札幌市と札幌を拠点とするゲーム開発企業による道内最大規模のゲーム開発イベント「Sapporo Game Camp 2023」が、2023年10月6日(金)~8日(日)の日程で開催された。前編のセミナーレポートに引き続いて、後編では120名以上が参加した「Game Jam」をレポートしよう。
Sapporo Game Camp 2023 アフタームービー
Sapporo Game Camp 2023
120名以上が参加!前回比2倍の規模で開催されたゲームジャム
18時からは、3日間(厳密にはおおよそ23時間)でゲームを作るゲームジャムがスタートした。当初、参加者は事前募集枠の80名に設定されていたが、予想を上回る応募があり、参加枠を増設。結果、1チーム8名、全16チームで、総勢128名のクリエイターが集結した。その中には、札幌で活躍するプロのクリエイターも含まれ、各チームをサポートする形で参加している。
今回の会場は、前回トークセッションが行われた会議室から変更され、札幌市産業振興センターの体育実習室を使用している。参加者は受付で名札を受け取り、指定された座席に次々と座っていく。同じ学校の者や知り合いもいるかもしれないが、基本的には初対面の人ばかり。それぞれが自己紹介を交わしている。
オリエンテーションでは、Sapporo Game Camp 2023の実行委員長を務める瀬川隆哉氏が話を振り、参加者に向けて意気込みを述べた。
「ここに集まっている皆さんは、ゼロから何かを作り出すことが好きな人たちだと思います。料理であれ、プラモデルであれ、日曜大工であれ、創造的な活動は多岐にわたります。しかし、ゲーム開発はなかなか一人では難しいもの。そこで、皆さんが持つ個々のセンスやスキルをチーム内でぶつけ合い、大きな化学反応を起こすことで、面白いゲームが生まれるのではないかと期待しています。このイベントが皆さんにとって新たなきっかけとなり、それぞれの成長に繋がれば幸いです」と熱くスピーチした。
さらに、札幌市長の秋元克広氏も来場し、「Sapporo Game Camp 2023に多くのクリエイターが参加していることを本当にうれしく思います。ゲーム市場は世界的に拡大しており、特に日本のゲームには国際的な関心が寄せられています。ビジネスの拡大とともに、若者にとってゲームクリエイターという職種が将来の有望な選択肢の一つになっています。札幌にはゲームに関連する多くの企業が存在し、学生の皆さんも専門学校をはじめ、さまざまな教育機関で学んでいます。将来的にゲーム業界でのキャリアを望む人も多いでしょう。コンピューターゲームが登場した当初から、札幌には数多くのゲーム会社が根付いており、そこで経験を積んだ人々が新たな会社を設立することで、現在もこの地にはゲーム会社が集積しています。その連鎖が広がり、地元の企業での就職が増えれば、それに越したことはありません。今日はゲームキャンプですから、チームで楽しみながら、仲間作りとゲーム作りをしていただきたいと思います」と、若きクリエイターたちを激励した。
そして今回のゲームジャムのテーマ「増殖」が発表された。このテーマは言葉の意味通りでも各自の解釈でも何でもよしとするもので、参加者はこのテーマを考えることからゲーム開発がスタートする。早速各チーム増殖という言葉について議論されるとともに、お互いにどういったスキルを持っていて何ができるのかという突合せから始まる。
テーマ「増殖」について学生の参加者に話を聞いたところ「これは負荷が重そうだ」、「ホラー寄りのゲームが良いかもしれない」といった回答で、サポートで参加しているプロからは「チーム全員がビジュアル想像しやすいテーマでやりやすいと感じた」等の意見を聞くことができた。
事前のチーム分けについて中林氏に確認したところ、「チーム分けは、運営側が頭を悩ませる問題です。各チームが円滑にゲームを作れるよう、職種のバランスを考慮し、学生の能力やプロのサポートを受けることを踏まえて配置しています。最も重要なのは、個人ではなくチームとしてのコミュニケーションを通じてゲームを開発することです」と語った。
初日は18時から始まり、会場は22時に閉鎖される。オリエンテーションなども考慮すると、実際の作業時間は約2時間と限られている。この短時間でゲームのテーマを考え出さなければならないので、21時を過ぎても、ほとんどの参加者が会場内で議論を続けている。
インターネットで「増殖」という言葉を検索したり、連想されるキーワードを紙に書き出したりしているチームもあり、椅子を移動させて輪になって話し合う姿も見られる。会場は、まるで昼間の商業施設のように話声で溢れている。21時30分を過ぎると、中林氏が撤収を促すアナウンスを行い、参加者たちはようやく席を立つ。しかし、議論が盛り上がっていたのか、名残惜しそうに会場を後にしている。
