SIGGRAPH Asia 2015の最終日である11月5日(木)に催されたTechcal Papers「Assisted Design」のひとつ、「Structure and Appearance Optimization for Controllable Shape Design(コントロール可能な形状デザインのための構造・外観の最適化)」について紹介したい。

最も自由度が高い「トポロジー最適化」を拡張する

この論文は、基本となる形状と、それとは別に用意した標本パターンを組み合わせて剛性のある形状を得る技術について述べている。
家具や建物などを設計する際、より軽量な形状・より剛性の高い形状を求める「構造最適化」という領域があるのだが、寸法最適化、形状最適化、トポロジー最適化(形状と穴の数を最適化)という大きく3つの手法があり、中でもトポロジー最適化が最も自由度が高い手法となっている。
<参考> Structure and Appearance Optimization for Controllable Shape Design

[SIGGRAPH Asia 2015] Structure and Appearance Optimization for Controllable Shape Design

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トポロジー最適化によって得られた形状の例。磯崎 新の設計したカタール国立コンベンションセンターなどにも用いられた

トポロジー最適化によって、指定した素材量で十分な剛性を持った形状を得ることができる。それらは、熟練のデザイナーでさえ手作業で得ることは難しいような、魅力的な物理特性を持った構造となっている。ただし、そうして生成された形状の外観をコントロールするシンプルな手法は存在しない。そこで、今回の論文で提案された内容、というわけだ。

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SIMP法を用いたコンプライアンス最小化手法。コンプライアンスは外力仕事もしくはひずみエネルギーを指し、これを最小にするということは全体的な変形を小さくすることを意味する(=剛性が高い)。このスライドは、密度分布を決定する手法のひとつ「SIMP法」を用いて最小のコンプライアンスを求める(≓剛性の高い形状を求める)論文を例示したもの。
※Bendsøe 1988の論文タイトルは、「Generating optimal topologies in structural design using a homogenization method. Computer Methods in Applied Mechanics and Engineering」


この中で提案されているのは「構造特性」と「外観」両方について形状を最適化するための手法であり、特に外観についてはユーザーが指定した柄を用いて調整することができる。この点で、形状の自由度の面で既存の手法よりもアドバンテージがあるというわけだ。
作例では椅子、橋やスマートホンスタンドなどが示されており、レーザーカッティングや3Dプリントによる製造工程に応用されることを見込んでいるようであった。

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椅子と橋の成形加工例。画像の下隅には標本となった柄が示されている。その他の作例については冒頭の動画の2分2秒ごろをご確認いただきたい

同種の研究で先行事例として挙げられた「Dumas [2015] By-Example Synthesis of Structurally Sound Patterns. 」とのちがいは、コントロールできる度合いにある。
読み込まれた元の形状に対して標本パターンを全体に充填してしまうのではなく、ユーザーの指定した量に応じて適用することが可能となっている(この論文の共同執筆者のうちJérémie Dumas氏、Sylvain Lefebvre氏はDumas2015にも名を連ねている)。

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Dumas2015との比較。よりコントロール可能になっている

実装はPythonで行われ、NLoptという、非線形最適化のためのオープンソースのライブラリが用いられている。現時点ではパフォーマンスを重視した進め方をしていないそうだが、形状を導き出すまでに数分を要し、所要時間のうち3/4が有限要素法(FEM)による解析に費やされいる。

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形状が導き出されるまでのパフォーマンスを示した図

さらに、三次元的な構造に対して形状を合成した場合、同じ要素数の平面的な形状の場合の3倍の時間がかかったという。
今後はこういった応用範囲の拡大のほか、不得意な形状(指向性が強い、途切れている、など)との合成、最低限の厚みを課す先行研究(Sigmund 2009やZhou et al. 2015)のアプローチを取り入れるといった改善が予定されているとのこと。

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提示された作例を見る限り、この手法が拡張され普及すれば、非常に特徴的な形状のプロダクトや建築が生み出されることが予感できる。冒頭に挙げられているトポロジー最適化による建築物も印象深いが、花柄を標本とした橋などが実現すれば強烈な存在感を放つことはまちがいない。
それらを実際に目の当たりにしたり、あるいは映像に映ることを想像すると、少しSF的なマインドが刺激されるところである。また、建築、製造といった場面だけでなく、3Dプリンタによる出力の大衆化の中で個性的な小物が生み出されるのにもひと役買うことだろう。どのように発展していくか気になる技術であった。

TEXT & PHOTO_岸本ひろゆき