5月7日(月)から9日(水)にかけて東京国際フォーラムで行われたUnite Tokyo 2018。毎年テクニカルな講演やトークセッションが数多く行われるUniteだが、今年は昨年度と少し様相が変わり、一風変わった講演者も登場した。それがキズナアイに代表されるバーチャルYouTuber(VTuber)だ。

バーチャルYouTuberは、トラッキングした身体情報やコントローラ操作によって3DCG(または2D)のアバターをリアルタイムで動かしながら動画配信を行うクリエイターの総称で、最近では「VTuber」という略称も用いられている。ここ1年間で幅広いジャンルのVTuberが誕生し、YouTubeや他動画サイトで人気を博している。本記事では、Unite Tokyo 2018にてVTuberが登場した講演について横断的に紹介する。

TEXT&PHOTO_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

基調講演に登場した「キズナアイ」

基調講演でのキズナアイ登壇については、Unite開始以前からSNS等で話題を呼んでおり、どういった形式で登場するのかに大きな注目が集まっていた。「キズナアイ」は2016年12月に活動がスタートしたVTuberで、YouTubeチャンネル登録者数は180万人にもおよぶ人気キャラクター。多くのVTuberの先駆け的な存在となる存在だ。過去にはソニー・インタラクティブエンタテインメントの吉田修平氏やOculus VRの創設者パルマー・ラッキー氏が登壇したUniteの基調講演だが、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン大前広樹氏によると「この1年間で活躍した"未来を感じさせる存在"として(キズナアイに)オファーをした」とのことで、今回の登壇が実現したという。

【Unite Tokyo 2018】基調講演スペシャルゲスト キズナアイ

基調講演では事前に収録されたキズナアイの動画が大スクリーンに投影され、自分自身も動画編集を行う1人のクリエイターであると語りながら、参加者同士の交流を促すなど綺麗にまとまった講演をして見せた。Unityの使用については、アセットストアで購入した3Dモデルを友達と称し、バーチャル空間に呼び出した経緯で「お世話になっていた」という。5分程度という尺、そしてリアルタイムでの出演ではないことで賛否両論はあるものの、未来感の演出としては話題性も含めて一定の成果はあったように感じられた。

バーチャルYouTuber電脳少女シロによる「2018年の注目アセット100連発」

入場までに長蛇の列ができるなど、注目度の高さが窺えた「電脳少女シロ」による講演。電脳少女シロは2017年8月に配信がスタートしたVTuberで、現在も毎日動画投稿を行なっている動画配信者。昨年行われた「Unityスクショコンテスト」では電脳少女シロ本人が大賞入賞を果たし、その後アセットストア大使となるなど、Unityアセットと関わりが深いキャラクターであると言える。登壇スタイルはこちらもキズナアイ同様に収録動画の再生というかたちを採っていた。

1つ目に紹介されたのは揺れものの大定番「Dynamic Bone」。親しみやすいキャラクターから次々と飛び出す専門用語に会場からはたびたび笑いも上がっていたが、アバターを通すことによって普通に人間が話すよりも受け入れられやすい印象も感じられた。

再び会場から笑いが上がったのは「Unityエディタのダウンロードマネージャより使いやすい! という声が相次いでいる...」と紹介された「Local Package Importer」。エディタ拡張/ユーティリティ系のアセットは定番どころが多く、この講演を見ておけば幅広い範囲を押さえることができるようになっている。

中盤以降はEarth Shapingの「Cascade」やNatureManufactureの「R.A.M-River Auto Material」「L.V.E-Lava & Volcano Enviroment」など地形系のアセット紹介が続いていく。なお、電脳少女シロの講演は下記から閲覧可能なので、定番の人気アセットに興味のある方は是非確認していただきたい。

【Unite Tokyo 2018】バーチャルYouTuber電脳少女シロがご紹介する「2018年の注目アセット100連発」

【Unite Tokyo 2018】"100 Must-see Assets for 2018" by Virtual YouTuber, Cyber Girl Siro

