ここ数年、東京都を中心とした首都圏以外に拠点を設けるCGプロダクションやゲーム会社が増加している。今回は、その1つである札幌市にスポットを当て、地方都市での3DCG制作の可能性を探ってみた。

ゲームだけではなく、映像系、アニメ系プロダクションの進出が進む札幌

プロダクションの首都圏一極集中が顕著なCG・映像業界。だが近年、人材確保を主目的としてプロダクションの地方進出が活発化している。ゲーム会社ハドソンの出身者が多いことから、札幌ではゲーム開発者が多く、老舗のハ・ン・ドをはじめとしてゲーム系の実力派企業が揃っていることで知られるが、2013年4月にグラフィニカが、2015年4月にはexsaが進出するなど、アニメスタジオ、映像プロダクションの道内進出も進んでいる。その背景についてexsaの小林隆志氏(札幌スタジオ所長)は「優秀な人材の獲得と協力会社の開拓が目的です。札幌には昔から大都市圏の企業と取引を行うクリエイティブ系の企業や人材が多く、業務ノウハウも蓄積されているため可能だと考えました」とコメント。同様に人材獲得を目的に進出したというグラフィニカの伊藤暢啓氏(代表取締役社長)も「札幌はデザイン・クリエイティブ系の優れた教育機関が多い一方で、受け皿となるアニメ・CGスタジオが少なく、弊社が地方都市に初めて進出する上で最適だと判断しました」と語る。現在、多くのアニメ作品が東京で制作されているため、アニメをつくりたい人の大半は東京に行くことが前提条件となっており、そういった状況を変えたいと語る。こうしたながれに敏感に反応しているのが教育現場だ。「以前は企業自体が少なく、募集が少なかったため、都内への就職斡旋を勧める機会が多かったです。しかし企業数の増加に伴い、今では業界就職者の90%が北海道勤務です」(吉田学園情報ビジネス専門学校副校長・橋本直樹氏)と話すように、CG・映像職の確かな雇用の創出が伺える。


札幌市時計台前にオフィスを構えるexsa新スタジオ

Uターン・Iターンもウェルカム ますます求められる東京での実務経験者

ただし地方進出にあたっては課題も多い。複数拠点をかまえる企業にとっては、本社やクライアントとのコミュニケーション、データ共有方法の確立の他、拠点間の社員同士の一体感の醸成も重要になる。もっとも「テレビ会議システムの導入でいつでも打ち合わせが可能です。毎週の定例会では役員と全プロジェクトリーダーが集まり、課題や対策の共有を進めています」(ハ・ン・ド)など、ツールや業務フローの改善などで対応が図られている。中にはexsaのように自社開発のアセット管理ツールを活用し、全拠点で常に最新のデータが共有できるサーバ環境を実現した企業もある。他に「全社合同での新入社員研修や幹部研修、社員旅行などを定期的に行うなどして、全社的なコミュニケーションがとれるように心がけています」(exsa)。「採用後は半年から9ヶ月ほど東京本社で研修し、人間関係の構築や作業フローの理解を経てから、晴れて札幌勤務となります。その後もSkypeミーティングを日々行なっています」(グラフィニカ)など、拠点間をよりシームレスにつなぐためのインフラの整備や直接顔合わせをする機会をつくる取り組みが重視されているようだ。
また、地方都市ならではの課題としては東京との情報格差も挙げられる。教育現場からも「東名阪と比較すると、やはり各種セミナーや研修の場が圧倒的に少ないです。業界の先端技術を知るセミナーに参加する機会も多くはありません」(吉田学園) といった声が挙がる。
こうした状況を打開するため、ゲーム業界では2014年に、日本最大の開発者会議CEDEC(コンピューターエンターテイメントデベロッパーズカンファレンス)の地方開催第一弾「SAPPORO CEDEC」が開催され、地元企業を中心に、様々な知見の交流が見られた。今後は新規参入したアニメ・映像系のプロダクションを中心とした技術交流セミナーも期待したい。
札幌に限らず、プロダクションの地方都市への進出は続いている。こうした傾向は首都圏で働く「いつかは地元に戻ってCGの仕事がしたい」と願うデジタルアーティストにとっても朗報だろう。映像制作の最前線での実務経験が必ずや重宝されるだろう。今後の地方都市でのCG制作の可能性は広がるばかりだ。



札幌在住者に聞くCG・映像制作の実態

Q1
札幌でCG制作をする上でのメリット、デメリットは?

