近年、ますます需要の高まる遊技機向けの映像制作。本誌でも何度か取り上げているが、業界特有の仕様やルールも多く、ただ単にAfter Effectsを操作できるだけで務まるものではないのが実情だ。今回は、遊技機向け映像制作の最前線で活躍するexsaに特別にそのテクニックの一部を解説していただいた。

群雄割拠の猛々しさ艶やかさを
表現するロゴアニメーション制作

近年、遊技機映像の需要拡大や液晶パネル品質向上も伴ない、より一層、高品質な表現が求められるようになってきてる遊技機向け映像制作。これに遅れをとることのないよう、exsaでは意欲的に映像制作ツールの導入や検証研究を行い、制作技術向上に取り組んでいる。中でもAfter Effectsのスキル習得には注力しており、2Dデザイナーなどの普段AEに接することの少ない部署に対しても、実制作に活かせるよう、独自の勉強会を開催し、習得の機会を設けている。
勉強会ではAEの技術的な知識だけではなく、コンポからオーサリングまでのワークフローも理解できるカリキュラムを用意し、制作全体のデータ受け渡しの効率化につながるよう考慮して実施している。また、exsaではデザイナーだけでなく、プランナーもAEを使用し、遊技機特有の動作や効果など、字コンテや絵コンテでは伝わりにくい感覚的な映像演出に対し、ビデオコンテ(Vコン)を作成して、制作側へ渡す際の内容の指示、クライアントへの尺や動きの提案確認に利用している。
さて、遊技機向け映像といっても演出や表現は様々だが、特に重要なパートとしてタイトルロゴアニメーションが挙げられる。これは多くの遊技機演出において遊技者が熱くなる「当たり」や期待度の高いゾーン突入などを演出する目的で使用されている。近年では種類も豊富で、映像を目にする頻度も高いため、映像全体の品質や印象に大きく関わるパートであると言えるだろう。今回は架空の戦国もの遊技機の「当たり」告知を想定し、タイトル出現エフェクトを作成したので、その過程で使用した制作テクニックを紹介していきたい。もちろん、オーサリングも遊技機向け映像には欠かせない要素だが、今回は企画の都合上、エフェクトに絞って解説する。完成動画、および個々解説をYouTubeにも掲載しているので併せてご覧いただきたい。





Topic 01 筆文字アニメーション

遊技機系エフェクトの中でも文字にまつわるエフェクトは多岐にわたる。その中でも今回は毛筆を運ぶ表現のアニメーション制作を解説する。あらかじめデザインや演出仕様などを考慮し、Vコン段階において、気持ちの良いタイミングでロゴが出現するまでを仮制作し、リテイクが最低限になるよう無駄を省いている 。そして、基本となるアウトライン素材を用意し、一画ずつ丁寧にマスクアニメーションを作成する。このベースとなるコンポでは、ゆっくり文字が書かれていくようキーを打っておくと、後の運筆の速度の調整が行いやすくなる。また、筆のにじみやかすれを表現するために、マスク先端にはラフエッジをかけている 。その後、ベースコンポのアニメーションができたらタイムリマップで速度の抑揚を調整。書かれていく文字の先端を発光させるため、複製したベースコンポの開始時間をずらし、発光用のマスク素材として使用している 。また、運筆のアニメーションのみでは華やかさが足りないため、FumeFXで使いまわしの利く共通素材も用意した 。以上のコンポを3Dレイヤーとして配置し、カメラにアニメーションを付けて運筆を表現している





2Dデザイナーが制作したパスデータと、動きや尺の確認のために制作したVコンテ。ライトなデータで何度かタイミング調整を行なってから、抑揚ある派手な動きへと調整していく。この段階でタイミングを固めておくと、以後は迷うことがなくなりスムーズに作業を進められる。作り込んだものを調整するのはレンダリング時間が延び、修正がしづらくなるので避けたい


ラフエッジ処理の比較。硬い印象になってしまうため、筆独特のにじんだ印象になるようにスタイライズにて調整した


時間をずらすことによって、先端のマスクを作成。書かれていく文字の先端部分を赤く発光させる処理を追加で施した


FumeFXで制作した素材とその使用例。特徴のない形に調整しておくと、複数個所で使用した場合でも使いまわし感を軽減できる


3D空間上でコンポを配置し、文字のアニメーションに合わせてカメラを動かしていく



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Topic 02 ノイズを使用した文字の発光エフェクト

ここでは岩壁に書かれた文字が徐々に発光していく表現について解説していく。普通に発光させるだけでは岩に書かれている質感が薄れてしまうため、フラクタルノイズを使い、にじみ出るように発光させる。
まず、ノイズのコントラストの設定を2,000近くの強めの設定にし、明るさのアニメーションを使ってにじみ出るようなマスクを作成 。より複雑な不均一さを出すため、ノイズ3種類をステンシルルミナンスキーで重ねて文字に適用した。このコンポにSapphireのS_Glowを適用して発光したイメージにする。さらに、黄色に発光させたコンポの上に同じコンポで赤色で発光させたものを重ね、フラクタルノイズのコアとなる部分とエッジに近い部分との温度差を表現した。最後に、文字の中心から外側に向かって暗くなっていくグラデーションを重ね、中心部分と外側で輝度が均一にならないように調整を加える。プロシージャルテクスチャの均一感を崩してメリハリを付け、派手な印象へと近づけていく



フラクタルノイズは様々な場面で使う非常に使用頻度が高いエフェクトのひとつだ。今回は明るさによるアニメーションでにじみ出るようなマスクを作成した


設定の異なるフラクタルを複数枚重ねることによって、より複雑なアニメーションになるように調整。単純なエフェクトも重ね合わせることでディテールをアップさせることができる