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東雲めぐが「生出演」を果たした「AniCast!東雲めぐちゃんの魔法ができるまで」

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東雲めぐが「生出演」を果たした「AniCast!東雲めぐちゃんの魔法ができるまで」

©うたっておんぷっコ♪/©Gugenka® from CS-REPORTERS.INC

3日目の早朝に行われた株式会社エクシヴィによる「AniCast!東雲めぐちゃんの魔法ができるまで」では、同社の開発したOculus RiftとOculus Touchを用いた最小限の構成で自宅から1人で配信を行うことができるVRアニメキャスティングツール「AniCast」についての解説が行われた。登壇したのは代表取締役社長・近藤義仁(GOROman)氏 、ビジュアルディレクター・室橋雅人氏、Unityエキスパートエンジニア・狩野成太氏、リードオーディオプログラマー・吉高弘俊氏の4名。

冒頭、会場から大きな反響があったのは、室橋氏が説明した「目の表情」について。実際の人間の目の動きを参考にしながら、眼球だけでなくまぶたや周辺の筋肉の動きをキャラクターに採り入れたことにより、自然な目線の動きを実現しているという。

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また、感情と感情の間にはながれがあり、例えば「喜び」の対になる「悲しみ」に感情が移行する際は何かしらの大きな反応が必要であると説明があった。そのため、フェイシャルの演技を変えるときも、複数の表情が入るようにしているとのこと。

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VTuberを語る上で欠かせないプレゼンスについては、「日本語でいうと実在感。プレゼンスが高まると、そこにいるかのような錯覚が起こる」(近藤氏)と説明があり、その後も狩野氏によってプレゼンスを阻害しないよう工夫した点について説明された。狩野氏によると、キャラクターの腕や胸が貫通しないことはもちろん、「人間の体はしなるので、重力や加速度を意識した動きをつくっている」とのこと。

また、興味深かったのは「一度実装したものの、不採用とした要素」についてで、講演内では「音声による感情の変化」、「右スティックによる目線移動」の2点が挙げられた。前者は声量から感情を特定できず、表情との相違が生まれることから、後者は表情を意識しながら目線を操作することの難しさから「手軽に使える」というコンセプトとの乖離が生じたためにいずれもAniCastでの採用は見送ったという。

その後は吉高氏によるリップシンクについての解説があった。吉高氏は、OculusのUnity向けリップシンクライブラリOVRLipSyncをそのまま利用するだけではアニメ的な表現にならないため、動きを12fpsに固定するとともに母音の最大ウェイトの音素のみを抽出し、口の動きを作ることでアニメ的な表現を可能としたと説明する。加えて、音声が入ってから口が開くまでのバッファリングの遅延(レイテンシ対策)を配信ソフトウェアOBS Studio側で行い、「魂が入る」瞬間を探っていったという。

さて、ここまでは従来通りのUnite技術セッションという様相を呈していたが、GOROman氏がZoom(企業向けのビデオ会議とWeb会議サービス)とAniCastによって東雲めぐ本人を会場に呼んだことにより、状況は一変。その後の東雲めぐを交えて行われた質疑応答では、S席周辺を中心に大いに盛り上がりを見せた。質問者はGOROman氏のPCの前に立ち、東雲めぐ本人とコミュニケーションを取りながら、今後のAniCastの展望や今朝の朝ごはんの内容まで様々な質問を行なっていた。

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株式会社エクシヴィ/AniCast開発チーム(左から吉高氏、室橋氏、GOROman氏、狩野氏)

このように、一言で「VTuber登場」と言っても、その形態や内容は様々。可愛いアニメ調の見た目ながら骨太なアセット紹介をしてみせた電脳少女シロや、AniCastの実例として最高のタイミングでデモンストレーションを行なった東雲めぐなど、いずれの講演も非常に示唆に富んだ内容だった。いずれの講演も動画のアップロードが予定されているため、より詳しい情報を得たい方は併せて公式サイトも確認してほしい。