最先端の3D技術や超高精細の映像技術が一堂に出展される「3D&バーチャルリアリティ展」(主催:リード エグジビジョン ジャパン)が2018年6月20日(水)から22日(金)まで、東京ビッグサイトで開催された。産業用VRの展示会として開催されてきた背景から、今年度は3D CADやBIMといった産業用で使用される3Dデータ形式を直接、または簡易化してVRやARに活用する展示が多く見られた。その中で特に注目した展示をいくつか紹介しよう。

TEXT&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)


●アスク

コンピュータ周辺機器のフルサービス・ディストリビューション事業を行うアスク。同社ブースでは「NVIDIA Holodeck」のデモが行われていた。デザイナーや関係者がVR空間上で協同作業を行うためのソリューションで、3D CADデータに直接マテリアルを追加してリアルタイム出力し、VR空間上でデザインレビューなどができる。ブースではVolta世代のGPUを搭載するQuadro GV100搭載ワークステーションと、HTC VIVE Proの組み合わせでデモが行われていた。

デモではVR空間上に実寸大で配置されたスポーツカーを前に、2人の体験者が同時に仮想世界にログインできた。車体にマーキングをしたり、車内からの風景を確認したり、自動車の内部を透過してエンジンやサスペンションの配置などを確認したりもできる。車体の全パーツを一気にバラバラにしたり、元に戻したりすることも可能だ。通常CADデータを3DCG化する際、こうした内部部品は削除されるケースが多いため、新鮮な印象を受けた。Quadro GV100ならではのソリューションだといえる。


●エヌジーシー

映像・ICT技術の進化を通じて、デジタルイノベーションに貢献するエヌジーシーでは、VR環境ソフトウェア「Visionary Render」のデモが行われていた。異なる形式の3D CADデータを同じVR空間内で統合し、立体視やHMDデバイスで再生できる。同じVRシーンを異なる表示デバイス同士でネットワーク越しに共有させることも可能だ。デモでは光学式マーカーを装着した3D立体視グラスと、VEヘッドマウントディスプレイの組み合わせが披露されていた。英VIRTALISが開発したソリューションで、本邦初公開だ。

マルチタッチディスプレイを使いこなすための独自アプリケーション「MTCF2.0(Multitouch Contents Flow)」のデモも行われていた。静止画・動画・Flow(静止画連番ファイル)を同時に表示させ、コンテンツをタップして拡大・動画再生・Flowアクションなどができるほか、外部ディスプレイやプロジェクタに出力もできる。会場では4Kマルチタッチモニタが用いられていた。駅や空港での観光案内や、デパートやモールでの店舗紹介など、幅広い用途で使用できそうだ。


●ケー・シー・シー商会

警察・道路公団・公共交通機関の案内表示から、屋外向けLED表示板・ホログラフィック視覚映像システムなどの取り扱いまで手がけ、自社で製品開発も行うケー・シー・シー商会。同社ブースではデンマークのRealfictionが開発し、CES 2018でも話題を呼んだ大型MRディスプレイ「DeepFrame」の本邦初展示が行われていた。ヘッドセットやスマートグラスなどは不要で、大勢で同じ映像を共有する次世代のMR体験を味わえる。

本機は手前にフルカラー4K映像に対応した64インチの光学レンズを配置し、その背後下部にカーブ状の有機ELスクリーンを備えた映像ソースを設けている。映像ソースから投影された映像情報を光学レンズに投影させつつ、風景越しに眺めるしくみだ。有機ELスクリーンと光学レンズの距離を調整することで、投影されるバーチャル映像の大きさを変化させられる。会場では迫力ある恐竜の映像が投影され、来場者の目を惹いていた。動画だけでなく、リアルタイム映像の再生にも応用できそうな印象を受けた。


