CG-ARTS協会は、3月2日にCGクリエイター向け書籍『ディジタル映像表現』と『入門CGデザイン』の改訂新版を発行した。その一環として、4月25日に福岡で「CG表現のいま-3DCGが変えたアニメ表現とは 改定新版『ディジタル映像表現』にみる求められる能力-」、5月8日に札幌で「CGの表現のいま-アニメ制作動向 サンジゲン、カラー、グラフィニカが語るクリエイターに求められる能力とは-」といったセミナーを開催。本稿では4月25日に福岡で開催されたSOLA DIGITAL ARTS代表の荒牧伸志監督、神風動画代表の水﨑淳平氏が登壇したセミナーの模様をお届けする。

『アップルシード アルファ』のメイキングから見る表現の追求

荒牧監督によるセミナー「荒牧伸志監督が語る-『アップルシード アルファ』のメイキングからみる表現の追求-」では、映画『アップルシード アルファ』の制作過程を題材に、「3DCG映画をつくる上で監督が何をしているのか?」「どんな思いで3DCG映像をつくっているのか?」「スタッフとどういうやりとりをしてるのか?」について紹介された。

ここ10年、もっぱらフォトリアルな3DCG作品を手がけている荒牧監督だが、もともとは手描きアニメ作品のメカニックデザインや監督を務めてきたことで知られる。そうした経歴を持つことから「アニメーターがアニメーションをつくっているという点では同じ。どういうジャンルなのかは気にせずにつくっている」と言い、3DCGの導入については「物語や観客に共有させたいものなどを考慮し、作品にとって適切なルックを選んでいくことが重要で、それができる時代になって良かった」とその利点を挙げた。

『アップルシード アルファ』にフォトリアルな3DCGを採用したのも「ストーリー的にフォトリアルでないと観客にメッセージが伝わらない」ためであると言うが、同時に「それを実現するのに力技でやるのではなく、予算にもスケジュールにも制限がある中で、どう実現するのかを模索しながら作業していった」と、コスト面にも配慮してのことだと言う。


SOLA DIGITAL ARTS代表・荒牧伸志監督

続いては、プリプロからプロダクションに作業を移す際の話に。荒巻監督は「アニメの監督だと絵コンテを描くが、フル3DCG作品だと監督が何をやってるのかよくわからないと言われる」と話す。「(プリプロを元に)Mayaや3dx Maxを使っているスタッフがどんどん画を形にしていくが、作品の完成まで全てを同じスタッフで作ろうとしてもそうはいかないので、プリプロの段階でもう少し密にイメージを固めておく必要があった」と言い、脚本が見えてきた段階でスタッフと共通認識を持つべく、まずはラフコンテやプリビズを並べ、90分を100コマ程の絵コンテにすることを試みた。すると、今までの5倍のスピードで、最終的な絵コンテを完成させることができたそうだ。

このほかモーションキャプチャについては「10年前は簡易なアニメーションをつける装置という程度に思っていたが、役者と話すうちにとらえ方が変わってきた。役者はキャラクターをもっとこうしたいとか、ああしたい、こういうキャラクターなんじゃないか、という具合にイメージを膨らませてくれる」といった印象の変化について語った。

最後に「どうやって自分たちのやりたい作品を実現して次につなげていくか」という目的に対しは、「作業環境、チームの雰囲気、スタッフのスキルをどう上げていくか、モチベーションをどう上げていくか」という点で日々悩んでいることや、「3DCGがバージョンアップして大変だった作業も簡単にできるようになったが、もっと細々したところを何とかしなきゃいけない」と改善点を示していた。

神風動画が挑みつづけるCG表現の多様性と可能性


「セルアニメに活かされる3DCGとこの先」をテーマに語る水崎氏

続く神風動画・水崎氏による「神風動画が挑みつづけるCG表現の多様性と可能性」は、「セルアニメに活かされる3DCGとこの先」との題目で進行。冒頭で自社の歩みを略儀的に振り返るべく「3DCGとの付き合い方、作画との付き合い方、表現の仕方のバランスやバリエーションを変えて、ここ10何年かを振り返って話が出来るんじゃないかな」とまずは概要を説明した。

