2012年秋公開予定の劇場アニメーション長編 『009 RE:CYBORG』(ゼロゼロナイン リ・サイボーグ)。以前に 神山健治監督並びにアニメーション制作をリードするサンジゲン中核スタッフのインタビュー を紹介した。本記事では、現在公開中の PV を通して、本作が実践する "リ・アニメーション" の制作技法について、さらに詳しく見ていく。

カメラマップの積極的な活用

劇場アニメーション長編『009 RE:CYBORG』(以下、『009RE』)では、これまで約10年にわたり数多くのアニメ作品を通じて「リミテッド CG アニメーション」などと呼ばれる、日本独特の 3DCG アニメーション表現(主にキャラクター)を開拓してきた サンジゲン が、アニメーション制作をリードすることによって、日本アニメ独自の作画による表現様式を 3DCG アニメーションへと、"リ・アニメーション"(生まれ変わらせる)しようとしている。

「実は、『009RE』特有の "初めての試み" というものはあまりないんですよ。リミッテッド CG アニメーションについては、サンジゲン創立から一貫して追求し続けている表現様式だからです。そうした中でも強いて挙げるなら、カメラマップの積極的な活用が本作ならではの試みと言えるかもしれませんね」と語るのは、『009RE』アニメーションディレクターを務める鈴木大介氏(サンジゲン取締役)。

『009RE』プロジェクトにおいて、サンジゲンは Production I.G と共に元請けとしてアニメーション制作をリードしている。つまり、キャラクター・アニメーションだけでなく、美術や背景、撮影といった、全ての制作工程を取りまとめる必要がある。しかも、本作は約2時間(予定)もの長尺を、限られた条件の下、クオリティを極限まで高める上では、3DCG 一辺倒というのはナンセンス。
そこで導き出された解のひとつがカメラマップ、というわけだ。カメラマップを効果的に用いることで、ダイナミックなカメラワークや、スケール感溢れるロングショットを効率的に制作できると鈴木氏は自信を見せる。また現在、公開されている プロモーション映像 は、神山健治監督の演出意向の"核"となる要素を最大限に織り込んでいるそうだが、もちろんカメラマップも随所に用いられている。特に印象的なのが冒頭と最後のトラベリングショットなので未見の読者はぜひご覧頂きたい。

<PV におけるカメラマップの使用例>

STEP 1:ベースモデル
ここでは、『009RE』PV に登場する六本木ヒルズ屋上に居並ぶ009たちのカットを例にカメラマップ技法について解説したい。まずは、六本木ヒルズ屋上のベースモデル。移動距離が大きいので、マップ用カメラはA・Bの2アングル用意する(Autodesk 3ds Max を使用) ベースモデル


STEP 2:原図を用意
続いて、カメラA・Bそれぞれの原図を用意

原図A 原図B


STEP 3:マップ素材の作成
原図を元にマップ素材を描く

マップA マップB


STEP 4:モデルにカメラマップを適用
ベースモデルにカメラマップ(プロジェクションマップ)を施す

カメラマップ適用


STEP 5:完成
最後に、Adobe After Effects(以下、AE)にて撮影処理を施して完成。本カットが登場するプロモーション映像は こちら

完成映像1 完成映像2 完成映像3

© 2012『009 RE:CYBORG』製作委員会
完成カット

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立体視の制作

『009RE』プロジェクトにて、サンジゲンとして初めて本格的に挑戦しているのが、立体視(S3D/Stereoscopic 3D)制作だ。ご存知の読者もいるかと思うが、本 PV は S3D として完成されている。制作中は様々な試行錯誤を繰り返したと、鈴木氏は語る。
「S3Dに関するセミナーに出席したり、立体視の作品を、劇場で敢えてメガネなしで観たりと(笑)。これは、視差の付け具合を確認するためだったんですが、その他にも色々と研究を重ねました」。

また、立体視の制作では、立体ゆえに制約を受けてしまった部分もあるのだとか。
「通常、モデル形状が破綻してしまった場合、特定のコマだけ 2D でレタッチすることがあります。その辺は、割り切りが重要ですから(笑)。ですが、立体視だと、左右の映像分、2回レタッチしなければいけなくなります。これでは却って手間がかかるので、ほぼ使用できなくなってしまいました。そういった制作上の "禁じ手" が増えてしまったので、それを受け容れつついかにしてクオリティを高めていくのかが今後の課題ですね」。

<S3D 制作の効率化>
S3D 制作には、サンジゲンで独自開発したステレオ・カメラ・スクリプトを使用。自動的に視差を割り出すことが可能となり、より効率的に作成できるようになったという

立体視

サンジゲンが独自開発したステレオカメラ生成スクリプト使用例

3DCG だからこそ可能な "加速装置" 表現

神山監督が本作の制作にあたり、一番最初に思いついたというのが、主人公・009の特殊能力"加速装置"発動シーン。これは、周囲がスローで動く中、主人公だけが高速に動く......という演出で表現されている。先日公開したインタビュー記事 でも紹介したように、作画では、このようなスローモーションを表現することが難しく、3DCGアニメならではの見所と言えるだろう。
ちなみに、PV 制作時に、神山監督から鈴木氏に伝えられたイメージは、2002年に公開されたチャン・イーモウ監督の 映画『英雄~HERO~』(もちろん、キムタク主演の方ではない)で、主人公(ジェット・リー)が雨の中で槍の使い手と勝負するシーンだったとか。
この 3DCG ならではの映像は、今後もさらにブラッシュアップしていく......ということなので、劇場で見るのを楽しみに待とう。

<スローモーション表現>

STEP 1:セットアップ
まずは3ds Maxを使い、Biped でキャラクターモデルに対してコントロール・リグを設定する。

003セットアップ

003(フランソワーズ・アルヌール)のセットアップ。サンジゲンがこれまで培ってきたノウハウの下、ボーン(Biped)による間接の変形の他、各部に細かな回転や拡大縮小、移動を可能にするコントローラーが付加されている


STEP 2:キャラクター・アニメーション
引き続き、3ds Max上で、スローモーなアニメーションを作成する

Max UI Max UI

Character Studio でキャラクター・アニメーションを作成(上:Biped でモーション作成中、下:プレビュー)


STEP 3:After Effects でタイムリップ
レンダリング素材を AE 上でタイムリマップする。スローモーションカットなので、主に3コマ撮りベースだが、アニメーションや被写体に応じてコマ数を変化させる

AE UI


STEP 4:完成カット
仕上げに、一連の撮影処理(エフェクトやフィルタの追加など)を施して完成

加速装置カット完成


いかがだっただろうか? 来年秋公開を目指し、現在も制作が続く『009RE』プロジェクト。次なる期待は、本編のトレイラーがいつ披露されるのか、になると思うが大いに期待したい。

TEXT_山田桃子

『009 RE:CYBORG』(ゼロゼロナイン リ・サイボーグ

『009 RE:CYBORG』(ゼロゼロナイン リ・サイボーグ)

西暦2012年 秋 全国公開予定
原作:石の森章太郎
脚本・監督:神山健治
キャラクターデザイン:麻生我等
アニメーションディレクター:鈴木大介(サンジゲン)
制作プロデューサー:松浦裕暁(サンジゲン)
プロデューサー:石井朋彦
共同制作:Production I.G / サンジゲン
配給:Production I.G / ティ・ジョイ

© 2012『009 RE:CYBORG』製作委員会
http://009.ph9.jp/