魔法や自然現象を華やかに魅せるために、欠かせない技術であるエフェクト。一方、その存在は比較的目新しく新奇で、人手が足りていないのが現状だという。
CGWORLDでは2022年3月末、「鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚」や「Pokémon LEGENDS アルセウス」などを担当するVFX STUDIOによるオンラインチュートリアル「UE4のNiagaraを使用したエフェクト制作講座」を公開した。VFX STUDIOはクリーク・アンド・リバー社が2018年に立ち上げた、世界最大規模のエフェクト専門スタジオだ。
「チュートリアルを網羅いただくことで、プロレベルを10とすると5〜6段階まではスキルアップできると思う」と語るのは、同スタジオの3DCGディレクター近藤隆史氏と、3Dエフェクトデザイナー中野莉央氏。界隈の先端を走る両氏に、エフェクトの魅力や学びのコツ、効率的にスキルアップする方法を聞いた。
UE4のNiagaraを使用したエフェクト制作講座
最初は興味がなく、次第に惹かれていった
CGWORLD(以下、CGW):全39チャプターの前編を中野さん、後編を近藤さんにご担当いただいた今回のチュートリアルですが、発売時点から大変好評です。そもそもお二人は、なぜエフェクトの世界に?
中野莉央氏(以下、中野):ありがとうございます。じつは私は、前職がまったくの異業種だったんです。もともとは絵を描くことやゲームが好きで、東京の大学でITを学びつつもクリエイター職に憧れていたのですが、心のどこかで「自分には無理だろう」と諦めていて……。偶然内定をいただいた地元・東北の小売店に、Uターンして就職したんです。
一方で、働きながら趣味の創作活動をするうちに、「本当にやりたかったのはこれだったよな」と改めて気づきました。東北で仕事を探してみましたが、何せ地方なのでほぼ1件も見つからず、考えた末にもう一度東京に出て仕事を探すことに。就職のあてもない中でも両親は応援してくれ、働ける環境が近くにないことには何も始まらないと思い、小売店を3ヶ月で辞めて再び上京しました。
中野:最初は自力で見つけたデザイン教室で、IllustratorとPhotoshopの基礎を学びました。ただそれでも、就きたい職種の募集条件は「実務経験あり」ばかりで、時折「未経験可」があっても、クリエイターではなくデバック寄りの仕事でした。そこで、クリーク・アンド・リバー社主催の「クリエイティブアカデミー」の存在をインターネットで知って、学びながら実績を積めると知り、「飛び込んでみよう」という気持ちで説明会に参加しました。
そこでエフェクトに特化したクラスが新設されたと聞きました。もともとモデリングに興味があったので、いったん持ち帰り、エフェクトを意識してゲームをやってみることにしました。すると同じモデルやモーションでも、炎や水、靄(もや)の出方によってまったく別物に見えると気づいたんです。次第にエフェクトの可能性に惹かれていき、4ヶ月ほどエフェクトクラスを受講したのち、2018年にVFX STUDIOに採用いただきました。
CGW:未経験だったにもかかわらず、自力で道を切り拓いてゲーム業界に就職されたのですね。近藤さんはいかがですか?
近藤隆史氏(以下、近藤):はい。僕は大学のカリキュラムに3ds Maxが組み込まれていたことと、映像会社でアルバイトしていたことなどもあり、卒業後も10年間は映像制作会社で働いていました。ただ、入社して数年はジェネラリストの様なポジションで働いていて絵作り全般が好きだったのでエフェクトに興味があったわけではないんです。
ちょうどその頃3ds Max はエフェクトに強いというイメージ(今もそうだと思います)があったんですよね。その事もあってエフェクトの仕事が多く回ってくるようになり、気づけばエフェクトが好きになっていました。
あと『近藤くんはエフェクトの人』と言われていました(笑)。なので前職には大変感謝しています。
近藤:加えて、当時クリエイターの間でTwitterが流行り出していて、その流れで僕もTwitterを始めたのですが、2018年にCGWORLDさんの「新春CGエフェクト研究」という特集でコラムを担当させていただいたのをきっかけに、一気にフォロワーさんが増えたんですね。そのタイミングで VFX STUDIOからお声がけをいただき、2019年から新天地へ移った形です。
オリジナリティをフルに発揮できるのが醍醐味
CGW:お二人とも最初からエフェクトを仕事としていたわけではなく、周囲の働きかけや依頼によって興味をもたれたのですね。実際に働いてみて、改めてエフェクトの魅力をどう感じましたか?