「食事が美味しいこと」「自然が豊かで住みやすい」「家賃・光熱費などの固定費が安い」など、生活のしやすさを挙げる声が目立った。また日常の移動手段で公共交通機関を挙げる声が約6割と多く、通勤時間でも約半分が30分以下と回答したほどだ。他に「良い意味で人間関係が狭いため、尖っている人とすぐに繋がることができる」といった声もあった。反面「人材が集まりにくい」「東京との情報格差がある」というデメリットもみられた。中には「冬場は降雪で移動や物流が遅れることが多々ある」など、雪国ならではの不便さを訴える声もあった。地元民にとっては当たり前でも、移住者にとって冬の厳しさはネックになりそうだ。


Q2
札幌でCG制作をする上で大変だと思うとこは?

前述の通り人材確保と情報格差をあげる声が目立った。「監督など主要スタッフが首都圏在住のため追い込みになってくるとレスポンス的な部分で多少のハンデがある」「東京で行われている交流会やセミナーなどになかなか参加できない」「ネットで様々な情報が入手できるとはいえ、やはり仕事の中心は東京であり、情報共有やレスポンスにおいて、東京との距離を感じる部分は多々ある」などだ。また「東京からの受注仕事が中心になるため、東京が上位で地方が下位という意識が双方にある」など、意識面について指摘する声も。総じて「情報量」と「スピード感」のちがいをどのように埋めていくかが当面の課題になりそうだ。


Q3
札幌のCG・映像コンテンツ制作の可能性は?

企業が徐々に集積してきたことで、企業間連携によって新しい可能性が開けてくるのではとする声が目立った。「最近は映像寄りのスタジオが以前より増えてきた印象があります。各社ごとの独自性を打ち出していけば、面白くなりそうです」「企業同士の繋がりは強いと思います。札幌全体で盛り上げる企画などはしやすいのではないかと思います」「地方都市の中でもアニメーションやキャラクターコンテンツに対する認知度が高く、魅力的なものが輩出されれば、街全体を盛り上げるコンテンツに育てられる可能性がある」などだ。一方で「CG映像制作を産業として盛り上げ、地域の雇用と優秀な人材を輩出するため、企業間で連携することが重要だ」という意見も。


TEXT_小野憲史

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札幌・東京・名古屋・福岡をシームレスにつなぎナンバーワンの映像品質を目指す


CGWORLD Live in 札幌(2015年3月開催)にて同社が講演した『遊技機映像制作のワークフローとプロセス』より。サイバーテイストのロゴアニメーションを作例として、コンセプトからコンポジットまで同社ならではの遊技機向け映像制作のフローを紹介。顧客の多種多様なテイストのオーダーに高水準な品質で応えるため、同社スタッフは日々技術研鑽し、レパートリーを増やし続けている


CGWORLD Vol.195 第1特集「After Effects匠の技」にて掲載された「現場で今すぐ使える!! 遊技機向け映像制作テクニック」より。遊技機向け映像の需要拡大や液晶パネル品質向上に伴い、より高品質な表現が求められるようになってきている今、exsaでは意欲的に映像制作ツールの導入や検証研究を行い、制作技術向上に取り組んでいる

【左から】海老澤広樹氏(制作部 副部長 )、小林隆志氏(札幌スタジオ所長 )齋藤文仁氏(常務取締役 制作部部長)

拠点間の"壁"を感じさせないためのインフラの整備


札幌時計台前に拠点を構えるexsa札幌スタジオ

東京本社のほか、名古屋、福岡に地方拠点をもつCGプロダクションexsaが、2015年4月に新たな拠点として札幌にスタジオを開設した。同社の従業員数は、約140名。2004年4月に映像制作会社としてスタートした後、ここ数年間は遊技機向けの映像制作を事業の主軸としており、企画からデザイン、プログラム、オーサリングまでを社内で完結させるワンストップスタイルによる高品質な作品づくりで、業績を伸ばし続けている。最近では遊技機以外にも、ソーシャルアプリやプロジェクションマッピング、TVアニメシリーズの3DCG制作を手がけるなど、つねに先を見据えた多様性のある展開を見せている。同社が積極的に地方展開を進める理由について、常務取締役で制作部部長 齋藤文仁氏は次のように語る。「地方展開の一番の目的は、まず優秀な人材を確保するためです。競争相手の多い東京では人材の取り合いになっているという現状がある中で、地方に目を向けて、眠っている優秀な人材を発掘していこうというわけです」。こうした目標の下、2013年1月に設立された福岡スタジオでは、現在、26名ほどのスタッフが働いており、exsaの地方拠点として順調に成長中だという。以前は各拠点間の仕事のやりとりに問題が発生することも多かったそうだが、現在ではスムーズに行えるようインフラが整備されており、TV会議やチャットを使った打ち合わせや、制作データの全拠点共有化など、地方にいることを意識せず、東京にいるのと同じようにプロジェクトに参加できる環境が整ってきたのだとか。

