CEDEC 2013で好評を博した「身体の動きと原理から知る、闘うインゲームアニメーションの中身」の続編をCEDEC 2015(※)で披露した、バンダイナムコスタジオリードアニメーターの元梅幸司氏。本セッションのハイライトを紹介しよう。

※CEDECはゲームを中心とするコンピュータエンターテインメントの開発者を対象とした、国内最大規模のカンファレンスだ。CEDEC 2015は、8/26 ~8/28にパシフィコ横浜で開催された。 cedec.cesa.or.jp

  • 元梅幸司/KOJI MOTOUME
    株式会社バンダイナムコスタジオ リードアニメーター
    3Dのインゲームアニメーションを中心に、イベントデモ制作、モーションキャプチャのディレクション、アクターなど、キャラクターアニメーションに 関連した業務に就いている。
    代表的な参加タイトルには、『鉄拳 レボリュー ション 』(2013)、『ゴッドイーター2 レイジバースト』(2015)などがある。

"自然な感じ"の正体は身体に備わっている

本セッションでは、身体の動くしくみと原理が、スライドと実演を交えながら解説された。そもそも"身体の動くしくみと原理"とは何だろうか?「一言でいえば、"自然な感じ"の正体です」と元梅氏は解説した。これを知ることで、動きの観察力が向上し、動きの共通点が見えてくる。キャラクターアニメーションを迷うことなく付けられるようになるのはもちろん、別々の動きを違和感なくつなげたり、混ぜたりできるようにもなるという。

「モーションキャプチャデータと手付けを組み合わせる場合でも、"なんとなく"やるのではなく、観察力や理屈に裏打ちされた判断ができるようになります」と元梅氏は語る。さらに、動きの意味と名前を知ることで、人に動きを言葉で伝える力もアップするという。

「モーションキャプチャを身近に感じてもらうため、スーツを借りてきました。それに、スーツの方が身体の動きを観察しやすいですよね」と語った元梅氏。リードアニメーターに加え、モーションキャプチャのディレクションやアクターも務めているそうだ。鍛えた身体をダイナミックに使った、非常にわかりやすく見応えのある実演をたっぷり披露してくれた

なお、元梅氏が提唱する"身体の動くしくみと原理"は以下の9項目にのぼるが、本稿では3項目を紹介する。

1:関節と骨格筋の働き
2:作用・反作用の法則
3:反動動作の意味
4:回転スピードのコントロール
5:運動連鎖の原則
6:振り込み動作の意味
7:衝撃の吸収
8:テコの原理
9:重心と支持基底面のバランス

1:作用・反作用の法則

本項目を理解する上で重要なキーワードは、"作用"と"反作用"だ。作用とは、他のものに影響を与えること。つまり、アクションだ。反作用とは、作用に対して、同じ力で反対方向に働く作用。つまり、リアクションだ。2つの力は必ず対になっている。例えば、引っ張ると引っ張り返される。押すと押し返される。この関連性を意識することが重要だ。なお、作用に対する反作用のタイミングが悪いと、動きに違和感が生じるため注意してほしい。

「作用に対し拮抗する作用を起こすと、お互いの反作用が相殺されて身体をピタっと止められます。ポーズの印象が強くなり、結果として格好良く見えるのかもしれません。この見せ方は、打撃に、蹴りに、投げに、武器攻撃に応用できます。使わないともったいないです」(元梅氏)。

全ての行動は、作用を起こし、返ってきた反作用の力を利用している。A:足で地面を強く押せば、地面から押し返されてジャンプができる/ B:キャラクターがジャンプする場合も同様で、力を得るための踏み込みのアクションを付ける必要がある

2:反復動作の意味

本項目を理解する上で重要なキーワードは、"反動動作"だ。"予備動作"と呼ばれる場合もある。目的の動作をする直前に、その動作とは逆の方向へ準備動作をすることを指す。反動動作をすることで、筋肉の伸び縮みによる弾性エネルギーがため込まれ、大きく素早い動きができる。連続したアクションは、反動動作と、目的の動作の繰り返しと言っても過言ではない。

例えばワンツーパンチにおける1回目のパンチは、目的の動作であると同時に、2回目のパンチのために腕を引く前の反動動作でもある。なお、アクションには常に反動動作が伴うわけではない。"携帯電話に出る"といった使う筋力が小さい日常動作にまで反動動作を付けると、不自然な動きになってしまう。

A:赤い丸で囲まれた方が反動動作だ/ B:反動動作をする場合と、しない場合のちがいを表したグラフ。反動動作をすることで、より大きな力を短時間で生み出せる

3:重心と支持基底面のバランス

本項目を理解する上で重要なキーワードは、"重心""重心線""支持基底面(しじきていめん)"の3つだ。重心はキャラクターの中心で、普通に立っているとヘソの上に位置するが、ポーズや武器の重さによって変化する。重心線は、重心から常に真下(地球の中心)に伸びる矢印だ。支持基底面は、重さを支える基礎となる身体の底面だ。手や足底など、地面に接地している場所の全てを囲ったエリアが該当する。椅子に座っている場合は、椅子の底面も該当する。重心が支持基底面から外れると、身体はバランスを崩して倒れる。そのため、キャラクターのポーズを自在に変えたければ、バランスを知ることが重要だ。前述の3者の関係性を知っていれば、バランス調整が容易になる。例え片足のつま先立ちのような不安定なポーズでも、安定する範囲がわかるため、自由に動きをデザインできる。

また、重心の位置を変えることで、キャラクターの性格や態度、置かれた状況を表現できる。人間は断崖絶壁に立つと、腰が後傾になり、重心が低くなる。これは防衛本能が働くからだ。そのため、重心の位置によって、恐怖心・警戒心・無頓着・好戦的といった感情や状態を表すことができる。なおバランスには"重いほど安定する""重心が低いほど安定する""支持基底面が広いほど安定する"という特徴がある。その逆の状態ほど、バランスが不安定ということになる。この不安定な要素は、キャラクターが"やられている"状況を表す際に多用される。もしもキャラクターがバランスの良い姿勢でやられ続けたとしたら、プレーヤーは納得がいかず不満を感じてしまう。

白色の丸が重心で、腕や上体を動かすと位置が変わる。重心から真下に伸びている紫色の線が重心線、足下の緑色のエリアが支持基底面だ。重心が支持基底面から外れると、身体はバランスを崩して倒れる

左から手を付いた時、両足で立っている時、片足で立っている時の支持基底面。緑色のエリアが広いほど安定する

重心の位置で、キャラクターの性格や態度、置かれた状況を表現できる

TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充