近藤:ひとことで言えば「Made in 自分」であること。たとえばモデリングやアニメーションの場合、一概には言えませんが、「この車を3DCGにしてください」のようにすでに対象物が決まっている依頼も多いと思います。一方でエフェクトは、性質上『豪華な感じ』『かっこいい感じ』といったオーダーが多いので、自分でいちからデザインする面白さがありますし、オリジナリティを最大限に発揮できるのが魅力だと思います。
中野:自分の仕事によって、作品の印象がガラッと変わることですね。たとえばゲームキャラクターの「必殺技」を豪華に見せたいとして、モデリングのみで対処するのはキャラクターの動きに限界があるためハードルが高いですが、エフェクトを使えば一瞬で作品のクオリティを上げることができます。あとは、カメラワークもエフェクトデザイナーが担当することが多いので、私のようにカメラ周りが好きな人も楽しめるのではないでしょうか。
CGW:デザインするのが好きな人は、モチベーションが高まりますね。
近藤:ただ、すべてお任せいただけるのは嬉しい反面、クライアント様が頭の中で思い描いているイメージと、私たちの考えるイメージが異なることもあります。そのため僕は、インターネットで具体的なイメージを探して「こんな感じでしょうか?」と確認したり、時間があれば仮のエフェクトを作ったり……と、事前の擦り合わせはかなり大事にしています。
「ノードの数式は怖くない」大切なのはパターンを覚えること
CGW:エフェクトを勉強するコツは何かありますか?
中野:エフェクトに関する参考書はモデリングなどに比べるとまだ少ないので、私はYouTubeでの勉強がメインでした。「動画を観る→見よう見まねでオリジナル作品を作る」を繰り返していましたね。また、SNSでの発信も重要です。人に見られるとモチベーションが上がりますし、何よりエフェクトの情報を欲しがっている人は多いので、すごく優しくしてもらえます(笑)。
あとは、使用するソフトは1つに絞った方がいいと考えています。一度Unityを使ったならUnityを極めるなど……。それこそ私も、CGWORLDさんのUnityのチュートリアルを購入して参考にしました。
近藤:月並みですが、わからない用語があれば都度調べることです。ネットには、英語の情報も含めると相当数のノウハウが落ちているので、僕は言語にかかわらず、ひととおり読む練習をしていました。あとは、中野さんのお話にも通じるのですが、たとえば「氷のマテリアルを作る方法を勉強する」などにテーマを絞れば自然と使うソフトも限られてくるので、テーマを絞るのはやはり大切です。
CGW:なるほど。ちなみにエフェクトで使用する「ノード」は、中学高校で学んだ三角関数を応用したり理系の要素も強い印象で、苦手意識の強い人も多いような気がしますが。
近藤:僕も決して数学が得意なわけではないので、「紙に書き出すこと」を意識しています。たとえばある物を2分の1にしたいとしたら、2で割る方法と0.5をかける方法がありますよね? エフェクトもそうで、同じ結果を出すのにも複数のパターンがあります。
今回のチュートリアルではマテリアルを作らせていただいていますが、マテリアルを作る際に、まずは色やテクスチャーの貼り方のパターンを紙に書いて、四則演算(足し算、引き算、掛け算、割り算)で組み立ててみるんです。すると、画面上でもすんなり理解できるのではないでしょうか。
CGW:例えると、料理のような感じなんですかね?材料(素材)と調理方法(計算)を組み合わせて料理(エフェクト)ができる感じ。
近藤:そうです。なので、じつは重要なのって数学やプログラムの知識より「いかにレシピを覚えるか」なんですよね。たとえば煙のエフェクトを作るとしたら、温度のパラメータを強めれば煙がドーン!と上に上がるし、弱めればドライアイスのように下に下がります。
もちろん突き詰めれば数式を使ったノードもたくさんあるのですが、まずは「このノードを使うと◯◯になる」といったパターンを浅く広く見てみること。そのうえで、気になる部分を深堀りしたらよいと思います。
中野:そうした意味では、リアルな事象を日ごろから観察しておくのも大切ですね。たとえば「爆発」の炎は、赤色のほかにさまざまな色が入り混じっていて、それが黒色に変化し、煙が出たあとに上昇しながら小さくなっていきます。この事象を知っているのと知らないのとでは、仕上がりのエフェクトの与える印象がまったく異なるんです。
魔法はリアルとは程遠いですが、「赤色だけではなく青色の炎も作ってみよう」といったイレギュラーな発想は、リアルな炎を知っているからこそ浮かびます。魔法のエフェクトって意外と難しいので、ファンタジー系を作りたい方もぜひ観察眼を磨いてみてください。実物を見るのが難しいときは、Pinterestを見るのもおすすめですよ。