札幌の各スタジオと連携しながら世界にコンテンツを発信する拠点を目指す

他拠点と同様に札幌スタジオでも"映像制作を完結できる体制"が目指されているため、制作部では全職種(2D・映像演出/デザイン/モデリング/モーション/コンポジットほか)の経験者を募集中だ。とは言え、実際の業務では拠点に関係なく各工程ごとにチームが組まれ、チームの一員としてプロジェクトにアサインされるというスタイルがとられている。そのため他拠点のスタッフとの交流が盛んで、拠点をまたいだ技術共有も行われるのだとか。「例えばモーションチームが月に一度、TV会議を利用して定例勉強会を行なっているように、各チームごとに技術指導が行われています。こうして他拠点にいる経験豊富なスタッフからアドバイスをもらうなど、スキルアップのチャンスが多いのも弊社ならではの魅力ですね」(制作部副部長 海老澤広樹氏)。このほかにも同社では、各拠点のスタッフを集めた研修会を実施。技術の変化や成長スピードの速い業界にいるからこそ、社員のスキルアップには力を入れているという。
最後に、札幌スタジオ所長の小林隆志氏に、今後の展望を語ってもらった。「北海道にある様々な企業と協力しあいながら、札幌から日本全国、さらには世界につながるようなコンテンツをつくっていきたいです。そしてexsaを中心に、札幌の映像業界全体を盛り上げていきたいと思っています。そうした目標を持って、一緒にがんばって頂けるクリエイターを募集中です」。
基本的には現地採用を考えているという札幌スタジオだが、Uターン・Iターンももちろん歓迎とのこと。札幌で働きたいクリエイターは、ぜひ検討してほしい。

TOPIC 01
各拠点を"技術"の横串でつなぐ組織編制


exsaでは拠点ごとにチームが存在するのではなく、チーム内に複数拠点のスタッフが所属している。具体的には、制作部に「案件運営」、「2D・映像演出」、「デザイン」、「モデリング」、「モーション」、「コンポジット」、「オーサリング」チームがあり、この7つのチームに各拠点のスタッフが配属されている。担当プロジェクトについては、1人のスタッフが1つの作品につきっきりというわけではなく、状況やスケジュールに合わせてスタッフが各プロジェクトにアサインされていくという流動的な体制が特長だ。また、担当プロジェクトやチームについて、スタッフから「この仕事がしたい」という希望の声があれば、積極的に取り入れるようにしているとのこと。

TOPIC 02
安心して働ける充実のサポート体制


同社が毎年開催している全社合同での社員旅行の様子。社員旅行の他、新入社員研修や幹部研修といった実際に顔を合わせた行事も定期的に行い、拠点間、部門間のコミュニケーションがとれるよう心がけている

同社の福利厚生の中でも目を引くのが、今年4月から導入された「ハッピーナイン」制度。これは、1年間のうちに連続5日間の有給休暇をあらかじめ取得できるという制度だ。遊技機の映像制作は年単位のプロジェクトが多く、比較的、スケジュールの調整がつきやすいことから、例えば半年後にこの「ハッピーナイン」制度を利用した長期休暇をとっておき、今から海外旅行の計画を綿密に立てておく......といったことも可能だ。このほかにも、研修制度や勉強会などバックアップ体制が充実している同社。「組織力を意識し、社員を育てることを目標にしている」と齋藤氏が語るように、社員へのサポートが心強い。

TEXT_山田桃子

●会社情報
exsa株式会社
設立日 2004年4月
  資本金 10,000万円
所在地 〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-10-1 日土地西新宿ビル21F
TEL 03-3340-0193
URL http://www.exsa.jp/

●求人情報
職種:①CGデザイナー ②CGディレクター ③2Dグラフィックディレクター ④映像演出 ※各拠点共通
雇用形態:正社員(試用期間あり)
勤務地:
[札幌スタジオ]〒060-0001 北海道札幌市中央区北1条西3-3-20 時計台スクエアビル3F
[福岡スタジオ]〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-20-2 天神MENTビル6F
[名古屋支社]〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦1-5-13 オリックス名古屋錦ビル10F
[東京本社]〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-10-1 日土地西新宿ビル21F
待遇:年俸制/経験、スキル、年齢、前給を考慮し、当社規定により優遇 /試用期間3ヶ月あり(待遇同)/勤務時間9:30~19:30(実働8h+休憩1h)/昇給・昇格制度あり/交通費支給
休日休暇:週休2日制(土・日曜日)/祝日/有給休暇/慶弔休暇/その他特別休暇制度あり/その他は随時応相談の上決定
詳しくは 求人コーナー【JOB】をご覧ください。

