年明けからアニメ制作会社トリガーの福岡スタジオが始動。そうした中で2月21日(日)、福岡工業大学短期大学部にて開催の「アニメーション講習会 In 八耐」にてトリガーの取締役/アニメーションプロデューサーの舛本和也氏が講演した。
<1>ワークフローからビジネス展開まで幅広く紹介
トリガーが設立されたのは2011年。同年に組織されて度肝を抜いたサンジゲン・オース・ライデンフィルムからなるウルトラスーパーピクチャーズにも名を連ね、華々しいスタートを切った。福岡スタジオの新設は、トリガーの設立当初から希望していたという。舛本氏の出身は隣県の山口県であるが、学生時代を福岡で過ごした縁もあるからだ。
福岡における講演は母校の福岡工業大学を含め、今回で5回目の実施。ちなみに2014年に舛本氏が上梓した新書『アニメを仕事に!:トリガー流アニメ制作進行読本』(講談社)は、それらの内容に基いてまとめられた本だ。
進行は「アニメーション講義」と「トーク&質疑応答」の2部制。舛本氏はアニメ制作における各役職やワークフローだけでなく、制作後のビジネス展開やそのターゲットとなる視聴者・消費者・お客さんに向けた戦略に至るまで広範に言及した。
「アニメをつくることと観てもらうことは別。つくって終わりではなく観てもらうためのビジネスが絡むことでスタートする。芸術ではなく商業としてやるからにはお金を儲けなければならない」。お金が儲からないと次のチャンスは来ないため、ビジネスとして成立しなければならないというわけである。
放送されているアニメのほとんどはパッケージ(Blu-ray・DVD)の売り上げで成り立つビジネスモデル。約20年前にできた製作委員会方式は、この売り上げでチャンスをもらえるようになっている。それらを受けて「2000年より前は日本のお客さんだけで良かった」と舛本氏は言う。それまでの海外販売は海外でも一部の国のテレビ局などを通じたものだったところ、ネットが登場したために海外でも日本の作品に触れられる機会が増大するという変化が生じた。
「今その時代になってから生まれた子供が成人になって趣味としてアニメを楽しめるようになり、グッズを買ったり、イベントに参加するようになった」と舛本氏。
日本以外の国でも日本のアニメが人気があるということで輸入してみようという機運の高まりも背景にある。ビジネスとしては「良い作品を作れば何とかなるではなくて、そこにいるお客さんの存在をわかった上でつくらなければならない」と語る。
▶次ページ:
<2>海外マーケットを視野にいれたアニメ制作とは
<2>海外マーケットを視野にいれたアニメ制作とは
続けて舛本氏は「世界に向けてつくるということは、人間、文化、国家を構築している宗教を意識してつくることでもある。現地の宗教的なタブーに抵触してしまう作品は放送してもらえない」と語る。誰のためにつくるのかというのは数字の問題ではなく、その人たちが誰なのかをわかった上でつくる、といった戦略を述べた。
「日本でやっている以上、アニメーションを制作している現場スタッフの収入は変わらない。世界に向けていかないとシュリンク(縮小、衰退)してしまう。買ってくれるお客さんが多くなれば、予算が増える可能性も高まる」。これもまたビジネスとして成立するか否かの話なのだ。
アニメーション制作(左)、ビジネス(中)、視聴者・消費者・お客さん(右)を入れ子構造で解説
舛本氏は制作の側面からでも、アニメ業界は、技術や能力といった才能を換金していると言う。しかし、たとえ良質なアニメをつくっても買ってくれる人がいないと成り立たないし、面白いと思ってもらえないとお金にならないのだ。
その後、話題は作画崩壊へ。「お客さんが作画崩壊と言えば作画崩壊。演出的に崩してるんだというのをわかってもらえればいいけど、その答えを出すのはお客さんです。意図していないものを作画崩壊と言われたとしても、作画崩壊なのだと受け止めるしかない」と、あくまでもアウトプット先の視点だ。
作画崩壊はスケジュール管理の崩壊とも言えるが、作画崩壊と言われてる箇所は演出が弱いところが多い。
「絵に頼ってる部分があるのはわかるけど、色んな要素で作品が成り立ってるわけだから、絵が気になってるということはお客さんが物語に入りきれていない」といった分析も行なっているそうだ。
トリガーは『キルラキル』や『リトルウィッチアカデミア』など、スタジオ設立から基本的に自社オリジナル作品を展開してきている。この4月からも『キズナイーバー』や『宇宙パトロールルル子』の展開が始まる。
「オリジナルにこだわっているのは、つくったものをマネタイズしていくため」と舛本氏。自分たちでブランドをつくって、自分たちが持っている原作権から得られる原作料を会社で働いてるスタッフやクリエイターに還元していく、といった理念を掲げている。
それから会社を10年単位に分け、成長期・安定期・改革期の30年で見通しをつけている話にも触れた。「2011年にスタートして5年目。あと5年は自分たちが原作権を持つものを作り続ける」というのが成長期の計画。その後は「2021年からの10年はつくったコンテンツのノウハウや、育った人材の回転率が上手くいって、豊かな人材育成と作品制作が行えるようになりたい。そして2032年からは、現在のスタッフではなく、次世代のスタッフがトリガーの最前線に立って作品を生み出してもらえるようになってほしいと、安定期と改革期の展望を語った。
なお、トリガー 福岡スタジオは今年の1月19日(火)より始動。制作事務、作画監督、原画兼演出の3名が在籍している。将来的には8名以上のチームとして、独自に制作を請け負えるようにしたいとのこと。2016年4月より福岡スタジオとしても人材募集を行なっていく予定だという。
TEXT & PHOTO_真狩祐志
EDIT_UNIKO
-
アニメーション講習会 In 八耐
【Information】
日時:2016年2月21日(日)13:00〜16:30
場所:福岡工業大学短期大学部 5F 演習室(MACルーム)
主催:福岡工業大学短期大学部 弘中研究室
www.zusaar.com/event/7257004