●クレッセント

モーションキャプチャシステム「VICON」の取り扱いをはじめ、イメージエンジニアリングに全方位で取り組むクレッセント。そんな同社のブースでは米ESRIの3D都市景観モデリングソフトウェア「CityEngine」で再現された東京上空を、ドラゴンに乗って飛翔するVRデモ「Gliding to the Moon」や、ソニーのCrystal LEDディスプレイシステム、CTスキャンの映像を人間の頭部に投影する医療用MRビューア、キヤノンのMRシステム「MREAL」を用いた産業用MRソリューションなど、多彩な展示が行われていた。

台湾のVRアーケードシステム会社「JPW」が開発した、空圧式稼動筐体を活用したVRゲーム「Gliding To The Moon」。VIVE Proを装着してプレイし、左右のコントローラで東京上空を飛翔して、制限時間内にUFOを何機破壊できるかを競う。CityEngineは大規模な街並みをプロシージャルで効率的に作成できるツールで、OpenStreetMapサイトから指定したエリアの敷地や画像データを活用することもできる。上空から見た東京の街並みが美しく、遊覧飛行するだけで楽しめる内容になっていた。

自治医科大学との協同研究で開発が進められている医療向けMRナビゲータ「Trans-Visible Navigator(TVN)」。CTやMRIのDICOMデータを汎用ファイルに変換し、専用ソフトウェアTVNに読み込ませることで、7インチの専用ARモニタに投影させられる。手元のデバイスを患者の頭部に当てることで、対応したDICOMデータがAR表示されるしくみだ。これにより医師が直感的な情報習得が可能となり、切開部などを頭部にマーキングすることもできるようになる。空間位置計測にはBICAM-MEDが使用されている。

キヤノンのMRシステム「MREAL」と、3D CADデータを最大で100分の1に軽量化できるラティス・テクノロジーのXVLフォーマット、そしてモーションキャプチャシステム「VICON」を組み合わせた産業用MRシステム。ブースではトヨタ自動車の生産ラインをベースに、MRで実際の工場風景を仮想体験するデモが披露された。3D CADデータをベースとしているため、実寸大の非常にリアルな車体が目の前に広がる。またVRではなくMRデバイスを使用するため、自分の手が目の前に表示される点も印象的だった。


●積木製作

建築ビジュアライゼーションなどで知られる積木製作。しかし、現状の売り上げ構成比率は4割程度まで減少している。その一方で急成長しているのがVR分野で、建築業界向けのVR安全教育ソリューションが稼ぎ頭だ。ブースではVIVE Pro、HoloLensWindows MRLenovo Mirage Soloと、複数デバイスで多彩な展示を実施。また、VRコンテンツの製作に「Unity BIM(=Building Information Modeling) Importer」を積極的に活用するなど、ワークフローの改善にも意欲的に取り組んでいる点が印象的だった。

落下・墜落・火傷といった事故の状況や、実際に体験することが困難なシチュエーションをVRで再現する『安全体感VRトレーニング 建築現場』シリーズ。可搬式作業台からの転落・墜落や、開口部周りの危険体験、外部仮説足場における危険体験など、建設現場でよく見受けられるシチュエーションがベースとなっており、危険予知能力の向上が図れる。コンテンツは清水建設戸田建設三機工業からのヒアリングを基に開発が行われており、実際に3社でも安全教育に活用されているという。

開発中のAR遠隔支援システムのデモ。Windows MRを装着したオペレーターの指示に従って、HoloLensを装着した受講者が積木細工を組み立てていく。Windows MR上での操作が、そのままHoloLensの画面に表示される。受講者はオペレーターの声による指示に加えて、この画面表示を見ながら組み立てられるというしくみだ。現在はオフラインによる1対1のオペレーションに留まっているが、今後はボイスチャットなどを活用し、オンライン上での1対nのオペレーションに拡張していきたいと話していた。

Lenovo Mirage Soloを2台使用した
「VR CAD Viewer」のデモ。左側のガイドの指示にしたがって、右側の一般客がVR上で建築予定の実寸大の建物の様子を確認できる。写真ではわかりにくいが、壁の向こう側に建物の映像が広がっており、客は実際にフロアを歩いて確認できるというしくみだ。VRデバイス自体がスタンドアロンで動作するため、ケーブル類などにわずらわされることなく、スムーズな体験ができた。スペック不足が懸念されたが、VR映像が60fpsで動作しているという。


