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『青空アンダーガールズ!』OPにみる、地方スタジオ・クリエイターズインパックが取り組むデジタル作画への挑戦

『青空アンダーガールズ!』OPにみる、地方スタジオ・クリエイターズインパックが取り組むデジタル作画への挑戦

東京一極集中になりがちなアニメ業界において、地方に立地しつつも、デジタル技術を駆使して地方から独自革命を起こそうとしているスタジオがある。それがクリエイターズインパックだ。ここでは、同社大阪スタジオのデジタル作画の取り組みを事例と共に紹介していく。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 227(2017年7月号)からの転載となります

TEXT_峯沢★琢也
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Hirota Mitsuru

『青空アンダーガールズ!』PV
© SQUARE ENIX CO.,LTD. All Rights Reserved.

デジタル化の波に乗る! 若手地方スタジオの挑戦

クリエイターズインパックは、デジタル作画を中心に様々なアニメを制作しているスタジオだ。昨今のアニメ業界では地方スタジオの活躍が目立つが、まだまだ関東、特に東京西側に所在するスタジオが多い。そんな中、同社は東京の本社・関連グループ会社と連携しつつ、関西の大阪スタジオもひとつの軸として活躍している。

  • 左から、谷口健太アニメーター、空久保美貴演出、林 幸司コンポジター、堀内菜央色指定検査、貴田祐太コンポジター、橘 さおり演出、松崎宏之コンポジター、眞鍋和宏アニメーター、武田 駿アニメーター、はたなかたいちプロデューサー。以上、クリエイターズインパック大阪スタジオ(一部のスタッフ)
    www.creatorsinpack.com

同社の設立は2013年。本格的にスタジオとして稼働したのは年をまたいだ2014年からとなる。大阪スタジオの起ち上げメンバーのひとりであるはたなかたいち氏は、当時は現役大学生であったが大学を休学し、東京でラジオのADやディレクター、司会アシスタント、構成作家という経験を積んでいた。最終的にアニメ制作会社のスタッフに落ち着き、大学生と制作の二足の草鞋を履くことになる。大学ではプログラム系の学科を選考していたはたなか氏であったが「アニメをつくりたい」という志を胸に、グループ会社である神龍でTVアニメ『キルラキル』(2013~2014)などの作品に関わっていたが、当時の担当は事務作業や海外動画・仕上げの営業であった。その後、大学に復学するために大阪に戻り、TVアニメ『RAIL WARS!』(2014)にてグロス(話数制作)を請けたことで、制作のために大阪在住の作画スタッフに声がけしたことがターニングポイントとなり、そのながれで大阪オフィスを起ち上げることに。その後地方スタジオとしてTVショートアニメシリーズやグロス制作を受託し、本格的に動き出す中でデジタル作画に注目していくようになり、現在にいたる。

商業アニメの制作で、デジタルペイント、撮影、編集と、デジタル化の波が押し寄せてきている2010年代において、ソフトや機材の充実、ネットなどのインフラ整備といった環境面でのメリットも増えてきたことで、最後の砦となっていたのが「デジタル作画」だ。2010年代中盤に入りそのながれは加速しており、個人ではなくスタジオ単位でフルデジタル作画に取り組むケースが増えてきた。しかしながらまだまだメリット・デメリットが混在しており、デジタル作画の現場では手探り状態が続いている。その中でクリエイターズインパックは「デジタル作画は"地方のスタジオとして必然"というながれでチャレンジしていくことになりました」とはたなか氏は語る。

Topic 1 クリエイターズインパック 大阪スタジオの軌跡

デジタル化がもたらしたメリット

はたなか氏の経歴も一風変わった道を辿っているが、クリエイターズインパックもグループ会社にアニメ制作、音響制作、撮影、海外動画・仕上げなどのスタジオをもち、同社自体も作画部だけでなく、イラスト部による版権素材やソーシャルゲームのイラスト作成、撮影、編集、シナリオと、会社の規模としてはコンパクトながら手がける業種範囲の広さに驚く。地の利としては不利となる地方の運営では、地方スタジオとしてのネットワークを駆使した「デジタル作画」の導入が必須かつ必然のながれであることは、前述の通りはたなか氏も認めるところだ。