エフェクトの日本語版チュートリアルは貴重
CGW:エフェクトデザイナーとしての引き出しを増やすためには、本物の観察が重要なのですね。チュートリアルは前半でエフェクトの基礎を、後半でマテリアル制作やNiagaraの制御方法をご紹介していますが、今回込めた想いとは。
中野:やはり根底には「エフェクトデザイナーを増やしたい」という想いがあって、さらに言えば、お互いに教え合える関係性の方を増やしたいんですね。そのため私のパート(前半)は、エフェクトに触ったことのない方、ゲーム業界が初めてという方でも無理なく理解していただける内容になっています。たとえば「モデル」や「モーション」のように、普段あたり前に使われているような用語も「知っている体(てい)」で話さず、お節介なくらいに(笑)一つひとつ立ち止まって解説しています。
近藤:僕のパート(後半)は比較的テクニカルな内容が多いのですが、最終的な目標は中野さんと同じです。じつはすでにご購入いただいた方からTwitterで「日本語なのでありがたい」という感想もいただいています。世に出ているエフェクトチュートリアルは大半が英語なので、僕自身も日本語版は貴重だと思いますね。少なからず覚えることがたくさんありますが、このチュートリアルをきっかけにエフェクトデザイナーがひとりでも増え、ご縁があれば弊社で一緒にお仕事ができれば……と願っています。
CGW:これからエフェクトを学ぶ方にとっては、魅力的な言葉だと思います。チュートリアルには素材のデータが付属するんですよね。
近藤:はい。解説したエフェクトのテクニックを手元で確認していただけるのは強みだと思います。データの使い方でおすすめしたいのは、まずはNiagaraでチュートリアル通りに組み立て、疑問点があれば答え合わせとして活用すること。そもそも1回の視聴で覚えられる内容ではないですし、「アハ体験」という言葉があるように、人の脳は「わかったぞ!」と達成感を得ると、活性化して記憶力が高まるという研究データもあるそうです。
「派手でかっこいいから」でもOK。カジュアルに挑戦してほしい
CGW:素晴らしいアドバイスをありがとうございます。最後に、エフェクトやゲーム業界に興味をお持ちの方に向けてメッセージがあればお願いします。
中野:「エフェクトは全然怖いものじゃない」と伝えたいですね。むしろゲーム業界の中でも初心者の方が入りやすい職種だと私は思っています。でも、極めようと思えばいくらでも極めることができる奥深さもあります。
エフェクトは、ゲームが好きな方すらも普段意識して見ることがない領域なので「未知」だと思われがちですが、実際私のように異業種から転職した方や、ゲーム業界とは無縁だった元デザイナーの方なども、今楽しんでお仕事されています。「こんな人が向いている」というフィルターや条件はないので、「見た目が派手でかっこいいな」だけでも、ぜひカジュアルに挑戦してもらいたいです。
近藤:実際の現場では「調べる」場面がたくさん出てくるので、学ぶ中でもぜひ自分で調べる力を身につけていただけたら、と思います。エフェクトデザイナーは幅広いスキルが必要な職種。好奇心があり学ぶことを苦にしない方、「知りたい!」という深い探究心をお持ちの方は、きっと楽しめると思います。もちろん未経験の方、UE4やNiagaraをちょっと触ってみたい方にも、入口として広くご活用いただけたら嬉しいです。
CGW:近藤さん、中野さん、ありがとうございました。
UE4のNiagaraを使用したエフェクト制作講座
UE4 4.26で正式版になったNiagara。
今後、さまざまな案件等で多様されるこの機能にスポットを当ててNiagaraの基本的な使用方法から実践での作成事例を【前編・後編】に分けて解説します。
また、解説したエフェクトのテクニックが手元で確認出来るように必要なNiagaraアセット、マテリアル、スタティックメッシュ、テクスチャの素材もダウンロードできるので、Niagaraの理解に集中して取り組むことができます。
「前編」は「エフェクトとは何か」とエフェクト初心者にも分かり易く座学や実例を交えながらNiagaraの基本機能や用語の解説をします。
「後編」は具体的に1つのエフェクトを実例に解説をします。エフェクトに特化した汎用マテリアル制作の他、Niagaraの制御方法をパート別に解説していきます。
一連の工程を通して作例と同じエフェクトがつくれるようになることを目指します。
INTERVIEW_西原 紀雅/NORIMASA NISHIHARA
TEXT_原 由希奈/Yukina Hara(@yukina_0402)
PHOTO_蟹 由香/Yuka Kani