優れたコンピュータエンターテインメントソフトウェア作品を選考し、表彰する「日本ゲーム大賞」。その中でも、18歳以下のクリエイター発掘を目的として設立されたのが、日本ゲーム大賞2018「U18部門」だ(主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA))。今回は100作品を超えるエントリーの中から選ばれた12組が2018年6月3日に開催された予選大会に出場し、さらにその中から決勝大会進出を勝ち取った6組が2018年9月23日、東京ゲームショウ2018にて実施された決勝大会へと駒を進めることとなった。

決勝大会では、各組が自分たちの制作したゲームについて、持ち時間である五分を使ってプレゼンテーションを行う。「作品性・独創性・構成力・技術点」といった、作成されたゲームそのものの内容に対する審査に加え、プレゼンテーションも「構成・資料・話し方」などが審査対象になり、各組の総合力が問われる大会となった。本稿では、決勝大会に進んだ六組の各タイトルの概要と、プレゼンテーションの模様をお伝えする。

PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota


金賞:渡邉大誠さん
『モチ上ガール(もちあがーる)』

見事金賞の座を射止めたのは、渡邉大誠さんが制作した横スクロールアクションゲーム「モチ上ガール(もちあがーる)」。いわゆるワイヤーアクションゲームというジャンルに分類される作品だが、一般的なワイヤーアクションゲームと比較したとき、主人公が発射するものとしてロープではなく「餅」を使ったことが本作の大きな特徴となっている。餅を選択した理由として、渡邉さんは「視認性があがること、くっつくということが感覚的に理解しやすいこと」などを挙げた。


「餅を使ったワイヤーアクション」という設定の奇抜さに目をとらわれがちだが、本作はゲームとしての完成度も非常に高い。ワイヤーアクションの爽快感という基本を押さえつつ、ステージクリアとは別に「寿司の収集」という小さな目標設定があったり、時間制限を設けず、難関ポイントには休憩場所を作るなど、プレイヤーが自分のペースで攻略しやすいようステージ設計がなされていたり、一般的なゲームでは水の中でスピードが遅くなるところを、爽快感を出すために敢えて加速するようにしたりと、随所に独自の工夫が凝らされている。

制作において苦労した点について、渡邉さんは「あらゆる操作をスティックとボタンひとつで違和感なく操作できるようにしたところ」だと語った。その苦労が実った結果、本作は操作性においても抜群の快適さを誇る作品となっている。独特の世界観からゲーム性、操作性に至るまで、あらゆるところに制作者の気が配られた本作「モチ上ガール」、その総合的なクオリティの高さが評価され、今回堂々の金賞となった。

【受賞コメント】

「これからの目標はゲームで食べていくことです。ただ、これまで誰かと組んでゲームを作ったことがないので、職業として考えたときに、そこが不安ですね。今のところは会社に入るのではなく、インディーでやっていければと考えています。自分は任天堂のゲームが好きで、特にマリオからは大きな影響を受けています。シンプルなのに奥深い、初心者から上級者まで楽しめるところが素晴らしいと思います。今後はNintendo Switchなどでインディーズゲームを出せればと思っています。(CGWORLD読者に向けて)今の時代、Unityを使えば誰でもすぐにゲームが作れるので、作りたいと思ったらすぐに作るというのが一番の近道ですね」

銀賞:池上颯人さん
『なんで僕だけこんな目に』

銀賞を受賞したのは、決勝進出者の中でも最年少、小学四年生の池上颯人さんが制作した「なんで僕だけこんな目に」。本作は、画面奥の坂の上から迫ってくる様々な障害物を、避けたり壊したりしながらステージクリアを目指すアクションゲームだ。障害物はステージごとに、雪玉、鹿、鮫、恐竜などユニークなものに変化し、シュールで独特な世界観を演出している。

本作の発想のもとになったのは、新聞の四コマ漫画だという。池上さんは毎朝新聞を読むとき、四コマ漫画から読むそうだ。その四コマ漫画の要素である、「笑えること」「手軽なこと」「爽快感があること」を基本コンセプトとし、それをゲームに活かすという着想が本作の出発点となっている。笑えるあらすじやオチでストーリ性を付随させる。一つのステージを30秒程度でクリアできるようにし、操作も十字キーとスペースキーだけで行えるようにして手軽さを持たせる。さらに、無敵モードによって爽快感を演出する。


