2月25日(木)〜28日(日)の4日間、パシフィコ横浜にて写真とカメラの総合ショウ「CP+2016」が開催された。例年、日本の大手カメラメーカーから新製品が発表、展示されるとあって、国内外を問わず大きな注目を集めるイベントだ。

CP+2016イベント特設サイト:http://www.cpplus.jp/

3月に発売が迫った「D5」やAPS-Cのハイエンド「D500」、4月発売予定のキヤノン「EOS-1D X Mark II」といった2大メーカーフラッグシップ機に加え、こちらも4月に発売が迫るリコー(ペンタックス)初のフルサイズイメージセンサー搭載機「K-1」などの目玉製品を実際に手にとって触ることができた。

これらの本格的な素材撮りやロケ用途に使える機材の紹介は、他のカメラ誌などにお任せするとして、本稿では、デジタル加工前提のクリエイターが個人レベルでも導入可能な機材を紹介していきたい。

安価に空撮可能!中国製ドローンが多数出展

大手カメラ、レンズメーカーが大規模ブースを構える中、ひときわ異彩を放っていたのがドローンを展示するブースだ。現在、中国製の小型ドローンは世界で半数以上のシェアを占めていると言われ、今回出展していたのも、DJI、Yuneec、深圳市道通智能航空技术有限公司(AUTEL)、啪啪樂有限公司(AFI製)と、そのすべてが中国メーカーだ。

特に実際に飛行デモを行っていたDJIの製品は秀逸で、一般向けの「PHANTOM3」シリーズでもProfessional版なら、機体に搭載したセンサーで障害物の検知を行い、GPSとセンサーで機体の位置情報を把握する。3軸ジンバルをスタビライザーとして搭載しており、ドローン自身や屋外環境からのブレを自動的に吸収するため、水平を保つのも容易だ。

カメラにはソニー製の1/2.3インチのExmor R裏面照射型イメージセンサーを使用しており、4K動画を10Mbpsのビットレートで記録可能と撮影機能的にもあなどれない。

3月1日現在、公式オンラインストアでは、Professional版でも14万円を切る価格で販売されており、空撮素材を得るための投資として個人でも視野に入る価格帯だ。中国製ということで、もちろん人件費の安さが製品の安さの背景にあるわけだが、別途用意したスマートフォンやタブレットを送信機のライブモニタとして連携させる前提の構成となっており、これらの合理的な設計も製品価格の引き下げに貢献している。

DJIオンラインストア:http://store.dji.com/jp

▲実際に飛行デモを行っていたDJIの「PHANTOM3」。飛行中、ホバリング中ともに安定して水平を保っっていることがライブ映像から確認できた

エンターテイメントの分野で現世代のドローンを活用して得られる最大のメリットは、空撮ができることに尽きる。

ヘリや飛行機でなければ撮影できなかった雄大なランドスケープを絵作りに加えられるのは魅力的だ。また、空撮といっても、なにも遥か上空を飛ばす必要はない。数メートルの高さを維持しながら、水平に移動させて撮影することもできるわけで、ロケーションによっては今までは不可能だったカメラワークで撮影することも可能になるだろう。

リアルで情報量の多いランドスケープを3DCGで製作するのはコストも時間もかかることから、フルCGにこだわらない作品ならドローンで撮影した素材をCGになじませるように加工して合成することも考えられる。

▲上位機種の「INSPIRE1」シリーズ。「PHANTOM3」のカメラ稼働はティルトのみだが、本機には3軸回転可能なモデルも

弱点としては、単焦点レンズ固定となっているため、35mm換算で20mmレンズ相当の画角に固定されてしまうということが挙げられる。レンズ交換可能で、より高画素のマイクロフォーサーズ規格のイメージセンサーを搭載する上位モデルも用意されているが、システム全体の価格は、ずっと高価になってしまう。

加えて、単焦点レンズでは、当然のことながら光学ズームは使えない。ズームに近しい効果を撮影素材の段階で得たい場合には、物理的に撮影距離を詰める必要があるため、飛行上の制約で撮影が難しい状況もあるかもしれない。最上位のプロユースモデルでも改造なしにドローン側にズームコントロールを行う機構はないようで、カメラのWi-Fi機能でスマートフォンなどからズーム制御を行うのは、Wi-Fi電波の到達距離的にちょっと厳しいものがある。現時点では、素材の画質を追求するなら、より高画素のカメラで高解像度の素材を撮影しておき、ポスト処理でズーム効果を得るというのが現実的だろう。

上記に加え、記録されているフライトデータを容易に取り出せないのも物足りないところだ。ドローンは、GPSとセンサーからの情報を頼りに、自身の正確な位置情報が収集しており、向き情報とユーザー入力からカメラの回転を割り出すことも可能だと思われる。これらの情報をユーザーの利用しやすいデータ形式でカメラデータとして取得することができれば、3DCGで作成したシーンとの精度の高いマッチングや、カメラアニメーションをキャプチャするといった用途にも活用できる。

開発者向けのSDKがリリースされていることから、エクスポーターを自作することは可能だと思われるが、サードパーティ製を含めて簡単に入手できるツールはないようだ。現時点で合成を行うには、画像解析的にマッチムーブを行わざるを得ないため、撮影中にディスプレイされる情報をメモしておき、目分でカメラ合わせをした方が早いかもしれない。

