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映画「アラジン」、ディズニーシー「マジックランプシアター」で生き生きとしたアクションを繰り広げる"ジーニー"のアニメーションでおなじみ、ディズニーのスーパーバイジングアニメーターを務めるエリック・ゴールドバーグによる、アニメーションの極意をまとめた「キャラクターアニメーション クラッシュコース!」が6月下旬に発売された。
本記事では「キャラクターアニメーション クラッシュコース!」の中からアティチュードボーズについて一部抜粋し掲載します。
アティチュードポーズ
アティチュードポーズとは、シーン内のキャラクターがどのような感情をもって動いているかを伝えるために描かれる、簡単な絵を指している。1 枚の絵で表情や感情、姿勢といったものを表現できるようになれば、視聴者に何かを伝える絵への道はそう遠くはない。アティチュードをしっかりと描き、それを中心にアニメーションを組み立てれば、よりダイナミックで読み取りやすいアニメーションになる。それに、ポーズで個性を表せれば、キャラクターが何者であるかをポーズで示すことだってできる。
これが良く表れている作品は、誰からも愛されるテックス・アヴェリー(Tex Avery)監督の作品「田舎狼と都会狼」(原題:Little Rural Riding Hood)だ。ナイトクラブに入っていくシーンで、都会狼は鼻を高々と持ち上げ、反りかえった背中から脚にかけてのラインはしなやかなカーブを描き、まるで滑るような足取りだ。それに引き換え、都会狼に手をつかまれて歩く田舎狼はおかしな具合に屈んで低い姿勢を取り、落ち着きのない動きは、彼が「間抜け」だと示している。典型的なやり方だ。
アティチュードポーズに取りかかるときは、自分がコミックストリップアーティストなったつもりで描くこと。それも1 枚の絵でアクションと感情を表現できる、優れたコミックストリップアーティストだ。それができる名手と言えば、チャールズ・シュルツ(Charles Schulz)、ウォルト・ケリー(Walt Kelly)、ビル・ワッターソン(Bill Watterson)、ジョニー・ハート(Johnny Hart)がすぐに思い浮かぶ。
以下のポーズに引かれている「アクションライン」に注目。アクションラインは実際には存在しない想像上のラインで、これを用いるとポーズが勢いと目的を持つようになる。アクションラインはキャラクターの背骨の延長のようなもので、これをベースにキャラクターのボディを描く。
ポーズの強さは、シルエットからどの程度読み取れるかによって検証することもできる。
シーンに取りかかるときには、そのシーンの「ストーリーを語る」絵を順番通りに描く。ストーリーとは、キャラクターがどう感じ、どこに行こうとしているのか、物理的に何が起きているのか、シーンの間キャラクターはどのようなアティチュード(気持ち)でいるかといったことだ。この段階ではタイミングを気にする必要はない。絵で「伝える」ことだけに専念しよう。TV 番組やコマーシャルの制作では、ポーズやレイアウトを監督が紙に描いてアニメーターに渡すこともある。短編作品の監督たちがこのような絵を描いていた、アニメーションの黄金時代の名残だ。自分が描くにしても、渡されるにしても、この時点の絵はストーリーを語るための絵(ストーリーテリングの絵)であり、はじめや終わり、転換点や山場を示す絵(エクストリームの絵)である必要はない。目で自然に追いやすく、ストーリーの進行がはっきりと伝わる場面を描く。
この目的で描かれた絵から発展させ、大げさで様式化されたアクションを付けた作品もあれば(チャック・ジョーンズの「ドーバー・ボーイズ」(原題:Dover Boys)やテックス・アヴェリーのカートゥーンなど)、それとは対照的に、長編作品向けに繊細かつ抑えた動きのアニメーション付けた作品もある。その場合には、ポーズにセカンダリーアクションやオーバーラップを細かく加えたり、手足の動きのタイミングをずらしたりといった細かい作業が要求される。ストーリーテリングの絵を熱心に提唱したのは、ミルト・カール(Milt Kahl)だ。
