5月20日、福岡市のエルガーラホールにて「APES」が開催された。このAPESは「大八耐」などのイベントを実施してきたNPO法人 SPICEによる、アニメーション、プログラミング、教育の3つをテーマにしたセミナーイベントだ。本稿では数多くのセミナーが開催された同イベントから、グラフィニカバンブーマウンテンによる「セルルックCGアニメーションの作り方~『十二大戦』グラフィニカ流アニメ表現feat.バンブーマウンテン~」の内容を紹介する。

TEXT & PHOTO_真狩祐志 / Yushi Makari
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

アニメ演出に必要な力とは


グラフィニカ流アニメ塾

「セルルックCGアニメーションの作り方~『十二大戦』グラフィニカ流アニメ表現feat.バンブーマウンテン~」では、バンブーマウンテン代表取締役・ディレクターの竹山諒一氏と、グラフィニカ アニメーションプロデューサーの森口博史氏の2名が登壇した。バンブーマウンテンは福岡にあるグラフィニカの子会社だ。


  • 竹山諒一氏(バンブーマウンテン/代表取締役、ディレクター)


  • 森口博史氏(グラフィニカ/アニメーションプロデューサー)

同セミナーでは、グラフィニカが元請け制作したTVアニメ『十二大戦』(2017年10月~12月)を例に上げつつ、元請けの過程で、コンテや演出を手がける機会が増えてきたという同社の背景が語られた。

テレビアニメ「十二大戦」最終回直前!! 終焉PV
©西尾維新・中村 光/集英社・十二大戦製作委員会


3DCGアニメーションの動きの大まかな基本ルール
©西尾維新・中村 光/集英社・十二大戦製作委員会

その話のながれから、演出に関する勉強が重要視される時代になってきたと言い、グラフィニカで行われている演出講習が紹介された。ここでは、実際にグラフィニカでCGアニメーターたちと一緒に行なっている例題を、セミナーの参加者が体験することとなった。


アニメ演出講習の紹介

「演出にはドラマ演出と映像演出があります」と森口氏。続けて森口氏は「ドラマ演出とはシナリオの状況をどのように映像としてアプローチしていくかということ。一方、映像演出は、どのように見せたいかということですね。映像演出をするためにはドラマ演出が欠かせません」と語る。

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コマの並び替えで物語をつくる演出講習

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コマの並び替えで物語をつくる演出講習

演出講習の例題として表示されたスライドには、侍と川面に浮く紙、そして「シャキーンッ」という描き文字が描かれている。「この侍の5コマを並び替えてくださいというのが第1問です。並び替えるだけで物語ができるかどうか、試してください」と森口氏。


演出講習1のスライド。演出講習の問題は全部で50問ほどあるという


1人目の参加者の解答

参加者から3人の解答例が選ばれた。森口氏は、まず1人目の解答について「この問題では"演出として表現するのにどうコマを割ればよいのか"という点と"ドラマを完成させる"という点がお題になっているので、映像演出のみでコマを並び替えただけでは、オーソドックスですがドラマとしては弱いかなという感じです」と解説。


模範解答1

続けて森口氏は「模範解答の一例をつくってみました」と模範解答1のスライドを表示した。「一番最初に切るアクションが入り、その後に侍の表情、引きで全身を捉えた情景、最後に紙が2つに切れます。紙が2つに切れたことを演出したいわけですが、"何かを切った"というのを先に示すことで、紙が切れたのを知らせたかったというのがわかります」。


模範解答1に時間(コマ)を割り振る(1秒=24コマ)

この後、模範解答に時間の概念が加えられた。森口氏は「侍が切るアクションに0.5秒、侍の表情に1.5秒、侍の居る場所を示すのに3秒、紙が2つに切れるまで9秒としました。この9秒間で紙がなかなか切れないように見せて、侍が一体何を切ったのか? という疑問を与え、最後にやっぱり紙を切っていたというのがわかるようにしています」と解説した。


2人目の参加者の解答

模範解答の後に、2人目と3人目の解答についても紹介された。竹山氏は「2人目の方は割と考えてるのかなと思います」と評価。「まず侍の情景を見せて、目線の先に何があるのかを見せるというながれですね。客観から主観に入れ替わるところに侍の顔のアップ、次に侍が切るアクションと変化があり、最後に紙が切れたのを見せていますね」。


3人目の解答

「3人目の方の解答では、最初に水面の紙があって、次に侍が切るアクションで紙が2つに分かれます。最後に侍の顔を見せて情景。展開的には前の2例とは逆のながれですけど、どこにスポットを当てているかというと、切れた紙ではなくて侍の心情ですね」(竹山氏)。


模範解答2

森口氏は3人目の解答と似ているとして、模範解答2を紹介。「最初に紙を切って侍の顔、その後に時間差で紙が切れて侍の情景です。これも何がどうして誰がどうなったというながれですね」と解説した。

このように、実践を交えたセミナーの最後に森口氏は「要するに演出というのは、人とちがう切り口で見せるというのが大前提としてあると思います」とコメント。「皆が同じ方に向かうのではなくて、他者とちがうことをして価値を見出していく。その切り口が面白いとなったときに、作品の価値を高める演出の手法になると思ってます。こういったことを積み重ねていくと、アニメも楽しいものになっていくと思います」と、同社の演出方針について語った。



  • 「APES」
    日程:2018年5月20日(日)13:00~18:00
    会場:〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神1丁目 4-2 エルガーラホール 7F
    料金:1,500円
    apes.npo-spice.jp/