2日目は10時30分に企画発表が始まり、全チームが順にプレゼンテーションを行う旨が朝一番で中林氏からアナウンスされた。前日の夜に即席で組まれたチームでテーマを決め、翌日の午前中にプレゼンテーションをするのは、かなり厳しいスケジュールである。
プレゼンテーションに関して、中林氏は「登壇者は1名、時間は5分です。『申し訳ありませんが、これができませんでした』や『時間内に完了しなかったので、申し訳ありません』といった謝罪の言葉は使わないでください。作り手が本当に面白いと思うものであれば、その情熱はプレゼンテーションからも伝わるはずです」とアドバイスを述べた。
今回参加したチームは全16チームで企画発表時にチーム名も決定した。①ウィルスバスターズ、②天スラ制作委員会、③なまらKusa、④キメラ研究所、⑤六人パーティー、⑥ctri+C、⑦マッスル・7、⑧だれかといっしょ!⑨Sea Nine、⑩歯磨き粉、⑪dosukoi gaming、⑫puchipuchi company、⑬ピーパリ、⑭ひつじぐみ、⑮Swamp、⑯Biscuit Jam
昨日の夜から始まってわずかな時間ではあるが各チームがゲーム開発の方向性を見出し、増殖というテーマに沿ったゲーム開発のプレゼンを行う。その中でも具体的なゲーム画面やシステムを絵にしてスライドに盛り込んでいるチームもあり、そういった完成度の高いプレゼンでは会場からわずかにどよめくような声が聞こえる。
すべてのチームがプレゼンテーションを終えると、開発作業が再開される。他のチームのプレゼンテーションに触発され、自分たちの企画の方向性を修正するチームも存在したかもしれない。多くの人が開発作業においては、PCの画面に向かって黙々と作業を進めるイメージを抱いているかもしれないが、実際の会場では活発な会話が交わされているのが聞こえてくる。
数時間前に出会ったばかりのクリエイターたちが積極的にコミュニケーションを取り合い、それぞれが面白いと思うゲームの開発を進めている様子を見ると、こちらまで楽しくなる。
そして、3日目に入ると、これが最終日である。10時30分から各チームには持ち時間2分が与えられ、α版の発表が行われた後、15時からは最終発表が開始される。α版の発表にあたって、中林氏は「動くデモがあれば、それを最初に示しましょう。百聞は一見に如かずです。内容は詰め込み過ぎず、重要な点を中心に話し、説明しきれない部分はイラストなどを用いて視覚的に伝えることが重要です」と、2分間という短い時間でのプレゼンテーションのコツを解説した。
α版の発表では、各チームが実際に動作するゲームや、ゲーム画面のキャプチャ動画などを披露した。ゲーム開発を始めてわずか17時間程度で、実際に動くゲームの画面を目の当たりにし、その光景にはただならぬ感動が走る。ここから15時の最終発表に向けて、ラストスパートが始まり、参加者たちは一層黙々とPC作業に没頭する。
正午になると、本イベントの運営協力会社から、おにぎりやパン、飲み物といった差し入れが参加者に振る舞われ、それまでの集中していた開発作業で忘れていた空腹を思い出し、皆が差し入れを受け取る。しかし、しっかりと「休憩」を取っている参加者はほとんどおらず、食事を片手にしたまま作業を続ける姿が目立つのである。
15時となり、ついに最終発表の時が訪れた。各チームに割り当てられたプレゼンテーションの時間は5分である。最後の発表に向け、中林氏は助言を送った。「何ができなかったのではなく、何ができたのかを強調してください。また、引用元のゲームやサービスの説明をするのはナンセンスです。自信を持ったプレゼンテーションこそが、最も価値のあるものですから」。
最終発表では、チーム全員が登壇し、自分たちで作ったゲームの説明を行ったり、使用したソフトウェアや担当分担などの開発過程をプレゼンした。アセットの組み込みがギリギリで間に合わなかったり、不具合でうまく動作しなかったチームもあったが、各チームのプレゼンが終わるたび、会場は大きな拍手に包まれた。そこには、そのチームだけでなく、このゲームジャムに参加している全員が一丸となって作り上げた一体感が感じられた。
18時からは、ゲームジャムの参加者や本イベントの協賛、運営協力者全員で懇親会が開かれた。会場には豪華なケータリングサービスが設置され、食事をしながら各チームのゲームを試遊することができた。
懇親会では互いに開発したゲームを試遊して親睦を深めた。
隣のチームが開発したゲームを楽しむ中で、どのように開発されたのか、どういったツールが使用されたのかという、同じ場所で一緒にゲーム開発をした者にしか分からない貴重な経験を共有する時間は、非常に価値があった。限られた時間と条件の中で切磋琢磨して作り上げたゲームや、ゲーム開発を通して得られた経験は、参加した学生たちにとって大きな糧となっていることだろう。