1998年の同社設立当初(法人化以前)、同社のコンセプトは「アニメ業界にビンタを食らわせる」だった。「セルアニメの業界に対して、つくり方や取り組み方に疑問があった」と水崎氏。物騒なコンセプトのようでもあるが、4月に発表のあったJAniCAの「アニメーション制作者実態調査 報告書2015」の結果に関して様々な意見が飛び交っていることからもわかるように、当時と今とでアニメーション制作者の苦しい状況には差が見られない。「3DCGっていうものには様々な可能性があるし、様々な表現ができるはずなのにアニメーターの尻拭いをするポジションになっているのではないだろうか」。仕事の合間に自主制作した『ガソリンマスク』などを通して「アニメ業界の手描きの人たちと距離をおいてアニメを作れないか」と思うようになったと言う。

2002年に制作したCM『ナンバーファイブ吾』(講談社『IKKI』)では、絵作りだけではなく待遇や環境にもビンタを食らわせてやろうと考えた。「1人何役でもこなせるような仕事の配分の仕方とか、そこを分けなくていいじゃないとかというところをひとつにまとめてしまえば給料も上がるのではないか。環境はプアだけどアニメ会社より給料は出せてたと思う」と水崎氏は言う。

また『ナンバーファイブ吾』では、マンガ原作者・松本大洋氏の個性を再現するのに、3DCGの優位性が示せたとも言う。「(通常のアニメ制作では)線を細かく描いても描かなくても動画1枚あたりの単価は変わらないので、なるべく線を減らそうとする。そういう妥協してきた道筋を変えていこうと思った」。そしてオープニングなどを担当した2009年のゲーム『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』(スクウェア・エニックス)の例では「3DCGだけで表現を終わらせるんじゃなくて、影やライティングは手描きにしている。こういう試みは今までのセルアニメの体質だとできなかったのではないか」とも言う。


神風動画代表・水崎淳平氏

一方、2013年の『未来光子 播磨サクラ』(理化学研究所)は、80年代アニメ風のオープニングで話題となり再生数が多かったものの、海外では3DCGであることに気づかれなかったとのこと。この頃から「キャラクターを3DCGですとドヤ顔で言いたくなくなった。手描きアニメの方に3DCGでもここまでできるようになったと言うと、手描きアニメの方面に戻っていってしまう」といった心境の変化について明かした。また、2014年の「すーぱーそに子」(ニトロプラス)をアニメ化した『そにアニ -SUPER SONICO THE ANIMATION-』のエンディング制作では、そうした疑問から3Dプリンタでの出力(組み立てはナシ)やフォトリアルな表現も試し、ひとつの作品からいくつもメディアが生み出せる業界に育っていることを挙げた。

最後に、昨年、オリジナル作品の制作のために立ち上げた弐式スタジオで進行中の『GASOLINE MASK』プロジェクトについても触れた。このプロジェクトの目標は「『ガソリンマスク』から15年経った今、3DCGでどんなことができるようになったのかを示す」ことにあると言う。また、アニメ業界の変化にも触れ、アニメーターが3DCGに興味を持ち始めていることから、逆に「なにもかも3DCGで作るようになってきている」ことを懸念しているという水崎氏。「セルの絵をここまで再現できるようになった、というのは無意味な気がしています。だから今度ビンタするのはそういう人達だなと」と、これからも厳しい姿勢を崩さず3DCGに取り組んでいく決意を語った。

TEXT&PHOTO_真狩祐志


  • 「CG表現のいま-3DCGが変えたアニメ表現とは-」
    主催:CG-ARTS協会
    日時:2015年4月25日(土)15:00~17:30
    会場:学校法人麻生塾 Headquarters 10号館 2F講堂(福岡市博多区博多駅南 1-14-7)
    http://www.cgarts.or.jp/seminor/information/150425/index.html