なぜデジタル一貫制作にこだわるのだろうか。やはり物理的な制約からの開放が一番の強みであり、その最たる部分として「作画セクションの完全デジタル化による結果的な経費の圧縮、制作管理の合理化、従業員の働き方の選択の自由の確保がキーになっています」と、はたなか氏はポイントをまとめる。

レイアウト、原画、動画の作画セクションでは従来からのメインである物理的な「紙」が使用されていることは想像に難くないが、この「紙」は原画や演出等、フリーランスのスタッフを含めて多くのセクションへ、制作スタッフの手によって物理的に運ばれているのが現状だ。いわゆる「入れ回収」という工程で、タイトなスケジュールの中、昼夜を問わず点在するスタッフ間を制作スタッフがクルマを使って1件1件カット袋に入れられた各種作画素材を運んでいることは、業界外では意外と知られていない。地方スタジオとしてのウィークポイントとして、距離の差は当然ネックになってくる。もちろん宅配便を使って地方と関東のスタジオ間でやり取りすることは可能だが、例えば宅配便の最終発送時間を過ぎてしまうと次の発送は翌日となり、「その1日があればもっと作業ができたのに......」と、チャンスを逃してしまう。また人力による回収であるがゆえに、クルマの事故、回収時間のタイミング調整によるロス等、物理的にどうしても避けられない部分もある。それらを回避し、さらに輸送・回収費などの制作管理費を圧縮し、健全にスタジオを運営していく上で、全ての工程のデジタル化は必須であったのだ。

またデジタル作画に統一することで、前述の回収だけでなく、何千枚という原画等の紙媒体のスキャンやタップ貼り、紙出しと言われるデジタル素材から紙への印刷作業等、従来制作スタッフが行なっていた作業から解放されたことも大きい。その上で同社では、Googleスプレッドシートを利用して進捗の報告や確認作業を各担当作業者に委ね、制作スタッフを介せずに、作業スタッフが自らスプレッドシートの管理表を見ながらサーバのデータのやり取りを行うことで、制作管理の負担を軽く合理的にしている。

そのような中、インターネットのインフラが整備されてきたことと、地方在住の人材を確保するという意味でも、同社はスタジオに通ってもらうスタッフだけでなく、自宅作業のスタッフも抱えるという新しいワークスタイルを採用したという。関東圏とは異なり人材の確保が難しい地方において、在野に埋もれる優秀な人材を逃さないという意味でも、デジタル化のメリットは大きい。

またアニメ業界では珍しく、同社では作業単価の契約ではなく拘束契約で従事してもらっているという。これは作業をクロスオーバーさせることで、スタッフ間で作業のピークを相互に補完調整し、安心して働ける環境をつくりたいという試みだそうだ。「分業の統合が目的ではありませんが、スタッフがやりたいことに会社として待ったをかけることなく、地方という立地であっても安定して人材を確保する意味合いも込めて、デジタルによるアニメ制作を推進していきたいですね」とはたなか氏は抱負を語ってくれた。

フルデジタル体制のクリエイターズインパック



フルデジタルの作業が多くを占めるとはいえ、作画環境はアナログ作画用の作画机を使用しているスタッフもいるが【C】、基本的にはスチールラック状の作業机にパソコンが1台というシンプルな構成となっている【D】。起ち上げ間もない企業としては、安価で汎用的な作業机を多用することでコストの圧縮につながっているという。ちなみに立地的には大阪府・日本橋ということで、メーカー製のパソコンではなく、ほとんどがスタッフによる自作パソコンで構成されている。コストを抑え、フットワークの軽いメンテナンスができることもメリットのひとつだ。またひとりのスタッフが何役も兼任するスタイルのため、ペンタブレットは必須であり、個人の好みも反映しているが、画を描くスタッフには液晶タブレットを【A】【B】、撮影スタッフには板タブレットが支給されているという。社内に撮影スタッフがいることも同社の強みだ【F】。使用方法もスタンドを使用したり【E】モニタ台を使用したりと自由で、スタッフ自身も個人的に自宅でペンタブレットを使用している割合が多かったことから、フルデジタルの環境には抵抗がなかったとのこと


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