このように四コマ漫画から得られたヒントをゲームの中に落とし込んだ本作は、小学四年生が作ったとは思えないほど高い完成度となっている。さらに、予選大会からあらすじを追加したり、UIを改善したりと、さらなるブラッシュアップもなされている。審査員の石戸氏は、「面白いゲームが何なのかということをしっかり分析して、それを形にしていく。さらにはそれをわかりやすく、みんなを楽しませる形で伝えていく。それら全ての力において優れていたと思います。小学生だからではなく、ゲームのクオリティ総合力での受賞です」と高く評価し、銀賞の受賞となった。

【受賞コメント】

「プレゼンが途中で終わってしまったので、取れるなら銅賞だろうと思っていたんですが、銅賞で別の人の名前が呼ばれてダメだと思ったのに銀賞を取れて奇跡のように感じました」

銅賞:古堅武琉さん
『THE REALITY』

銅賞を受賞したのは、古堅武琉さんの「THE REALITY」。本作は横スクロールのアクションゲームだが、まず特徴的なのは、その作りこまれた世界観だ。人類がAIによって管理された社会の中で、プレイヤーである主人公は特殊遠隔戦闘ユニット「Adam」を操作し、人類を攻撃する未知の生物に立ち向かっていく。そんなバックストーリーが、独特のタッチで描かれたキャラクターや背景とマッチし、退廃的な近未来の世界観を演出している。

もちろん、評価されたのは世界観設定だけではない。本作では、移動方法としてハイスピードアクションの快感を持たせるとともに回避や壁抜けに使える「ワープシステム」、一定時間敵をストップさせ、その後一気に敵を爆発させることで爽快感を演出する「ブーストシステム」などをゲーム中に組み込むことによって、アクションゲームとしての緩急をつけたり、爽快感を持たせることに成功している。


ゲーム作りは本作が初めてだという古堅さんだが、プログラミングはもとより、デザイン、アニメーション、各種アートワークまで、全てを自分一人で作り上げたそうだ。「私たちが生きている時代はとてもいい時代だと思います。初めてゲームを作るのにわからないことだらけでしたが、ネットで検索すればすぐに知識が出てきます。会場の皆さんも、ぜひ新しいことに挑戦してみてください」プレゼンテーションの最後を、古堅さんはそう締めくくった。初めてのゲーム制作でありながら、隅々までその作家性が発揮された作品となった本作、見事に銅賞の受賞となった。

【受賞コメント】

「今回このような賞を賜って、とても嬉しく思っています。」

原先亮介さん/薄井大輔さん/大本義貴さん/坂口智哉さん
『RunGirl』

「RunGirl」は、主人公である女子大生を操作し、障害物などを避けながらチューブ状の世界を進んでゆくというゲームだ。この作品は、リーダーの原先亮介さん、モデルのデザインを担当した薄井大輔さん、プログラマーの大本義貴さん、ステージや音楽を制作した坂口智哉さんら四名によって開発された。四人という、今回の決勝進出者の中では最多人数チームでの開発であるため、制作段階やブラッシュアップの段階では、四人で集まっての意見交換が何度もなされたそうだ。予選突破後の作戦会議では、まずこの作品に足りないものを列挙していった。しかし、それらの欠点全てを克服するには時間が足りないため、逆に、この作品の長所に目を向けたという。


そこで、今回はグラフィックの向上とリプレイ性の向上に力を入れてブラッシュアップすることになった。チームをグラフィック班とステージ制作班に分け、それをプログラマーが支えるという分業制で、多人数チームの強みを活かした制作体制がとられた。 グラフィック面においては、シンプルなデザイン性をおしゃれにアップグレードさせ、ローポリゴンでもリッチな見た目になるように、スカートや髪の毛にClothを使用している。

ステージ制作面においては、クリア時に達成感が大きくなるよう、各ステージに山場を設けたり、リスタート時のストレスが小さくなるよう終盤の難易度を調整したりと、意識的にレベルデザインがおこなわれた。「チームワークを活かし、二つの長所を同時に延ばすことに成功しました」と、原先さんはその成果を満足げに語った。

