1980年代から作画のトップアニメーターとして活躍してきた吉田 徹氏。今回、エフェクト作画の専門書『吉田流!アニメエフェクト作画』(ボーンデジタル/2016)第3刷増刷記念の講演会が2018年4月24日(火)に行われた。講演会のタイトルは『吉田 徹先生 アニメーション 答えて答えて答えます!!』。エフェクトとロボット作画の第一人者である吉田氏が、2Dと3Dの両面にわたるアニメーション技法の様々な「ギモン」に答えるとあって、学生からプロのアニメスタッフまで多くの参加者が詰めかけ、会場となったボーンデジタルセミナールームでは、急遽、席を増やすなど、非常に熱の高い講演会となった。

TEXT_渡辺 由美子 / Yumiko Watanabe(@watanabe_yumiko
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

▲講演会の様子。平日の夜にも関わらず、学生からプロのアニメスタッフまで多くの参加者が詰めかけた


  • 吉田 徹
    アニメーター、メカデザイナー、アニメ演出家・監督

    大阪府在住。アニメアール所属。アミューズメントメディア総合学院講師。大阪コミュニケーションアート専門学校講師。主な参加作品は、機動戦士ガンダムシリーズのほか、『装甲騎兵ボトムズ』『蒼き流星SPTレイズナー』『革命機ヴァルヴレイヴ』『ステラ女学院高等科C3部』『妖怪ウォッチ』『ダイヤのA』『バディ・コンプレックス』『艦隊これくしょん -艦これ-』『放課後のプレアデス』『ガーリッシュ ナンバー』『ピアノの森』『僕のヒーローアカデミア』など。現在は、自らが監督・原画・演出を務める福島の復興アニメーション『人力戦艦!?汐風澤風』を制作中。

動きのタイミングはどう描くか

講演会は、参加者からあらかじめ質問を募り、集まった質問に吉田氏がノンストップで答えていくという形式で行われた。

▲机上には紙と鉛筆に加え、手元を映す書画カメラが用意された。吉田氏は参加者からの質問に答えつつ、その内容を補足する絵を何枚も描いていった


作画について、吉田氏は2Dアニメーションの基本を説明する。2Dアニメは数枚の動きを連続して見せることで、"動いている"と観客に認識させる。「2Dアニメの作画では、ポイントポイントを描く。『この画がないと次が動かないよね』というところを原画で描いている。例えばボールを投げるシーンなら、最低限3枚あれば描けます。腕を大きく振りかぶった地点と、投げ終わる地点、そして、その間の動き1枚。飛距離や腕の振り方によって、どの動きをピックアップすればかっこよく動いて見えるかがちがってくるので、そのコツを押さえるのがアニメーターの技量になります」。

動きの肝のひとつが「タイミング」。参加者からは「芝居や、効果的に見える動きのタイミングを、うまくタイムシートに落とし込むことができません。どうすればいいでしょう?」という質問が上がった。「自分が心地いいタイミングというのが、本当は自分の中にあるんです。まず自分で演技をしてみて、それを撮影する。それを細かく見直して、自分の心地いいタイミングを見つけていく。リアルの動きと、自分が『これだ!』って思った動きのタイミングの両方を(タイム)シートにつけてみると、必ずちがいがあるので、見比べることで自分にとって心地いいタイミングがだんだんわかってきます。『じゃあ、最初だけキュッと動いて、その後ゆっくりにしよう』とか、こうだって思ったタイミングを、失敗しながらでも自分で見つけていく。鍛えるには数をこなしていくしかないので時間はかかります」。

  • 書籍『吉田流!アニメエフェクト作画』掲載の、タイムシートの見方の解説。2Dアニメの場合、1秒間に24コマ(24fps)、3コマ打ち(同じ画を3枚撮影する)が基本。演出内容によって、1コマ打ち、2コマ打ち、4コマ打ちなども使い分ける
    (書籍『吉田流!アニメエフェクト作画』3ページより引用)


吉田氏自身にも、心地いいタイミングがあるという。「僕は、ミサイルを撃つシーンなら、オール原画で、4コマ打ちが好きですね。作画枚数がふんだんに使える場合は1コマ打ちもできるけど、枚数が使えない場合の方が多いし、心地よさでいくと、僕は4コマ打ちで十分だなと思う」。日本の2Dアニメは、限られた作画枚数の中でメリハリをつけて効果を出すリミテッドアニメーションとして発展してきた側面もある。心地いいタイミングやリズムは2Dのお家芸ともいえる。

▲書籍『吉田流!アニメエフェクト作画』掲載の、4コマ打ちのミサイル発射の原画
(書籍『吉田流!アニメエフェクト作画』291、292ページより引用)


