されていると思うので、近しい感覚なのではと思っています。
CGW:クライアントワークと自主制作をどのように位置づけていますか?
喜田:完全に切り分けています。クライアントワークは、コミュニケーションだと思っています。クライアントさんがいて、クライアントさんの目的があって、やっぱりある程度自主制作よりは相対的に多くの人に受け入れられる必要があるとも思います。
また制約が色々ある中、制作する過程で、クライアントワークで得られるものは、自主的な作品作りだけやっていたら得られないものも多いですね。実際、私自身、20代、30代のクライアントワークを経たからこそ得られた経験が今の自主制作に大いに役立っていると感じます。
語弊があるかもしれませんが、クライアントワークは「トレーニング」的な側面もあるなと感じますね。制約があるからこそ、新たな手法にチャレンジしたり、これまでになかった発想をするというような学ぶ機会が得られると思います。
CGW:10年間続けていることはなんですか?
喜田:自主制作ですね。1年に1本は必ず制作しています。ちょうど始めてから今年で10年になるので10作品作ることができました。数年前から作品を海外の映画祭でも発表していて、今年はフランスで開催されたアヌシー国際アニメーション映画祭 TV Films部門最優秀作品賞にノミネートして頂きました。あとは、私は映像中毒なので、企画など集中して思考する時以外は、常に仕事しながらでもパソコンの脇に大きいモニターを置いて、何かしら映画やドラマなどの映像を流して見ていますね。
CGW:ありがとうございました。
■ Speaker 07:FERNANDO LAZZARI
CGW:今回どのセッションが1番楽しみでしたか?
FERNANDO LAZZARI(以下、FERNANDO):Tobias Gremmler氏だね。彼の作品からは強烈なオリジナリティーを感じる。興味を惹くビジュアライズでとても独創的だと感じているよ。
CGW:影響を受けた本、その他コンテンツを教えてください。
FERNANDO:これはとても難しい質問だね.....、『Blade Runner』、『The weaker man』かな。
CGW:愛用しているツールはなんですか?
FERNANDO:15年くらいCinema 4Dを愛用しているよ。
CGW:2023年の今、学生に戻るなら何を学びたいですか?
FERNANDO:学んできたグラフィックデザインでなければ、おそらく映画かな。
CGW:AIをどのように捉えていますか?
FERNANDO:みんなと同じように実験しているんだ.....1時間くらい話してもいいかい?(笑)。冗談さ。とても新しく、革新的なテクノロジーだと思う。この技術が将来どうなるのか、私には見当もつかない。物事を大きく変えることになると思う。でも、まだはっきりとはわからない。今のところは、スタイルフレームを作る際にインスピレーションとなるようなイメージを作るためのブレインストーミングツールとして使っているよ。
CGW:クライアントワークと自主制作をどのように位置づけていますか?
FERNANDO:両方必要だと思っているよ。私は一方から得たものを、もう一方に還元しようと心がけている。クライアントとのプロジェクトが好きなのは、誰かのために問題を解決することができるからだし、それをするのが楽しいから。でも同時に、自分のプロジェクトに取り組む時間を持つことも楽しんでいるんだ。どちらも好きだね。
CGW:10年間続けていることはなんですか?
FERNANDO:音楽をやっている。エレキベースを弾いているんだ。これはずっと続けていることだね。
CGW:ありがとうございました。
■ Speaker 09:松岡勇気
CGW:今回どのセッションが1番楽しみでしたか?
松岡勇気氏(以下、松岡):みなさん楽しみにしていました(笑)。
CGW:影響を受けた本、その他コンテンツを教えてください。
松岡:登壇した際にご紹介させていただいた方々、
特にグラフィカルなものが好きでしたね。それを見ながら、「
CGW:愛用しているツールはなんですか?
松岡:llustrator、After Effects、Cinema 4Dです。あとはBTOパソコンですかね。大阪にあるPCワンズさんでカスタマイズしています。
自分が求めている基準で選ぶとどうしても高めのCPU、GPUが必要なんです。それに伴ってどういうファンを選ぶのかまで考えています。
CGW:2023年の今、学生に戻るなら何を学びたいですか?