私はアティチュードポーズを描くことを、アニメーションの「Name That Tune」訓練と呼んでいる。「Name That Tune」は古い曲名あてのTV 番組で、回答者は曲のほんの一部だけを聞いてタイトルを答える(私なら3 音聞かせてくれたら曲名をあてるよ、ビル)。(訳注:ビルは番組の司会者)数枚の絵で「Name That Scene(何のシーンかをあてる)」が可能なら、そのシーンのストーリーは明確に視聴者に伝わる。
以下の5 枚は、それぞれ異なるアティチュードが表現されているストーリーテリングの絵だ。
キャラクターの頭に浮かんでいることは:
- 1.「 やあ、どうだいかっこいいだろ、オレ? 片足を上げて......」
- 2.「 それ行け! わき目も振らずに突進だ」
- 3.「 おーっと! デイジーを踏みつぶすところだ!」
- 4.「 小さくてか弱いなものは踏まないように、気を付けなくちゃ」
- 5.「 !@#%&*@!!」
注目してもらいたいのは、顔の表情だけでなく、思考プロセスを視覚的に表現するために、全身を使用していることだ。
歩きと走りのアティチュードポーズ
コミュニケーション(伝えること)の観点からすると、歩きや走りでアティチュードを示すことは極めて大切だ。単純にある場所から別の場所に移動させるだけでなく、その時間を使って視聴者にキャラクターの感情を伝えるのだ。いくつか例を紹介しよう。
実写の歩行では、片脚がもう一方の脚の前を通過するいわゆる「パッシングポジション」により多くのフレーム数が使われる。アティチュードウォークはその逆で、着地の前後に多くのフレーム数を使う。これは厳密には「正しくない」ことだが、少ないフレーム数でパッシングポジションを示し、より多くのフレームを使ってアティチュードポーズにクッションイン(スローイン)させたり、アティチュードポーズからクッションアウト(スローアウト)させると、視聴者に歩行の「意図」を示すことができる。
アティチュードウォークのアニメート手順
- Step 1:シーンに合った、キャラクターの感情を表すポーズを決める(この例では自信に満ち、気取った様子での歩き)。これが(1)。
- Step 2:同じポーズで左右の手足を逆にしたものを描く。角度やウエイトの変化、短縮法に注意すること。これが(17)。つまり、我らが耳なしイヌは16 フレームで一歩進むことになる。
- Step 3:フレーム(1)とフレーム(17)の間のフレーム(9)、フレーム(17)とフレーム(1)の間のフレーム(25)、2 つの「パッシングポジション」のブレークダウンを描き、32フレームのサイクルにする。気取った歩き方をさせるには、パッシングポジションで体を縮めると(通常の歩行はパッシングポジションで体が伸び上がる)、その後の胸を張った大げさなポーズが際立つ。ブレークダウンで逆になっている部分は、それだけではない。頭は下がり、背中は丸まり、腕が動く方向とは反対の方向に手首が折れ曲がっている。 上記のチャートでは、パッシングポジション前後のスペーシングがずっと広く、フレーム(1)およびフレーム(17)のキーへとゆっくりクッションインさせている。つまり、キャラクターの感情を表すポーズ付近のフレーム数が増えることになり、視聴者はアティチュードをしっかりと読み取ることができる。
- Step 4:アクションをさらに分割(ブレークダウン)。(1)と(9)の間のフレーム(7)、(9)と(17)の間のフレーム(11)、(17)と(25)の間のフレーム(23)、(25と(1)の間のフレーム(27)を描く。ただし、今回はポーズを(1)と(17)のキーに寄せる。つまり、(7)は(9)よりも(1)に、(11)は(9)よりも(17)に、(23)は(25)よりも(17)に、(27)は(25)よりも(1)に近くする。
これは画面の中央から移動しない歩行サイクルだから、地面に着地する足だけは、このようなポーズの調整はしてはいけない。背景画像が一定速度で背後を流れていくため、着地する足はスペーシングが均等に見えるようにアニメートする。着地する足まで や のキーに寄せたポーズにすると、一定速度で流れる背景に対して、足が滑っているように見えることになる。これらのポーズを描き終えたら、残りのフレームについても同じように、チャートにしたがってインビトウィーンを描く。絵から分かるように、動きの軌跡は弧を描くようにすること。