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提案型開発の老舗スタジオ道外出身者も数多く活躍


©BNP/BANDAI, DENTSU, TV TOKYO
©BANDAI
同社の代表作『データカードダス アイカツ!』。株式会社バンダイと一緒に、ゲームのコンセプトやシステムなどを企画し構築してきた。一般的な「可愛らしさ」を「キュート」「クール」「セクシー」「ポップ」に細分化してカード収集に幅をもたせ、トランプの記号で象徴させるなど、随所にゲーム会社らしいこだわりが伺える

札幌に本社を置く老舗ゲーム開発会社、株式会社ハ・ン・ド。近年では家庭用ゲームに加えて、業務用やスマホゲームなど開発の幅を広げている。そんな同社では経歴や職種を問わず、一緒にゲームづくりを進められる仲間を幅広く募集中だ。

  • 橋弥政利氏

  • アセットやプログラムなど部分受託を行う企業が多い中、同社ではゲーム一式の開発を受託し、クライアントに対して積極的にアイデアを提案していくスタイルを重視している。「クライアント様の商品イメージに対して、弊社からゲームコンセプトなども含め提案し、実際のゲーム開発も様々なアイデアを出しあいながら、チーム全員で進めていきます」とディレクターの橋弥政利氏は説明する。

社員教育にも熱心だ。アーティスト出身で現在はスタジオマネージャーを務める井上伸彦氏を中心にカリキュラムが編成され、新人アーティストには先輩の指導の下、最低1年間の研修が行われる。入社3年目でUIデザイン専門の大井明子氏は「学校ではイラストを中心に勉強したので、UIデザインはゼロから学びましたが、先輩の丁寧な指導のおかげで助かりました」と語る。他にデザイン社内コンペや自主勉強会なども積極的に行われている。


左から井上伸彦氏、大井明子氏、西口加奈子氏

札幌で働くことで、ワークライフバランスが充実するのも魅力だ。地元出身で東京から転職してきた、アーティストの西口加奈子氏もその1人。「通勤ラッシュもなく、生活環境の良さを再実感した」という。キャンプやスノボなどアウトドア志向だが、これも東京では難しかったことだ。結婚や出産を機に、移住してくる道外出身の業界経験者も増えてきた。


札幌の中心街に位置し、窓から時計台も望める開発室。テレビ会議で東京スタジオとの連携も密接だ

デモリールやポートフォリオでは質だけでなく数から見えてくる趣向や意気込みも重視するとのこと。デッサンや油絵など、アナログな作品提出も歓迎だ。アパレル業界出身者が、『データカードダス アイカツ!』シリーズのプランニングで活躍するなど、異業種からの転職組も少なくない。自分の可能性を試せる環境が揃っている。

©BNP/BANDAI, DENTSU, TV TOKYO
©BANDAI


POINT 01
チームで様々なアイデアを出しあいながら、開発会社提案型でゲーム開発が進められる

POINT 02
教育体制の整備に努めており、新人向けの教育制度や勉強会・サークル活動なども充実


TEXT_小野憲史

●会社情報
株式会社ハ・ン・ド
設立日 1993年2月
資本金 5,000万円
所在地
[本社]〒060-0001 北海道札幌市中央区北1条西3-2 井門札幌ビル
[支社]〒104-6012 東京都中央区晴海1-8-10 晴海アイランド トリトンスクエア オフィスタワーX
TEL 011-200-0264(本社代表)
URL http://www.hand.co.jp/

●求人情報
職種:①ゲームプランナー ②ゲームプログラマー ③3D/2D CGデザイナー
雇用形態:正社員・契約社員
勤務地:
[本社]〒060-0001 北海道札幌市中央区北1条西3-2 井門札幌ビル
[支社]〒104-6012 東京都中央区晴海1-8-10 晴海アイランド トリトンスクエア オフィスタワーX
待遇:社員、契約社員:年俸216万円以上(実績・経験を考慮の上、決定します)/各種社会保険完備/通勤手当支給(上限額 札幌:25,000円、東京:30,000円 いずれも月額)
休日休暇:週休2日制(土・日曜日)/祝日/年末年始休暇/夏季休暇/慶弔休暇/特別休暇/有給休暇
詳しくは 求人コーナー【JOB】をご覧ください。