●CADネットワークサービス

建築・製造業界向けのCGパースや建築パース、2D/3D CADモデリングなどで知られるCADネットワークサービス。ブースでは新規事業として、サムスンのHMD Odysseyを使用した危険学習アプリ
『まなVR 危険学習・技能伝承VRシステム』の展示が行われていた。工事現場での誘導作業をテーマに、事故を未然に防ぐためのコーン配置をクイズで実施。視点などを自由に変えて、立体的な学びにつながる工夫も行われていた。HMD Odysseyは4K対応ディスプレイを備えた高品位機種。映像にはInsta360 Proを使用した8K映像が用いられている。


●デジタル・ガーデン

TVCMのポストプロダクションなどを手がけるデジタル・ガーデンでは、ムービングシートとヘッドマウントディスプレイを組み合わせたバーチャル試乗体験コンテンツや、3D立体視が可能なZ-Spaceでのカーコンフィグレーターコンテンツなどが出展されていた。同社では3D CADデータを3DCGに変換し、ライブラリ化してデジタル資産として活用。車内の色味やオプション装備などを自由に選択し、VR試乗体験をさせることで、ディーラーの営業活動に貢献できるとしている。

また、同社がロシアのUniversal Terminal Systemsと国内販売店契約を締結した「iSandBOX」のデモ出展も行われた。天井部にあるセンサーから、台座にある砂場との距離を計測し、その数値から計算した様々な映像をリアルタイムにプロジェクションマッピングするというものだ。ゲームをはじめ19種類のコンテンツが用意されており、Androidタブレットの画面で簡単に切り替えられる。ロシアでは教育・エンターテインメント・防災・軍事用途など幅広く活用されており、国内でも学校やテーマパーク、博物館などを中心に営業活動を進めていく予定だ。


●ARTCRAFT

建築CGパース・プロダクトCG・アニメーション・360度VRの制作などを手がけるアートクラフトのブースでは、同社がマンションデベロッパー向けに制作・納品しているバーチャルモデルルームのデモが行われていた。Unreal Engine 4上で作成されているもので、表示デバイスにはVIVE Proを使用。単に室内をウォークスルーできるだけでなく、自動車に乗ってマンションのエントランスに到着し、バーチャルコンシェルジュが案内する動画を組み込むなど、総合的な体験度向上が図られていた。


●アーカイブティップス

モーションキャプチャシステム「Qualisys」をはじめ、科学技術研究器機の輸入販売などを手がけるアーカイブティップス。同社ブースではQualisysのローエンドモデル「Miqusモーションカメラ」を用いたVRゲームのデモが行われていた。カメラを数珠つなぎに接続するデイジーチェーン方式で、最大100台のモーションカメラシステムを簡単セットアップ。最高2.2ミリ秒の低レイテンシで、高精度なデータを取得できる。卓球のVRゲームを用いたデモでは、ラケットの微妙な角度の違いが的確にトラッキングされていた。


●Lemonade Vision

建築CGパースや製品CG制作などを主業務とするポーランドのLemonade Vision。同社のブースではポートフォリオやVRデモなどを展示しつつ、日本のクライアントと国内代理店の募集が行われていた。ワルシャワのグダニクス駅向けのビジュアライゼーションなど、地方自治体からの業務も積極的に受注している同社。社員数は約10名で、3DCGアーティストと建築士で構成されているという。Japan IT Weekに引き続いての出展で、「日本で良い出会いを期待したい」と話していた。

合計で46社が出展した今年の3D&バーチャルリアリティ展。前述の通り、3D CADやBIMといった産業用データフォーマットから、3DCGをバイパスして直接VRに出力するソリューションの増加が印象的だった。日進月歩を続けるコンピューティングパワーの進化が、これを可能にしたかたちだ。もともと製造業界や建築業界はこうしたデータを蓄積しており、VR・ARとの相性も良い。さらなる発展が期待できると共に、ワークフローにも影響を及ぼしていきそうだ。