今年で31回を迎えた東京国際映画祭(通称TIFF)。その中で行われた「TIFFマスタークラス」は、若い映画ファンや次世代を担う若手映画作家に向けたセミナー形式のトークイベントである。11月1日(木)には「映像表現の今、そして未来」と題したマスタークラスが行われ、映像制作の最前線で活躍する4人のクリエイターが、進化を続ける映像技術に関して語り合った。

TEXT_石坂アツシ / Atsushi Ishizaka
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
Special thanks to TOKYO INTERNATIONAL FILM FESTIVAL 2018



映像業界のキーマンが語る、映像表現の現在とこれから

TIFFマスタークラス「映像表現の今、そして未来」は、東京国際映画祭が開催されている六本木ヒルズのアカデミーヒルズ49階のタワーホールで行われた。来場者に配布された「CGWORLD Entry 東京国際映画祭特別版」には、『NHKスペシャル 人類誕生』(以下、『人類誕生』)の舞台裏が掲載され、同マスタークラスのテーマに沿った最先端3DCG・映像技術の一端を知ることができた。

© 2018 TIFF

左から、モデレーター:沼倉有人(CGWORLD編集長)、ゲスト:安生健ー氏(株式会社オー・エル・エム・デジタル技術顧問/SIGGRAPH Asia 2018 カンファレンス チェア)、塩田周三氏(株式会社ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役/SIGGRAPH Asia 2018 コンピュータアニメーションフェスティバル チェア)、柴田周平氏(日本放送協会/チーフプロデューサー)、越野創太氏(ソニーPCL株式会社/ディレクター)

マスタークラスのゲストは、株式会社オー・エル・エム・デジタル技術顧問であり、SIGGRAPH Asia 2018 のカンファレンスチェアを務める安生健一氏。株式会社ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役であり、SIGGRAPH Asia 2018コンピュータアニメーションフェスティバル(CAF)チェアを務める塩田周三氏。『人類誕生』をプロデュースした日本放送協会チーフプロデューサーの柴田周平氏。『人類誕生』でライブアクションディレクターを務めたソニーPCL株式会社ディレクターの越野創太氏、の4人。モデレーターはCGWORLD編集長の沼倉有人(※敬称略)が務めた。

ゲストの自己紹介に続き、さっそく「視聴環境の多様化」に関する話題がくり広げられた。コンテンツの公開にストリーミングという媒体が必須となった時点で視聴環境がマルチプラットフォームになり、視聴対象も国内から全世界へと一気に広がる。視聴することが容易になる反面、視聴に対する対価の設定が難しくなる。VR、ARなどに関してもさらなるCGクオリティを求められる。といった現状に対し、技術サイドでは何でも自動化するのではなくクリエイティビティを活かす余裕をもった技術展開が必要であると述べ、企画サイドでは「何を表現したいか」という骨子を下に、4K、8K、HDRなどの最新技術をどう取り入れるかを検討する必要があると述べられた。

© 2018 TIFF

「何を表現したいか」というキーワードにより、テーマは「フォトリアルとノンフォトリアルのちがい」へと移る。

まず『人類誕生』の企画経緯とCGと実写のカメラワークのちがい、CG合成を前提にした目線や古代言語を話す演技の難易度の話題が繰り広げられた。

【人類誕生CG】440万年前の人類は愛妻家でイクメンだった!?【NHKスペシャル×NHK1.5ch】

続いて、最新鋭の実写技術事例としてソニーPCLの越野氏が携わった作品『Blue Horizon -EDGE OF SPACE-』(WOWOW)と『THE GREAT BELOW-世界最大の洞窟 ソンドン探検記-』(WOWOW)の一部シーンが撮影時の裏話を交えつつ、4K/HDRで上映された。

『Blue Horizon〜』は、ジェット戦闘機に乗り成層圏からの地球を4Kで撮影したドキュメンタリー作品で、「ルミエール・ジャパン・アワード2017」UHD部門 審査員特別賞を受賞。そして、『THE GREAT BELOW〜』は、「ルミエール・ジャパン・アワード 2018」UHD部門(4K)グランプリを獲得しており、企画意図に適した最新技術の活用を実践していることが窺える。