松岡:いっぱいあります(笑)。例えばグラフィックデザインですね。これは人が視覚的に快感だと感じる原則やルールみたいなものが、グラフィックデザインに集約されている気がするからです。
写真1枚撮るにしても、形態、構図、量感、陰影、調子、質感、色彩、対比みたいな考えを意識するとしないでは、撮れる写真の結果もすごく違ってくるんじゃないかなと思います。そういういろんなモノづくりの場面で汎用できるという意味でも、やっぱりグラフィックデザインじゃないかなと思います。
CGW:AIをどのように捉えていますか?
松岡:Chat GPTは使ってます。 実は今回のプレゼンテーションの台本を書く時も、かなり使いました(笑)。僕の場合、何かを説明しようとするとどうしても文章が長くなりがちなんです。伝えたいことが多い時は特に。Chat GPTにとりあえず伝えたい要素を書き出して編集するという使い方をしていますね。
CGW:クライアントワークと自主制作をどのように位置づけていますか?
松岡:完全に割り切って考えています。クライアントワークは、大前提として、クライアントさんの目的があって、その目的に沿ったものを作ることをご依頼いただいている、というものだと思います。ですので、まずはその前提を満たすことを優先します。
牛丼屋さんに行って、パスタが出てきても、「いや、ちょっと.....」て話なので(笑)。
その上でもし余裕があれば、こうすればもっと喜ぶんじゃないかというプラスアルファの要素を加えたものを提案をすることもありますね。
作家活動は、制作したものをSNSを通じてインターネットにあげていけばいいかなと考えています。
CGW:10年間続けていることはなんですか?
松岡:特にないかもしれません(笑)。色んな映像を見ることが唯一それに当たるものだと思います。
ここ半年モーションプラスデザインの準備で本当に何もやってなかったですね(笑)。
CGW:ありがとうございました。
■ Speaker 10:Reuben Wu
CGW:今回どのセッションが1番楽しみでしたか?
Reuben Wu氏(以下、Reuben):Benjamin Bardou氏だね。彼のヒビやグリッチの表現を称賛したい、本当に興味深いプロセスなんだ。本当に魅力的だと思う。完璧ではなく、不完全な部分があるからこそ、私は美しいと感じるんだ。何かが不完全であるということは、印象主義的であり、現実のすべてであり、それはとても記憶のようなものに感じるんだ。
CGW:影響を受けた本、その他コンテンツを教えてください。
Reuben:J・G・バラードというイギリスの作家がいる。彼はSF作家なんだけど、基本的には、ごく普通の、現実に近い世界観で、少しだけ現実とは違う部分があるような設定の物語が多くて非常に面白いだ。また、フィリップ・K・ディックの本が好きだね。特に彼の短編小説が本当に好きなんだ。それに、彼の物語の書き方が大好きなんだ。
CGW:愛用しているツールはなんですか?
Reuben:iphoneかな。
CGW:2023年の今、学生に戻るなら何を学びたいですか?
Reuben:中国語かな。でも、学校では中国語を教えてくれなかった。もし中国語が話せたら、本当に利があると思うんだ。中国はとても大きな国だし、その言語を知っていることはとても役に立つと思う。
CGW:AIをどのように捉えていますか?
Reuben:アイデアを生み出したり、あることをするためのインスピレーションを与えてくれる素晴らしいツールだと思っている。
CGW:クライアントワークと自主制作をどのように位置づけていますか?
Reuben:私はクライアントワークを多く手がけているが、その多くが商業目的ではなく、私にアイデアを求めるブランドと仕事をすることが多い。その多く依頼の多くは、私自身の作品からインスピレーションを得ているから、最終的には自分で作るのと同じような作品を作ることになる。だから、とてもやりがいがある。
CGW:10年間続けていることはなんですか?
Reuben:写真が私の人生だからね。他に趣味はないかな。
CGW:ありがとうございました。
PHOTO_弘田充
INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)/ 中川裕介(CGWORLD)
EDIT_中川裕介(CGWORLD)