動きのタイミングについて、興味深い裏話も。「僕らメカアニメーターは、業界ではよく『擬音でしゃべる』といわれたりします。大張正己さんとかと打ち合わせしてる時に、『宇宙船が向こうからやって来て、こちら側にいるロボットが"ジュイーン"って上昇してから、ビームを"バシューンバシューン"って撃つ』といった時に、擬音のタイミングはもう頭に入っているんで、これだけでタイムシートが打てちゃいます。ああ、さっきの"ジュイーン"は、18コマね、とかわかるので」。吉田氏の擬音混じりの語りに、会場からは笑いとどよめきが起こった。

「死ぬまで手描きでロボットを描きたいし、手描きの魅力をずっと伝えていきたい」という吉田氏。「僕ら2Dアニメーターは、手描きの動きだけで、泣くほど感動することがあります。僕は『超電磁マシーン ボルテスV』(1977∼1978)の合体シーンだけで、全40話、毎回泣きました(笑)。僕らの世代以上はみんな金田伊功さんのファン。金田さんの動きは、パースがきつくて、ポーズも人とちがう、荒々しい動き。流派でいえば、なかむらたかしさんは、ディズニーかというくらいすごく枚数を入れて、細かくきれいに動かすタイプ。金田さんはその逆で、爆発を、動画なしの原画2枚だけで描いたりする。12コマ(0.5秒)を、原画2枚で『もたす』んです。1枚の画を5コマ映して、動きがポーンと飛んで、次の画が7コマ映る。それで2枚なのに爆発しているように見える。見ていて、『これ、2枚しか描いてない......!』って気づくと、ボロボロ泣けてくるんです(笑)」。

アニメの魅力は、「アニメならではのウソ」にあると語る吉田氏。近年増えつつある3D作品にも積極的に参加して、2Dのテクニックを伝授している。「例えばガンダムの『重力戦線(機動戦士ガンダム MS IGLOO2 重力戦線/2008∼2009)』はオール3D作品でしたが、僕が原画の一段階前のラフを描いて、タイムシートでタイミングを指示して、それを3Dのオペレーターに渡すという形で参加しています」。

日本の2Dアニメは、限られた作画枚数の中で見ごたえのある映像にするノウハウが培われてきた。一方、自由自在に動かすことができる3Dアニメには、動きのメリハリをつけるタイミングのつくり方などのノウハウがまだ定着していない。

エフェクトはフォルムと動きでできている

そして、質問はエフェクトの描き方に。「エフェクトをかっこよく見せるために大事なポイントは?」。「エフェクトで一番大事なのは、フォルム(形)をどう描くか。例えば火。こうやって紙をくしゃくしゃにしてやぶって揺らしても、炎に見えます。リアルの炎はもっと複雑で、こんな形には絶対にならないけど、人間の認識的に、いかに火らしく見えるかというフォルムを探っていきます」。

▲紙をくしゃくしゃにして揺らして見せる吉田氏


そして、書籍『吉田流!アニメエフェクト作画』にもある炎、水、氷、稲妻の描き方。「炎と水のフォルムは、アップだと両方同じでよくて、色分けと付属品で描き分けがある程度できます。水は丸みをもっているけど、岩にあたった水しぶきになってくるとギザギザ。水と炎は、カメラがアップかロング(カメラを引いた遠景)かなどの演出やシチュエーションによって描き分けます」。

▲炎のフォルム【左】と、炎と水の描き分け【右】を説明する絵


「稲妻は鋭角的。放電は線で描きます。慣れていない人は定規で引いて、フリー(ハンド)で繋げていく。アニメの場合、2本の線の幅はどんなに細くしても、交差はさせない。色が塗れなくなるから。稲妻と同じ要領でビームも描けます。バリバリ暴れるようなものだと、太く出したりシャープにしたり、ギザギザさせたり」。

エフェクトの「動き」にも、大きな流れがある。炎は上昇し、水は下降する。「火は上に上っていきます。上に上る様子を、仮に白と黒で描いていきます。この白い四角が上に上っていくんですが、下から上に引っ張られて、炎の中間からその上辺りがギューッと細くなって、ちぎれて上にいく。最後は白が外れて黒だけになる。エフェクトはここまで描けば終わりで、あとは撮影でこの動きをリピートすれば上昇する動きが描けます。基本は4枚で考えておいて、あとはどう複雑にするか。色を変えたり、動きのパターンを変えたりします」。