▲プロユースの「Spreading Wings」シリーズ。ドローン専用カメラではなく専用ジンバルマウントにカメラメーカー各社のデジカメを搭載して使用する

これら今後の進化に期待する点はあるものの、解決はおおむね時間の問題と思われる。小型で高機能なカメラが次々と登場していることから、ズームレンズ付きカメラの搭載は次の一手として有力だろう。CG映像分野への普及が進めば、自作しなくてもDCCツールにフライトデータの入出力プラグインが同梱されるようになるかもしれない。バッテリーの制約から最大20分前後と心もとない飛行時間も、スマートフォン向けバッテリーの進歩の恩恵を受けて急速に改善されていくはずだ。

▲DJIの上位機種ドローンと同程度と思われる高級機を展示していたのがYuneecだ。タブレットを内蔵したコントローラーを採用するモデルも

Yuneec公式サイト:http://www.yuneec.com/

▲AUTELは、日本での販売パートナーを探すために出展。展示していた機種は、599USドル、799USドル、999USドルの3グレード展開

AUTEL公式サイト:http://www.autelrobotics.com/

▲傘と一体のセルフィスティック(いわゆる自撮棒)の脇に、なぜかAFI製ドローンを展示していた啪啪樂有限公司。価格を尋ねてみると日本円で7万円とのこと

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VRコンテンツの素材撮りに「使える」360度カメラ︎
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VRコンテンツの素材撮りに「使える」360度カメラ

今年はVR元年と言われ、いよいよ「Oculus Rift」や「PlayStation VR」、Valve「Steam VR」に対応する「Vive」といったHMD(ヘッドマウントディスプレイ)が発売される。

新ハードへの期待感から、大手ゲームパブシッシャーからインディまで、多種多様なコンテンツが開発されている今、開発者を悩ませているのは「360度全周囲見渡せてしまうこと」ではないだろうか。

もちろん、それがVRの最大の特徴であり没入感の源泉なのだが、プレイヤーが自由にカメラを操作できるゲームを除いては、今まで作る必要のなかった部分まで用意しなければならないことを意味する。そこで、製作するVR空間のうち遠景に相当する部分を360度カメラで撮影して、画像変換、加工を経てスカイドームに貼り付けてしまうといったアプローチが考えられるだろう。遠景を作成するコストが削減できるほか、キャラクターや近景にポリゴン予算を大きく割くことができフレームレートの維持にもつながる。

今回出展されていた製品で、この用途にいますぐ使えそうなのは、昨年10月にすでに発売されているリコーの「THETA S」だ。背中合わせに設けられた2つのレンズからは、最大5376×2688サイズの画像が得られるため、加工前の素材として実用レベルと言えるだろう。価格も、実売で4万円前後と気軽にテストできる価格帯に抑えられている。

RICOH THETA S:https://theta360.com/ja/about/theta/s.html

一方で、撮影したそのままの状態で、360度見回せる動画を見せるといった映像コンテンツの場合、いわゆる「VR酔い」の問題もあって、手振れ補正のない「THETA S」ではなかなか厳しそうだ。とはいえ、会場に多数出展されていたスマートフォン、アクションカメラ用のハンディなスタビライザーを併用したうえで、ポスト処理でもソフトウェア的に補正してやれば、意外と視聴に耐えるかもしれない。

▲現在のところ、民生用機として、もっとも容易に入手できるのが「THETA S」。エンドユーザーレベルで全周囲見渡せるVR写真を撮影することができる

▲リコーブースには、サムスンから昨年12月に発売された「GEAR VR」でVRコンテンツを体験できるコーナーを設置

「CES2016」に引き続いて参考展示ながら、4K動画が撮影できると発表されているニコンの「KeyMission 360」も、「THETA S」と同様、2つのレンズで全周囲をカバーする360度カメラだ。アクションカメラとしてのコンセプトを強調しており、会場には多彩なマウントアクセサリと共に、自転車に乗るマネキンに展示されていた。

発売を今春としているものの、詳細なスペックや価格については、CP+でも発表がなかった。静止画像も「THETA S」を超える解像度となる可能性が十分にあるため、現時点ではニコンの発表を待ったほうがいいかもしれない。

▲今春発売予定のニコン「KeyMission 360」。360度撮影が可能なアクションカメラとして、マウント以外にもリモコンや水中用ハウジングをラインナップ

▲アクションカメラの代名詞ともいえる「Go Pro」に220度、250度、280度の魚眼レンズ「Entaniya Fisheye」を取り付け、VRカメラに改造するキットもEntaniyaブースで展示されていた。「Go Pro」を6台、16台と組み合わせるシステムよりは遥かに手軽で安価だ

実のところ、今年のVR HMDのリリースラッシュを当て込んで、エンドユーザーでもVRコンテンツが手軽に撮影できるカメラが発表されるのでは、と期待して会場に足を運んだのだが、残念ながらVR用途を打ち出したカメラの展示は、ごく少数であった。HMDという新しいハードウェアの普及には、ゲーム以外のコンテンツの拡充も重要だ。エンドユーザーが自分で写真や動画を撮って楽しめるという要素が、スマートフォン普及の鍵となったこともあり、VRにおいてもカメラメーカーに同様の動きを期待したい。

TEXT&PHOTO_谷川ハジメ(トリニティゲームスタジオ)