にじみ出るアニメーションの文字の発光エフェクトとしてSapphireのS_Glowを使用している(A) 。温度表現のグラデーションを入れることにより、リアリティが増す(B) 。マグマなど熱をもって発光している物質などを参考にして、見映えの良い色味になるように調整。さらに、Sapphire Gradient Radialを使用して外側に向かって暗くなっていくグラデーションを重ね、中心の輝度が高くなるようにしてメリハリを付けていく(C) 。こうすることで遊技機らしい派手な印象となる



Topic 03 FIX時のキメのエフェクト

文字がFIXする瞬間は、最も派手に演出する必要のある重要な部分である。迫力ある表現にするためにロゴオブジェクトはElement 3Dで制作し、動きを3D的に表現した。ハイライトの入り方や反射の映り込みもロゴの動作や形状によってアニメーションするため、存在感や重量感が増し、豪華に見せることが可能だ
また、ロゴが張り付くタイミングに合わせ、衝撃波のような形状のエフェクトを発生させ何層も重ねることにより、衝突の勢いや高速感を出している。円にTrapcode Shineをかけた放射状の衝撃波のエフェクト、スクロールするフラクタルノイズにシリンダで円筒上にし広角カメラで放射状に変形したエフェクト、このふたつを重ね合わせ、S_Warp Vortexをかけて渦状に変形し、螺旋を描きながら広がるエフェクト素材とした
ほかにも中心で弾ける金属の火花や火の粉のようなエフェクト素材をParticularなどにて制作し、派手さやランダム感を追加し厚みをもたせている。Particularの設定、Turbulence FieldのAffect PositionとScaleで全体の動きが大きなうねりになるよう調整。パーティクルの発光はS_Glowと、厚みをもった発光にするためTrapcode Shineを併用し調整してある。
これらのエフェクト素材をロゴの動きに合わせて合成するのだが、ロゴにも発光アニメーションを付与することにより、衝撃エフェクトとのバランスがとれるよう調整している。張り付いた瞬間のロゴ上を左から右へ流れる反射エフェクトは、白色平面をマスクでアニメーションさせたものに、Element3Dのノーマルマップを利用したディスプレイスメントマップをかけ、立体感のあるスペキュラアニメーションを表現している



ロゴはElement 3Dを使って制作。質感を描き込んだテクスチャのディフューズ、反射を制御するスペキュラ、立体感を追加するノーマルマップ。それぞれテクスチャを割り当てて質感を上げていく


円にShineをかけて勢いのある衝撃エフェクトを制作(A)。ほかにもフラクタルノイズを極座標で円状にする、パーティクルを放射状に飛ばすなどの作り方がある。また、(B)はノイズと3Dカメラを利用した放射状エフェクト。円筒状に丸める際に発生するつなぎ目の処理をぼかすなどしてなじませている。そして、(C)が放射状エフェクト完成画像。今回はSapphireのS_WarpVortexを使用し、螺旋状になるように調整した。おおもとのテクスチャを変更することにより、様々な表現が可能だ


制作したパーティクル。Turbulence Fieldの設定はリアルな動きを表現する際、重要な設定項目となる。今回はAffectPositionとScaleを調整し、大きなうねりを表現した。また、動きを調整した後はShineとS_Glowで発光感を追加している


反射エフェクトの動きは白色平面をマスクし、アニメーションさせることで表現した。ロゴモデルのライティングやリフレクションなどの方法もあるが、マスクでのアニメーションが一番求める動きに調整しやすかったため、今回はその手法を採っている。Element 3Dにてノーマルマップを生成し、ディスプレイスメントマップに適用して平面を押し出すことで、ロゴの立体に沿ったハイライトを表現した。なお、ノーマルマップが水色ではなくなっているが、これはロゴ表面の傷などの質感がハイライトに影響されるよう凹凸の値を大きくし誇張しているため



まとめ たくさんの手法で表現の幅を広げよう

遊技機映像の中で、特に「当たり」のタイトル出現エフェクトは、遊技者が最も熱くなれる場面であるため、制作する側にとっても力の入る箇所である。制作者は遊技機の演出意図を正しく理解し、それを表現するにふさわしいを手法を、たくさんの引き出しから選択していくことが重要だ。今回、紹介したのはその一部であるが、exsaでは様々なニーズに応えられるよう、幅広い表現のテクニックをストックし、効率化を図っている。これからも日々進化する遊技機向け映像において、特有の表現にしばられず、これまでにない新たな手法も常に模索し、さらなる品質の向上を目指していくつもりだ。

TEXT_exsa 制作部
エフェクト・コンポジット:須田 尭(名古屋支社)
ロゴデザイン:田川杏美(福岡スタジオ)

リンクの画像

exsa

exsaは東京、名古屋、福岡に制作拠点を置く映像制作会社。ハイクオリティな3DCG映像の企画製作のほか、遊技機の企画開発を行なっている。
4月より札幌に新拠点を開設。各拠点にて絶賛人材募集中!詳細はこちら
www.exsa.jp

制作環境
●OS:Windows 7 Professional 64bit
●CPU:Intel Xeon E5-1620 3.6GHz
●RAM:16GB
●グラフィックスボード:NVIDIA Quadro 2000
●使用バージョン:After Effects CS6
exsaのYouTube公式チャンネルにて、
今回制作した動画を公開中
●exsaチャンネル
www.youtube.com/exsacorp
●動画直リンク
youtu.be/w1XHcxdzRgQ