▲稲妻【左】と、炎が上がっていく様子【右】を説明する絵


3Dにも、2Dの「ウソ」を入れてほしい

アニメのよさを、「リアルにはないウソをつけるところ」だと吉田氏は語る。3Dアニメ制作者からの質問も。「3Dの場合、絵コンテのような画をつくろうとしても、キャラと背景の大きさの比率が異なるために絵コンテのような画にならないんです。どうすればいいでしょう?」。「2Dだと絵コンテのまま描けるのは、絵的に"ウソ"をつけるから。何が一番見せたいかというのが大事なので、3Dでもそれを間違わなければいいと思います」と答えながらも、2Dがもつウソを、3Dでも活用していってほしいと語った。

リチャード・エステスのイラストが参考になるという。「写実的な絵を描きつつ、一点透視ではなく、多重パースで描くので、アニメーションに役立つ絵です」。リアルのままの一点透視で描くと、人間の目で見た時におかしく見えることがあるという。「一点透視で描いて端の方の線がゆがんで見えるなら、視点を変えて、ちがうパースの画を描き足せばいい。そこが2Dらしいウソ。僕は、正確なパースの画を描くよりは、『よくこういう光景見るよなー』と思う、『見た目』を優先して描くことの方が多いです」。

3Dの場合は、現実の物をカメラで撮った時のようにパース的には正確になる。ところがアニメは平面の画として見せるため、人間の目から見ると違和感が出るという。「例えば3Dで教室を表現する時、モデリングした机をただ並べた状態だと、ゆがんでいるように見える。だからあえて、手つけで、人間の目の『見た目』の並びに直します」。

▲多重パースの説明をする吉田氏【左】と、描かれた絵【右】


3Dでは、まだ表現の難易度が高いのが「重み」。「CGでの重みのある動きが苦手です。何を意識したらよいでしょうか?」という質問に、「重みを出す時には、例えばロボットの足が着いた地面を割れさせたり、破片が飛ぶなど、周辺情報を描くことで表すことができます」と吉田氏は答えた。重みを出す最大のポイントは「速度」。「速度によって、軽さと重さの両方が出せます。ぶつかった衝撃が『ドン』と短ければ重量は軽く見えるし、『ドーン』とゆっくりなら、重く見える」。「重み」は、3Dアニメの場合、特に気をつけるべき点だという。

「例えば3Dのロボットがくるりと回転したシーンで、重みが感じられない時がある。それは、動きの速度をどこも均等に動かしているからなんです。簡単に回転させられるからこそ、動きの『タメ』が大事。勢いよく飛来してきたとしても、止まる直前は、ぐぐぐっと『タメる』。作画の場合、ちょっとずつ動くところには、特に枚数をたくさん使っています」。吉田氏が手を使って、車のブレーキを踏んだ時のような動きをしてみせると、参加者の視線が集まる。「こうした『タメ』を取り入れれば、3Dだって、すごく重い動きが出せる。僕は、3Dの方たちにそれを伝えたいです」。

プライドより自信をもて

これからプロになる学生からの質問も相次いだ。「プロになるにあたって知っておいてほしいことは?」という質問に、「アニメの専門用語を覚えるより何より、一番大事なのは、これはどの仕事でも一緒ですが――『絶対、連絡がつく』(会場笑い)。アニメ業界でも、一般企業でも、それは同じです」。

メンタル面での質問も。「駆け出しアニメーターです。ネットなどで、自分より若くて上手い人を見るたびに凹みます。どう気持ちをたて直せばいいでしょうか?」。それには、自身の経験談で答えた。「若い時、スタジオに沖浦啓之さん(『人狼 JIN-ROH』監督)みたいな上手い後輩がガンガン入ってきて、追い抜かれたかもと、毎日悔しく凹みっぱなしでした。それで、自分の立ち位置をどこに置くかを考えたんです。他人を気にしないようにして、『今の自分の画がもっと上手くなるにはどう勉強したらいいか』だけに目を向けていたら、辛い日々がいつの間にかなくなりました」。

「専門学校の生徒にも『プライドより自信をもて』といっています。なぜならプライドは傷つくけど、自信だけは傷つけられない。自分が自信をもてるようにするには何をすればいいかを考える。人より枚数を多く描いたとかでもいいんです」。

吉田氏自身、まだ、『満足がいった』と感じる仕事はないのだという。「ないからずっとやっている。毎日、宿題かかえているようなものだけど、うまいアニメーターがたくさんいるから、その人たちを見ながら向上心をもって、もっともっと勉強したいし、納得いくエフェクトをまだまだ描きたいです」。

先達の姿勢に、参加者も得るところが大きい講演会となった。

書籍情報

  • 吉田流!アニメエフェクト作画

    著者:吉田 徹
    定価:2,700円 + 税
    ISBN:978-4-86246-340-1
    総ページ数:320ページ
    サイズ:B5判


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