4KHDRで制作されたドキュメンタリー作品『THE GREAT BELOW-世界最大の洞窟 ソンドン探検記-』

最先端のリアル映像作品の紹介に続き、話題は「ノンフォトリアル(NPR)」へとつながる。NPR(Non-Photorealistic Rendering)と、はイラストや絵画のような省略技法でレンダリングする表現方法で、その代表作とも言える『GODZILLA 星を喰う者』『スター・ウォーズ レジスタンス』を上映しつつ話題が進められた。その中で、NPRでは物理計算上正しくない影や形状がアニメーションの演出上重要になる、という話は世界に誇る手描きのアニメーション文化をもつ日本ならではの興味深いものであった。

【絶賛上映中】『GODZILLA 星を喰う者』 公開後スペシャルPV (『GODZILLA:The Planet Eater』 Official trailer 2 )

続いて、12月4日から7日までの4日間にわたって開催される「SIGGRAPH Asia 2018/Computer Animation Festival(CAF)」のデモリールへと進み、多彩なCG作品の数々を上映しながら、CAFの見所はフォトリアルとノンフォトリアルの振れ幅の広さ、アジア人としての目や女性の目を大切にした作品選定、などであると説明された。

© 2018 TIFF

「技術の進化と映像表現」のテーマでは、オー・エル・エム・デジタルによる最先端の流体シミュレーションや、映像の中から煙や水だけを抜き取り3D化する技術、ポリゴン・ピクチュアズの研究例、モバイル分野での展開、進化する撮影機材やVRでの表現方法、など実に幅広い話題と実例映像が紹介された。

SIGGRAPH Asia 2018 - Computer Animation Festival Trailer

そして、「クロスオーバーは加速する」というテーマに関して話題が繰り広げられ、前述のCAFに見られるようなCG表現方法の多様化はマルチプラットフォームや各種分野に対してどのように浸透、進化していくのか、ゲスト個々の視点からの話が飛び交った。フォトリアルとノンフォトリアルにおける得手不得手や今後の展望、TVにおけるCG表現の現状、VRが活躍する分野、多様なCGの使用目的や企画に合わせた技術開発の必要性、といった話が進む中、『人類誕生』におけるNHKとスクウェア・エニックスとの共同制作の逸話も飛び出し、制作体制におけるクロスオーバーにまで話はおよんだ。

© 2018 TIFF

最後に4氏から、新4K/8K放送の開始やSIGGRAPH Asia 2018に関する告知や、「インスピレーションを実現するために先端技術はある。これからはコンテンツを展開する"箱"についても考える必要がある」といった今後の展開が語られて、セミナーは幕を閉じた。

最新、最先端の映像もさることながら、今回のセミナーで印象深かった話題は、デバイスやCGの表現方法、撮影機材、制作プラットフォーム、制作体制など、驚くほど多くの要素が多様化する中で、より良い作品、より対価をもつ作品をつくり続けるためには、まず目標とする表現や制作の大枠などを考慮し、その上で慎重に技術選定する必要があるという点だ。言葉では理解していたものの、今回、実際にクリエイターの言葉を通してより実感できるものとなった。さらに、4人のトップクリエイターが最先端の映像を見せつつも、いまだ模索し続けている姿勢が感じ取れたのも印象的だった。これこそが映像表現の現状であり、同時に胸躍らせる未来でもある。



info.

  • TIFFマスタークラス
    「映像表現の今、そして未来
    -The Future of Advanced technology and Digital Image-」

    日 程:2018年11月1日(木)13:00~14:30
    会 場:六本木ヒルズ アカデミーヒルズ49階タワーホールA&B
    入場料:1,500円(税込)
    [主催] 東京国際映画祭事務局
    [共催] ソニーPCL株式会社
    [企画協力] 株式会社Luminous Productions
    [特別協力] 日本放送協会、株式会社オー・エル・エム・デジタル、株式会社ポリゴン・ピクチュアズ、ソニービジネスソリューション株式会社、ソニービジュアルプロダクツ株式会社、CGWORLD、デジタルハリウッド株式会社
    © 2018 TIFF