浅野啓さん/田村来希さん
『PERVERSE(パーヴァース)』

本作の制作者である浅野啓さんと田村来希さんの高校生コンビは、同じ高校に通っているわけではなく、SNSを通じて知り合ったのだという。彼らが制作した「PERVERSE(パーヴァース)」は、日本語で「天邪鬼」を意味するタイトルのパズルゲームだ。自動生成されるマップを舞台に、まったく逆方向に動く2つのキューブを操作してゴールまで導くという、シンプルながら奥の深いゲームとなっている。


マップは独自のアルゴリズムを使って自動生成される上に、サーバーにユーザ情報やマップのデータ、対戦データを記録することで、毎回違ったマップで何度でも新鮮な気持ちでプレイできる。また、プレイしたマップを「マップコード」という文字列に変換してSNS上で共有できたり、プレイヤー間のスコアランキングが作成されたりと、パズルゲームでありながらも大勢で楽しみを共有できるような仕組みが用意されている。 このようにシステム面において高度な技術が使われている本作だが、プログラミングだけでなく、デザインについてもこだわりがあるという。

「デザインについて一番難しかったのは、一貫性を持たせることでした。色んな人の意見を取り入れる上で、ゲームにそぐわない意見も出てくる中で、適切な意見を絞り込んでいくことが難しかったです」と浅野さんは語った。 このように様々な面においてこだわりを持って作られた本作は、制作者が意図した通りSNS等を通じてその面白さが共有され、今では開発者の二人よりも高いスコアを叩き出すプレイヤーや、独自のルールを設定して楽しむプレイヤーまで出てきているという。

菅野晄さん
『回一首(まわりっしゅ)』

小学二年生からプログラミングをはじめ、JavaScriptやUnity等で様々なゲームの開発経験があるという菅野晄さん。 本作「回一首」の開発前にも、学校で開催される百人一首大会で勝てるようにと、「五色百人一首」の読み上げアプリを開発している。しかし、このアプリを使いたい人は、もともと百人一首大会を覚えたい人だけだったという。そこで、百人一首を楽しむ人をより増やすために、短歌を覚えるほど高得点の取れるゲームを開発しようと考え、完成したのが「回一首」だ。

この「回一首」は、画面の下からせり上がってくる短歌の一文字ずつを避けながら、画面内のボールが最上段まで到達しないようにするというシンプルなゲーム性だ。次にどんな文字がせり上がってくるかを予想することによってゲーム性が高まり、さらに短歌を覚えることもできる仕組みになっている。また、作中のデザインが畳や筆文字といった日本的な意匠で統一されていること、短歌の全てを作者である菅野さん自身が読み上げていることなど、ゲーム性以外の細かい部分にも作者の気配りが行き届いている。画面内のボールの操作方法も、当初は指で弾いて動かす方式だったが、スマホ本体を傾けて操作しようとする人が多かったために、そちらの操作方法に変更するなど、テストプレイからのフィードバックもおこなわれたそうだ。

さらに本作には英語版もあり、そちらの短歌も菅野さん自身が読み上げている。菅野さんはプレゼンテーションの最後に、「私はこのゲームを世界中の人に遊んでもらって、日本の文化を知ってもらいたいです」と、ゲームを通じた異文化交流への意欲も語ってくれた。



様々な若き才能が鎬を削った日本ゲーム大賞2018「U18部門」。金賞を受賞した「モチ上ガール」のみならず、決勝に進出した作品は、どれもそれぞれの個性と魅力にあふれた作品ばかりだった。そんな作品を作り出した出場者の多くが、「今の時代、ゲームを作ろうと思えばすぐに作れる」と口にしていたのが印象的だった。U18の若さゆえの行動力や発想力ということもあるだろうが、それに加え、開発環境が発達し、わからないことはすぐにネットで調べられ、仲間を見つけようと思えばSNSですぐにつながれる、そんな時代であることこそが、ゲーム制作にとっての大きな追い風であることも一因だろう。

次は、読者であるあなたが舞台に上がる番かもしれない。今後も、更なる若きクリエイターたちの登場に期待したい。